2010年10月31日(日)  視点と視界。
 
黄疸はなんとか軽減したのだが、便も出なければガスも出ない。お腹はカエルのように膨れ上がっている。産婦人科では浣腸に加え、2時間ごとに肛門からカテーテルを入れてガス抜きを行っている。
 
小児科医は御ココのレントゲン写真を見て、「むむむ・・・・・」と聞こえてくるぐらい、むむむな表情で考え込んでいた。考え込んでいる時間は1分間程度だったと思うが、私と妻にとっては、それはそれは長い時間に思えた。
 
「腸の病気があるかもしれません。しかしここではレントゲン検査しかできません。大学病院に転院したほうがいいでしょう」
 
目の前が真っ暗に・・・・・・ならなかった。
 
視点はより集中し、視界はより冴えた。御ハナの手を引き、生後6日の我が娘を抱きながら、私と妻は前を向いていた。
 
この子はきっと、私と妻を選んで生まれてきたんだ。
 
2010年10月30日(土)  初対面。
 
地元に到着してすぐ産婦人科へ。妻の病室に入ると一人で退屈そうにテレビを見ていた。おめでとう。お疲れ様と妻を抱きしめ、御ココはどこにいるのか尋ねたところ、黄疸が出たらしく、新生児室で光線治療を受けているという。
 
別に光線治療は珍しい治療ではないのでそっかそっかと妻と御ハナと新生児室へ行き、御ココはどこだ御ココはどこだと新生児室の窓にへばりつくように探したところ、ここにいるよと妻が私を手招き、遂に我が娘との再会!
 
我が娘は青白光に照らされる保育器の中でアイマスクをして横たわっていた。新生児にアイマスク。
 
「私の娘は、なんともシュールでございますね」
「そうね。パパとの初対面がこれなんてのもなんていうか」
 
24時間この光を浴び続けなければいけないということで、記念すべき初対面の日は手を握ることすら叶わずに終了。病室に妻を残し、「ママと一緒に寝るー!」と泣きべそをかく御ハナの手を引き、実家へ帰宅。
 
2010年10月29日(金)  断眠再会。
 
夜勤明け。タイムカードリーダーの前で足踏みしながら勤務終了を待ち、定時ピッタリに退勤し、全力で自転車をこいで家に戻り、全力で旅行カバンを持ち、全力で羽田空港行きのバス停へ向かう。
 
今日から鹿児島へ帰省する。全ての行動に全力なのは、妻と御ハナと御ココを一刻も早く抱きしめたいということと、全ての行動を全力で迅速に動かなければ飛行機に間に合わないほどのカツカツの予定を入れたためである。
 
バス1本遅れただけで娘の顔を見ることができないという極度の緊張感と夜勤明けの強大な眠気と戦いながらなんとか羽田空港。機内で離着陸もわからぬほど泥のように眠り、東京から1時間半で鹿児島に到着。
 
空港を出て大きく背伸びしながら故郷の空気を吸い、実家まで2時間かかるバスにゆっくり揺られながら再度就寝。娘に会えるのはいつになることやら。
 
2010年10月28日(木)  杞憂、さらに倍。
 
御ココは今日も自力で便が出ないらしく浣腸をしたらしい。便がお腹にたまっているということはビリルビン値が高くなってそのうち黄疸が出るんじゃないかと思ったけど、そんなこと言ったら妻がより不安を抱いてしまうため、今日も「大丈夫大丈夫。明日そっちに行くから大丈夫だよ」と、昨日と同様の台詞。しかも御ココは少し熱が出て抗生剤の点滴を打ったとのこと。杞憂、さらに倍。今夜は夜勤。白衣を着たまま鹿児島行きたい。
 
2010年10月27日(水)  便と共に胸が詰まる。
 
御ココは赤子のくせに便秘気味だという。妻が入院する産婦人科には小児科が併設されていないので、本日、助産師と共に病院の近くの小児科に受診して浣腸するようにと指示が出たという。
 
出産日は生後0日と換算するとなると、生後2日で外に出て小児科に受診し帰院後に浣腸するなど、生後早々激動の我が娘である。
 
「ちょっと心配」と、電話先で妻は落ち込んでいるが、遠く離れて住んでいる現状、気の小さなパパは度重なる杞憂で妻よりも不安になる恐れがあるため、「大丈夫大丈夫。あと2日でそっち行くから大丈夫だよ」と御ココが大丈夫なのかパパが大丈夫なのか、兎角気丈に振る舞い、明日より仕事が頭に入らないこと必至。
 
2010年10月26日(火)  心の花。
 
名前はココロ。私も妻も長い間、人の心と関わる仕事をしていて、この世で一番大切なものは学歴でもない、お金でもない、もちろん容姿でもない。どんなに辛くても悲しくても、穏やかで温かな心を持っていれば、いつでも前を向いて進んでいける。そんな心を大切に育み、持ち続けて欲しい。

これは、人の心をみるという不可解な仕事を生業としている私と妻が、唯一確信を持っていえることであり、最大の願いでもある。
 
名前はココロ。漢字で本名を書くわけにはいかないので、ハナを御ハナと表記しているように、今後日記ではココロを御ココと表記します。まだ会ったことないけれど、今後とも何卒よろしくお願いします。
 
2010年10月25日(月)  お誕生日おめでとう。

昨夜は仕事で疲れて夕食も摂らず風呂も入らず、そのままソファーで寝たようだ。携帯で時間を確かめると午前4時。妻からメールが何通か届いている。
 
要約すると昨日23時頃、産婦人科に入院し、1:30に2760gの元気な女の子を出産したとのことだった。
 
私が寝ている間になんだか全てが始まり、終わっていた。すぐにメールを送ると、まだ起きていた妻はすぐにメールを返してくれた。
 
人生の大きな出来事が就寝中、しかも布団に入って寝るという正式な睡眠ではなく、仕事に疲れて飯も食べず風呂も入らず、ソファーで気を失うように眠ってしまった最中の出来事。
 
それでも胸に暖かな余韻が残っているのは、夢の中で赤ん坊がもうすぐ産まれるよと語りかけていたのだろう。
 
本日、二児の父になった。まだ見ぬ君に会える日まで一生懸命働いて、女ばかりのファミリーを、力の限り養います。
 
2010年10月24日(日)  自問。
 
仕事が終わり、誰もいない部屋に戻り、小さく「ただいま」と呟きソファーに横になる。今日はいつもより疲れている。
 
妻に電話をすると、「なんだかお尻のあたりが重いような気がする」と、御ハナが産まれた時の陣痛の予兆のようなことを話す。予定日は10月30日。少し早いけど明日の朝あたり出産だろうか。
 
10月29日からの4日間の帰省にタイミングが合えばと思っていたがしょうがない。二児の父になろうとする今の心境はどうですかと自問したが、目の前には昨夜のコンビニ弁当の残骸と、発泡酒の空き缶、wiiのコントローラー。
 
今日はもう眠い。ベランダで煙草を吸って再度ソファーに横になり、夕食も摂らずに午後7時就寝。
 
2010年10月23日(土)  ワンダとスカイツリー。
 
このマンションから東京スカイツリーが見える。今何メートルだかわからないが、夜になるとライトアップしたりしなかったりとテストを続けているのだろう。首都高を走ると真横に見えたりする。近くで見上げると首が痛くなるくらい高いそうだ。そんな巨大建造物がいつも窓から見える生活。巨像恐怖症の私にとっては恐怖以外の何物でもない。私が一番怖い巨大な物は、のどかな山の上に突如として建っている風力発電用の風車で、スカイツリーにあの風車がついたらどうしようと想像だけで卒倒しそうになる生活が東京にいる限りずっと。
 
2010年10月22日(金)  放心ロワイヤル。
 
怪盗ロワイヤルを勧められて1ヶ月ほどで断念したのだが、携帯電話向けのソーシャルゲームにプレステやDS、wiiなどといった家庭用ゲーム機と比較してはいけない。ソーシャルゲームはソーシャルゲームという巨大なジャンルは存在するものとして認めなければならない。
 
GREEの社長はソーシャルゲームにはハンドルを回すだけのパチンコのような単純さが必要と言っている。確かに怪盗ロワイヤルも「ミッション」や「バトル」を淡々と繰り返す作りで説明書もいらない。半分放心状態でも決定キーさえ押していれば何となくゲームは進む。
 
家庭を持っていると、そんな放心状態はなかなか訪れない。しかし今は妻と御ハナがいないので自宅では概ね放心している。
 
今夜、放心状態で怪盗ロワイヤルを再開してみた。wiiもDSももう飽きた。そろそろ家庭の温もりが欲しい。そんなことをぼんやり考えながらプレイするにはうってつけのゲームである。
 
2010年10月21日(木)  カネゴンで読む。
 
シャープが12月に電子書籍端末を発売するが、機能を見る限り世に浸透する気配は全く感じられない。ソニーの電子書籍端末もぱっとしない間に終わったのか今も続いているのかわからないが日本の企業がiphoneやipadを超えることはできないのだろう。
 
短文を読むのであればiphoneやipadで十分いけるだろうが、やっぱり長文は紙の本に限る。紙の本かアマゾンのKindleに限る。Kindle一択でもいい。著作権絡みかわからないが、どうして日本のアマゾンでKindle売らないのだろう。キンドルキンドル。先日、キンドルの名前をど忘れしてしまい、友人にカネゴンと説明していた。
 
2010年10月20日(水)  前所有者の記憶の自力削除。
 
前所有者の記憶というなんだか恐ろしいものを削除するためにようやく見つけたauショップに入り、前所有者の記憶が残っていてモバイルSuicaが削除できないと告げたところ、若い女性店員は私の言葉が異国の言葉に聞こえたらしく、 
全く理解できないという表情を浮かべたのち店長らしき人物を連れてきて、女性店員から概要を説明すればいいものの、女性店員は「店長、ちょっと来て下さい」「どうした?」「いいからちょっと来て下さい」程度の事前会話しかしていないのであろう、店長も「いかがしましたか?」と少し警戒した口調で私に事の顛末を最初から語るよう要求するため、
 
前所有者のSuicaを削除して下さいと要点をまとめて話したところ、「ご自分で携帯を操作してできるはずですが」と申すので、できないからここに来たのだと反論したが、「ご自分でできるはずですけどねえ」と全く私を信用していないので、だったら私の携帯渡しますので削除して下さいと依頼し、その場で店長が削除にトライしたができないものはできない。ボタンを押す人間が変わっただけである。
 
しばらくして「少々お待ちくださいね」と店の奥に消え、数分後「削除できました」と戻ってきた。auショップのなんらかの機械に接続しないと削除できない仕様のためauショップに来たのだが、店長は自らの自尊心を守るために「自分で削除できませんでした」と敗北を認めずにこっそり機械に繋げて業務を全うしてドヤ顔。東京はこんな大人で溢れている。
 
2010年10月19日(火)  前所有者の記憶。
 
先日、いわゆる白ロムと呼ばれる中古の携帯を購入したのだが、モバイルSuicaを使用しようとすると「ICカードが異なるため起動できません」と表示されるのでこれはどういうことかと調べたところ、モバイルSuicaアプリに前所有者の記憶が残っているため起動できないため、一旦モバイルSuicaアプリを削除後にダウンロードしなければいけないらしい。

前所有者の記憶とは何なのだろうか。この携帯で誰と出逢い、誰と別れ、何を得て、何を失ったのか。前所有者の記憶。そして私はこの携帯で、どのような記憶を作っていくのだろうか。と、思いを馳せることもなく、モバイルSuicaアプリを削除しようとしたところ、auショップに行かなければ削除できない面倒な仕様のため、街を歩けばあんだけauショップって見かけるのに用があって探してみると一向に見つからない上野駅界隈。
 
2010年10月18日(月)  二児のパパ、Tカード。
 
あらゆる店で清算の際、「Tカードお持ちでしょうか」と訊ねられるので首から「Tカード持ってません」と書いたボード提げて歩こうかとも思ったが、もうすぐ二児のパパになる手前、そんなとんがってもいられないのでゲームで忙しくてDVDなんて見る暇ないけど近所のツタヤで年会費払ってTカード作った。以後、まあ、なんとかの法則といいますか、どの店に行っても「Tカードお持ちでしょうか」と言われないような気がする。
 
2010年10月17日(日)  妻はジミー・スヌーカ。
 
妻が遂に「西野JUJU」で統一を始めたようである。歌声で西野カナとJUJUの区別がつかなくなった年代となってしまい、私は流行り歌を聞き取れなくなったことにただただ遺憾の意を表しているが、妻はどっちかわかんなかったらどっちも同じ歌うたってると思えばいいじゃないと田中マルクス闘莉王のような攻撃的ディフェンスをとっている。
 
先日、じゃあこの歌は誰が歌ってる? と訊ねたところ、「西野スーパーフライJUJU」と、なんだか進化していた。
 
2010年10月16日(土)  草まけ。
 
「今日御ハナ公園で遊んだあとに少し足が赤くなってて。草まけかな」
 
草まけ! 数十年振りに聞いた言葉である。大人になるに従い、更に東京に住み続けることにより疎遠となる言葉。娘が草まけ。感無量である。
 
だいたい草まけなんて方言なのかと思っていたが、島根県出身の妻も言うのだから方言ではないのだろう。しかし辞書で調べてみたところ草まけなんて言葉は載っていなかった。ウィキペディアにも載っていなかったので草まけに関して新規のページを作ろうと思ったけど別段草まけに関して何らかの知識があるわけでもなかった。
 
2010年10月15日(金)  摩訶摩訶。
 
この歳になっても三角食べができない。4歳の御ハナもあまり三角食べができないので妻に度々注意されている。
 
御ハナが三角食べがあまりできないのは、食卓の位置の問題で私と向かい合って座っているので摂食行動が似てしまうのであろう。妻と御ハナに大変申し訳なく思っている。
 
三角食べは学校で厳しく教えられた記憶があるが、現在学校では公務員職権濫用罪に該当するとして指導しなくなっているらしい。なにがなんだか。
 
厳しく指導されてきた世代もできない者はずっとできないのであって困ってしまうのがマックのセット。
 
徹底して三角食べができない私は、まずポテトばかりずっと食べる。途中でハンバーガーを食べたいけど、自分の中の何かが抑制を掛けてハンバーガーを食べることができない。このままポテトばかり食べていたら結構お腹が膨れてしまうなあなんて考えながら結局お腹一杯になるまでポテトを食べる。
 
ポテト完食後、ハンバーガーを食べるのだがもうお腹いっぱいなのであまり美味しく食べられない。未だ残存するそんな強迫観念。そんな男が職場では「職場一いい加減な人間」と呼ばれている面妖さ。
 
2010年10月14日(木)  は?え?
 
私は重度の方向音痴である。道順を説明する方もある程度のセンスが必要だと常々感じているが、私のような者が相手だと、説明するセンスよりも納得させる忍耐が必要になると思われる。
 
「あそこの十字路を右に曲がると左にコンビニがあってね」
「は?」
「だからあそこを右に曲がると左にコンビニがあって」
「は?」
 
という具合である。空間認識力が一定量ある者はこの辛さはわからないだろうが、ただでさえ右も左も想像できないのに「右に曲がると左になんたら」と、一つの文節に右と左という真逆の概念が出てきただけで容易にパニックに陥ることができるのである。
 
「じゃあその十字路を右に曲がると右に何があるの?」
「え? 左のコンビニの向かい側?」
「は?」
「え?」
 
2010年10月13日(水)  一体何。
 
私は人の心を見るということを生業にしてから、怒りという感情を表に出すことはない。いつも平静を保ち365日私は私。あの場所に行けばいつものヨシミさんがいる。心の振幅が激しい病気が相手のため、患者さんに対してはフラットな精神状態というものは重要になる。
 
職場のスタッフからも私が怒っているところは見たことがないと口を揃えて言う。でも入職して数年来、私を神の如く崇拝する、周囲曰く”ヨシミの弟子”だけは違う。彼は病棟で私の顔を見ると、少しオドオドしながら私に近付いてきて呟く。
 
「ヨシミさん、今メチャクチャ怒ってますよね」
 
何が悔しいって怒っていないのに怒っていると言われたことではなくて、本当に内心怒っている時に怒っていると言われることである。
 
私はプロの職業人として怒りの感情を努めて抹消してきた。時にイライラするときも誰にも悟られずにイライラしてきた。しかし私の弟子は往々のことはひどく鈍感なくせに、私が怒っている時は必ず「ヨシミさん、怒ってますね」と報告に来る。一体なんなんだ。
 
「怒っているからといってなんなんだ。君に何の関係があるんだ。仕事に戻れ仕事に」
「はい、わかりました」
 
と、何事もなかったように業務に戻っていく。一体なんなんだ。
 
2010年10月12日(火)  ならつかもうぜ、未来。
 
妻も娘もいない独りの間に何をしようかウヘヘヘヘ。と気持ち悪い笑みを浮かべる割りにはwiiのソフトを満喫しようとするただのゲームオタク。
 
今さらながら「ゼノブレイド」というソフトを購入。中古でもなかなか値崩れしないため、妻が置いていった限られた小遣いで購入することに少し躊躇したが、こんな機会でないと据え置きゲーム機でRPGなんてやる暇がない。ゲームソフト1本購入するだけで清水の舞台から飛び降りる気分になるとは小さな人間になったものである。
 
この「ゼノブレイド」間違いなく名作である。だいたい仕事に行く前にプレイしようと思うゲームは確実に名作である。ゲームのために早起きする衝動を起こすゲームなんてそうそうない。起床、ゲーム、勤務、焼き鳥屋、ゲーム、就寝。このコンボが綺麗に3日続いている。
 
従来のRPGのおいしいところを無理矢理ながらも詰め込んだゲーム。ストーリー以外にやることが多すぎて、それが苦痛になるどころか楽しくてしょうがない。反面、メインストーリーは全く進まなくてこの調子だと独りの間にクリアはできない。
 
独りの間にクリアできないとなると、三人目の子供でもできない限りクリアは不可能。でも楽しい。12月には育児に加えモンスターハンターの新作が発売されるから余計時間がなくなる。だから今を生きる。主人公シュルクは18歳。私より約ひとまわり年下である。大切なものの価値、失ってから気付くのでは遅すぎる。そうであろう?
 
2010年10月11日(月)  たまには真面目に闘争を(完)

会議の結果を鹿児島にいる妻に報告。自室のシリンダー交換で2〜3万は必要となるが50万の請求は却下させた。よって50万儲けたようなものだ。この儲けたお金で美味しいもの食べに行こうと興奮気味に語ったら、
 
「それって商品を買う前に50万円キャッシュバックなんて言われて50万引いたお金で商品購入して、どう? お得でしょ? って店員がドヤ顔する割りには何だかありがたみがひとつもないような状況に似てるわね。まああなたにしては良く頑張ったと思います。お疲れ様」
 
ラスボス倒した後に真のラスボスが出てきた感じ。
 
2010年10月10日(日)  たまには真面目に闘争を(12)
 
偉い人が苦い顔をして重い口を開く。
 
「確かに鍵一本紛失では不相応の高額請求であると認めざるをえません。紛失した鍵によって万が一部外者がマンション内に入ってくる可能性はゼロとはいえませんが、今回は自室のシリンダーの交換だけで結構です」
 
言葉に僅かな抵抗を感じたが何の対策も講じずただ遺憾の意を表すどこかの国の奉行よりも遥かに建設的である。
 
私は「ありがとうございます」と、素の”気が良い私”が出てこないよう必死に抑えながら無表情で会話のメモを続ける。そして彼は続けた。ただし。
 
「ただし、今回の件は少なからず居住者を不安にさせたことも事実です。全戸の鍵交換代金は請求しませんが、今回の会議の議事録にヨシミさんが鍵紛失に関して謝罪したことを記してもいいですか」
 
見栄、メンツ、外聞、面目、体裁。大人になるにしたがって必要な言葉が泉のように沸きあがる。居住者に謝罪? それは違う。この謝罪はこの役員達が自尊心を守るために要求しているのであって、私はもう家に帰ってお風呂に入りたい。
 
「もちろん謝罪の文面は載せていただいても結構ですし、載せるべきだとも思います。よって議事録にはこの謝罪に至った経緯。簡単に申しますとまず管理組合が50万請求して、消費者センターと都宅地建物取引業協会の意見を元に私が不正請求だと異議を立て、結果今回の臨時の会議を開催し、50万請求は個人への高額請求だったと認めたうえで、最後に私が謝罪した。この一連の流れを必ず議事録に掲載して下さい」
 
「ぐぅ……」
 
私は生まれて始めて生で「ぐうの音」を聞いた。
 
2010年10月09日(土)  たまには真面目に闘争を(11)

「まずはこれがないと始まらないのですが、管理規約の○条の○項に書いてあった、『管理組合は議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録の閲覧をさせなければならない。』この部分ですね。会議前の書面で事前に全ての会議の議事録の閲覧請求をしていたのですが、ご準備されているでしょうか」
「あ、それは、まだ、準備の方が……」
「ではいつ準備できるのですか。請求してから大分経ちますが」
 
と、完全に攻勢に立っているが泣きたくてしょうがない。親のような大人数名に囲まれてこんな子供染みた難癖つけて何をやっているんだろう。そしてこの大人達はどうして何もやっていないんだろう。もしかして勝負はついているのだろうか。皆一言も喋らず下を向き、一番偉い人すらも意見を言おうとしない。
 
皆、机上に置かれたmp3プレイヤーとipodを気にしている。
 
会議開始5分。勝負アリ。
 
2010年10月08日(金)  たまには真面目に闘争を(10)

「では、この書面に沿って進めましょう」と、私が事前に作成した書面を元に会議を進める。やや落ち着きがなくなる者数名。一瞥もせず本題に入る。書面や管理規約のコピーは1冊のファイルにまとめており、重要な部分は蛍光ペンでラインを引いてある。
 
【ポイント7.教科書忘れました。でも言い出せません作戦】
会議進行のイニシアチブを掌握した私は、さも当然の如く「書面に沿って会議を進める」と宣言する。書面は事前に役員全ての部屋に投函している。その書面を会議に持参してきていないということは、それだけの意気込みの者なのだ。
 
それだけの意気込みの者はこの状況で「書面忘れました」と言えるわけもなく、右往左往しながら会議から脱落していく。
 
【ポイント8.ちゃんと予習してきました作戦】
本当は3色使いたかったのだが、家には2色の蛍光ペンしかなかったため、書面の大切な部分に2色使い分けてラインを引くというフェイク。
 
これはただ書面を”読み込んでいる”と見せるだけ。よってラインの部分は特に重要なところでもなくほとんど気紛れ。そんな気紛れを事前に全力で演出。気が小さいのかでかいのか。
 
2010年10月07日(木)  それでも私はXP。
 
そういえばこのPC、私が上京した時に購入したものだからもう8年も使っている。PCの耐用年数は3〜5年といわれているので故障もなしに8年もっているというのは大したものである。
 
よって。
 
PCを買い替えたいのだが、妻を説得できる自信が全くない。「もう今のパソコン8年になるからそろそろ買い替えたいんだけど。いや、ほら、パソコンの寿命ってさ、3〜5年なんだってさ」と言うと必ず「で、パソコン壊れたの?」と返され、「いや壊れてはいないけど、寿命がさ」「壊れてないのにどうして買い替えるの?」と全く抵抗できないことは必至で、今日記で書いている「たまには真面目に闘争を」なんてのは分譲マンションの管理組合という強大な敵に緻密な交渉術で単身立ち向かう紛れもないノンフィクションだが、妻にパソコンひとつ買い換えることを説得できないというのも紛れもない事実である。
 
冬のボーナスもきっとほぼ全額貯蓄にまわされるだろうし。だいたいPCっつっても画像や動画に嗜みがあるわけではなく、用途の8割くらいはただ文章を書いてるだけってのも自らの説得力に欠ける一因となっているような。
 
2010年10月06日(水)  たまには真面目に闘争を(9)
「では始めましょう。この度は鍵の紛失の件でご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありませんでした」
 
会議開催の口火を切り、周囲を見渡して謝罪。役員4名に「なんだか勉強になるかなと思って」と、ただの野次馬のようなオバサン1名、計5名。バッグより今回役員のポストに投函した書面を入れたファイル、その両脇に何も言わずに左側にipod touch、右側にmp3プレイヤーを置き、両手にはボールペンとメモ帳を持ち「では、この書面に沿って進めましょう」とファイルを開いた。
 
【ポイント5.主導権は渡さない作戦】
会議を進める主導権が役員側が持ったら5対1の多勢に無勢。不利な要求受諾に傾くことは確実である。

よってここは強引に自ら「では始めましょう」と、会議の開催を宣言し、会議の進行を仕切る役に徹する。呼ばれた者が会議の主導権を握っても不自然に感じないのは、これまでの作戦全てに布石を打っているからである。
 
【ポイント6.俺は新人類とかベンチャーとかそういうの作戦】
事の発端が、古い人間(役員3名が推定50代以上、1名が40代。オバサンはオバサン)が若い者に対して公的にいちゃもんをつけたいという潜在心理によって発せられている。よって私は今時の若い者である。それを利用してガジェット(目新しい道具、携帯用の電子機器)を活用する。
 
活用も何もただ机上に置くだけである。ipod touchはきっと役員もその存在を知ってはいるだろうが扱ったことがあるわけでもなく、緊張した会議の中では外で見る以上に得体の知れないものとなる。この状況で得体の知れない物に対してポジティブに受け取る物はまずいない。ipod touchは電源を入れなくてもネガティブメッセージを発生させる有能な機器となる。
 
なぜこの場に突然ipod? 謎が謎を呼び、気になる者は神経が散漫になり会議の導入部分に遅れて入ることになる。

そしてイヤホンを外してあるmp3プレイヤー。もしかしてこの会議録音されるのでは? という危機感を出席者すべてに抱かせる。その危機感を抱かせることにより、常日頃より無責任な発言をする者は自然に発言に抑制がかかる。無責任な発言をする者は往々に言葉が汚く、感情論に傾きがちなのでここは何としてでも抑制しなければいけない。
 
録音するのか問われたら、このmp3プレイヤーに録音機能はないけれど、どうせ周りは皆わからない人達ばかりなので録音すると宣言する。しかし、「録音するのですか?」という発言自体が50万も請求するという後ろめたさにより発せられるため、その後ろめたさを隠す意味でも「録音するのですか?」と質問する者はないように思われ、実際にこのガジェットに関して質問する者はいなかった。
 
2010年10月05日(火)  単身赴任。
 
仕事が終わるとすぐ妻に電話をする。電話には決まって御ハナが最初に出る。 
「パパー! 今日海に行ったんだよ! そいでね、お山作ったの。パパにも今度見せてあげるね」
 
そうかそうか見せておくれ見せておくれと、我が娘がいとおしくて仕方がない。単身赴任の心境である。この家族分離による心理的ストレスは絶大なものがある。家に帰ってもつまんないので意味もなく残業するし、その残業は組織へのコミットメントを強める効果はあるものの、いくらがむしゃらに働いても空虚感は埋まるわけはなく、周囲の妻帯者は遊び放題だの羨ましがったりしているが、遊び放題も何も先日購入したwiiのノーモアヒーローズの6番目の殺し屋がやはりどうしても倒せなくてもう諦めた。大人のチャンバラ終わり。我が子と一緒に子供のチャンバラがしたい。
 
あれだけ独身時代は独りの時間を満喫していたというのに、家庭を持ってしまうと独りの時間の使い方が全くわからなくなっていることに自分のことながら驚きを隠せない毎日。
 
2010年10月04日(月)  たまには真面目に闘争を(8)
 
ネクタイを締め直した私はすぐさま会議室に入ってビジネスバッグを置き、再度会議室前のドアへ向かい、「どうぞ、どうぞお先に」役員を誘導するような形で全ての役員が揃ったところで再度会議室に入り、ビジネスバッグを置いていた席に座った。
 
【ポイント3.呼んだのは誰だっけ作戦】
役員は私を呼んだはずなのに、呼んだはずの者がスーツ姿で先に待っているという状況で相手が少なからず引き目を感じることは明白なので、その部分をついて、呼ばれているはずの私が「どうぞ、どうぞ」と会議室のドアを開け役員を誘導することにより、別に私が「どうぞ」と言わなくても役員達は勝手に会議室へ入るのだろうが、私が「どうぞ(この部屋に入ってください)」と要求し、人は習性でペコリと頭を下げる。この人達は私の最初の要求をペコリという合図で受諾したという図式を作る。これから始まる会議でイニシアチブを握るための布石である。
 
【ポイント4.残り物には福なんてない作戦】
会議で重要なのはポジションである。今回私は責める立場なのだが、50万円請求されているという責められる立場でもある。私は仕事柄、クレーマーと対峙することも少なくないのだが、そのような話し合いの場では一番信頼できるパートナーとコソコソ話、もしくは筆談できるポジションを確保する。クレーマーの死角を狙って、会議の方向性を操作することが可能なのだ。今回、私はクレーマーとしての立場といっても過言ではない。よって日頃私がやっている姑息な手段は相手には絶対させない。私は会議室が開いた瞬間、会議で全ての人が一律に見渡せる席を見極め、そこにビジネスバッグを置いた。この席が特定の役員がいつも使う席だったとしても、”クレーマー”の所有物を随意に移動させることは、まずできない。
 
2010年10月03日(日)  たまには真面目に闘争を(7)

本日21時、マンション会議室で管理組合役員との話し合い。当日になり一人の役員の仕事の都合で当初19時からの予定が21時になったと連絡が入りチャンス。スーツに着替えて会議30分前から会議室前の前に立って待機。
 
【ポイント1.一人だけフォーマル作戦】
会議は当初19時だったので、ほとんどの役員は19時以降に予定を入れていないと考えられる。しかも19時が21時という家庭生活が1日の終わりへ向かう時間帯へ変更になったことで、ほとんどの者が部屋着もしくはそれに準じた服装で現れる可能性が高い。自宅から自宅マンション内の会議室へ行くのにわざわざそれなりの服装に着替えようとは思わないからだ。それを逆手に取り、私だけガッチガチのスーツ姿、無意味に分厚いビジネスバッグに資料を入れて登場することにより、「あ、俺部屋着できちゃった」と少しでもいいので尻込みしてくれればそれでこの作戦は成功。
 
【ポイント2.お客を待たせちゃイカン作戦】
今回の件、図式としてはマンション(管理組合)VS私ということになる。管理組合が会議の時間を指定し、私は呼ばれる立場である。そんな私が会議30分前より会議室の前でずっと待っている。しかもスーツで。役員は客を待たせてしまったと潜在的に思うであろう。

予想通り、会議5分前になってから続々と役員が登場。全員部屋着もしくは軽い服装である。私はこれみよがしにネクタイを締め直した。
 
2010年10月02日(土)  これってアリ?
 
新垣結衣が車のCMで「子どもの誕生日に有給とっちゃう。これって、アリ?」だの「ブランド物より手ごろで似合う服。これって、アリ?」などとあの天使のような笑顔で質問して、質問された家族は「アリ」と答えて、最後に「じゃあ家族でコンパクトカー。これって、アリ?」と質問してその家族は「アリだよねー!」とハイテンションで運転をして阿呆である。
 
相手の了解、同意を求めるための最も簡単な方法に「イエス誘導法」というものがあって、常に答えがイエスの質問を繰り返し与えることによって、人はいちいち「次もイエスだろう」と潜在的に考えてしまい、結果としてイエスかノーを決断することが麻痺してしまって、悪い人はその状況を見極めて最後に肝心な質問を持ってきて「イエス」と答えさせるという私が部下によく使っている手法をガッキーも使っているが、彼女は天使なのであまり問題がないように思われる。
 
2010年10月01日(金)  二児のサムライ。
 
こうやって寂しい日々を送っているが、ある一定期間独りで過ごすという機会は今後そうあるとは思えない。二人目が産まれたら今以上に家事に協力しなければいけないわけだし自分の時間は少しずつ減っていくことが明白なので寂しいけれどやっぱり一生懸命独りを満喫しなきゃいかんとwiiのソフトを購入するあたり独りになったからといって外に目を向けることは皆無。
 
子供を持つとテレビの前にどかんと座り、据え置きのゲームをすることはほとんどなくなる。大きな音を出していると隣の部屋から寝ぼけまなこの御ハナが起きてきて「パパ、またゲームしてるよ」と、睡眠中の妻に意味もなくチクる。よってPSPやDSなど携帯ゲーム機でちまちまと嗜むしかない。毎日ちまちましえているとたまには大画面でゲームをしたくなる。しかし意味もなくチクられるのでその願いも叶わない。
 
よってこの機会を利用して据え置きゲームを楽しんでやると「ノーモアヒーローズ」というソフトを購入。パッケージには「大人のチャンバラ」と書いてある。誰もいない部屋で寝る直前までwiiリモコンをチャンバラするかの如く振り回すもうすぐ二児のサムライ。どうしても6人目の殺し屋が倒せない。
 

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