2007年03月22日(木)  俺虎サンボ。
 
医師不足、医療崩壊、医療費抑制、診療報酬削減なんて、早朝の満員電車の中で意識朦朧としながら現代の医療業界キーワードを考えてみてもこんだけ問題点が思いつく時代に、新病院を建てるなんて何考えてるんだ。酔狂なものだ。と、そんな美味いか不味いかもわからない話に、安定した職を捨ててまで飛び込む僕も酔狂なのは変わりないが、もはやすでに乗りかかった船。引き返すことなんてできないっていうことと同じ意味で騎虎の勢いって諺がある。
 
騎馬ってのは馬に乗ることで、騎虎ってのは虎に乗るってこと。虎の上に乗って猛スピードで走り出したらその勢いに任せるしかない。落っこっちゃうと大怪我するし第一虎に食われちゃうから。俺は、虎に、乗っちまった。虎に乗りたいって言ったのは妻でもない、親でもない。この俺だ。逆風吹き荒れる医療業界に逆行する新病院。吹き飛ばされたら何もかも終わってしまう。落っこちないように、しっかりと吊り革握り締めて早朝の山手線の電車も虎で東京グルグルグルグル回り続けてバターになーれ。
 
2007年03月21日(水)  讃えて慈しんで。
 
春分の日。祝日法では「自然を讃え、生物を慈しむ」ことを趣旨としているらしいが、東京に讃える自然なんてものは探せばあるかもしれないが、うちの近所にはやたらでかい商店街しかない。春分の日。おすわりが安定してきた御ハナをベビーカーに乗せて近所のやたらでかい商店街の近所のちょっとでかい商店街に散歩に行った。
 
ベビーカーを押しながら、僕達はいろんなことを話す。新しい仕事のこと。理想的な育児のこと。今日の晩ごはんのこと。たい焼きという暖簾が見えて、僕が食べたいと言うと、私の方があなたより食べたいと思っている。いや僕なんて3つ食べようと思ってるけど実際5つ食べられる。私なんて店ごと食べられるわなんて、こんな会話をベビーカーに揺られて聞きながら、御ハナは育つ。
 
春分の日。祝日法では「自然を讃え、生物を慈しむ」ことを趣旨としているらしいが、東京で讃える自然を探すよりも、今ここにいる、妻と子という、なんだかまだまだよくわからないことが多すぎる生物を、心から慈しんでいる春近き午後。
 
2007年03月20日(火)  育児とラーメン。
 
子供産まれてから行かなくなる場所ランキングベスト5にランクインするラーメン屋。座敷があるんだったら行けるんだけど、東京にそんな余裕を持ったラーメン屋は皆無に等しい。
 
つけ麺発祥の店として知られる東池袋の「大勝軒」が本日暖簾を下ろした。行ってみたいな行ってみたいなって時々思っていたけれど、富士山の登山と同じようなもので行ってみたいと思っていても、実はそんなに希求してるわけじゃない。でも閉店はなんとなく寂しい。まぁ駆け込み需要の心理なんてのはこんなもので、あ、そういえば、僕は結婚するまで中板橋というところに住んでいたのだけど、あそこにもつけ麺の大勝軒があったよなぁと、友人にメールしてみても返信がないので夜は家族でお寿司を食べた。御ハナはまだまだ離乳食。
 
2007年03月19日(月)  夜泣きと妻と。
 
世の中のあらゆる事象は科学が分析・証明している現代に生きているというのに、赤ちゃんの夜泣きの原因ははっきり分かってないらしい。睡眠のサイクルが完成されてなかったり、昼間の刺激によるなんていろんな理由があるけれど、どうなんだろうね。まだまだ見放されると生きていけないから、昼夜問わず自分の存在をアピールしてるんだろうね。
 
0時半2時半7時。昨夜はそんな間隔で御ハナは夜泣きしたらしい。らしいというのは別々の部屋で寝ているわけではなく、僕の睡眠が恐ろしく深いから。妻から聞いてそうだったのかぁ、なんて他人事の返答をしていたら妻に怒られるので、大変だねぇって同情を試みるも、夜泣きに気付かずぐっすり眠っている僕が同情したところで気持ちがこもってないと思われてしまう。御ハナは延々泣き続け、僕は昏々眠り続ける。妻が感じるストレスは想像を絶するものだろう。
 
でも仕事から帰ってくると、「今日は初めてお粥たくさん食べてくれたんだよ。おぇーってなってたけどモグモグってね!」なんて笑顔で報告してくれる。お粥食べた御ハナも偉いが目標を定めて離乳食を、育児を進める妻はもっと偉い。なんだか上手く書けないけど、悲しいくらいに偉い。
 
2007年03月18日(日)  電車は続くよ。
 
新職場に就職するにあたり久々の電車通勤。朝6時起床7時出発8時到着。ハードだなぁ。しかも4回乗り換えなければならぬ。満員電車に気が滅入る。皆、顔が死んでいる。死んでいない人は眠っている。
 
陰鬱な気分で最初の電車を降りて暗然とした気持ちで次の電車を降りて陰惨な面持ちで次の電車を降りて悲愴な思いでやっと最後の駅に到着。しかもこの駅、下りも上りもホームも改札も滅茶苦茶込んでいて、電車を降りてから改札に向かうまでほんの数十メートルの距離を5分くらいかけて牛歩戦術。
 
皆、社会に出るのが怖くって、辛くって、一歩進んで二歩下がる。たまにはスキップなんてしようかなってスキップすると倍以上の疲労が返ってくるみたいな。それでも電車は改札は、人を吐き出し吸い込んで、遥かな町まで僕達の、楽しい旅の夢つないでる。今日も頑張ります。
 
2007年03月17日(土)  ベンチャーホスピタル。
 
「はじめまして。吉見と申します。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」なんて判を押したような挨拶をしたのは僕はもう若くないから。もっと若かったら一晩掛けて気のきいた挨拶文句を考えただろう。しかし僕はもう三十歳。大人の余裕を見せなきゃいけない。肩を張らずに見栄を張らずに新職場では等身大の自分でいこうじゃないかと緊張せずに挨拶したはいいものの、僕は今までずっと看護師として働いてきて、これからも看護師として働くのだけど、今はまだ看護師として働く病院がない。働き先がないのではなくて物理的な問題で、働く予定である病院がまだ建設中なのである。
 
だから緊張も何も、今回新職場で配属された新病院準備室ってとこで僕は一体どんな仕事をしていくのかさっぱりからきし皆目検討がつかないのである。それにしてもみんな若いなぁ。ざっと見た感じ平均年齢20代後半か。なんかスーツ着てたりピンクの白衣着てたり青い白衣着てたりジャージ着てたり。それぞれの職種が全くわからん。
 
総勢10人。この若いメンバーで新しい病院を作っていくのか。不安が半分、あとの半分は生来持った優しさでできている僕は、「今日寒いね」という先輩だか後輩だかわからない職員の声掛けに「そんなことないです」なんて等身大じゃない気の遣い方が間違っている返答をしているあたり、職場が変わったくらいでは人間変わるもんじゃないなと思いながら、これから何をするんだろう。どんな仕事をしていけばいいんだろうなんて考えてる間に新職場一日目が終了した。
 
2007年03月16日(金)  なごり雪。

僕の束の間の無職生活は、東京都心で今季初の雪が観測された日に幕を閉じた。これは1876年(明治9年)の観測開始以来、最も遅い記録のようだがあれだ、明日から再就職する僕の身を何か案じてるのかもしらんね。神様がさ、雪降らせてさ、明日電車止まったらさ、絶対新しい職場には行くなってことだよ。あーあ。明日も雪、降らないかな。
 
なんてベランダでタバコを吸いながら空を眺めていたら、同じベランダで洗濯物を干していた妻が雪女のような冷たくも悲しい目で僕を見つめていたので心機一転一念発起頑張ります。熱いハートでチャレンジします。ふざけすぎた季節のあとでキミと御ハナを養います。去年よりずっと頑張ります。
 
2007年03月15日(木)  どげんかせんと。
 
東子配るってね。僕のパソコンは東子配るって返還されるんだけど変換されるんだけど。東国原知事。なんだかんだいって僕は期待してるんですよ。地元も近いしね。ほんとに宮崎の地鶏って美味いしね。美味いから食えばいいのに伊吹文明文科相。「国と地方は対等の関係なんだから」って、就任あいさつのため文部科学省を訪問した知事のお土産を拒否ったらしい。

子供っぽいたらありゃしない。なんつうかこの拒否った背景には大人の事情もあると思うんだよ。教育改革関連法改正の件で「地方分権に逆行する」とか全国の知事から言われたやつで。んで知事に対してムカついてたから、お土産を拒否るという非人間的な対応に「国と地方」なんて尤もらしい言葉を添えて仕返ししてんだよ。厭だなァ。顔が、腐っているよ。大人の事情を汲んでも一周まわって子供だよ。
 
続いて訪ねた池坊保子副大臣は「大好きです」と地鶏を愛想良く受け取るという無邪気っぷり。子供だなァ。と、何したって政治家に文句言いたいけど難しいことはよくわからないのでこういう何気ない行動にいちゃもんつけたい自分自身をどげんかせんといかん。
 
2007年03月14日(水)  頑張れ僕。
 
無職生活もあと3日。3日後には電車にいくつか乗り継いで新しい病院に勤務するのだ。しかし3日後、再び白衣を着るということではない。実は勤務先の病院もまだできてない。白衣もない病院もない。じゃあ何すんだ。なんかよくわからんけど、システムとか体制とか作るらしいよ。と、他人事のように話してしまうほど何をするのかわからない。というわけで僕は3日後から新病院開院準備室というところに勤務することになったのだ。
 
今年開院する病院の準備室。ゼロから病院を立ち上げるというビッグプロジェクトに身を投げる無謀っぷり。今の僕、っていうのは当時の僕じゃなくて、7月の僕ね。今の僕だったらその無謀な決意を止めるであろうか。見守るであろうか。今となってみてもそれはよくわからん。こうやって体壊しながら頑張ってるけれども、この一連の努力とか辛さとか嬉しさとか、ゆっくり振り返れるのはまだまだ先かもしれん。1年先か2年先かはたまた10年先か。
 
とにかく当時の僕は、漠然とした不安をそのまま期待にスライドさせて胸中ワクワクしていたし、今の僕は、形となって現れた不安をそのまま努力にスライドさせてお尻カイカイしている。正しい選択を行ったとは思わないけど、間違った選択をしたとも思えない。
 
3日後に、僕は新天地に足を踏み入れる。吉と出るか凶と出るか鬼と出るか蛇と出るか。そんなもの誰だってわからない。今の僕にだってわからない。ただ、僕は、人一倍ストレスに弱いけれど、人一倍何かを何かする力を持っている。何かを何かするって何のことだかイマイチわからないけれど、とにかく何かを何かするのだ。その力がある限り大丈夫。頑張れ僕。一児のパパ。
 
2007年03月13日(火)  ごめんなさい。
 
何月何日の日記を書いているのかまったくわからん。まだ3月くらい? でも僕は炎天下の商店街から逃げるようにミスタードーナツに入って何を思ったかちっこいパソコン広げて日記を再開している。3月くらいの日記だけど、実はも7月で、正確にいうと明日から8月だ。暑くてしょうがないし、仕事は忙しくてしょうがない。
 
多少の遅れ、怠慢があっても、かろうじて毎日書いていた日記が突然頓挫して、本当に申し訳ありませんでした。妻と御ハナの前以外、心の平静を失った僕は、全身真っ赤な湿疹に蝕まれ、嘔吐し、下痢をし、ストレス性障害のオンパレードっていうくらい身体を心を壊し、そんな状態で早朝から深夜まで働いて働いて働いて、今までの人生で一番働いて、今までの人生で一番働くってのが20代じゃなくて30代になってから訪れたものだから、もうだめだ。空が赤く見える。と、自らの体調を省みず、駅のホームで血の涙を流しながら、日本の医療のために粉骨砕身。涙だか鼻血だかわからないものを垂れ流しながら終電で帰宅し、帰宅できないときは職場に泊まりこみ、そんな状態でパソコンを広げられるわけもなく、ただただ、時間ばかりが虚しく流れ、月日は経って明日から8月になりもう元気。仕事の忙しさの山場の第1段階を通りすぎ、心の平静と、時間的な余裕が徐々に生まれてきたと同時に数ヶ月振りにパソコンを開き、日記を再開しようと思います。心配してくれた方、本当に申し訳ありませんでした。消毒液で荒れた手はボロボロ。腹のまわりは湿疹だらけ。しまいにゃケツにも湿疹が。尻を掻きながら仕事をする看護主任に威厳もへったくれもないけれど、なんとか毎日頑張っております。
 
御ハナも元気です。つーかもう立ちそうです。でもこれまだ3月の日記。御ハナの成長過程はゆっくりと書いていきたいので、現状での報告はここまで。でもハイハイもします。僕に似て寝相もものすんごく悪いです。妻は相変わらず綺麗で優しいです。あらなんだ。なんといえばいいんだ。数ヶ月廃人のようにフラフラしながら出勤して帰宅していた僕をいつも暖かく見守り、手を差し伸べてくれました。本当に優しい人だ。そしてお金に厳しい人だ。僕は一生小遣い制だ。でもまだまだ仕事が忙しいので欲しいものなんて何一つありゃしない。御ハナの笑顔と妻の最上の愛だけで十分だ。充分だ。
 
心配かけて本当にすみませんでした。僕は、皆さんが生きている空間の延長線上に、今も腹を掻いたり尻を掻いたりしながら世の中に残念な視線を投げかけながら生きています。日記は、まとめて7月分までっ! ってわけにはいかないので、徐々に書いていこうと思います。歪み冷奴、第8章。本日よりスタートです。第8章ってのは思いつきだけどね。
 
2007年03月12日(月)  煩雑ダンディズム。
 
すごい勢いで日記を書いてるinミスタードーナツ。ミスタードーナツなのかミスタードーナッツなのかわからん。ポカリスエットなのかポカリスウェットなのか。サンドイッチなのかサンドウイッチなのか。スパゲティなのかスパゲッティなのか。はじめちとせなのかあずまちづるなのか。最後のやつは嘘だ。調子に乗るとすぐ嘘を吐いてしまうね。
 
僕はポンデリングよりもシナモンドーナツが好きなんだよね。ポンデリングはあのモチモチ感がストレスを発生させる。咀嚼しながらオレは今一体何を食ってるんだ感に襲われる。その点、シナモンドーナツは単純明快。ドーナツにシナモンをふりかけたものを食っていると、満足して咀嚼することができる。できるんだけどね、僕は今すごい勢いで日記を書いている。日記を書いているということはちっこいパソコンでキーボードを打っている。
 
シナモン。残念だなぁ。美味しいのに指にシナモンが付着してキーボードが打ち辛い。いちいちナプキンで指を拭きながら日記を書かなくちゃいけない。ものすんごい煩雑だ。1000円以上お買い上げのお客さまに+15ポイントプレゼントと書いてあるが僕はミスドカードを持っていない。妻は持ってたのに。妻はいろんなお店のカードを持っているのに。って1000円以上も食ってないんだけどね。シナモンとハニーチュロとアメリカンコーヒー。おかわり自由なのにおかわりを持ってこない。おかわりくださーいって言いにいくほどコーヒーを欲しているわけではないし。でもおかわり来なけりゃ来ないでイライラしてしまう。人間ってつくずく、つくづく? わがままな生き物だなぁ。店内に山下達郎の歌が鳴り響いている。うぉ〜おお〜 フニャラララードーナッツ。って、どのフレーズもフニャラララーってとこが聞き取れない。
 
2007年03月11日(日)  朝の日よ!
 
早速来週から新しい職場で働くんだけどね、面接のときに何度も推したんだよ僕は。「看護主任だけは勘弁です」って。で、病院の偉い人に一喝されたわけ。「男が人の上に立てなくてどうする!」って。で、そっかぁ。やっぱそうなんだぁ。って変に納得しちゃったんだよね。男は人の上に立ってなんぼなんだっていうことじゃなくて、僕の職業はもうすでに看護師ではなく看護主任なんだって。
 
ありえないんだよどう考えたって。初っ端から看護主任だなんて。僕の人生ありえないことなんてほとんどというくらい起こらないんだけど、仕事に関しては別。すぐ人の上に立っちゃう。しかもすげぇ中途半端な人の上。正確にいうとある人の上であると同時にある人の下ってポジション。俗にいう中間管理職。英語でいうと、よくわかんねぇや。もしかしたら外国には中間管理職って概念はないのかもしれんね。
 
というわけで休職中、既に皮膚病悪化決定。そりゃ役職ついたらそれなりの手当てはもらえるんだよ。でも役職は同時に何かを失わせてしまう。それが心の平静ってやつだ。また下からの不平。上からの不満にヘラヘラ笑ってまぁまぁそうおっしゃらずになんて言いながらワキの下をボリボリ掻く毎日がやってくるんだ。朝日よ昇ってくれるな!
 
2007年03月10日(土)  汚染と洗浄。
  
「できるだけストレスを溜めないことですね」って皮膚科の医者に言われたんだけど、そんなこと言われなくたってわかっている。言われなくたってわかってるけど僕も白衣を着てるときは患者さんにそんなこと言ったりする。無責任な言葉だなぁ。交通事故で骨折した人に向かって「信号は青のときに渡るように」って言ってるようなものだもんなぁ。
 
僕の全身を蝕んでいるこの皮膚病の原因は言わずもがなストレスである。先日僕は仕事を辞めたので辞めてる間に全身キレイキレイになって心機一転新しい職場に就職して新たなストレスに見舞われて新たな湿疹を表出させたいものである。その為には今のうちにちゃんと薬飲んでちゃんと軟膏塗ってまっとうな体に戻したい。できるだけストレスを溜めない生活。やれるもんならやってみる。右に御ハナ、左に妻。穏やかな生活は僕の体を心を静かに洗ってくれる。
 
外に出るといろんなものが舞っていて、いろんなものが付着する。まったくもって汚ねぇ世の中だ。でもシャワーばっかり浴びてても、明日の食う金生まれない。そろそろ働く場所探さなきゃいかんなぁ。って実はもう決まってんだけどね。看護主任にだけはなりたくないですって面接の時のネガティブ発言も報われず、新しい職場でも看護主任だ。やっほ。頑張るぞ。わきの下とか膝の裏とか、皮膚の柔らかいとこがものすごい痒いぜ。
 
2007年03月09日(金)  新しい世界。
 
おばあちゃんにもニコニコして人見知りとは無縁の御ハナ。「そろそろ離乳食ば始めんといかんねー」と、正確に松江弁を書くことはできないが、おばあちゃんが離乳食始めていいって言ってるんだから始めたっていいだろう。と、この2日間でおばあちゃんの温かな人間性に心酔してしまった僕は、朝に「ちょっと行ってくるけんね」っつっておばあちゃんが庭先で取ってきてくれたふきのとうの天ぷらを一心に貪りながら御ハナと一緒に妻が作る離乳食の出来上がりを待つ。
 
離乳食とは、乳離れをするため、ミルクから固形物を摂取できるように段階的に始めていく食べ物で、うは、御ハナがお粥食おうとしてる。うは、乳しか飲んだことのない赤子が乳以外のものを口に入れようとしている。不味くはないのだろうか。と、ドキドキしながらデジカメを構えていると、レンズ越しに「ウエェ」と顔をしかめてお粥を吐き出す御ハナ。
 
まぁ初っ端からって書いてしょっぱなって読むんだけど、しょっぱなからパクパク食うほうがおかしいんだ。これでいいこれでいい。吐き出したってそれでいい。今日、御ハナの世界はまた広がった。キミの世界はこうやって毎日毎日少しずつ広がっていく。妻はおばあちゃんちに来てからずっと部屋ではちゃんちゃんこを着ている。田舎臭くてこれがまた可愛い。御ハナは突然口に物を入れられてびっくりしてメソメソしてるけどこれもまた可愛い。世界は、僕たちの世界はこうやって新しい刺激と発見を繰り返して無限に広がっていく。
 
2007年03月08日(木)  美人、白い車、寿司と蟹。
 
空港には妻の友人が迎えに来てくれた。えらいべっぴんさんである。今回の島根帰郷編では以後、あと数名の妻の友人達が登場するが、全員えらいべっぴんさんである。島根は美人と白い車が多い。
 
御ハナは飛行機の中でぐうすか大人しく眠っていた。到着10分ほど前に少し泣いたけどおっぱい飲んだら泣きやんだ。概ねおりこうさんであった。おりこうさんでしかも0歳児なので航空代金も無料で同時に親孝行までするという利口っぷり。迎えに来てくれた綺麗なお姉さんが御ハナのことを「頭の良さそうな子」と言ったことはおそらく間違ってはいない。
 
昼食を摂ったあと、おばあちゃんの家へ。おばあちゃん初ひ孫と初体面。初ひ孫のあまりの可愛らしさに驚いていたが、それ以上に僕たち夫婦が我が子のことを「おハナさん」と呼んでいることに驚いていた。
 
夜はお父さんが持ってきた寿司と蟹をたらふく食った。アウェイでの食欲は懸念するところであったが、そんなもの杞憂で一時的なマスオさん状態に置かれながらも美味いもんは美味い。たらふく食ってたらふく飲んだ。家を一歩出ると海が見えて、綺麗な夜空を見上げながら煙草を吸って、全力で心を癒した。
 
2007年03月07日(水)  夫婦生活黄金律。
 
午前4時起床。午前5時半池袋メトロポリタンホテルリムジンバス乗り場。午前5時40分リムジンバス出発。御ハナはパパの腕の中でぐうすか眠っている。ママは通路を挟んだ席でバウムクーヘンを喉に詰まらせて悶えている。ドリンクなしで単品で食べようとするから喉に詰まらせるんだ。誰にも取られないから落ち着いて食べなさい。はい、お茶。などと言っている間に羽田空港に到着。
 
今日から4日間、妻の故郷である島根に行く。職でも失わなければこんなゆっくりできる時間はない。都会の喧騒から離れてゆっくりのんびり過ごそう。ゆっくりのんびり過ごす前に、そわそわ急いで行動しよう。というのは、以前、鹿児島に帰郷するときに夫婦揃って寝坊して飛行機に乗り遅れて倍の運賃を払った過去があるから。
 
6時半羽田空港到着。飛行機は9時半出発。どんだけそわそわ急いで行動してんだと思われるだろうが、小さな赤子を抱えた身、いつ何度どんなトラブルが発生するかわからない。しかも今日のように飛行機での遠出となるとそのトラブルが飛行機の乗り遅れという経済的に大ダメージ。キミがあの時気付いていれば。あなたがあそこで一言言ってくれたらなんて不毛な会話が夫婦の絆に亀裂を生じ、あんたなんか嫌いよ顔も見たくないと思いつつも、夫婦なんだから同じ屋根の下で暮らさなければならぬ。屈折した思いを抱きながら夫婦間の溝は更に深まり、その溝にはまった御ハナは延々エンエン泣き叫ぶという悲惨な状況になりかねぬ。
 
到着6時半。出発9時半。石橋を叩いて渡る3時間前行動は円満な夫婦生活を営む上で導き出された黄金律。空港の待合室で再び妻はバウムクーヘンを喉に詰まらせておる。
 
2007年03月06日(火)  言葉の向こう側。
 
『日本人は知っている。うまいは、甘い。』というキリン生茶のキャッチコピー。CMでも松嶋菜々子が言っている。日本人が知っているというのなら勿論僕だって知っているということになる。うまいは、甘い。まぁそうかもしれん。そうかもしれんが、うまいは甘いと言ったらしい北大路魯山人のことは全く知らない。
 
「ありがとう。北大路魯山人。あなたの教えから、新しい生茶ができました」なんて松嶋菜々子はやたら北大路魯山人に感謝しているが、なんか勝手に感謝して勝手にペットボトルのお茶に「うまいは、甘い。」という概念を転移させて貴様も日本人なんだからうまいは甘いと思うはずだ。よって飲め。買え。と強要しているように思えてならんよあの松嶋菜々子の笑顔は。
 
旦那は旦那で同じメーカーのコーヒーのCMで機長に扮し、不気味なキャビンアテンダントを引き連れて振り返って「挽きたてプリーズ」なんて不気味な台詞を発しておる。世の中こんな無意味な言葉で溢れている。
 
御ハナは言う。「うぇぉうゎおうおう」何言っているのかさっぱりわからない。だけど、うまいは甘いだの挽きたてプリーズだの意味不明な言葉よりも僕の心にすっと入ってくる。それは真実を述べているから。素直な気持ちを表現しているから。たとえ解釈ができなくても、それは意味も言語も文法も全て省いた純粋な言葉だから。純度100%の語彙だから。
 
今日も御ハナの喃語に耳を澄ます。静かに目を閉じて無意味とも思われる御ハナの喃語を頭の中で解釈する。「父よ。そんなことより早よ働け」御ハナは笑いながらそう呟いた。
 
2007年03月05日(月)  頓挫無頓挫。
 
御ハナが生まれて5ヶ月経った。御ハナはまだ生まれて150日しか経っていないのに元気いっぱいで朝から晩まで体を活発に動かしているが、生まれて30年経過した父親は朝から晩まで働きもせずにぐうたら毎日を送っている。
 
寝る前にビールを飲む。ビールがないと近くの自販機でコーラを買って、ウイスキーで割って飲む。甘くて飲み易いねーと独り言を呟きながら深夜番組を見ていると、突然酔いが回ってきて後ろにぶっ倒れて朝まで眠る。そんな無職生活。
 
生後5ヶ月といえばそろそろ寝返りをする時期なのだが、御ハナはまだできない。できないというか、その気があればいつでもできそうな空気を漂わせている。体を横に向けて、おっ、寝返りするかなと思いきや元の姿勢に戻る。元の姿勢に戻るかなと思いきや寝返り寸前の姿勢まで持っていく。無職の父親、弄ばれてる感いっぱい。昼間からフローリングの上で二人でゴロゴロしながら日が暮れる。
 
そういや今まで持たせてやっていたおもちゃも最近は自分で手を出して取るようになった。自分の周りにあるものはなんでも手に取ろうとする。お陰で僕の携帯はヨダレまみれ。これじゃあ電話でけへんやんかーと狼狽しても電話掛ける用事もない。世の中はこのように僕が人生に頓挫したってお構いなく進んでいく。御ハナは無職の父親を尻目にお構いなしに成長していく。
 
2007年03月04日(日)  倍率ドン。
 
最近御ハナがやけに下唇を噛みだしたので、おかしなことをする子だ。それ何の意味があるのかね。と、尋常な表情で訊ねても御ハナはまっすぐ僕の目を見て真剣な表情で下唇をチューチュー吸っている。僕も真似して下唇を噛むと御ハナはエヘェと笑う。そんな非生産的な行動の堆積によって成り立っている無職生活かれこれもう1週間。
 
「楽しいおもちゃ」となる身体の一部を見つけて、下唇を噛むことがいわゆるマイブームのようなものになっているのか、指しゃぶりと同じで自分の気持ちを安定させようとしているのか、それとも歯が生えてくる前で歯茎が痒いのか。いずれにしても可愛い行動であることには変わりない。よし、記念に撮っておこう。と、御ハナが下唇を噛んだときを狙ってカメラを構えると、「あらやだ。カメラ」とでも思っているのか瞬時にして普段の表情に戻ってしまう。
 
御ハナー下唇噛んでくれー、と、カメラを構えたまま自分の下唇を噛んで見本を演じていると、「何やってんだろパパは。馬鹿だなぁ」とでも思っているようなささやかな軽蔑をこめた表情で御ハナは笑う。憎たらしい。憎さ余って可愛さ百倍。さらに倍。無職の父ははたらいたさんに全部。働いたさんに全部。
 
2007年03月03日(土)  初節句。
 
今日は御ハナの初節句。雛人形飾って盛大にお祝いしましょうっていっても東京に親戚などおらず、雛人形といっても2LDKの賃貸マンションでは置き場所も収納も考えなければならぬ。初節句で制限ばかり多くなって御ハナも辟易すると思うがここは堪えてください。将来マイホーム購入したら立派な雛人形買ってやるからね。
 
と、楽天市場でキューピーちゃんの雛人形セットを購入し、コージーコーナーで砂糖で作った雛人形が乗ったケーキを買って、妻が海鮮ちらし寿司などを拵えてくれて家族3人で小さな小さな雛祭り。といっても御ハナはケーキを食えるわけでも海鮮ちらしに喜ぶわけでもなく、いつものように僕の膝の上に乗って食卓を眺めながらふんふん鼻息を鳴らして、片手に持った小さなガラガラを一心にしゃぶっている。
 
最近は目の前におもちゃなどをかざすと、自分の意志でもって手を伸ばして取るようになった。自分の左手と右手を自発的に繋げるようにもなった。毎日毎日、ちょっとずつ成長している。僕は仕事を辞めてからちょっとずつちょっとずつ退化している。まず朝まったく起きれなくなった。目の前に物があっても、手を伸ばして取ろうとする気力を失った。御ハナと一緒に赤子のような生活をしている。
 
2007年03月02日(金)  這々美容院。(後編)
 
肩まで伸びた後ろ髪、口まで伸びた前髪を整えてもらって、いつものえり裾を長めに残したウルフカット。えり裾を強調するようサイドを短くカット。スタイリング次第ではヤンキーのような面になる危険なヘアスタイル。
 
そんなオシャレでもないのに、いつもこんな危険なヘアスタイルに果敢に挑戦するものだから一人でスタイリングが決まるわけがなく、仕事以外ではいつも外ではキャップをかぶっている。
 
この美容院、初めて行ったのだが、オープン間もないらしく客がものすごく多かった。あとスタイリストに3つのランクがあって料金も異なる。スタイリスト、トップスタイリスト、ディレクター。僕は小遣い性で独身時代のようにお金を持っていないのでスタイリストにお願いして、トップスタイリストとかディレクターとか経験年数でなれるんだったらさ、4・5年後にはみんなディレクターだらけになってカット料金が一律上がっちゃうんじゃない? と、担当してくれたスタイリストにいらぬお世話の心配事を訊ねたら、「うーん、まあ……どうなんでしょう」と、明らかに面倒臭い質問をする客だなぁという反応をされてしまったので以後むっつり。学生の頃の愛読書の「smart」という雑誌を読みたくもないのに読破。
 
2007年03月01日(木)  這々美容院。(前編)
 
昨日、子供を美容室に行かせる金なんてねーよみたいな主旨の日記を書いたが、その父は今日張り切って美容院に行ってきました。
 
約7ヶ月振りの美容院。髪を整える気力すら仕事に費やしていたストレスフルな看護主任時代。僕はスタッフのため、患者さんのために毎日毎日頑張ってきた。そんでバーンアウトして、若さに頼ってめちゃくちゃ弾力があったゴムがいつのまにか疲弊して伸びきっていて、鏡を見ると頬がこけて髪が伸び放題であった。
 
不眠、食欲不振、人間関係の煩わしさから逃れるために事務処理に集中するなどという、本当にバーンアウト症候群の典型的な症状を自覚し、辞めさせてください、許しません、本当に憔悴してますので辞めさせてください、絶対許しません、こうなったらー、ま・まさか……、労働基準監督しょー! という、茶番劇を経て職場から飛び出してみると、まるで戦場から這々の体で逃げ延びてきたような暗澹たる惨状。
 
僕は生まれ変わらなければ。3月だし。このビラ持って行くと初回半額らしいし。と、商店街の路傍でもらったビラを手に、僕は美容院に行った。
 

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