2004年04月30日(金)  午前9時半の福音。
 
午前9時半。僕は寝ていた。未だ、掛け布団1枚、毛布2枚をかぶって寝ているのは、4月といえども、夜間は冷えるというわけではなく、夏への支度っつうか衣替えっつうか、そういうの億劫で、よほどの気が向かなければ、毛布など通販で購入した不思議な袋に圧縮している暇などはないのであり、午前9時半、僕は寝ていた。
 
午前9時半、携帯が鳴っていた。あぁ携帯が鳴っているね。と布団の中、朝の光の中、まどろみの中、うっすらと感じ、関係ないもんね、僕眠ってるから関係ないもんね、と再び就寝。30分ほど経過し、やっぱり気になる。ちょっと着信歴でものぞいてみようか知らん。と、のそのそとキッチンの電気コンロの横に置いてある携帯、なぜこんなところに置いてあるかというと、現代の携帯電話はアラーム機能という便利な機能がついていて、それぞれの事情に則した随意の時間を設定すると、1分1秒の狂いもなく、その時間に着信音が鳴り響くという便利な機能。
 
しかし、その機能も、寝起きの脳味噌には何の効力も発揮しない。頭元に携帯を置いていると、設定時間に鳴り響いたとしても、うっせーよ。朝からうっせーんだよ。馬鹿。馬鹿携帯。阿呆au。いらぬ機能を搭載すな。電話は人と話す機器ではないのか。餅は餅屋。目覚まし機能が欲しかったら目覚まし時計を買うよ。うっせーよお前。携帯のくせに。と、瞬時にアラームを止め、部屋の隅に放り投げてしまう為、キッチンの電気コンロの上に置いてあると、仮に上に書いたようなことを思っても、怒りの対象がキッチンにあるので、四肢体幹の機能を駆使して、キッチンまで歩いていかなければならない。
 
頭元に置いてあると、脳味噌で考え、希望する行動を、円滑に行うことが可能であるのに対し、キッチンに置いてあると、身体のそれぞれの機能を使うため、キッチンまでヨロヨロ歩くときに睡眠と同時に眠っていた倫理観も目覚め、あぁ、投げるなんて野暮なことはやめよう、もうこんな時間だ。顔を洗ってヒゲを剃って云々と、冷静に物事も考えられる。
 
で、午前10時。着信歴。午前9時半、職場から。職場から。職場!? 何、何、何なの。こんな時間に何の用? こんな時間というのは、午前9時半、仕事が始まる時間であって、9時半になっても出勤してこない僕に対して、ヨシミもう仕事が嫌になったのではなかろうか。これは無断欠勤ではなかろうか。ヨシミも落ちたもんだ。みっともない。みっともないと思っても現場では看護婦が足りないので、みっともない男でも職場に居た方がよい。よって、電話してみようと思って婦長さんは電話したのではなかろうか。
 
しかし今日は日勤ではない。夜勤である。午後4時に家を出れば間に合うのである。だから僕は午後2時に携帯のアラームをセットし、電気コンロの横に置いて、昼夜逆転の生活の準備をしていたのだが、夜勤だということは、朝出勤するのヤだな。夜勤の方がいいな。電車空いてるしね。という潜在的な欲望が表面化して、それが勘違いという結果を生んで、日勤なのに夜勤と一人合点して阿呆のように眠っていたのかもしれないと思い、慌てて職場へ電話。
 
「あぁ、婦長さん。ごめんなさい」
「何よいきなり謝って」
「日勤が、好きです」
「だから何なのよ。ヨシミくん今日夜勤でしょ」
「あ、そうですか。日勤よりも、夜勤が、好きです」
「何? 寝ぼけてるの?」
「寝ぼけてません。動揺しているのですよ婦長」
「何よその傲慢な話し方は」
「すいません。で、何ですか」
「あぁ、えとね、来月からの異動の件、なくなっちゃった」
「や、やった! ホントですか!」
「ホントですよ。私が総婦長を説得したのですよ」
「ありがとうございます! 今夜一緒にご飯なんてどうですか!」
「あなた夜勤でしょ」
「そんなものどうでもいいです!」
「どうでもよくありません。それじゃあ来月からもヨロシクね」
 
午前9時半の福音。異動がなくなった。エーテンがなくなった。部屋をぐるりまわりながら歓喜の舞を送った後、布団に戻り再び就寝。
 
2004年04月29日(木)  マンキツでマンキツ。

池袋の漫画喫茶からおはようございます午前10時。なぜになぜゆえに朝早くから漫喫でパソコンなど満喫しているんだと。漫喫で満喫。
 
それは夜勤明けだからで御座います。30分前まで職場にいたのでございます。白衣にコーヒーこぼれて、まぁいいやってほっといてたら小便臭くなってきて、このまま放置すると看護婦さんたちにヨシミは小便小僧だなんて思われるかもしれない。思われたってエーテンなんだから、もういいや。小便小僧で。
 
午後1時から新宿で所用がありまして、どうしよう。一回家に帰ろうかしら。と悩むことなく漫喫で満喫しているのは理由があって、本当は映画でも見て時間を遣り過ごそう。映画。キルビル2見たいな。と思い、映画館へ赴いたが上映は11時から。あと1時間。ネムー。夜勤明けネムー。もう寝よう。そう思い。もう寝てしまおう。そのように思い、池袋には漫画喫茶が腐るほどあるので、適当なビルに入ってゲロ臭いエレベーターに乗って、現在、真っ暗な部屋で真鍋かおりのDVDを見ながら日記を書いている次第で御座います。
 
久々の漫喫。キーボードの勝手が違う。フロントスタッフ大募集。ソファーが臭い。約束の時間まであと3時間。ネムー。しかしここで眠ったら、おそらく夜が更けるまで眠ってしまうだろう。ABCマートで靴を見たいけど、眠いのでろくでもない靴を買ってしまうかもしれない。夜勤明けの精神状態は酩酊状態のそれと似ているのだ。似ているのだい。やる気に応える好待遇。フロントスタッフ大募集。もう眠い。読んだ本は元の場所にお戻し下さい。漫喫で満喫。
 
2004年04月28日(水)  アルゴリズム体操。
 
休日は、朝から晩まで【恋愛歪言】の原稿を書いている。書いているというのは、原稿自体は完成してるんだけど、その推敲というか、読めば読むほど文章に自信がなくなるっていうか、面白いって思ってるの実は自分だけじゃないかしらという猜疑心に苛まれてるっていうか、いくら読み返しても誤字脱字が出てくるっていうか、7月中旬には発売させたいんだけど、こんなの書いて親に見せられるかどうか、なんてことを考えながら朝から晩まで原稿を書いているのだが、
 
集中力ってそんな持続するものではない。疲れたら戦国無双。最近、オンラインボンバーマンをめっきり遊ばなくなったのは、プレステ2のソフト、戦国無双を買ったからであって、DVDプレーヤー、プレイヤー? DVDプレーヤー、ん? プレイヤー? どっちだ。エーテン、エイテン。DVDしか楽しんでないプレステ2で久々に購入したゲームソフト。下の妹の彼氏が面白いからやってみて下さいとメールがきたので、3780円の中古品を購入。
 
あまりにも面白すぎて、原稿がはかどらないため一時封印していたが、そろそろ原稿もあがりそうなので、再び戦国ライフを送っている次第で御座いますが、原稿はパソコンで書いて、ゲームはテレビでやって、眼性疲労、肩凝りなどに苛まれ、ストレス発散のつもりのゲームでストレスが溜まるという悪循環。そんなときはアルゴリズム体操。
 
こっち向いて二人で前習え。あっち向いて二人で前習え。手を横にーあら危ないー。って二人でやってこをアルゴリズム体操の意義があるのだが、僕は独居生活であって、隣人の中国人の留学生の女性に一緒にアルゴリズム体操しようなんて言うと訝しがられるので、ここは一人でキクチバージョン。ぱっちんぱっちんがしんがしん。
 
2004年04月27日(火)  エーテン。
 
六月から完全に職務異動になる僕は毎日憂鬱で、夜勤が減って日勤が増えて給料が減って新しい仕事が増えるという、何にもいいことがない。へこむ材料が多すぎる。
 
しかし看護婦さんたちは、「エーテンなんだから、頑張って」「エーテンおめでとう」なんて、意味のわからない言葉を使って僕を慰めようとしている。エーテンって何だそら。意味もわからないまま曖昧に「エーテンありがとうございます」なんて笑顔を浮かべて聞いていたけど、エーテンの意味がわからなければ今後「エーテンなんだって?」など聞かれた場合、「エーテンなんですけど、もうそれが大変らしくって」などと綱渡り的な受け答えを今後続けていかなければならない。
 
エーテン。うちに帰って早速辞書検索。エーテン。薬の名前っぽいね。だめだ。「すべての辞書検索で該当する情報はありませんでした」って表示される。ほんとにすべての辞書で検索したのかよ。と一度疑ってから、その後「検索キーワードや検索方法を変えてもう一度検索してください」と書いてあるのに気付き、もはやエイテンかもしれぬと思い、エイテンで検索。
 
えい‐てん 【栄転】
[名](スル)今までより高い地位・役職に就くこと。転任をいう尊敬語としても用いる。
 
格好いいお言葉じゃないですか。栄転。フフ。栄転。(スル)今までより高い地位・役職に就くことを栄転といいます。(スル)尊敬語です。って(スル)ってなんだ。とにかく僕はこうやって自分を慰めつつ、新しい仕事への準備をしてるってわけです。
 
2004年04月26日(月)  擬似的放屁。
 
現在その対処に頭を悩ませているのは、職場の帰り道にあるモスバーガーのソファーで、このソファー、ちょっと尻を動かしただけで、「プゥゥゥ〜」という放屁のような摩擦音がこだまし、周囲の客が、ファーストフードで放屁するのはどんな厚顔無恥な奴なんだと、一瞬僕の顔を見るからであって、僕は無実。屁なんてこいていない。
 
よってその対応策を考えた結果、プゥゥゥ〜と間抜けな摩擦音がこだました場合、僕は皆がファーストフードを楽しんでいる場所で放屁なんて野蛮な真似はしていない。これはソファーと僕の尻との摩擦音で無味無臭。大丈夫、皆安心してモスチキンやチリドッグを食べなさいという意思を伝えるために、今度は故意に摩擦音を発生させる。
 
ここで頭の良い一部の大衆は、あぁ、これはあのソファーとあの客の尻に発生した摩擦音であるのだなと悟って、それにしてもオニオンリングもうちょっと入ってたらいいのになと自らの内面の問題に即対処することができるのだけど、往々にして大衆とは馬鹿であるから、ちゃんと選挙に行くし、きっかけはみんなフジテレビだから、あ、またこいた。あいつまた屁ぇこいたよ。くっせーな。親の顔が見てみたいよ。見たところでどうするってことないけど。オニオンリング先に食っちまったからあとポテトしかねぇや。などと先ほどより露骨に不快の視線を僕に投げ掛けるのであって、僕は万人に対してこの放屁は擬似的であるということを伝えたい。皆に理解してもらいたい。僕が放屁なんてしない人物だということをわかってもらいたい。
 
という意思を込めて、3度目の擬似放屁。これで周囲は理解しただろう。もう大丈夫。安心して僕はロースカツバーガーを頬張ることができると思いきや、上には上がいて、馬鹿にも上がある。うわ。2度あることは3度あると申しますが、あいつ3回も屁ぇこきやがった。ウンコ行けよ。もしかして漏れたのかしら。くっせーな。ともう取り返しのつかないことをしてしまった僕は名誉挽回、起死回生の本物の放屁。これが本物の屁なんだ。この音、この臭い、皆この音で生を感じろ。生の神秘を感じろ。ガスの影響を肌で、鼻で受けよ。そして先ほどの擬似屁と比較せよ。と真の放屁を連発。2度続けて放屁したところで、擬似屁を挿入するなど、我ながら絶賛するこの工夫。この機転を生かした行為はピーコだって絶賛するだろう。場末のモスバーガーで一人尻を振り続ける。
 
2004年04月25日(日)  ベスト・オブ・ハシ。
 
電車の座席。皆、座席の端を好むのは個人空間、いわゆるパーソナルスペースの問題で、簡単にいうと、右と左に他人がいるよりは、一方が開いていた方が気分が楽。楽チン。楽しいチンコというわけで、人生辛いチンコより楽しいチンコがよい大衆は、電車の扉が開くなり、我先に我チンコと、電車の端を狙う。
 
しかし電車には座席の端の端。いわゆるベスト・オブ・ハシというものが電車内には存在して、パーソナルスペース大好きなスペースマニアは、車内の扉が開くなりベスト・オブ・ハシへ一目散。往々にしてスペースマニアというものは自意識過剰な馬鹿チンコであって、そんな自分が思うほど、周囲は自分のことを考えてはいない。周囲のことを過剰に気にするけど、内面、周囲が自分のことを気にしてほしいという矛盾を背負った馬鹿チンコは、ベスト・オブ・ハシに鎮座して、胸を張り、楽しいチンコ。
 
このベスト・オブ・ハシは、各車輌に4箇所存在する角の部分で、そこに座れば、左に人が座るのはしょうがないが、右は車両の端の為、完全に個人空間は確保される。確保されるということは自我も守れるということで、自我が守られるということは、外界からの刺激が軽減されるということなので、いらぬストレスを消耗しなくてもよいということになり、自意識過剰な馬鹿チンコは、こうした外界からの刺激に過剰に反応してしまうので、この完全無欠の三角コーナーは、女房を質に入れても座りたい場所なのである。
 
と、僕。座っていた。これは意図的にではなく、ただ単に僕が乗った駅ではまだ乗客が少なかっただけであるが、電車が都心に近付くにつれ、乗客も多くなってくる。東京の人は兎角都心なのだ。埼玉の人も兎角都心です。んで、僕。座っていた。が、僕は都心に近付く前に、電車を降りなければいけない。職場があるからね。だからその三角コーナーを立ち上がったその時。
 
僕の左隣に座っていた若くて妙な柄のネイルアートを施した香水臭い馬鹿チンコが。馬鹿チンコというと、チンコなだけに男を象徴するようであるけど、その若い馬鹿チンコは女であって、それならば馬鹿マンコとか書けばいいのだが、女性の社会進出が今や当然となったこの御時世、女性に向かって馬鹿マンコなどと形容すると、訴訟問題に発展するのは明確で、仮に訴えられた場合、僕が特定の女性に対して馬鹿マンコと被害中傷したことは、即被告敗訴へ繋がるので、賠償金を払うくらいなら彼女へネックレスの一つでも買ってやりたい僕は相手が女だけど馬鹿チンコと書きます。
 
んで、この自意識過剰な楽チンコ、自分のパーソナルスペースを守りたいが為に、僕が立つや否や、すぐに僕が座っていた場所へ移動するではないかと。ほんの数秒前まで座席の占有権は僕にあったのに、僕に何の断りもなく、平然と座っていられるのは、車内の座席は公共の施設であり、僕がその女性に文句を言ったところで、何を申すかこのチョビヒゲ。長モミアゲ。チューチュートレイン。などと罵倒されるのは明白であるので、黄金の三角コーナーを占拠されたことは非常に口惜しいけど、仕事あるしね。そんなことばかり考えていても世界は平和になるどころか悪化する一方で、来月からの給料が危機的状況に陥りそうな今、僕がすることといえば、エスカレーターを上る女子高生の後ろで手鏡を当てるくらいですか。
 
2004年04月24日(土)  腹痛と玉砕。
 
最近、電車に乗るなり耐えがたい腹痛に襲われる理由は明確で、ずっと仕事のことを考えているからである。6月から新しい施設に移動になって、そこの責任者のような立場になるわけで、僕はまだこの職場で働き始めて半年も経っていない。米でいえば新しい米。いわゆる新米であるというのに、前の職場では古米だったじゃないか、よってここでも古米のような扱いをします。ということで新古米のような立場の僕は6月にオープンする新しい医療福祉施設に移動、責任者就任ということになり、毎朝腹痛に苛まれるようになった。
 
あぁ腹が痛い。オープンは6月だが、5月から書類作成その他、雑用に追われるため、早速準備に取りかからなければならず、それらを円滑に遂行させるためには月曜から金曜まで毎日出勤しなければならぬ。平日に職場に行くなど当然のことだが僕は看護師。夜勤で生計を立てております。夜勤手当てだけで十万円もらっております。十万円プラス基本給。しかし来月から夜勤せずに平日は毎日出勤、腹痛に耐える毎日が続くというのに、給料が単純に十万円下がる。
 
新施設責任者就任という、いわゆる出世を果たしたのだが、出世して給料が下がるという意味のわからない矛盾にはまることになった。困る。チョー困る。チョーベリーコマル。チョベリコ。これはかなりの危機的状況。総婦長さんに言わなければ。給与面に関して、増やせとは言わないけれど、今の水準を保たせるようにお願いしなければと総婦長室をノック。
 
「失礼します」
「あぁヨシミ君。今呼ぼうと思ってたのよ。えとね、相談なんですけど」
「そうなんです。来月からの給与のことなんですけど」
「給与のことはどうでもいいんだけど、ヨシミ君、これから先どうするの」
 
と、お見合いの話を持ちかけられて玉砕。
 
2004年04月23日(金)  大きな溜息を吐く。
 
また婦長に呼ばれた。婦長は僕の顔を見るなり「とんでもない。本当に。あなたもそう思うでしょ」と何やら憤慨しているので、「何のことやらわかりませんけど、まぁとんでもないような気がします」と言葉を濁すと、「とんでもないわよね。まったく。まだ一人で大丈夫でしょ」と、もう何が何やら。要領を得ないので、「よくわかりません。でも一人じゃ不安なときもあります」と好い加減に話を合わせていると、「さっきね、総婦長と会ったのよ」と漸く話の筋が出てきて、あぁ、また総婦長か。いやだな。と露骨に眉間に皺を寄せた。
 
「でね、総婦長がね、ヨシミ君独身でしょ。そろそろ落ち着いた方がいいんじゃないかって。いい人がいるんだけどお見合いなんてどうかしら。って言うのよ」
 
げげ。お見合い。いやだな。一人がいいな。まだ落ち着きたくないな。という問題ではなく、職場の上の人間が、従業員のお見合いの席を設けるなんて、お節介にも程がある話で、面倒臭いなぁ。という顔を見て僕の思いを察して下さいという思いを込めて、不快感丸出しの表情。婦長さん、僕の表情から察したのか、
 
「でね、私言ってやったのよ。とんでもないって。お見合いなんてイヤです。って」
 
「お見合いなんてイヤです」というセリフにちょっと引っ掛かる。まぁイヤなことはイヤなんだけど、婦長さんがイヤと言ったのは、婦長さんの意思でイヤと言ったのであって、僕の意思を反映させるのならば「ヨシミ君もイヤだと思います」と言うべきである。
 
「だからもうちょっと待って下さいって言ったの。でね、ヨシミ君、私の娘なんだけど、看護婦なのよ。だから、ほら、結構かわいいのよ。ね。ヨシミ君、一人じゃ寂しいでしょ。ほら、あの、外食ばっかりでしょ。料理上手いのようちの娘。看護婦なのよ。だから、いろいろね、教えてほしいんだけど、ほら、ヨシミ君、掃除とか洗濯とか大変でしょ。うちの娘結構家事得意なのよ。だからお見合いなんてせずに、ね、総婦長の言うことは絶対じゃないんだから、気にしないで、うちの娘ね、今年で24歳になるんだけど、結構可愛いのよ。看護婦。料理得意だし、今度、木曜日、祝日、ヨシミ君休みでしょ。うちの娘も休みなの。看護婦。だから」
 
一気にまくしたてる婦長。うろたえる僕。見合いの話が出てたのも知らなかったし、婦長さんが娘を紹介しようとしていることも知らなかった。僕の意思が全く反映されてない。見合いをさせて、然るべき嫁をもらった後、この病院にいつまでも置いておこうという総婦長の魂胆で、結婚適齢期を迎えようとしている娘が、安心できる家庭を持たせる為に、職場では比較的真面目な僕に白刃の矢を立てたのは明確で、僕の意思とは関係なく周囲が僕を巻き込んで進行していくのは、僕の人生の特徴であって、僕はいつも、あぁ、あぁぁ、あぁぁぁと否定だか肯定だか嬉しいのか悲しいのかわからない言葉を洩らしながら家に帰って隣の部屋にまで聞こえそうな大きな溜息を吐く。
 
2004年04月22日(木)  満員電車と水色の土産。
 
東京に着くや否や、山手線の線路に人が入りましたので、安全の確認ができしだい出発します。出発しますので。出発しますから。と、一向に出発しない。どうしよう。一刻も早く帰宅して、鹿児島からの帰り道に買った「戦国無双」で遊びたい。しかしこの山手線では無理だ。安全の確認を取ってるのかどうかさえ疑わしい。休憩シテンジャネーノ。休憩したいたが為にサクラを線路に入レタンジャネーノ。と、ゲームしたいが為に思考まで利己的になってしまう。
 
というわけで、同じホームに入りこんできた水色のラインが入った電車。これに乗ろう。これに乗ってどっか行こう。馴染みの駅の名前聞いたらそこで降りよう。と好い加減な観測を元に水色の電車に乗りこんだが、皆好い加減な観測に則って行動しているらしく、山手線に見切りをつけた乗客が次々に水色の電車に乗り込んでくる。
 
ちょっと、やめて。押さないで。ア、アバラオレチャウ。痛っ。おいこらそこのサラリーな男。痛いっつの。あぁやめて。僕スーツケース持ってるの。でっかいやつ。赤いやつ。座らせて。座らせてーな。と、車内は一気に満員。指1ミリも動かせない。こういうときに限って足の裏とか痒くなる。隔靴掻痒。
 
あー。とりあえず動いたはいいけど、この電車どこ行くんだろー。あまり聞きなれない駅名を耳にしながら胸部や腹部の人為的圧迫に耐えていると、有楽町と聞いたことのある駅名に着いて、もう少し進んだろと思い、じっとしてると東京駅に着いた。東京駅。ここに着いたらどこにでも行けるよ。と、丸の内線に乗って池袋まで無事に向かうことができたはいいが。
 
あの水色の電車に乗る前は右手にスーツケースを持って、左手にいくつかのお土産が入ったビニール袋を持っていた。んがしかし。左手を見てみると、何も持ってない。きゃァ。何も持ってない。鹿児島に帰ってましたという形がない。職場に鹿児島帰ってきましたー。と口頭で伝えても土産がなければ嘘吐イテンジャネーノ。女と遊ンデタンジャネーノ。と疑われるに違いない。あの糞満員電車で、ついビニール袋を手放してしまったんだ。あぁ土産を失ってしまったまぁいいや。
 
2004年04月21日(水)  日常の延長。
 
職場の後輩と仕事帰りに寄る居酒屋で、酒を飲みながら相変わらず意味のない会話に花を咲かせていた。以前と違うことは、僕はもうこの職場を辞めて、東京で働いているということ。
 
「で、先輩いつ帰ってくるんですか」
「ん? どこに?」
「鹿児島に」
「えっと、明日までいるよ」
「そういうことじゃなく」
「わかってるよ。あ、豚バラもう1本」
「先輩、焼き鳥って豚バラ以外にもいっぱいあるって知ってました?」
「お前ムカつくからもう帰れよ」
 
と、僕たちの会話は全く変わりがない。僕はまだこの職場で働いていて、明日も明後日もあの医者や看護婦さんと仕事をしているような気がする。皆、僕が久々に帰ってきたという歓迎ムードはなく、日常の延長に僕がいるような感じで僕を迎えてくれているということが嬉しかった。
 
「あれっ? ヨシミくん?」
「おっ。かすみちゃん。久し振り」
 
後ろのテーブルに高校の同級生とその友人らしき女性が座っていた。「お前らと話すことはもうない」と職場の後輩たちを冷たくあしらい、後ろのテーブルに移動する。
 
「久し振りねー。ねぇヨシミくん死んだってほんと?」
「この前誰かもそんなこと言ってた」
「岐阜の佐川急便で働いてるってほんと?」
「好い加減な噂を立てないでくれよ。あ、お友達ですか。はじめまして」
 
「はじめましてー。じゃないんだけど」
「そうよ。はじめましてじゃないわよ。リサは高校の同級生よ」
「でも科が違うからわかんないかもなー」
「リサはね」
「ちょっと待ってよ!」
「リサはね、高校の頃ヨシミくんが好きだった時期があるのよ」
「あ、あ、あ、今は違うよ! 今は違うからね!」
 
「そんな慌てなくてもいいよ。奇遇だけど僕も高校の頃キミが好きだったんだ」
「嘘吐かないでよ! さっき私にはじめましてって言ったじゃん」
「いや、僕はかすみちゃんにはじめましてって言ったんだよ」
「あなた私と3年間同じ教室だったじゃない」
「先輩、先輩! ちょっと戻ってきてください! 早く! 早く!」
「あ、後輩が呼んでる。それじゃああっちに帰ります。電話番号とか教えなくてもいいですか」
「ヨシミくんから電話するってことまずないし、こっちから電話しても繋がらないじゃない!」
「いや、リサちゃんには電話します」
「だから私はもうヨシミくんのこと好きじゃないの」
「あっちのテーブルに戻ります」
 
「先輩はいつでもどこでもオンナオンナだ。オンナと豚バラしか食わない」
「うまいこと言うねぇ。で、何?」
「で、何? ってほら、豚バラきたから呼んだだけっす」
「この豚バラのお陰でリサちゃんと離れ離れになってしまった」
 
日常の延長は、やっぱり故郷にあるものだと思った。
 
2004年04月20日(火)  墓参り。
 
天気もいいし平日の昼間に遊んでる友人もいないので、母と墓参りに行った。僕は祖父に可愛がられて育ったので、祖父が亡くなった時のショックは、まだ幼稚園生といえども図り知れず、未だ棺桶から覗いた祖父の顔を覚えている。
 
それから、母の制止を押し切って一人で墓参りに行っていた。子供が墓参りに行くと長生きしないという迷信があるらしく、母はそれをいちばん心配していた。4歳の僕は、お小遣い100円を握り締めて、墓地に行く途中にある小さな店で小さな花を買って、時間がある度に墓参りに行っていた。
 
ある日、4歳の僕は泣きながら家に帰ってきたという。母がどうしたのと訊ねる。
 
「お小遣い使っちゃったから、お花買えなかった。だからお墓の掃除だけしてきたんだけど、それでいい?」
 
母と一緒に墓参りに行くたびに教えられるエピソード。僕はそのくらお墓参りが好きなのではなく、祖父が好きだった。
 
そんな祖父に、久々に会いに行った。かつて小さな花を買った小さな店は、少し大きくなって、深夜2時まで営業という中途半端なコンビニのようになってしまっていたが、僕の背丈ほどもあった花も、今では軽く片手で持てるようになり、あれだけ大きく感じられた墓石も、小さく感じられたが、ここに、祖父が、眠っている。僕が4歳の頃から、ずっとここで見てくれている。
 
長い間、手を合わせていた。雲一つない青空の下、僕と母は静かに手を合わせ、それぞれの祖父との思い出に耽っていた。
 
2004年04月19日(月)  妹が母になる瞬間。
 
妹夫婦の家族は、旦那、妹、2ヶ月の子供。そして猫1匹、仔猫3匹という実に賑やかな家庭で、昨夜はその家庭に、母、僕、下の妹、その彼氏が集まり総勢6名と4匹。6人分じゃ足りないでしょ。じゃあ7人。いや、それでも少ないっすよ。じゃあ8人か。いやここは思い切って9人分頼みましょ。と武田信玄のような体格の下の妹の彼氏。じゃあそうしようと従順且つ温厚な上の妹の旦那。やっぱピザがいいね。と今更ながら出前変更を申し立てる僕。
 
寿司を食べながら喫煙室。赤ん坊に煙草はよくないということで、妹の家の4畳半の部屋が喫煙室になっており、男3人はそこで肩を寄せ合い煙草を戯む。向こうの部屋では赤ん坊の泣く声。乳を与える妹。鹿児島に帰ってきて何にびっくりしたかというと、妹が子供に乳を与えてることで、妹が、子供に、乳を、与えている。母親に、なっている。妹なのに母になっている。兄なのに東京で遊んで暮らしている。
 
ちょっと散歩に行ってきますと立ち上がり、未だ泣きやまぬ赤ん坊を抱き、二人で夜の散歩。子守唄でも歌おうと思ったけど、これまでの人生で子守唄が必要な状況なんてなかったので、なかなか思い出せない。よって現在の僕の中で一番子守唄に近い歌、平原綾香の「jupiter」を歌いながら、お、子守唄っぽいねと自画自賛。やがて心地よい寝息を立て始めた赤ん坊を優しく抱きながら部屋へ戻り、ベッドに寝かせた途端泣き出したので妹に「jupiter歌うと泣きやむよ」と助言したが「馬鹿じゃないの」と一蹴。悲しい気分になったので男2人がゴロゴロしている喫煙室へ。
 
しかし喫煙室は男ゴロゴロの他に猫ゴロゴロ。どっちが猫かわからなくなっている。どっちが猫なのかわかんないね。と猫に話し掛けると、下の妹の彼氏が立ち上がり、お疲れ様っすと体育会系の勢いでビールと寿司の残りを持ってきてくれたので、へへ、じゃあ飲みなおそうかと、男3人で乾杯。出産と帰郷に乾杯。気持ち良く1口目を飲んでいる間に寿司を猫に食われる。こら、馬鹿、馬鹿猫。かわいい。と動物好き、子供好き、野球好き、格闘技好きの男3人はその後、共通の話題に花を咲かせ、夜も更けてきた頃、再び赤ん坊が泣き出したので、ちょいと寝室を覗いてみると、妹がこちらに背を向けて乳を与えていた。
 
寝室のスタンドライトに優しく照らされた妹の背中は、もう僕の知っている生真面目で机に向かい勉強ばかりしている妹の背中ではなかった。なんだかとても心強い背中だった。これが母親の背中なんだと思った。「頑張れよ」と声を掛けようかと思ったけど、この場に適した言葉なのかわかりかねたので、「おやすみ」と言ってそっと寝室のドアを閉めた。3匹の仔猫が僕の足元に身体を擦り寄せてきた。
 
2004年04月18日(日)  帰郷しました。
 
午前9時に夜勤が終わり、そのまま羽田空港へ直行。風呂に入っていないので、シャワー浴びてぇ。サッパリしてぇなぁ。と思い空港内を浮浪者の如くうろうろしていたら、空港のラウンジにシャワーサービスというものがあって、あ、ここに入ろ。と、金二千円を支払い、シャワー室に入るとまるでホテルのよう。わぁ。ホテルのよう。ラブホテルのようね。と、案内してくれた女店員に冗談を言ったところ、突然顔面紅潮。モジモジしだしたのでバカジャネーノと一瞥を投げ、僕は仕事で疲れてるんだ。早く持ち場に戻って欲しいという態度を取る夜勤明けは非常に情緒不安定なのであります僕は。
 
シャワーを浴びた後、あ、いけね。お土産。土産買わなくちゃ。東京バナナ東京バナナと、東京の土産といえば東京バナナぐらいしか思いつかない僕は東京バナナ12個入りを3個購入。親戚のオバちゃんと、妹の旦那の両親と、そのまた妹の彼氏にも買っていこ。それから実家の近所の人に。んで、友人にも買っていこうかしら、あと前の病院の看護婦さんにもね3個じゃ足りなーい。というわけで、どうしようと迷った挙句、実家の近所の人、友人、前の病院の看護婦さんには会わないことにしようということに落ち着き、飛行機に乗り込み、「次は鹿児島空港、鹿児島空港です」というアナウンスが聞こえるや否や「次降ります」のボタンを押し、約半年振りの鹿児島は雨。
 
さてレンタカーでも借りようかしら。と思い、レンタカー会社へ向かう途中に次々に電話が鳴り、妹とその旦那とその子供、下の妹とその彼氏、前の職場の後輩3人、高校の同級生2人が迎えに来ているという。レンタカー借りる言うたのに。と言っても、皆一様にもったいないと言います。数えてみると10人迎えに来ている。レンタカー借りる言うたのに。ともう一度言っても、皆一様にもう一度もったいないと言います。
 
結局、妹の子供が見たいので、上の妹の車に乗ると即決。後の方は後日会いましょうと言ったけれども、滞在日数はわずか3日。会えるわけがない。だけど僕は十六方美人であるからいつも八面楚歌。そのまま妹夫婦の自宅へ向かい、妹の子供を抱きながら、もう離すもんかと思った。
 
2004年04月17日(土)  赤いスーツケース。
 
明日鹿児島に経つというのに、今夜は夜勤でこうやってオムツ替えながら腰を痛めつつ、深夜2時に眠れない患者さんと写メを撮って遊んだりして、仕事って楽しいなぁ。看護っていいよなぁ。とニヤニヤしていても、明日の午前11時には羽田空港に到着しなければならず、夜勤は朝の9時まで。1度家に帰ったら間に合わない。じゃあどうすればいいかと考えたとき、そうだ仕事終わったらそのまま空港行けばいいじゃん。風呂入らずに。ヒゲ剃らずに。
 
というわけでスーツケースを引きながら仕事に向かったところ、職場にスーツケースで行くということがひどく不自然で、しかも僕のスーツケースは真っ赤で光沢を帯びており、太陽が当たるとひどく輝く。それがまた恥ずかしさを倍増させる。しかしなぜ真っ赤なスーツケースかというと、単に赤が格好良いと思う思春期的発想で、池袋の雑貨屋で1度それを目にしたんだけど、その時は両手が荷物で埋まっていて、スーツケースなんて買うお金もなかった。
 
スーツケースなんてそんな滅多に売れるもんじゃないよなぁ。と甘い考えを元に、甘い見通しの末、1週間後その店に行ってみると当然赤いスーツケースは売り切れている。売り切れているのなら、他のスーツケースを買えばいいものの、売り切れているからこそ、急にあの赤いスーツケースが惜しくてたまらなくなる。自らの意思でいなくなった彼女こそ戻ってきてほしくなる。
 
「あの、1週間くらい前ここに赤いスーツケースがあったんですけど」
「あぁ、赤いスーツケース」
「あれ再入荷とかできないんですか」
「あぁ、再入荷」
「できなかったらメーカーだけでも教えて欲しいんですけど」
「あぁ、メーカー」
 
と、この店員、麻薬でもたしなんでいるのか、うつろな瞳で僕の言うことをオウム返しに応えるばかり。しょうがないので、レジの前に並んであったライターを購入しようと思い、その店員に差し出すと「ご自分用ですか」と言うので、今日はうっかりライターを家に置いたまま出掛けてきたので、「はい」と答えると、「ラッピングはなさいますか」と平然と申すので吃驚。自分自信にプレゼントですか。それもいいね。と、なんか妙な鼻唄を鳴らしている店員に「はい」と答えて、たった200円のライターを丁寧にラッピングしてもらって、馬鹿じゃないかしらと頭を傾げながら店を出て、あ、そうだ。赤いスーツケース。と思い、それからいろいろあって、こうやって手元に赤いスーツが手に入って、鹿児島へ経つ前日に夜勤なんてしているのであります。
 
2004年04月16日(金)  削除ガイドライン。
 
僕の携帯電話のアドレス帳は500人電話番号を記入することができて、そのうちの300を使用していたのだが、300人も知り合いはいない。1年生になったとき友達100人できなかった僕が大人になって友達300人作れるわけがない。というわけでこの300人は一体何者? というわけで一念発起。削除したろと思い、削除ガイドラインを作成いたしました。
 
削除の対象となる者は、1.名前を思い出せない者。2.顔を思い出せない者。3.思い出したくもない者。4.縁りを戻す可能性が低い昔の彼女。5.独身だったが結婚した女性。6.ホステス。7.三年以上、交友のない者。8.今頃電話したってもう遅いわよ。9.結婚式に呼ぶか呼ばないか迷うくらいの友人。10.あなたはもう過去の人として完結されてるの。11.茶碗にご飯粒を残して平然としていられる者。12.空き缶の中に煙草の吸い殻を入れる者。
 
以上の11点のうち、1つでも該当する者を削除していったのだが、ほとんどの人物がどれか一つに該当するため、約183人を削除し、残り137人になってしまった。僕の人生から切り離されてしまった。
 
しかしこの137人。現在も積極的な交友があるのかといえばそうでもなく、そのうちの大半は半年、もしくは一年に一度連絡があるかないかの仲で、こうなると皆が削除予備軍になるわけで、皆削除してしまったら僕が寂しい。137人との関係はどうしても繋ぎ止めておきたい。というわけで看護学校の同級生に2年振りくらいに電話。看護学校時代のクラスメイトは、ほとんど交友がなく、というのも看護学校というくらいだからほとんどが女性で、女性が絡むと、どうも恋だの愛だの捨てたの拾ったのという話題が出てきて気が滅入るので、自粛してきたわけだが、今回、久々に自分から発信ボタンを押してみた。
 
「あ、久し振り」
「わぁ。ヨシミ君久し振り。死んだってホント?」
「いや生きてるよ。滅茶苦茶な質問だなぁ」
「噂になってるよ。ヨシミ君死んだって」
「みんなの記憶の中で死んだってことだよ」
「相変わらずの言いまわしね」
 
「で、最近みんなどう?」
「とても漠然的な質問ね」
「みんな具体的にどう?」
「質問の意味自体は変わってないわよ」
「でどうなの?」
「でって何よ。みんな変わったわよ。結婚しちゃったり結婚しちゃったり」
「やっぱり」
 
「で、ヨシミ君は何してるの? アンマン経由で誘拐でもされてるの?」
「物騒なことを言うもんじゃないよ」
「私あの18歳のコ、タイプじゃないんだよなー」
「あの18歳のコだってキミと同じこと言うよ」
「まぁ失礼ね。私はね、もう結婚しちゃったのよ」
「わぁ。本当ですか。で、お相手はどこの馬の骨ですか」
「殺すわよ。24時間以内に」
「物騒なことを言うもんじゃないよ」
「3日以内に埼玉から撤退しなさい」
 
「なんで埼玉に住んでるって知ってるの?」
「だから噂になってるのよ。埼玉で死んだって」
「事実と嘘がいっしょくた」
「あ、久し振りに聞いた。いっしょくたって」
「懐かしいねぇ」
「懐かしいわねぇ」
 
という会話をして、2年振りの会話は終わった。皆、それぞれの2年があって、それぞれの生活があって、それぞれ出会った人が傍にいる。当たり前だけどそんな事を考えた金曜日。
 
2004年04月15日(木)  還れない。
 
今の季節は、前の職場では昼休みにグランドに出てネットを張ってバレーボールを楽しんでいて、昼休みが終わったら患者さんを呼んで3時くらいまで患者さんと一緒にバレーボールをして、それからようやく午後の検温やカルテの記入をして、夕食の準備をするという、実にほのぼのとした職場だったのだが、今の僕は、昼休みと仕事の境目さえもわからず、何が何やら。毎日何が何やら。
 
5月から今の病棟を離れることになった。詳しいことは今度書くけれど、管理職に一歩近づいた僕は、来月から夜勤がなくなる。上の人たちは「期待してます」ばっかりで、僕はこれからまたその期待に沿えるように自分の首を絞め続けていくことになる。
 
前の職場を辞めた理由は、病棟に還りたいという理由もあったわけだし、東京の巨大な病院で再び病棟に戻った僕は、やっぱり僕が働く場所はここなんだと実感していた。患者さんと一緒に散歩したり、怒ったり怒られたり、笑ったり悲しんだり。だから毎日があっという間に過ぎて、あっという間に5ヶ月が過ぎた。
 
まだ5ヶ月。5ヶ月しか働いていないのに。僕はまだこの病院の全体さえ把握してないのに、保健所とか精神保健施設などの周囲の地域資源のことなんて、全くわからないのに。まだ、僕には荷が重過ぎるような気がします。
 
「心配なさらずに。このPSW(精神保健福祉士)があなたをサポートしますので」
 
総婦長の後ろに、まだ一度も話したことのない僕と同じ歳くらいのPSWが目礼をする。
 
5月から、また新しい生活が始まる。僕の生活は安定という言葉を知らない。
 
2004年04月14日(水)  歴史は繰り返す。
 
なにもかも二つ返事でOKしてしまうからいけないんだ。僕は。
考えてから返事するんじゃなくて、返事してから考えてる。これじゃ駄目だよ。
 
いや、返事してからも考えてない。これは、無理だ。とわかってから、無理だとわかる。とにかく仕事が多い。2日や3日じゃ終わらない。
 
昼休み、みんなが昼寝をしている最中も、僕は終わりの見えない仕事を延々としている。
「頑張ってるねぇ」
「頑張ってます」
笑顔だけは一人前だ。
 
むむむ。
 
仕事は、家にだけは持ち帰りたくないけど、持ち帰らないと明日の仕事が進まなくなる。むむむ。書類に追われることなく、患者さんだけを看護していたい。
 
看護主任ってこんなものなのかな。生半可、この歳で主任なんかに昇進してしまうと、やっぱり、駄目だ。僕は、人を使うより、使われる方が向いているような気がする。
 
あーあーあー 面倒くさい。
 
明日も仕事頑張ろっと。
 
 
 
これは2年前の日記。前の職場で看護主任に昇格し、徐々に病棟から離れていくときの心情を書いた日記である。あれから2年経って職場も変わった。今の職場に就いて、まだ5ヶ月。看護師の経験はそれなりにあっても、新しい職場では新米である。新米のはずである。
 
「今度、お話がありますので」
 
総婦長が僕と顔を合わす度に意味深な言葉を投げ掛ける。僕が働いている病院はとにかく大きいので、総婦長なんていつもどこで何をしているのかわからない。1週間も顔を見ないことがある。
 
病棟婦長に総婦長から言われたことを告げると、「あぁ、ヨシミ君、取られちゃうよ。取られちゃうよ」と、また意味深なことを言うので気分が陰。それからというもの、総婦長の顔を見るとそっと身を隠したり、あからさまに来た道を引き返していたりしていたのだが、今日、とうとう呼び出しをくらってしまった。
 
初めて行く総婦長室。午後から来て下さいと言ったけれど、午後から少し仕事が忙しくて結局4時過ぎに総婦長室へ赴き、控え目にノックした。ノックした。5回くらいノックした。
 
「総婦長さん、もう帰りましたよ」
 
気分が陰。むむむ。書類に追われることなく、患者さんだけを看護していたい。
 
2004年04月13日(火)  ヒマワリ。
 
夜勤の為、一両当たり二・三人しか乗っていない電車に座っていたら、とある駅で年の頃五・六歳の少女が乗ってきて、僕の真横にぴょこたんと座った。
 
何も僕の真横に座らなくとも、この閑散とした電車内に自分のスペースを確保できる座席はいくらでもあるので、そちらに座ればいいものの、その少女は僕の真横にちょこんとたたずみ、控え目だけど意味を込めた視線を僕に投げ掛ける。その時僕は小説を読んでいて、僕は映画を見ている時や文章を読んでいる時に横槍を入れられると非常に腹が立つのだが、現在僕が読んでいたところは読んでも読まなくてもいいような小説の「あとがき」の部分であって、それじゃあなぜ読んでいるかというと、強迫観念もしくは完璧主義の成せる業であり、最後まで読まなければ気が済まないという僕の読書における性質であるのだが、映画のスタッフスクロールは最近見なくなった。昔は見ていた。昔の僕は今よりも病的だった。
 
そして少女。フリルのついた赤いスカートを履き、床に着かない足を前方に投げ出してぶらぶらしている。傍らに少女の躯ほどの大きな黄色いバッグがあり、丸められた画用紙が突き出ている。
 
少女はあまりにも僕の顔を見上げるので、僕は小説を閉じ、ん? と含み笑顔を込めながら少女を見た。少女は待ってましたといわんばかりの表情を浮かべ、それから恥ずかしそうにうつむき足をバタバタさせた。うつむいた少女の視線の先には、丸められた画用紙があった。僕は再び少女に笑いかけ、ん? と今度は画用紙の方を見た。
 
乗っていた準急電車が駅に停まる。僕はこの駅で普通電車に乗り換えなければいけない。隣にぴたりと座っている少女は乗り換える気配を見せない。僕が笑いかけ、少女が笑い返す無言のコミュニケーションをしているうちに、準急電車の扉が閉まる。まだ仕事には時間がある。僕は諦めの笑顔を少女に見えないように浮かべ、職場がない駅に向かう電車に乗りながら大きく伸びをした。
 
その時少女はもう画用紙に左手を掛けていた。少女は、この画用紙を、僕に見せようとしている。少女の運動靴は履き潰されていて、靴の横の部分の糸がほころんでいた。左足の靴紐はほどけたままだった。ほどけた靴紐が少女の足の動きに合わせて忙しく動いていた。先程、停まった駅で乗ってきた老婦人が時々僕たちを見ていた。少女は、妹にしては離れていたし、子供にしては年齢が近すぎた。妹でも子供でもない女性と、身を寄せ合い電車に座る。僕たちは電車内の、閑散とした午後の車両の中の、限られた時間の、言葉がなくても理解できる、恋人だった。
 
少女が、そっと画用紙を広げる。画用紙いっぱいの大きなヒマワリ。電車の窓から暖かい日差しが入ってくる。前歯が欠けた少女は、そのヒマワリに負けないくらい大きな笑顔を見せた。電車が次の駅に停まる。僕は少女のように座ったまま足を上下に動かし、微笑んだ。
 
夏が近付いていた。少女は僕の手をそっと触れてから、走って電車を出て行き、ドアが閉まってから大きく手を振った。
 
2004年04月12日(月)  コンコンコン。
 
「ポッポポポポポー3時だよー♪」
「……午前かよ!」
 
と、夜勤の最中、彼女に嫌がらせのメールを送っているヨシミです。コンバンハ。夜勤の午前3時というものは、眠気の絶頂にありまして、頭ん中がグルングルン回って、眠剤を飲んでいる患者さんも呂律が回んないけど、僕も回らない。レロレロになりながら懐中電灯片手に病室を巡視するのでありまして、疑心暗鬼を生ずという言葉の意味は、疑い恐れる心を持ってびくついていると、暗がりの中で、なんでもないものでも鬼のように見えるということですが、頭ボンヤリで巡視などするものだから、あ、今白いものが廊下を横切った。あー。今天井から視線を感じた。なんかトイレで足音がするなんてことは日常茶飯事で、疑心暗鬼などではなく、実際に幽霊とかいるのかもしれない。病院だからね。
 
僕は霊の存在を、信じる信じないではなくて、どっちでもいいと思っているので、いるんだったらそれでいいし、いないに越したことないし。宇宙人だって探せばいるんだろうけど、探して見つからなかったら別にそれでもいい。仕事終わって松屋の豚めし食えたらそれで万事オッケーなのです。
 
ポッポポポポポー3時だよー。
 
時々こうやって夜勤の最中、日記などを書いているのですが、現に今午前3時。今から巡視に行くわけですが、うちの病院は精神科でありまして、精神科には保護室という牢屋のような部屋がありまして、その部屋には現在誰も入っていないはずなのに、さっきから金属音がする。コンコンコンコン鳴っている。看護婦さんも聞こえてるようで、ちょっと行ってきて下さいよと言ったら、あなたが行ってくればいいじゃない私は何も聞こえない。なんて、いきなり聞こえない振りなんてしちゃって、だったら僕も聞こえないです。ということに収まって、あとは聞かぬ振り。誰もいない部屋を巡視するなんて馬鹿らしいしね。
 
というわけで金属音が響く午前3時。僕はこうやって日記を書いて、彼女に嫌がらせのメールを送っているのです。コンコン。
 
2004年04月11日(日)  春の完成。
 
来週、鹿児島に帰郷するにあたり、土産の一つでも持っていかなければ、都会で好き勝手やってる長男への家族の批判は免れぬのであって、こうやって婦人服専門のブティックに小一時間居座っている。男一人でこのような店に入っていること事態、恥ずかしいことであるのに、生来の優柔不断な性格に依り、母親への贈り物ひとつにも阿呆のような時間をかけてしまう。
 
たまにはワンピースなんていいんじゃない。五十過ぎてるんだけどさ、これなんていいんじゃない。どうですか店員さん。厚化粧で今から参観日にでも行くような格好の店員も母親と同じくらいの年齢が、年相応の春色のワンピースを羽織っており、これいいじゃないと思って、時間をかけて選別したワンピースを広げてみたが、広げてみただけではイマイチよくわからない。しかし僕はこの香水臭いブティックに小一時間居座っているのであって、母と同年齢のような店員との関係もある程度打ち解けている。これ試着したいんですけど。「えっ、どなたが?」あの、貴女が。
 
店員の母。少しは嫌がるかと思われたが、逆に嬉しそうに、私でいいの。私でいいのかしら。なんて言いながら後半、僕の話はまったく耳に入らず、飛ぶように試着室に入り、どう? どうですか? 十歳くらい若返った気分です。なんて終始笑顔。僕がこの店員に買ってあげる服を選んでるようで。あ、まわらなくていいです。そんな気は利かせなくていいです。
 
私もこれ買おうかしら。と、店員、試着室の鏡を見ながらなかなか服を脱ごうとしない。困った僕は似合いますね。とても似合いますね。春ですね。十歳くらい若く見えます。だから20歳くらいに見えます。なんてヤケクソのお世辞を述べながら、早く脱いでくれないかなぁと足をもじもじさせながら中年女性の後ろ姿を眺めていたら、再び試着室から飛びだして、花柄模様のスカーフを首に巻き始めて、これで今年の春は完成です。なんてよく意味わからないことを言い、ようやく試着室のカーテンを締めて、じゃあそれ下さいっつって、これまた恥ずかしいラッピングまでしてもらって、
 
ちょっとデートしてるみたいでしたね。なんて何十歳も年上の女性に言われて、頬を少し赤くしたら「お母さん、いつまでも大事にして下さいね」と、あの花柄のスカーフをプレゼントしてくれた。
 
2004年04月10日(土)  ペットを飼おうと思いました。
 
最近毎日があまりにも寂しいので、ペットでも飼おうかと考えている。現在、新しい部屋を探しているのだが、ペットOKの部屋も多く、独り暮らしでもペットは飼える。いや、独り暮らしだからこそペットを飼わなければいけない。
 
犬か猫か。どちらを飼うべきか。仕事帰りに寄ったペットショップのお姉さんに聞いてみた。「私は断然ネコを飼いますね」と、犬か猫どちらを飼えばいいか訊ねる僕も僕だが、断然ネコがいいと答える店員も店員で、それを聞いてた檻の中の仔犬たちはとても残念に思っただろう。
 
ご予算は? と聞かれて、いや、こういうものは予算じゃなくて可愛らしさで選ぶものじゃないのかなぁ。と言うや否や(as soon as)、店員は一匹のネコを紹介する。「ロシアンブルーです」か、かわいい。エメラルドのような目をしている。あ、このネコいいかも。いくらですか。「14万円です」アパートの敷金と同じ値段かよ。でも敷金なしのアパートも多いから、そういう部屋探せばロシアンブルーは僕のものになるんだよなぁ。しかし高いなぁ。もう少し安いやつを。
 
「5千円です」いきなり安いなぁ。しかしこれも可愛い。耳が長くてウサギみたい。これ何ていうんですか。「チンチラです」ウサギかよ。猫くださいっつってんのにウサギかよ。「夜行性なので、飼い主が仕事をしている昼は寝ていて、仕事から帰ってきた夜に元気になります」あぁそうですか。でもウサギでしょ。いや、ウサギはダメってわけじゃないけど、僕はネコを探してるんであって、安いことは安いけど。
 
「それじゃあこれなんてどうですか」臭っ。臭いなぁ。僕の部屋のような臭いがするなぁ。これは何って名前ですか。「フェレットです」またネコじゃない。この店員、ネコを紹介する気が全くない。「でも人間になつきやすいですよ」なつくなつかないの問題じゃないのに。
 
2004年04月09日(金)  女と利息。
 
最近、大塚愛に夢中、古い言葉で申すとぞっこんなのだが、小野真弓も捨て難い。小野真弓が電話に出たら初めてのアコムだって怖くない。小野真弓、最近「ごきげんよう」に出ていたのだが、笑顔が、あのとろけるような笑顔がなんともいえない。この人、どっかで見たことあるような気がする。どっかで会った事あるような気がする。近くにいるような気がする。
 
というのは気のせいで、アイドルは「どこにでもいそうな身近に感じる人物」が大きな条件だと何かの雑誌で読んだことがあるが、まさしくそれで、小野真弓ってこう親近感が抱きやすいというか、現に僕と付き合ってるというか、結婚を約束しているというか、そんなこと書くとまた彼女が怒っちゃうのでこれまで。あとは僕の胸の中で抱き続けるのです妄想を。
 
しかし本当に小野真弓と会ったことがあるような気がするんだよなぁ。小野真弓でなくとも、小野真弓にそっくりの女性と会ったことあるような気がする。去年、営業の仕事をしていた時に同じ部署にそんなコがいたような気がする。確か池袋の居酒屋で飲んでそれから云々。あれは小野真弓だったのかもしれない云々。ジントニック3杯で酔っ払っちゃって帰りのエレベーターの中で云々。
 
そういえばアイフルのCMに出てるコも可愛いんだよなぁ。なんでサラ金関係に出てる女の子ってあんなに可愛いんだろ。こういうコと付き合ったら利息が多くて身を滅ぼしますよってことなのかな。
 
2004年04月08日(木)  貯金について。
 
皆さん貯金してますか。僕はしてます。結構堅実なんです。しかし独身男の貯金というものは、結局結婚式でその大半を使い果たすようで、一体誰のための貯金なんだと考えてしまうと少し馬鹿らしくなりますが、今日は貯金について。
 
貯金についてなんて書いてしまったけど、いつものように何も考えずに書いているので、書きながら何かいいこと思いつかないかしらと思っているのだが、貯金。貯金のコツ。この日記を読んでいる人は必ずインターネットを利用しているわけですが、このインターネットは本当に便利なもので、インターネットバンクとか利用できちゃう。IDとパスワードを入力して、引き出したい金額を入力して、PDFファイルに出力された1万円札をプリンタで印刷して、点線に沿って切り取ったら我が家にいながらお金が引き出せちゃう。嘘のように便利です。
 
インターネットバンクの便利なところは、この我が家にいながらお金が動かせるということであって、僕の場合、貯金をする銀行と、自由に使えるお金を入れている銀行に分けているのだが、給料は後者の銀行に振り込まれるのであって、貯金をする場合、一度給料から貯金分の金を引き出し、貯金専用の銀行に行き、預けるという面倒なことをしなければならないわけで、生来億劫な性格である僕は、面倒くさいから明日行こう、来週引き出そうと貯金を先延ばしにしていたら、いつの間にか貯金すべき金まで使ってしまうという事態に今まで何度も遭遇してきましたインターネットバンクを利用するまでは。
 
そういうわけで、このインターネットバンク誕生のお陰で、インターネットは人を駄目にするといいますが、僕も御他聞に漏れず、億劫な性格に拍車をかけ、外に出ることなく、貯金その他、各種公共料金の支払い、大塚愛のマキシシングルの購入、加護亜依の写真集の購入など、クリックひとつで済ませてしまうという、文明の進化という名のぬるい波にゆらゆらと揺れられて、僕はこのままどこに行くんだろうと、増えるようで増えない貯金通帳を眺めながら。
 
2004年04月07日(水)  ボムの所為。
  
最近の休日は珍しく午前中に起きて原稿を書いている。午前中は十時から正午まで原稿を書いて、正午からオンラインボンバーマンをする。このオンラインボンバーマン、やったことのある人ならわかると思うが、中毒性が極めて高く、もうこれなしでは生きられないくらい毎日ボンバーマン三昧なのだが、同じくボンバーマンをやっている友人に中毒性の程を聞いてみると、「いや、そんなことはない。ゲームは1日1時間で十分だよ。しかし小便が臭いね、キミは」と、別に小便臭くないのにそんなことを言われたのは、子供っぽいという意味だと思うが、やはり小便などという排泄物に例えられると腹が立つ。友人の左右にボムを置いて爆発させた。
 
僕はこのオンラインボンバーマンにどのくらい時間を費やしているんだろう。もう何ヶ月も前にボンバーマンについての日記を書いたが、あれから懲りもせずまだボムを置き続けているということになる。あのベルトがいけない。勝つと点数が上がって、点数が上がるとベルトみたいなやつが豪華になっていくのだ。27歳にもなってベルトも糞もあったものではないが、努力がこうやって形となって表れるとやはり嬉しいものがある。勿論点数が下がるとベルトもしょぼくなっていく。もう必死である。
 
というわけで僕のパソコンの中にオンラインボンバーマンがインストールされていなければ、原稿は締め切り前に余裕を持って仕上げるし、内容だってもっといいものが書ける。「蹴りたい背中」以上の小説だって書ける。「叩きたいお腹」とかね。ボンバーマンさえなければ。この世にボンバーマンなんて存在しなければ、もっと、時間だって守れる。まぁいろいろね。待ち合わせに遅れるのも、寝坊じゃなくて、このボムのせいだったりするんだよね。
 
午後3時。もう3時間もボンバーマンをしていた。原稿を書くモチベーションを高めるのに最低2時間は要する。ということは原稿を再開するのは午後5時となる。しかし午後5時といえば夕食の買い物の時間で、買い物をして、飯を食って、風呂に入って野球を見ながらビールを飲んでいたら必然的に眠くなる。というわけで僕の休日は午前中の2時間しか原稿を書いていないことになる。厭に成る。
 
2004年04月06日(火)  深夜の世間話。
 
夜勤の日に患者さんがナースステーションにやって来る理由は一言、寂しいからであって、僕だって寂しくて天井を見上げながら陰なことばかり考えている夜だってあるので、患者さんだって寂しい夜がある。看護婦さんは、早く病室に戻って寝てくださいなんて言うけれど、病室に帰っても眠れないからこうやってナースステーションに来ているのであって、その理由を聞くなりすればいいものの、病室に戻りなさいの一点張りで、そんな看護じゃぁ駄目だ。
 
というわけで、僕が夜勤の日は、ナースステーションに患者さんが1人2人とやってくる。僕は病室に帰りなさいなんて言わず、腹が減ったね。明日納豆食べないんだったら僕に分けておくれよ。牛乳あげるからさ。なんて話をしている。この一見なんでもない会話が重要であって、眠らなければいけないというプレッシャーを与えずに、眠くなったら寝ればいいというメッセージを送っているのであって、時々話しているうちにナースステーションの机に突伏して眠ってしまう患者さんもいるけれど、それはそれでそっとしておいて、熟睡しているのを確かめてから、耳元で声を掛けてベットまで誘導する。これで患者さんの良眠は保たれる。
 
恋人が横にいたらよくぐっすり眠れるという人がよくいるけれど、これもこの原理で、誰かが傍にいたらぐっすり眠れる。ぐっすり眠れるということは安心できる環境が与えられているということであって、患者さんが安心できる環境を与えることも看護の大きな目的である。
 
今夜も患者さんが様々な理由を背負ってナースステーションにやってくる。僕は患者さんに椅子を用意して、深夜の世間話に花を咲かせる。
 
2004年04月05日(月)  入学金ニマンエン。
 
最近、英会話を学ぼうと思っていて、例えば某駅前留学の場合、現在入学すると入学金免除、海外旅行券3万円分をプレゼントするらしく、入学金免除はとても魅力的だなぁ。海外旅行券3万円分はあまり意味がわからないなぁ。3万円でどこまで行けるかしら。岐阜あたりまでかしら。なんて考えている。
 
そしてこの某駅前留学の英会話教室のメリットは、レッスンがポイント制であって、場所や人数、日時や目的、何語かということまで自分の意思で選べるという3日坊主の性格の人間は絶対駄目であろう選択の自由。挫折の香りがぷんぷん漂う。
 
だいたい社会人が何かのレッスンをたしなむということは、義務教育と違って、自分の意思によって決定することばかりなので、3日坊主の性格の人間は永遠に3日坊主であって、僕も何かを根気強く続けるという、努力ならびに忍耐というものが著しく欠如していて、あぁこんなに自由だったら無理だ。もっと強制的に命令されたい。などというM気質を前面に出し、泣く泣く諦めようとしているのだが、
 
なぜ今になって英会話と申すと、僕は英語というものが「Hello Nancy」で既に終了していて、あとは見ぬ振り知らぬ振り。看護学校の頃、「看護英語」なんていう無茶苦茶な科目があって、なんだこら、看護と英語を組み合わせて何になるんだ。僕は知らない。こんな馬鹿げた科目は受けない。単位は必要だけど勉強しない。だから今度一緒にご飯行こうよ。最近、あのホテル、お昼にバイキング始めたんだってさ。一緒に行きませうよ。だからさ、テストの時、身体をちょっと、こう、右よりに寄せてくれませんか。
 
と、前に座っていた順子ちゃんという、今はもう結婚していて子供が1人いる女性にカンニングを依頼。看護英語の単位は見事に習得できたのだが、その不謹慎な行為が、27歳になって、池袋で外人に話し掛けられても狼狽するばかりで、このグローバルな世の中にHelloという挨拶さえできぬ無知な日本人に成り果て、しかし、耳を澄ますとその女外人は「ニマンエン、ニマンエン」と呟いているので、言われるがままニマンエン支払い、手を引かれるがままホテルに行って、国境を越えた性交に及んだ。
 
2004年04月04日(日)  二足の草鞋。
 
最近、「日記の更新が遅い」「やる気が感じられない」「毎日更新しろ」「豚めし以外も食べろ」「春先に冬物の服を買うな」「空き缶の中に吸い殻を入れるな」「可燃ゴミに不燃ゴミを紛れ込ませるな」などのメールをいただきますが、日記の更新に関しましては本当に申し訳ございません。
 
最近、日記以外にやることが増えまして、例えば新居の選別、結納の日程、新婚旅行先、挙式の場所、披露宴の人数、などなどうそ。新居の選別は本当でありまして、池袋近辺を探しております。あと原稿。来たるべく【恋愛歪言】出版に向けて、寝る間も惜しんで、起きる間も惜しんで寝坊ばかりします。
 
いわゆる二足のわらじ。昼間は病院で働いて、夜は原稿書いて、私の居場所はどこなのよ。と彼女はたいそうご立腹のご様子ですが、そこに来て12日締め切りの原稿の依頼。もはや僕に休日など皆無。洗濯する間も皆無。たたまずにまた着る。顔洗った後に拭くタオルも以前は毎日替えてたのに、最近は3日に1回のペースになりました。
 
以上のような理由で日記の更新が遅れてますが、勘弁してください。こう、モチベーションが減退するようなメールを送らんといて下さい。「今度一夜を共にしましょ♪」なんて性欲ばかり増幅するようなメールを送らんといて下さい。「今朝7時25分の電車に乗りましたね」というメールを送らんといて下さい。本気で怖いです。
 
2004年04月03日(土)  吊り革七人人生模様。(後編)
 
それではおさらいしてみましょう。

座席 ● ● ● 地 女 平 ●
 
吊革 ● ● ● オ 僕 ● ●

 
地:地井武男(熟睡) 女:女子十二楽坊 平:平野レミ オ:オバサン 僕:ヨシミ ●:他人
 
座席の配列はこのようになっていた。僕が座席に座る為には目の前の女子十二楽坊が然るべき駅で降りて座席を空けなければいけない。前の座席が空いたらその前に立っていた人物が座る権利を獲得できるというのは、電車内の暗黙のルールのようなもので、例えば僕の左隣に立っているオバサンは、オバサンの目の前に座っている地井武男が熟睡している為、座席に座ることが絶望的だということになる。
 
そして女子十二楽坊が動いた。よし。座れる。早く立って。早く立ってどっか行って。と、この座席を立つタイミング。これには二種類あって、駅に着く少し前から座席を立ち、電車の扉が開くと同時に移動を速やかに開始できるタイプと、電車が駅に到着するギリギリまで座席に座り続けるタイプ。女子十二楽坊は前者であった。速やかに立ち上がり、扉の方へ向かっていく。そして座席は以下の状態になった。
 
座席 ● ● ● 地 ○ 平 ●
 
吊革 ● ● ● オ 僕 ● ●

 
必然的に僕は○の場所に座れることになる。だって車内の暗黙のルールだからね。東京の人間は冷たいなりにその辺のルールを熟知してるからね。平日午後6時の電車は皆仕事帰りで疲れていて、誰だって座りたい気持ちでいっぱいだもんね。
 
と、平野レミ。隣の座席が空くや否や(as soon as)目をカッと開き、僕の左に立っていたオバサンの手を引くではないか! 「ここ、空いたよ」と、そして僕の左隣のオバサン、平野レミとは面識がないはずなのに、中年女性の妙な結束感というものが瞬時にして発生し、「あらありがとう」なんてのうのうと僕が座るべき座席に腰を降ろすではないか。驚愕。愕然。
 
だいたい電車に乗った時というのは、座席が確保されなかった場合、それぞれが勘と想像を働かせ、早目に降りそうな乗客の目の前の吊り革を持つのであって、僕の場合、その勘が当たったのであり、いわばラッキーな状況になったのだが、なぜこのような不条理な状況になったのか考察してみたところ、
 
平日午後6時の電車はスーツ姿の疲れたサラリーマンや仕事帰りのオバハンでごった返す中、僕は私服でさっきまで遊んでました。皆が働いてたときにデートとかしてました。みたいな格好であり、私たちは皆疲れてんのよ。フリーター風情が。年金払えよ。と周囲に思われるのは当然であるが、僕はこうやって私服だけど、職場で白衣を着るので出勤にスーツを必要としない。しないが故に私服であり、チャラチャラした格好であり、指輪も3つくらいつけて、ジャケットはほんのり香水の匂いがする。
 
しかしその第一印象だけで人間を判断するのは大きな間違いで、今日だって僕は自分の仕事の合間を縫って患者さんの歩行訓練や関節可動域訓練などを行い、昼休みも早々に切り上げ、病室に赴きコミュニケーションを計るなど熱心に仕事を行っていたにも関わらず、職場を一歩出ると、チャラチャラした若者に成り下がり、こうやって不条理な状況に置かれているので人間が腐っていく。
 
2004年04月02日(金)  吊り革七人人生模様。
 
電車の座席に7人座れるということは車内に「7人掛けにご協力下さい」と書いていることからも明らかで、その7人掛けロングシートの幅は301cmあり、一人あたりの座席幅は43cm確保されており、7人座るとちょっと窮屈。6人座るとそのスペースがちょっと寂しい。私マナー違反犯してます。傍若無人で厚顔無恥な阿呆でおます。と振舞っているようで恥ずかしい。
 
平日午後6時の下り電車の乗客は皆疲れている。勿論7人掛けシートには7人座っている。そしてその幸運にも座席を確保することのできた7人の小市民の前には吊り革を持つあと一歩のところで座席を逃した小市民7人。この吊り革を持つ7人は各自、悠々窮々と座席に座る7人の前にそれぞれ立ち、時々座席に座る小市民を見下ろし、こいつ降りろ。次の駅で降りろ。降りて馬鹿。と念じ続ける。
 
そして祈りが届いた者だけ、その望みは叶えられる。あ、あのサラリーマンいいな。座れたんだな。いいないいな僕足痛いな。座りたいな。僕は僕の目の前に座って余裕ぶっこいてメール打ってる女をチラチラ見下ろす主に胸元を。
 
この女、次の駅を知らせるアナウンスが流れる度に、バックを持ち直したり携帯を閉じたりと思わせ振りを散々した挙句、次の駅に到着しても何食わぬ顔して居座り続けるというフェイントをもう3回くらい繰り返してるね。馬鹿が。女子十二楽坊のような顔しやがって。僕は足が痛いのに。
 
僕の前には女子十二楽坊。左斜め前には地井武男みたいなサラリーマン。このオヤジは熟睡してるので絶望的。多分終点まで降りないだろう。僕の左隣に立っているオバサン、ご愁傷様です。ずっと立っときなさい。そして右斜め前には料理愛好家平野レミ。僕の右斜め前なので、平野レミの行動は直接僕には影響せず、次の駅で降りようが降りまいが構わないのだが、本物の平野レミ顔負けの意味のわからぬテンションで5分後、僕は最大の被害を被ることになる。後半へ続く。
 
2004年04月01日(木)  いじめエンターテイメント。
 
あー、あれだ。いじめの背景には嫉妬の心理があるんだけどね。いや、そこのアナタに言ってるんだけどね。えっ、もしかしてこれって……って思ったキミ。まさしくキミに言ってるの。キミだけに言ってるんだよ。
 
努力をしている人間にね、その努力をね、妬むのは自由です。おおいに妬めばいい。しかしその努力を妬もうとしない。その人間を妬むんですね。それが大きな間違い。じゃあお前があの努力ができるのかって、あー、問うまでもないんだけど、一応問い掛けますけどできますか。妬んでばかりで、そういうことができますか。
 
おそらくアナタはこの文章を何度も読み返すことでしょう。自分のことのようで自分ではない。疑心暗鬼に陥ったら僕の勝ち。疑心暗鬼になんか陥るもんかと思っても、やはり、僕の勝ち。暗闇の中に、ありもしない鬼の姿が見えるのですよ。
 
人間は自分の部屋を1歩出たらエンターテイメントの世界に出なければいけません。どこかの誰かが自分のことを見ています。職場に行けば上司が査定をして、同僚が探索して、部下が批判する。それを回避するには、自分の殻に閉じこもるか、どうだろ、インターネットなんて絶好の道具なんですけどね。
 
あ、例えばこのサイトこの日記。エンターテイメントの真骨頂です。書いてあることを真実と捉えようが虚偽と認識しようが、僕には関係ありません。僕はただ考えて、ただ書いて、それからトイレのティッシュペーパーを交換して野球を観ながらビールを飲むのです。
 
自分を守りたければママのおっぱいでも飲んでればいいのです。今日はいじめの背景についてのお話でした。
 

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