デイドリーム ビリーバー
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2002年04月12日(金)

私はにんげんなので
いきものなので
心のざわつきを、どうしても諌められない夜がある。



私はいつも一人だった。

なーんて書くと、随分と恩知らずな、ひとりよがりのナルシストみたいで
気持ち悪いけど。
でも、やっぱりどうしても一人だったって、思ったりしませんか。

それは
「私を孤独な気持ちにさせやがって、周りの人のバカヤロー」
とかいうのではなくて

一人で生まれて一人で死んでいく、というようなたぐいの孤独に
なんとなーくのやるせなさと
なんとなーくの無気力とが拍車をかけて

なにもかもがどうでもよくて
なにもかもが面倒で
ああ、消えちゃいたいなあ、なんて漠然と思うような。

そういう夜が
ストンと穴に落ちるように、何の前ぶれもなく
突然きちゃったりしませんか。


まあ、たいていは数日したら、生理がきたり、基礎体温があがったりして
ああ、女のサガなのねー。こんなもんに振り回されて、くそー。
で、解決することもあるけれど

じゃあ月のサイクルによって、感情をコントロールすればいいじゃん
なんていう浅はかなもくろみは、
月のサイクルとまったく関係ない時期に、低迷期がくると
余計に混乱したりして、うまくいかない。

厄介なもので。


でも私は、今までずっと一人だったので
そういう孤独の取り扱いに関しては、わりとうまい方だったのだ。

彼とつきあうまでは。




彼とつきあうようになって
彼に「これからはもっと俺に甘えていいんやで」と言われて
私は、良くも悪くも、人に甘える、ということを覚えてしまった。

もちろん今までも、家族や友達にさんざん甘えてきたんだろうけど
そういうのとは違って

私の悲しみを、さみしさを、苦しみを、辛さを、全部
彼が、癒してくれるかのような、錯覚。
実際彼は、信じられないぐらいあたたかい気持ちを、いつも
心にわきあがらせてくれるから。

でも、それでいい気になった私は、最近

私の今日の悲しみが、さみしさが、苦しみが、辛さが、全部
彼のせいであるかのように
彼が癒してくれないせいであるかのように

信じられないけど、
そんなふうに、思ってしまったりもしていた。




寂しくって悲しくって会いたくって
もうなんてメールしていいかわからない夜に

「オヤスミ」
とだけ送って

「おう!おやすみ!」
とだけかえってきたりしたらもう

てやんでえべらぼうめちくしょうめ!
私が書いたのは「おやすみ」じゃねえんだよ「オヤスミ」なんだよ。
行間を読めよなこのやろう。この4文字にこめた寂しさがわかんねえのかよ。
こういうときにこそ電話かけてこいっつうんだ。
だいたい何が「おう!」だ。ちょっと阪神が調子いいからって舞い上がりやがって。
あーそうさ。どうせ私としゃべるよりは阪神連勝のニュース見てるほうが
いいんだろうさ。わかったよばーかばーかばーかばーか。
もー知らない。電話かけてきても出てやるもんか。
携帯の電源きってやる。ぷちっ。

完全にヒステリー女です。


だいたい、
「電話代がかさみ過ぎるから、電話は二日に一度にしよう」
と最初に言い出したのは、私の方なんです。
しかもこの日は、二人で決めた「電話なしの日」でした。
メールで「おやすみ」の言葉も交わしているんだから
携帯の電源切るのも、まったくの無意味。

そんなに話したきゃ、電話すりゃーいいんです。
「ごめんね。ちょっと声が聞きたくなっちゃったんだ」ぐらい、言えってもんです。

情けないです。大人なのに。



こういう不安定な夜は、今までだって何度もあった。
何度も何度も何度もあった。

そして、彼はいなかった。


初めて一人暮らしをしたのは、学生ばかりの、ぼろアパート。
壁もさることながら、とにかく薄くて参ったのが、屋根で。
雨の日は、そのうるささに、テレビの音もかき消された。

私はイライラしながら、テレビの音量を最大近くまであげて

どこかに、私を癒す番組はないものかと
どこかに、私に活力を与えてくれる番組はないものかと

リモコンを、壊しそうなほどの勢いでパチパチと鳴らしながら
チャンネルを次々と切り替えて
そんなことを何時間も繰り返していた。

でも
つまらないバラエティー、つまらないドラマ、つまらないニュース。

電源切ったリモコンを、ベッドにガンって投げつけて
狭い部屋の真ん中で
ひざを抱えるようにして、うつむいて座り込んでいたら

ざあざあという雨の音が、私を包み込んでいるのに気がついて。


毛布をずるずるとひっぱりだして、部屋の電気を消してまっくらにして
毛布にくるまったまま、壁にもたれて座って

一晩中、雨の音を聞いていた。


さみしさや辛さは決して消えなかったけど
私はその気持ちを、ひとりでぎゅうっと抱きしめていて。

そんなときの私は、自分を少し、好きだった。
苦しみを抱きしめて、ひとりで雨の音を聞いている、
そんな自分が好きだった。



こんなふうに、毎回違う方法で
私は、この、穴のような寂しい夜を、いつだって一人で乗り越えてきたのに

彼の前で裸になりすぎた私は、
なにもかもを彼に預け、ゆだね
あげくの果ては解決までしてもらおうとか、そういう意地汚い根性で

このさみしさから逃げて
ただ安穏と、彼に守られたいなどと思っている。

このさみしさから掴む何かが、私の心の礎になって、強さになって
いつか、彼を救う力になるかもしれないのに。



反省した私は、
今回はひとりでこの気持ちと対峙するんだと
あの日みたいに
ベッドのすみっこに座って、毛布を抱きしめて

いろいろと考えて、泣いて、落ち込んで、いたんだけど

そのうちに
ふと彼の声がききたくなって



よく考えたら、こういう夜は
彼から電話がかかってきたら話すけど
(で、結局彼を困らせるようなことを言ってしまうんだけど)
私からは電話かけないんだ。いつも。
情けない自分をみられたくなくて。


だけど

こういう状態でも、ちゃんと彼と話せるようになりたい。
こういう私も見て欲しい。
これで嫌われるんなら、一緒にいても、意味がない。


なんて。
だめなら別れる覚悟までして

今考えると、何を深刻な、って思うけど
なにしろ頭が正常じゃない状態なので

とにかく、そんな変な覚悟までして
ちょうど彼が寝る頃の時間だったのに、電話をかけてしまった。



声をきいたら、なんだか無性に、「好き」って言いたくなって
だけど私は、そういうことをしょっちゅう言ってしまっているので

どうせ、「好き好きー」って言っても
「はいはい」
としか言ってくれなくて
「私のこと好き?」ってきいたら
「好きやで」
って答えるだろうけど
そんなのは、多分今、私が欲しい言葉ではなくて
なんて考えていたら、何を言いたいのかもわからなくなって

結局、黙り込んでしまった。



私の元気がないことには、電話の最初から気付かれてしまっているので
彼の声は、いつもより優しい。

「どうした?」
って聞かれても、うまく答えられそうもないので
やっぱり普通の話題だけにしようと
強引に話を変えて、彼の仕事の話をして、大変だったことをきいて

「じゃあ、今日はクタクタ?」

「うん、クタクタ」

「ボロボロ?」

「うん、ヘロヘロ」

「…メロメロ?」






…うわぁ!何言ってんだ私!
言っちゃったよ言っちゃったよ!
こういうこと言うつもりなかったのに!

と、あたふたしていたら

彼は、その言葉の意味も
私の心理状態も、すぐにのみこめたようで

大笑いしながら

「うん、今日もエロエロ!」

とか、ぬかすので、私もムキになって

「メロメロ!?」としつこくきくと

「うんゲロゲロ!」
とか、電話の向こうで大爆笑している。



もうね、むかつくのよね。
ああ、コイツ俺のこと好きなんやなぁ、なーんて
余裕で思ってるのよ。むかつく。

「メロメロ?」
「元気モリモリー!」

とか、もうだんだんわけがわからない方向に行っちゃって
この攻防は、この爆笑にかき消されて終わっちゃうのね、と思っていたら



最後に、すごい優しい声で

「メロメロです」
って言われた。

もう倒れそうでした。

反則です。



やっぱり私は、くやしいけど
今日も負けっぱなしなのです。


2002年04月06日(土) 春眠

つきあい始めた頃、よく
「俺のどこが好き?」ってきかれた。

そんなものはよくわからない。
なんとなく、としか答えられない。

そう言うと、彼は、がっかりしていた。

「なんとなく好きじゃーなぁ。
 なんとなく嫌いになりそうやしなぁ」

でも本当に理由なんてなかった。


彼の半径50センチぐらいの空間が暖かくて、ただそこにいたいと思うだけで。
話してると、おかしくて楽しくて、食べ物が異常に美味しくて。

そして、なぜか眠くなるのだ。

彼のそばにいると、ぽかぽかして眠くなって
そのまますうっと、なにか包まれたみたいに
ずっとずっと眠れるような気さえする。



実は、本格的につきあうようになってすぐのデートで
すでに、その兆候はあった。

夜風が、冬の匂いをおびていた中、不意に抱きしめられた、そのベンチで
実は、まじでウトウトしかけました。
これは彼には言ってないけど。


なんてったって、この時は、お互いかけていた歯止めを
バチンと切ってしまった直後なわけで、
二人とも気持ち的にかなり盛り上がっていたし
こう、本格的に抱きしめられるのも、多分初めてだったわけで

ふうーって大きく息をついて私から体を離した彼は
「あードキドキしたぁ」なんて言っているわけで
そこで
「寝てた」
とは、さすがの私も言えませんて。


しかし、まもなく彼も、その病にかかり、今では
私なんて比べ物にならないぐらい、重度の眠り障害に陥っています。

ドライブの後、昼食をとるために停車しただけの駐車場で
弾んだ話がとまらなくて、発車する機会を逸しているうちに
彼が眠り、私も眠り
私は目覚め、彼は起きず
しかたなく二度寝、三度寝を繰り返すうちに、気付いたら夕方、というのも
もうデートの1パターンとなってきているし。


私たちは、お互い一人暮らしではないうえ
(彼は親戚と同居、私は女友達とシェアリング)
休みが不規則なので
「平日フリータイム」っていうのは本当にありがたいサービスなのだけど
部屋に入ったときはそりゃ
もりあがりまくりーの、いちゃいちゃしまくりーの、だけど
いちゃいちゃしているうちに、気がつけばふたりして寝てしまっている。

たいてい私が先に目覚めるので、寂しいなあって思う時もあったけど
近頃は、この時間も、ある意味至福のひとときで。

寝ている彼は、なんかいいです。かわいいです。
ひげの剃り残しとか。まぶたの形なんて、うらやましいぐらいきれいだし。
鼻は、息をするたびピクピク動いて、パクっとかぶりつきたくなる。
ていうか、かぶりついてるけど、実際。これぐらいじゃ起きないんで。
ぽかんと開いたままの口も
薄めの唇、思わずぺろっとしたくなります。
これはすると、うるさそうにするので、たまにしかできませんが。




この間、彼が目覚めたとき、お茶の新しいCMがちょうど流れていて

「ああ、宙ちゃんのテーマソングやー」
寝ぼけた声で、そう言って、また寝てしまった。

『ひょっこりひょうたん島』のうたが使われていた。



すごい。
こんなこと覚えているなんて。



これを彼に歌ったのは、二人がまだ友達だった頃。

月に一度の飲み仲間だった私たちは
その日、席が近かったのか、いつもより多く話し
帰り道、みんなから少し離れて二人で並んで歩いていた。

その日
男としてではなく、友人の一人として、人間として
彼の心を近くに感じた私は

仕事や夢やいろんなことに行き詰まって、少し元気がなかった彼に
「しょうがないなあ」
とかなんか言って、
とっておきの歌をうたってあげたのだ。


私は、元気をなくしたとき、自分で自分に歌う歌がいくつかあって
その中の一つが『ひょっこりひょうたん島』。

こういうことは、人に言ったことがなかったけど
こいつ、いいやつだなと思って、
教えてやってもいいか、と思って

「内緒だからね」
って歌ってやったんだ。



まるい地球の水平線に なにかがきっと待っている

苦しいこともあるだろさ 悲しいこともあるだろさ

だけど僕らはくじけない 

泣くのはいやだ 笑っちゃおう 進めー!




この単純な歌詞が好きで。

「だって、“泣くのはいやだ笑っちゃおう”だよ!?すごい、よくない?」
って力説したら、彼、笑ってた。




恋人になって、距離が近くなった分
彼をたすけられなくなった部分ってあるのかな。

友達だからこそ
ある程度距離があったからこそ
あの歌は、彼の心に響いたのかもしれない。

私は今でも彼のいい友達だと思うけど、でもやっぱり
恋人になってしまった。
友人としての役割は果たせそうにない。
あの頃の接し方で、彼を元気づけることはできない。


私では埋められない隙間を、いったいどれだけの人に
いったいどれだけの「あの頃の私」のような人に

なんて、架空の人物にまでやきもち焼きだすしまつ。




彼がようやく目を覚ましたとき、なんとなく寂しかったので
「なんでそんなにぐうぐう寝るの!」
って言ったら

「宙ちゃんの半径50センチぐらいのところって
 ぽかぽかして、ほっとして、めっちゃ眠くなるねんもーん」

くそー。
うまいこと言いやがって…。

ゆるみそうになる頬を、無理やり引き締めて
「愛情が感じられませーん!」って言ったら

「愛情攻撃―!!」

って、ぎゅうって抱きしめられて




そんな時の彼が、とても嬉しそうなので


せめて
恋人としてだけでも、
彼の心に響く人になれるのかなと、思ったりした。



彼の心に響く人になりたいと思った。


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