2002年06月30日(日)  結婚式に行ってきたよ。
友人の結婚式。この友人の結婚式がめでたく10回目の出席となった。
僕は10回も御祝儀を包んでいるのだ。金額にしたら僕の月給以上になる。
となると僕は今までの人生で最低でも1ヶ月は友人達の幸福の為に働いていたことになる。返せ。
 
なんてちょっぴり本音が出てしまいましたが、誰の結婚式であってもめでたいものです。
今日はゲストハウスで行われるという今までとは少し趣向が違ったお洒落な結婚式でした。
雨が降らなければ、披露宴は屋外で行われるはずだったけど、
ジューンブライドの唯一の欠点である梅雨時だけはどうしようもできずゲストハウス内で行われました。
だけど結婚式の日に降る雨って夫婦間が「雨降って地固まる」で縁起がいいそうですよ。
プラス思考も甚だしいというか、雨なのに天晴れな心境です。
 
さて、お洒落な結婚式は新郎の親戚のおばちゃん2人組による浪曲和太鼓の演奏で幕を上げました。
お洒落なゲストハウスに和太鼓の響きというなんともアンバランスな風景でしたが
きっと新郎新婦は親戚のおばちゃんの勢いに負けて泣く泣く演奏を許可したんだろうね。
 
絶大な拍手と苦笑に満ちた演奏の後に待っていたのは全員御起立して乾杯の音頭。
市議会議員という肩書きをぶら下げて壇上に立った1人のおじさん話が長いよ。
みんなテーブルに並べられた豪華絢爛な料理に涎を流しているっていうのに
そんなことは露知らずにグラスを掲げたまま延々と話し出す。
 
みんなが痺れを切らして体を左右に降り始め、やがて諦めてグラスをテーブルに置き始めたころようやく乾杯。
グラスが交わる音と苦笑に満ちた乾杯の後に待っていたのは余興の時間。
 
僕は結婚式の余興というものが大嫌いで、職場の後輩が意味もなく裸になったり
酔っ払った親戚のおじさんが披露宴の意味と空気を無視した辛い人生を語った演歌を歌ったり
子供達がミニモニ云々を踊ると、舞台の前にはカメラを持ったお父さんお母さんの山だかりで全然見えないよ。
 
という具合で余興というものが大嫌いで
今回のお洒落な結婚式はもしかしたら余興なんてないんじゃないかしら。と淡い期待を寄せていたのだが、
願いは空しく、裸・演歌・ミニモニのオンパレード。
 
というわけで結婚おめでとう。また1人飲み仲間が減りました。
残された僕たち数人の独身組の結婚観が強がりに見える日は確実に近づいています。
2002年06月29日(土)  コミュニティ。
韓国−トルコ戦と、巨人−ヤクルト戦を交互に見ながらサンドイッチを食べて寝転んでいたら
いつの間にか眠ってしまって、時計を見ると深夜1時でサッカーも野球も終わっていた。
 
携帯を見ると着信歴が溜まっていて、迷った挙句、気になるあのコにだけ電話した。
気になるあのコは深夜1時には眠っていたという常識的な女の子だった。
「ううん。テレビ見てた」
なんて言ったけど、声から確実にα波が感じられた。
 
「明日結婚式に行かなくちゃいけないの」
「奇遇だね。僕も明日結婚式に行くんだ」
 
そして彼女は新婦の友人で僕は新郎の友人で同じ結婚式に出席することになった奇遇な話をして電話を切った。
 
僕たちが生きているコミュニティというものは、思ったよりも狭い。
誰かと誰かが、何かしらの関係で繋がっている。
出会いなんて運命でもなんでもなくて、たまたまその繋がりを発見しただけの話だ。
 
そういえば、僕の友人は最近彼女に振られてしまって、新しい彼女ができたのだが、
その振った彼女にも新しい彼氏ができて、その彼氏は大酒飲みで、28歳にして手が小刻みに震えているという有様で
酔うと彼女にとんでもないこと(それがどういうことなのか聞かなかったけど)を言うみたいで
当然の如く、喧嘩が絶えず、セックスの回数は減って、背中の痣だけが増えていくという始末だそうで
悩んだ挙句、彼女は友人に事の始終を相談した。
 
その友人が、僕の友人の新しい彼女だった。
複雑に見えるこの関係は、冷静に考えてみると、たいした問題ではない。
ただ単に、僕たちが生きているコミュニティが狭いだけのことだ。
 
僕が、深夜1時に電話をかけた女性は、
その僕の友人の新しい彼女だったという事実を、今日の電話で初めて知ったという有様で!
2002年06月28日(金)  火葬現実。
職場の研修で、バーチャル・ハルシネーションというものを体験した。
 
バーチャル・ハルシネーションとは幻覚や妄想などの症状が十分にコントロールされていない
精神分裂病患者の目と耳を通した世界を擬似体験することができるシステムである。
ヘッドギアを使用し、幻視はCGにより、幻聴はステレオ音声により擬似体験ができるという唄い文句。
場面は症状が十分にコントロールされていない精神分裂病患者が医師と面接しているという設定。
 
ヘッドギアをかぶると、目の前に仮想現実の世界が現れた。
僕は架空の病院の架空の診察室に座っていた。
目の前には黒いネクタイを締めた白髪の医師が胸を張って座っている。
 
医師は、僕に話し掛ける。「調子はどうだい?」「夜は良く眠れてるかい?」
医師が睨んでいるような目つきをしているのは、
おそらく擬似世界の精神分裂病である僕が被害的な感情を抱いているからだろう。
 
「悪人!!」「死んでしまえ!」
突然耳元で弾けるような甲高い声が響いた。
医師はそんな声など気にしない様子で、延々と僕に病状の程度を語りかけてくる。
おそらくこれが幻聴というものだろう。ボソボソと誰かが語りあっている。
気になって耳を澄ます。医師の言っていることなど頭に入らない。
 
目を凝らすと医師の額にもう1つ目が増えていた。要するに3つ目になっていたのだ。
3つ目の医師に驚いていると、突然大きな音を立てて左上方から巨大な鳥が現れた。
診察室に鳥だなんて馬鹿な。おそらくこれが幻視というものだろう。
さっきから机の右側に置いてある本の上を小さな昆虫がザワザワと動いている。
 
「はい、お疲れ様でした」という声と共に、ヘッドギアを外され僕は現実世界に引き戻される。
額には冷や汗、両手は微かに震えている。
あれが精神分裂病の世界なのか。そんな、馬鹿な。誇張しすぎじゃないか。
この擬似世界はまるでバイオハザードの世界じゃないか。
 
これが本当に精神分裂病の「現実」の世界であったならば、
僕は、患者さんへの応対を、病気に対する認識を改めなければいけない。
 
フラフラとした足取りでナースステーションに戻るとき、頭の中で
「悪人!」「死んじまえ!」「浮気者!」と聞こえた。
 
あれは、浮気じゃあ、ないよ。

自分に言い訳をしていると 
左上方から突然大きな音を立てて巨大な鳥が現れた。
2002年06月27日(木)  終焉後の制裁。
空港に到着したのはあの忌まわしい飛行機が経つ70分も前だった。
忌まわしい飛行機は、忌まわしい時間に、忌まわしい場所へ経ってしまう。
 
社会的に許されなくても、それを本人が自覚していなければ
――主観的に判断しながら客観的に傍観すれば――
それは愛と情熱と安らぎに満ちた生活を送ることができるってことを学んで、
空港のロビーに1人座りながら思い出していた。
 
別れの時間が近づいていた。
数週間前のあの日から、僕たちは全く会わなくなっていた。
どちらかが避けていたわけじゃないし、どちらとも避けていたのかもしれない。
時々、囁くような声で電話がかかってきた。
僕は1人ソファーに座ってその電話の声を聞いていたけど、
彼女は1人でソファーに座っているわけじゃなかった。時々、無邪気な笑い声が聞こえたし、
ヒステリックな泣き声が聞こえたし、ドアが開く音と同時に突然電話を切られることだってあった。
 
最後の電話の内容を今でも覚えている。忘れてたら今頃空港なんかに来ているはずがない。
「6月27日、2時20分。2時ってお昼の2時のことよ」
そんなこと言われなくたってわかっているし、わからなくても深夜の2時には空港に向かっていただろう。
彼女は時間を告げただけで、空港に来てとは言わなかったけれど、
これは、彼女に対する、最後の、自分の意思。
 
彼女にはこれからも守るべきものがあって守られる人がいて
僕はこれからも守るべきものを探し続けなければいけない。
 
搭乗口に入ろうとしたとき、彼女は、一通り辺りを見渡した。
それは、もう、確かめようもないけど、僕の姿を探していたのだと自分に言い聞かせた。
  
小さな女の子と手を繋ぎながら周囲を見渡して、搭乗口に入る姿を見たとき、僕は背を向けて走り出したくなった。
だけど、そんな僕の意思とは相反して、その視線は繋がった。
 
一瞬怯んだ瞳に様々な感情を凝集させて
14時20分発の飛行機は、いとも簡単に僕たちを引き離すことに成功した。
 
社会的な制裁を免れた約半年に渡る表面上の幸福な関係は、とうとう終焉を遂げた。
昔の彼女を腕枕した次の日には、不倫に陥った人と引き離される。
誰が見たって、誰がこの文章を読んだって
僕がろくでもない大人になっていることは、火を見るよりも明らかだった。
 
暫く地下に潜ります。
2002年06月26日(水)  チャンダン香。
チャンダン香に火をつけたとき、突然昔の彼女が部屋のドアを開けた。
チャンダン香とは昔の彼女も、そのまた昔の彼女も好きだった要するに誰でも好きなお香の名前。
近所の雑貨屋で300円くらいで買える代物で、とても優しい香りがする。
僕の部屋にはこのチャンダン香の香りが染み付いている。
 
「キミが来る予感がしてたんだ」と僕が言う前に
「私が来るって予想してたでしょ」と彼女が言った。
最後に会ったのは一緒に焼肉を食べに行った時だから・・・約2週間振りだろうか。
 
優しくて薄い煙に包まれる部屋の中で久々にゆっくりと話をした。
チャンダン香の優しい香りは、別れた男女の繋がりをあっさりと否定するように僕たちを向き合わせる。
 
そしてそのお香の香りが消えかかる頃には、彼女はうたた寝をし、僕は腕枕をしている。
僕のせいでも彼女のせいでもない。チャンダン香の香りのせいだ。
そう考えた方が納得するでしょう?
 
彼女がうたた寝をしている時、僕は腕枕をしながら足元にあったETのぬいぐるみを両足で挟んで引き寄せる。
彼女はこのETのぬいぐるみが大好きで、僕たちの関係が駄目になってしまった最後の1週間は
僕よりもこのETのぬいぐるみと話している時間が多かったくらいだ。
 
僕の肩と彼女の顔の間にそっとETのぬいぐるみを横たわらせる。
そして右手は使えないまま左手で不器用に煙草を取って不器用に火をつけて天井を見ながら不器用に煙を吐いた。
 
煙草を吸い終えた頃、彼女が驚いた声を挙げて目を覚ました。
目の前に突然現れたETのぬいぐるみを見ながら
 
「やっぱり、あなたが好き」
 
と言った。
ETのぬいぐるみに言っているのかETのぬいぐるみの向こう側に横たわる僕に言っているのかわからなかったけど
僕の右腕は久し振りに腕枕なんかしたから痺れきってしまっていて
多分、それも――好きとかETとか手の痺れとか――
 
チャンダン香の仕業だと思って自分を納得させた。
2002年06月25日(火)  カムサハムニダ!
後半30分、バラックのゴールでドイツが先制したと同時に僕は
敢然とソファーから立ち上がり、キリン淡麗を飲み干し、Tシャツとトランクスを脱いで浴室へ向かった。
 
試合時間残り15分。僕の悪運を韓国の勝利に託した。
韓国国民の落胆と同時に僕が咄嗟に描いた青写真はこうだ。
残り時間15分1−0ドイツがリードの時点で僕は浴室へ向かい、シャワーを浴びる。
時々鼻唄を歌いながら、時々「オ〜コ〜リア」と口ずさみながら。
 
僕がシャワーを浴びる時間はだいたい15分なので、シャワーを終えた頃には
試合は終わっているかロスタイムを迎えているはずだ。
そしてバスタオルで頭を拭きながらブラウン管を凝視する。
 
韓国1−1ドイツ
 
あああっっ!!同点ゴールの瞬間を見逃したっ!!
よりによって僕がシャワーを浴びてる間に同点ゴールを決めるなんて!!
僕ってなんてタイミングが悪いんだろう!なんて悪運なんだろう!
 
となるはずだった。
僕の常日頃の課題とされているタイミングの悪さと悪運の強さを逆に利用しようとしたのだ。
僕が韓国チームの不運を、スタジアムの重い空気を、一気に背負い込んで
家賃33000円のアパートの浴室へ担いでいこうとしたのだ。
僕は韓国国民を僕が今できる限りの手段を使って救おうとしたのだ。
 
しかしシャワー後に残ったのは湯上り後のサッパリ感だけ。
選手もサポーターも汗と涙にまみれている。
僕は韓国の救世主にはなれなかった。だって日本人なんだもん。
2002年06月24日(月)  神経症との関連を考察する日記。
精神科で働いていると、毎日様々な悩みを抱えた電話がきます。
 
今日もある悩みの相談で電話がありました。看護婦さんが電話を取りました。
「臭いが気になって仕方がない」
という相談のようです。看護婦さんはここで何を血迷ったか、突然僕を呼び出して電話応対を替われと言うのです。
どうして僕なのか問うと、看護婦さん曰く、
「あなたも臭いが気になって仕方がない様子だから」
 
釈然としないなか、電話応対をする。
「自分の口臭や腋の臭いが気になって人と会うのが怖い」という内容でした。
おそらくそれは自己臭恐怖症といって、神経症の一種だと思います。
現代社会は、デオドラントスプレーやタバコの臭い消しやトイレ消臭剤など
数え上げればきりがないほど消臭剤が溢れています。
 
他者とは違う臭いを発したとき、それは他者とは違うことを意味し、
排除されることを恐れるのです。「個」を大切にする現代社会も「臭い」に関しては平等なのです。
臭いものには一様に蓋をされるのです。
そのような無臭化・脱臭化への過剰な努力がこうした「自己臭恐怖症」だなんて病を引き起こすのです。
 
それにしても看護婦さん。僕は自分の臭いになんてあまり興味ないですよ。
「いや、だっていろんなものの臭い嗅ぐの好きでしょ」
はぁ、まぁ。僕は自分の臭いこそあまり気にならないが、周囲のいろんな物の臭いが気になるのです。
たいてい手に取ったものはまず臭いを嗅ぎます。
彼女と食事をしていてそういう行為をすれば間違いなく嫌われるので
状況によって自制していますが、1人でいるときはもう嗅ぎまくり。
 
レントゲンの現像液の臭いなんてもう最高!
 
なんて暗室に入ってレントゲンを現像しながら1人歓喜に浸っているのです。
形容するならば、酢を100倍強くしたような臭い。
北東の方角に鼻が15度くらい曲がりそうな強烈な臭いを発します。
それでも僕はこの臭いが好きなのです。臭いを通じて刺激を求めているのです。
 
あと、職場のパソコンのプリンタから印刷されたインクの臭いが大好きです。
印刷されたプリントが出てくるたび、それを顔に張り付かせて
プハーーーツ!!とかフォーーーッ!!と叫びながらパソコンチェアーに座っている身を仰け反らせるのです。
 
僕の場合は神経症じゃないんです。不治の病なんですね。
2002年06月23日(日)  潔い。
例えばね、ほら、また置いたまんま帰っちゃってるでしょ。
部屋のテーブルの上に鎮座しているポテトチップスとペットボトルの烏龍茶。
滅多にないことなんだけど、僕だって夜中に無精に甘い物を食べたくなるときだってあるんです。

烏龍茶は許します。いや、少し許せないんだけど。
だってさ、飲みかけのペットボトルを置きっぱなしで帰るんだよ。
ゴミの分別って結構面倒臭いんだよ。面倒臭いらしいよ。
僕は分別なんてしないからよくわかんないんだけど。よくわかんないから許してるんだけど。
 
で、ポテトチップスね。困るんだよね。開けてないポテトチップス置いて帰られると。
開けてないでしょ。ビデオ見ながら食べるつもりで買ったんだろうけど開けてないでしょ。
滅多にないことなんだけど、僕だって夜中に無精に甘い物を食べたくなるときだってあるんです。
で、コンビニ行くの面倒臭いからポテトチップス開けて食べるとするでしょ。
で、次の日か次の次の日くらいに「『スパイ・ゲーム』借りてきたよー」なんて新作のビデオを手に取って
僕の部屋に来るでしょ。で、このセリフだよ。
「あれ?ポテトチップスは?」
 
はぁ?それじゃあなんだよ。君が僕の部屋に下着を忘れていったとするでしょ。
いや、例えばの話だよ。下着を置いていく可能性が全くないってわけじゃないでしょ。
その下着を、その、アレの時に脱いだ下着をそのままの姿で、テーブル、いや、
ベッドの上に置いていると思うかい?思わないでしょ。
僕はきっと綺麗に洗濯して、独り暮らしの女性がしてるみたいに妙にクルクル巻いて
独り暮らしの男性がしてるみたいに自分の下着やらTシャツやらの山の頂上にポンってそれを置いてるよ。
 
あ、キミは気付いてないだろうけど、今キミの眉間に「川」って字が浮かんでるよ。
それは、怒ってるってことを暗にアピールしてるわけ?いや、おもむろだけどね。

ああっ!もういいよ!そんなにポテトチップス食べたかったら買いに行くよ!
ったく。そのくらいで怒るなよ。そもそも新作ビデオにポテトチップスって組み合わせは誰が決めたんだよ。
買いに行くよ!どうせコンビニは徒歩5分だよ!
目と鼻と眉間の先だよ!川は渡んないけどね!買いに行くよ!どうせ100円位の品物でしょ!
それくらいでさ、口尖らしちゃってさ、子供みたいにさ、握り拳作っちゃってさ・・・
 


ごめんね。
2002年06月22日(土)  君の行為にひとめぼれ。
久々に腹の底から笑った。死ぬかと思った。
本当に死ぬかと思った。
このまま息が止まってしまって両膝をついてゴミ箱にもたれながら死んでしまうかと思った。
汗やら涙やら鼻水やら涎やら、身体から分泌されるもの全てが噴出した。
 
このままここにいたらきっと笑い死んでしまうと思って、ドアを開けて逃げ出そうとしたけど
一世一代の馬鹿をしでかした後輩はそれを許してくれなかった。
後輩のTシャツには、まだ多量のご飯粒が一世一代のアピールをしていたのだ。
 
「ま・・・ま・・・まだ・・・ほ・ほら・・見ろよ・・ご飯つ・・・ぶーーーっ!!!」
 
今日のこの抱腹絶倒の笑いが文章で如何ほど伝わるか甚だ疑問なので
敢えてこの笑いの起承転結を省略することにする。だってご飯粒だよ。ご飯粒。
 
後輩は1児のパパになったばかりだけど、そういう社会的な面影は哀しいほど欠如していて
おまけにもやしの様に痩せていて、眼鏡だってかけている。
眼鏡だってかけているけど、ご飯粒だってついている。ぶーーーっ!!!
 
「決めた!お前は今日から『ひとめぼれ』だ!」
粋なお米の銘柄をあだ名につけられたのが気に入らなかったのか後輩はもう、興奮しちゃって
「もう、死んでやる!」だって。今まさに死を決意した男のTシャツには無数のご飯粒。
 
あんなことするからこんなことになるんだよ。馬鹿だなぁ。
もう1人の後輩は洗面所に駆け込んで身体中を細かく痙攣させながらウゲーッウゲーッ!!と奇妙な笑い声を挙げていた。
いや、お前の気持ちもわかるよ。僕も許されるならば洗面所に駆け込んでウゲーッツ!と笑いたい気分だよ。
な!『ひとめぼれ』!ぶーーーっ!!!
 
「先輩は仕事はできるかもしれないけど、人間性だけは疑わざるを得ません」
 
だってさ!『ひとめぼれ』が!僕の?え?僕の人間性を!?人間性をば!?
疑わざるを!?得ませんだって!!?
なんだよそれ。「君のご飯粒だけは要領を得ません」だよ。ぶーーーっ!!!
 
「いつか殺してやる」
おぉ!威勢がいいねぇ!殺してやるだって!?ほら、Tシャツ脱いでやるよ!
君を見てると横隔膜の痙攣がいつまでも止まんないよ!ほら、いっそのこと今殺してくれよ!ぶーーーっ!!!
2002年06月21日(金)  2つの約束。
「じゃあ私が決めてあげる」
3件目のバーで彼女はそう言った。
 
マスターに「何かあっさりした美味しいお酒作って下さい」と言って、
数分後に「何かあっさりした美味しいお酒」が運ばれてきて
彼女は一口飲んで「あっ、美味しい」と僕を見て言って、それからマスターに向かって「美味しい」と言った。
僕は氷が全部溶けても少々強すぎるカティーサークを飲みながら彼女に微笑み返した。
 
「じゃあ私が決めてあげる」
「僕としてはそっちの方が楽なんだ」
僕はカティーサークの入ったグラスを弄びながら壁にもたれてそう言った。
 
「あなたが守らないといけないことは2つ」
「うん」僕はマイルドセブンに火をつけた。
「1つは睡眠時間は最高6時間」
「最高?」
「そうよ。最高6時間。だって勿体無いじゃない。眠るっていうのはね、死んじゃってるのと同じことなの。
みんな20歳越えたら歳とるの早いって言うでしょ。それは間違ってるの。
眠っちゃってて頭働かせないから死んじゃってるのよ。
だからあなたは休日に午後まで寝てるなんて馬鹿なことしないで。勿体無いわよ。わかった?」
「わかった。守れそうな気がする」
 
僕はカティーサークに見切りをつけてコーヒーを注文した。
アルコールの入った頭じゃ彼女の言葉を聞き逃してしまいそうな気がした。
 
「そしてあと1つ。『女性』に興味を持つこと」
「ふむ」
「髪を切ったとか、パーマかけたとか、バッグ買ったとか、財布変えたとか、
前のデートでどんな洋服着てて、今日のデートはどんな服着てるとか、
そういうことに反応するの。あなたの話を聞いてると、無関心すぎるわよ。わかった?」
「わかった。守れそうな気がする」
 
彼女は「よろしい」と頷いて「何かあっさりした美味しいお酒」を一口飲んで
マスターに向かって「このお酒何ていう名前なんですか?」と言った。
名前は決まっていないオリジナルの酒らしく、マスターは口篭もりながら愛想笑いを浮かべていた。
 
「Tシャツ」
「へ?」僕とマスターは一様に目を開いた。
「Tシャツ」
「え?何が?」
「だからTシャツよ。このカクテルの名前はTシャツ。
あっさりしてて涼しげでTシャツって感じするでしょ。マスターのTシャツも似合ってるし」
「じゃあTシャツで決定しよう」
僕はマスターに向かってそう言った。マスターも困ったように笑いながら頷いた。
2002年06月20日(木)  刻一刻。
約束の時間までまだ1時間もあるので、ネットカフェに寄って時間潰し。
やっぱり東京のネットカフェと比較すると、多少見劣りするような気もするし、
客も僕一人だし、なんだか寂しい感じがするけど
時間つぶしには持ってこいの場所ということには変わりない。
 
だけど凄いね。スキャナーもプリンタもカメラも常設されてるじゃない。
ずっと小田和正のアルバムが流れているのは多少うんざりするけど
最低でもうちのパソコン環境よりは優れている。
うちのパソコンはキッチンの隅に佇んでいるのです。
秋刀魚を焼けばパソコンも一緒に煙に包まれるのです。
よってうちのパソコンはほんのり磯の香りがします。
 
約束の時間は刻一刻と近づいています。
 
それはそうと最近みんな僕の顔を見るたびに「オレンジペコー聴いた?」
って聞くけど、僕はまだ聴いたことないし、オレンジペコー知らないし、
オレンジペコーと僕にどういう共通点があるのか知りたい気持ちでいっぱいなのです。
誰も僕に「長渕剛聴いた?」と聞かないし、実際聴きません。
 
まぁ、それはそうとして、
友人から薦められた小説がとても面白いです。
僕は今、「GO」という本を読んでいるんだけど、知ってますか?
窪塚洋介主演で最近映画化されましたね。
それを読んでいるんだけど、友人があまりにも執拗に薦めるので
古本屋に行って、その友人が薦めた洋書を買ったのです。
「面白いけど、頭おかしくなるからほどほどに読め」
と友人が言ったとおり、面白いけど頭おかしくなりそうですのでほどほどに読むことにします。
 
ああいう文章が僕にも書けたらいいなあ。
 
まぁ、それは置いといて、
人を惹きつける文章を書く人は、結構身近にいるものです。
全ての事象に意味や理由を求めることはナンセンスです。
 
約束の時間は刻一刻と近づいているのです。
2002年06月19日(水)  非オタク。
毎週火曜日はバレーボールの練習で、水曜日はソフトボールの練習。
バレーボールは体育館で練習するので雨が降っても関係なく練習は行われるが、
ソフトボールはグランドで練習するので雨が降ったら練習は中止にしてほしい。
今日だってこの雨だよ。しかも横殴り気味。監督、みんな風邪ひいちゃいますよ。
 
「リーグ戦が近づいてるんだ!練習しなくてどうする!」
 
監督はW杯に影響されて、リーグ戦と聞いただけで血が騒ぐらしい。
監督だけ血が騒いでチームの血は生憎冷たくなっているので今回も予選リーグ敗退が大方の予想。
 
というわけで今夜も練習。ノックをしながら「雨に負けるな!」と叫ぶ監督。
おそらく昨日もブラウン管の前でそう叫んでいたのだろう。
まるで僕たちをトルコ人を見るような鬼気迫る表情でノックする監督。おいおいとばっちりかよ。
 
昨日のバレーボールの練習中に首を痛めてしまってサロンパスを貼りながらノックに耐える。
バレーボールの休憩中に、センタリングされたボールをヘディングする練習をして首を痛めた。
日頃曲がらない方向に首が曲がったのだ。あ、僕もW杯に影響されてる。
 
火曜はバレー水曜はソフト。土日は除いて残りの3日のうち1日はプールに通っている。
体力作りに関しては万全の環境だが、未だインドア派の印象から抜け出せないでいる。
みんな口を揃えて「お前はどっちかというとインドア派だろ」と言う。
 
バレーとソフトと水泳がまとめてかかっても、小説とパソコンとフィギアの影響が強すぎるのだ。
小説を好む人はインドア派だなんて、偏見だ。
パソコンを好む人はインドア派だなんて、差別だ。
フィギアを好む人はオタクだなんて、納得よ。
 
僕はオタクという言葉にひどくアレルギーを持っていて
顔を真っ赤にしながら「オタクって言うなマニアって言え」って何の説得力もないことを言うのだけど
友人や彼女と一緒にフィギアショップに行って1人だけ目を輝かしていると、
あぁ、僕はこの人たちに想像以上の迷惑をかけているのかもしれない。と思ってしまうが
そんな罪悪感からウルトラマンや仮面ライダーは救ってくれるんだよ。
 
「ナイスキャッチ!!」
鋭いライナーをジャンピングキャッチした僕に監督が叫ぶ。
僕はユニホームについた泥を払いながら帽子を深くかぶってはにかんだ表情をする。
 
今の僕ってウルトラマンじゃん!
2002年06月18日(火)  束ねて縛って。
友人の彼女の束縛といったら、そりゃあもう。
 
友人から聞いた話だから多少の脚色はあるにすれ、その束縛の仕方が尋常じゃない。
まぁ、友人から話を聞かなくとも今こうして話をしている最中も
30分間隔で所在確認の電話がきてるし、その30分の間にもメールが何通か届いている。
 
「他の女なんて見ないでよ」
なんて言われると、僕だったら街を歩けなくなってしまう。
「車の助手席に誰も乗せないでよ」
なんて言われると、僕だったらハンドルを握れなくなってしまう。
「お洒落して出掛けないで」
そんな、無茶苦茶な。合コンにジャージ姿で行けって言うのかい。
「毎日200字以上のメールを送って」
なんだよそれ。愛の言葉は字数で決められるわけじゃないんだ。
時には「好き」って2文字だけで全てが伝わることがあるんだよ。
 
聞いてるだけでうんざりするような内容。独占欲も甚だしいです。
もう付き合って1年経つという。
1年も他の女を見ずに車に1人で乗ってジャージ姿で毎日長文メールを送っていたというのかい。
 
「まぁ、そういうことになるね」
 
そういうことになるねって。君は耐えの美学に関しては僕よりも確実に、上をいっています。
 
まぁ、だけど羨ましいよ。
そこまで愛されるってたいしたことだよ。
僕は束縛こそ究極の愛の結晶だと思うんだ。
束ねて縛って相手の一挙手一投足を漏れなく把握したい。
僕も束縛されてみたいよ。他の女なんて見向きもせずにジャージ姿で合コンに行ってみたいよ。
 
何?ないものねだりだって?
 
わかってるよそのくらい。言ってみただけだよ。
2002年06月17日(月)  耐えの美学。
「欲求を  効率良く  早急に  満たす」
 
これは現代文化の哲学であり、僕たち私たち周知の美学であります。
 
現代文化はどうもつまらなくなってしまいました。
では古代文化が素晴らしかったのか聞かれても困ってしまいますが
現代文化よりはマシだったと思います。
 
諸悪の根源。携帯電話。
君の声が聞きたい。携帯電話を手に取る。
アドレス帳、若しくは着信履歴から君の番号を探す。
そして、仕事中か入浴中か睡眠中でない限り、君とはワンプッシュで繋がる。
 
君の声が聞きたいという(欲求)
携帯電話で(効率良く)
ワンプッシュで(早急に)
繋がる(満たす)
 
そこに情緒は存在するの?胸はいつ焦がせばいいの?
電子レンジのように、ダイヤルを回せば、自動的に熱を帯びるの?
 
違う。それは違う。僕たちは、間違ってる。
重大な過ちに気付いていない。ドコモもauもそんなこと教えてくれない。
勿論j-phoneだって教えてくれない。
携帯で撮った写真がその場で見れる?メールで送れる?そんな馬鹿な。
 
欲求は効率良く早急に「満たされる」ものだと思い込んでいる。
 
彼氏に何度電話しても繋がりません。
「んーー!繋がんないわ!何やってんだろう。気になるわ!」
欲求から結果に至るプロセスが短いから、そんなこと思うのです。
古代文化はその過程に「我慢」が存在したのです。「忍耐」が腰を据えていたのです。
 
忍耐!?古くさっ!
 
まぁまぁ。そう言わずに。
僕はいつも思うのだけど、我慢とか忍耐はパーソナリティの形成にとても重要な事項なのではないでしょうか。
 
首を長くする。胸焦がれるほど。雨だれ石をうがつ。
これは全て耐えの美学。耐えてこそ、人は強くなるのです。
携帯ですぐ繋がる関係が常だとしたら、いつかシッペ返しをくらいますよ。
 
だから僕は今夜も君への電話を我慢します。
君の声が聞きたくても、ギリギリまで我慢するのです。
自分なりに我慢を重ねて、その結果君の声が聞けたら、喜びは測り知れないものになります。
だから僕は今夜も君への電話を我慢します。
 
いや、もうしちゃったんだけどね。
2002年06月16日(日)  後悔という名の前進。希望という名の後退。
夜勤明け。食事も摂らずにそのまま昼寝。ソファーに横になると自然に瞼が閉じる。
 
午後5時。携帯電話と部屋のドアをノックする音が一斉に鳴り響く。
僕の携帯は留守電に切り替わる度に切れて再び鳴り出す。
部屋のドアは隣人に借金の取り立てと間違われるのではないかというほど強くノックしている。
 
昼寝真っ最中の僕は、何も考えずにそのまま眠り続けることにした。
用があったら留守電にメッセージを入れたらいいしそもそも借金なんてしてない。
 
それでも携帯とノックは絶えることなく鳴り響く。
下着一枚だった僕はズボンを履いて、それはそれは不機嫌な表情で部屋のドアをあける。
「やっぱりいた」
友人2人が含み笑いを浮かべながら立っていた。
 
友人は僕の部屋にあがりこんで、先程まで夢見心地で昼寝をしていた僕のソファーをあっという間に占領した。
ソファーを占領された僕は、行き場所を失って
部屋の隅っこで太腿に手を挟みながら丸くなって昼寝の続きをしようかと思ったけど、
友人たちはそれすらも許してくれなくて、とある理由で食事に行くことになった。
 
「この前あなたは私達の誘いをブッチしたから今日はご飯おごってよ」
 
数日前、僕はこの友人と飲みに行く約束をしていたけど、急な用事が入ってドタキャンしたのだ。
僕は反論する言葉も意志もなく、友人の車に乗ってファミレスへ向かった。
 
ファミレスの帰り、ツタヤに寄った。ツタヤなんかに寄らなければよかった。
数週間前の合コンで、かなり仲が良くなった女性がいて、その後もメールや電話のやりとりをしていて
僕たちは確実に恋愛と書かれたゴールの白いテープが見えてきている状況だったが、
その女性とツタヤでばったりと会ってしまったのだ。
僕の傍らには女友達2人。その女性にとっては喜ばしい状況ではない。僕は咄嗟に考えた。
そして結論が出たと同時に僕は彼女の元へ駆け寄った。
 
「久し振りだね。あ、一緒にいる女の子は、友達だよ」
 
それは真実なのに、なんだかすごく棒読みでわざとらしい口調になってしまって
僕の敗北はあっさりと決定した。
 
「あんたってものすごくバカ」
 
帰りの車の中で友人たちにいつもの如く罵られた。
2002年06月15日(土)  内緒の話。
内緒。 
内緒の話。潤んだ唇を僕の耳にそっと寄せて、内緒の話。
えとね、実はね、うふふふふ。
そういう話に関しては、僕は往々にして耳を塞ぎます。
聞いている振りをして、頭の中に入れないようにしています。
 
内緒。
内緒の話。僕たちは5人で酒を飲んでいました。
僕は2人と話をしていて、そのうちの1人が小声で何やら囁き始めました。
そのうち1人は興味津々の表情で、その会話に耳を傾けます。
残りの2人は何を話しているのだろうか、と、表情には出さないけど、気になっている様子です。
僕は、「ちょっとトイレ」と席を立ちます。
トイレで意味もなく手を洗いながら小さな溜息をついて自分が映っている鏡を見ます。
 
内緒。
内緒の話。女性は往々にしてヒソヒソ話が大好きです。
殊に看護婦さん。白衣と注射と噂話で成り立っています。
なんだか静かなる仁義無き闘いが毎日繰り広げられています。
昨日の敵は今日の友達で、明日になればまた逆になったりしています。
大事な仕事の話かと思って寄ってみたら、誰々の勤務態度が云々。という話。
僕はそのまま愛想笑いを浮かべながら通り過ぎるのです。
仕事しましょうよ。と暗に伝えながら。
 
内緒。
内緒の話。今日も1人で内緒の話。僕は僕に話し掛けています。
胸の内を誰にも伝えられずに内緒の話。
君にも聞こえないヒソヒソ話。えとね、実はね、うふふふふ。
あ、聞こえた?今のは聞かなかったことにして頂戴。
 
内緒。
内緒の話。えとね、最近思うんだ。人の為に何かしてみようって。奉仕の精神ってやつ?
ほら、24時間テレビ。あのボランティアやってみようかなってね。
だって、あの黄色いTシャツ。タダで貰えるんだよ。
2002年06月14日(金)  暗黙の強制。
僕たちが行動する源流は、もはや自分の意思ではないということを知ってますか?
自らの意思で行動しているのではない、僕たちは動かされているのだと。
 
暗黙の強制に操られているのだと。
 
そのことについて僕は薄々感づいていたのだけど、今日、それは形となって現れたので
こうやって1人パソコンに向かってキーボードを打とうとしているのです。
 
W杯。すごい盛り上がりですね。
常日頃Jリーグは愚か、サッカーに興味がない人も
チュニジアは愚か、ベルギーがどこにあるかわからない人も
皆一様に日本中田中山頑張れ。
 
テレビのチャンネルはどこを回してもW杯一色。
フィーゴバティストゥータベッカムチラベルトロナウドジダンイナモト。
皆一様にサッカーが上手です。この人たちプロかしら。
カメルーンってどこの国の選手かしら。
 
さて。暗黙の強制。それは日韓共催の暗黙の要請。
右の人がサッカーに釘付けなら、左の人もブラウン管に釘付け。仕方がないから僕も試合結果だけでも。
という具合にね、
右の人がくびれてるなら、左の人はエステ漬け。そんな私もダイエット。それがすなわち美の基準。
という具合にね。
 
社会の価値基準を自分の価値基準にあてはめたって駄目だよ。
人はね、社会の基準と自分の基準のギャップに苦しんでいるのです。
確固とした自分を持てない余りに、アィデンテティーをいつまでも確立できないばかりに、
「その他大勢」の象徴である社会と同化しようとするのです。
暗黙の強制に、抵抗すべき術もなく、敗北しているのです。
 
さぁ!「個」を尊重する人々よ!ゴールを狙うな!国旗を振るな!イエローカードを貰うな!
バットを持て!グローブをまとえ!ベースを狙え!チャンネルの標準を読売テレビに!
 
野球を見ようよ。野球。面白いよ。阪神強くて清原はいつも放送終了前に代打で登場するよ。
2002年06月13日(木)  沼。
数日前、日記に登場した謎の電話の女性。
彼女は今夜も謎の電話を掛けてくる。
 
僕は、名前も名乗らない女性と話の相手をするほどの時間は
余るほど持っているので、
今夜も携帯から発せられる『カノン』の音色にすかさず反応するのである。
 
彼女が僕のことをどのくらい知っているかわからない。
・僕の部屋を知っているけど、部屋の番号を知らなかった。
・僕の電話番号を知っていた。
・僕の仕事内容を知らない(知らないというか、少し間違えた認識をしている)
・会ったことがあると言う。
・話したことがあるか問うと、それには答えない。
・昔付き合っていた彼女のことを知っている。
まぁ、こんなものだ。
 
僕が彼女のことを理解していることは
・自分の名前を名乗らない。
・住んでいる所を言わない。
・仕事内容は決まって「秘密」と言う。
・年齢も言わない。
要するに何もわからない。
「別に言ってもいいけど、それじゃなんだか面白くないでしょ」と言う。
 
それじゃなんだか面白くなかったら仕様が無いので
今夜も互いの探り合いが始まった。
 
「ああ!わかった!キミが誰だかわかった!」
なんて根拠のない嘘をついても彼女は見透かしたように鼻で笑う。
「あなたには私が名乗らない限り一生わからないわ」などと言う。
まるで、この世に存在しない者のように。
 
会話自体は毎日10分くらいで終わってしまうのだけど
僕はその無為な10分間のために、今夜はこれとこれとこれを聞いてみようなどと
仕事中に頭の中で考えている。
 
彼女がよく使う「沼」という言葉のように、
僕は知らぬ間に、得体の知れない沼に片足を突っ込んでしまっているのかもしれない。
2002年06月12日(水)  声。
休日。今にも降り出しそうな空の下、
新聞紙にくるまれた小さな黄色い菊と、つぼみのままの百合を買って約十年振りの墓参りに行った。
 
仁とか情に薄い僕は、親戚との付き合いも希薄で、盆や正月にも顔を出さない有様で
幼い頃あんなに僕を可愛がっていた祖父の墓参りも十何年行っていない始末。
 
その僕が、墓参りに行った。
僕を墓地に向かわせた理由は簡単。呼ばれたのだ。
夢の中で、枕元で、その呼ぶ声は、天井から、薄い壁から、ふすまの隙間から
僕を呼ぶ声がした。
 
そこで近所のスーパーに向かえば、大安売りをしていて、
あ、この声はきっと、独身男性を哀れんでいるレジのおばちゃんの心の叫びだったんだ。と思うだろうし、
職場に向かえば、患者さんの状態が急変していて、
あ、この声はきっと、僕の看護を求めている心の叫びだったんだ。と思うだろうし、
昔の彼女に電話すれば、あんた今頃何様よ。と罵られるかもしれない。
だけど僕は小さな黄色い菊と、つぼみのままの百合を買って誰もいない墓地にやってきた。
 
本当に誰もいなかった。
風のざわめきと木々の揺らめぎと鳥のさえずりと、僕を呼ぶ不思議な声しか聞こえなかった。
 
花を添えて、静かに手を合わせて耳を澄ますと、その声は一層明瞭となって僕の耳小骨を振るわせた。
 
大丈夫です。
心配しないで下さい。
元気にやってます。
幸せです。
少なくとも不幸じゃありません。
大丈夫です。
 
僕はその声に思いつく限りの言葉で、目を閉じながら、手を合わせながら、耳を澄ましながら、
 
欺き続けた。
2002年06月11日(火)  今日は日記で話しましょう。
もしもし?聞こえる?
携帯電話ってね、圏外になるとバッテリーの消耗が激しくなるんだって。
携帯のアンテナがね、受信できるアンテナを探し求るんだってさ。
ゴミ捨て場の古びた冷蔵庫に閉じ込められた子供がママに助けを呼ぶように
圏外に置かれた携帯は、アンテナを通して泣き叫ぶんだってさ。
1人にしないでよう。って。
 
例えば僕が携帯電話だとしたら、それは常に圏外に置かれているんだよ。きっとそうだ。
だから僕はなんだか消耗が激しいんだ。
知らないうちに充電して下さいってサインが出てる。あれ?昨日充電したばかりなのに。
いつまで立っても、受信できるアンテナを探し出せない。
かろうじて1本立ったとしても場所を変えるとすぐ消えるんだ。
レストランじゃ受信できるのに、ベットの中では受信できないって具合にね。
 
最近ね、アンテナが3本立つ日が多くなったんだ。
そりゃあ、毎日って訳じゃないけど、数週間前に比べると驚くべき事実だよ。
思わぬところにアンテナが立っててね、バッテリーも丈夫になってたんだ。
だって、ほら、もう1時間。1時間だよ。1時間も僕たちはこうやって話し続けているんだ。
驚くべき事実だよ。
毎月の携帯代が6000円という事実が立証している電話が苦手な僕が、1時間も!
 
閉じ込められた冷蔵庫に一端の光が射し込んだんだよ。
その光を辿って行ったら、キミの元へ辿りついたんだ。
 
だから暫くこのままで。この距離で。海を隔てたこの距離で。
 
キミはそのまま小雨降る炎天下の空の下で、そっとアンテナを立てていて下さい。
また電話するね。おやすみ。
2002年06月10日(月)  カルビとコップ。
別れた彼女と食事に行った。
焼き肉は2人の距離を縮める絶好の機会などというけれど、
僕達はもう何週間も前に別れてしまっていて、距離が縮まることはもうない。
むしろ、少しずつ離れていってしまうような感じがする。
 
だけど、サラダバーで好みの野菜を探したり、カルビを鉄板に恐る恐る乗せる仕草や、
キムチを頬張った表情や、ライチの皮を向く手元をぼんやりと眺めていると、
あぁ、綺麗だなぁ。僕たちはどうして別れちゃったんだろうなぁ。
などと考えてしまう。
 
僕たちは別に嫌いになって別れたわけじゃないので、
食後にメロンのシャーベットを食べ終えた辺りで「ねぇ、やり直そうよ」
なんて手に汗もかかずに言えそうな気がするけど、お互い、やり直しても無駄なことはわかっている。
要するに『コップ』の問題で、また同じことが繰り返されることをわかっているのだ。
 
そんなことを考えながらメロンのシャーベットを食べ終わった頃、
「私たちはこのくらいの距離が丁度いいのかもしれないね」
と彼女が言った。僕も全く同感だった。
 
月に1度、2人で焼き肉を食べに行くぐらいが丁度いいのかもしれない。
僕のコップは、とても小さいから、これで充分だと思う。
2002年06月09日(日)  いずれわかると思う。それじゃ。
今日の夜、妙な電話があった。
僕は友人と食事に行っていた。
食欲のない僕はペペロンチーノを注文し、
ダイエットの最中だという友人は青しそと梅肉のパスタと大根サラダとコーンスープを注文した。
 
食事が来るまで他愛のない話で時間を潰した。
あいつが結婚するらしいよ。ふぅん。あいつは子供が産まれたらしいわよ。へぇ。
あいつがキミのこと狙ってるらしいよ。ウソ!?あのコがあなたのこと狙ってるらしいわよ。ホント!?
 
2本目のマイルドセブンを消して、友人がコップの水を空けた時、僕の携帯が鳴った。
 
知らない携帯番号だったので電話を取ろうか迷ったけど
友人が好奇に満ちた目で「取ってみなさいよ」と言うので、躊躇しながらも電話を取った。
 
「もしもし」
「あっ、もしもし?ごめんなさい。ちょっとお手洗い貸してもらいたいのだけど」
女性だ。聞いたことのない声。友人は誰?誰?と目で合図をしている。
「あ、ゴメンなさい。えっと、誰ですか?」
「その前にトイレ貸してよ。今あなたのアパートの前まで来てるのよ」
僕は受話器を押さえて眉間に皺を寄せて誰だかわからないと友人に首を振る。
 
「えっ。アパートの前って。今僕出掛けてるんだけど」
「じゃあ、トイレだけ貸してちょうだい。部屋は何号室?」
「202号室だけど、鍵閉まってるよ」
「・・・じゃあ、待ってる」
「待ってるってトイレ行きたいんでしょ」
僕は思わず大きな声で言ったので友人が顔を歪める。
ここがレストランだということを忘れていた。
 
「うん。近くまで来たから貸してもらおうかと思って」
「名前も知らない人にティッシュペーパーは貸せないよ」
僕は悪戯っぽく言ったつもりだったが、彼女の反応はなかった。
「で、誰なの?」
「いずれわかると思う。それじゃ」
彼女はそれだけ言って電話を切った。
 
一部始終を友人に話して、無防備に部屋の番号まで教えたことを説教されて、
なんだか怖くなって、これから予定のある友人を無理矢理説得して部屋まで一緒に来てもらった。
友人はぶつくさと小言を言っていたが、温かい紅茶とチョコレートを出したらあっという間に機嫌が直った。
 
「私が彼女とかに間違われたら私が刺されるってこともありうるわね」
友人は口を歪めて物騒なことを言ったけど、なんだか冗談には取れなかった。
2002年06月08日(土)  ケニアと下着。
3年振りに再会した友人はケニアに行っていて、
久々の日本の夜の空気を胸一杯に吸い込んでラッキーストライクの煙と一緒に吐き出した。
 
「やっぱ日本はいいねぇ!」
 
友人の帰国祝いに男5人が集まって夜の街に繰り出した。
彼は国際協力事業団などというすごく曖昧な組織の体育の教師として3年前にケニアに派遣された。
 
残された僕たち5人の3年前は、今と変わらず、あくびをしては誰かに電話をして
今と変わらぬ夜の街で名前も知らない女の子とグラスと体を交わしていた。
 
「やっぱ日本はいいねぇ!」
 
あまりにも友人がそのことばかり乱発するので、
ケニアの生活はさほど辛かったろうと察せられた。
 
ケニアの女性との食事の仕方や口説き方など僕に教えてもどうしようもないじゃないかということばかり教わって
友人などはそれをメモしようとする始末で、そりゃあないよ。
僕たちはどう転んでもケニアの女性と付き合うことなんて、ない。
スワヒリ語はおろか英語だって話せないじゃないか。
 
昔よく行っていたキャバクラは、3年前とは一風違う雰囲気になっていて
どこか妙に垢抜けていて、どこか妙に落ち着きがなかった。
僕とテーブルを挟んで座った女性は、こんな服どこに売ってるんだろうというようなミニスカートを履いて
その細い太腿の間から淡いブルーの下着をチラチラと見せるものだから
僕は目のやり場に困って天井を見たり灰皿を見たり隣の女性の鼻の穴を見たりしていたけど
結局面倒臭くなって、淡いブルーの下着を凝視することにした。
 
今日は一貫してケニアの話題になったので、
帰国してからいろんなところでケニアの話をしていたであろう友人はうんざりした顔で
「ケニアの話は、もう、やめろ」
なんて言い出したので、僕たちは淡いブルーの下着の話題に徹することにした。
 
帰り際、ママに6人で48000円だなんて嘘のようなレシートを見せられたので
僕たちみんなとても驚いて、一番シラフだった僕がママと話合って38000円にしてもらったけど
それでも1人6000円以上なのでとても損をした気分になったけど
淡いブルーの下着の女の子の電話番号を聞いたのでお金のことなんてとても小さく思えてきて
淡いブルーの下着だけがいつまでも僕の頭のシナプスを駆け巡っていた。
2002年06月07日(金)  食えばわかるさ。
最近、何を食べても美味しく感じられない。
もともと朝食は摂らない。昼食は職場の弁当。夕食はコンビニの弁当。
 
最近は夕食もろくに食べなくなった。
全く空腹を感じないし、感じる時があったとしても2・3口食べるとすぐ満腹になってしまう。
最近、夜が蒸し暑くなってきたのかもしれないし、慢性的なストレスかもしれないし、
胃腸のどこかに腫瘍でもできているのかもしれない。それとも胃腸に穴が開いているのかもしれない。
その穴から鶏肉やら人参やらグリンピースが胃腸から出てしまって
血管や筋肉の間に詰まっているのかもしれない。だから体がだるいのだ。
 
1日の成人の摂取カロリーが約2500kcalとするならば、
その半数以上をカロリーメイトやウィダーインゼリーやキリン一番搾りで摂っていることになる。
 
もっと食に対する執着を求めなければならない。
食への執着が皆無だから、それに準じて性への執着も稀少なのだ。
 
時々、提出された書類に判子を押すような、すごく事務的なセックスをしてしまって
ベッドの中で自己嫌悪に陥ってしまうのは、結局のところ、僕に食への執着が少ないからだ。
アントニオ猪木がテレビで「元気があれば何でもできる」と叫んでいたのを見たとき、
あぁ、この人はしゃくれてるのにいいこと言うなぁ。と関心したものだ。
今の僕は元気がないから何にもできない。
 
昨日は全く眠れませんでした。
元気がありません。誰かに救いを求める時があるとすれば
きっと今なんだと思う。
2002年06月06日(木)  3分間の考察。
「愛するとは、互いを見つめ合うことではなく、一緒に同じ方向を見つめることである」
 
危ないよー。2人とも同じ方向見つめてちゃダメじゃん。
何の為に2人が一緒になっているのか考えることだね。
違う方向を見ている2人が一緒になるからこそ、恋愛は楽しいんです。
2人の気持ちがなかなか噛み合わないことこそが恋愛の醍醐味なんです。
 
気持ちが噛み合うということは、いわゆる凸と凹の原理なのです。
気持ちを通す凸と、気持ちを受ける凹。
無理が通って道理が引っ込むってやつですね。
キミが海を見に行きたいって言っても、僕は部屋でゆっくりしたいので1人で行ってきて下さい。
 
キミが凸なら僕も凸。気持ちが噛み合わないのは違う方向を見つめてるから。
冷たいと思われてるけどそれは違います。眠たいのです。兎角休日は眠たい。
眠るための休日です。相手を貪るための休日なんて10代で終わってしまいました。
 
年齢を重ねるほど我侭になっていくのは、
結婚適齢期を迎えているのでも、キミのお肌が曲がり角を迎えているのでもなく、
ただ単に、孤独になっているのです。
つまらない自尊心で築きあげてきた凸になかなか見合う凹が見つからないのです。
身体の凸と凹がどれほど一致してたって、心の凸と凹が一致しなかったら、
まさしく心此処ニ在ラズの性交渉を行ってしまうことでしょう。
 
どうもキミは僕に対して強く当たる。その真意は何なのですか?
僕が許せないのならほっといて下さいな。
キミはいつも言葉の断片に切れ味鋭いナイフを隠し持っているので
気付いたら僕はもう傷だらけになってしまいました。
かまいたちのような言葉を使うのはやめなさい。
上品な言葉で僕を傷付けていくのはやめなさい。
 
僕はこれでも男なんだ。いつもヘラヘラ笑ってるだけじゃあ、ない。
キミがそこまでするんだったら僕だって考えがある。
 
ずっと一緒に居よう。
手を繋いで一緒に同じ方向を見つめて歩こう。
 
矛盾してるって?
 
ハハン。今頃そんなこと気付いたってとっくにラーメンは伸びきってるよ!
2002年06月05日(水)  タブー。
今月、また1人友人が結婚する。
小学校からの旧友で、僕より10センチくらい背が高くて、10倍くらいの色男。
その友人が結婚する。それは僕の周りからまた飲み仲間が1人減ることを意味する。
 
友人が結婚すると、心から祝福したい気持ちと、心から残念な気持ちと、
人一倍焦りの気持ちが強くなる。
結婚願望が全くない僕に対しての焦燥感。
最近の恋愛が長続きしなくなったという挫折感。
人一倍足が短いことへの劣等感。なんてね。
 
結婚願望がないと、逆に結婚について考え込んでしまう。
結婚を意識しない恋愛がしたいけど、それはいささか我侭だ。
それは相手を心から愛しているという延長線上に結婚というものが存在していたらの話だけど。
 
僕が彼女を心から愛していると、その延長線上には別れが待っている。
正確にいうと、その延長線上にある結婚の手前に別れが待っている。
たぶん僕は結婚しても幸せになれない。相手を振りまわして振りまわされて、結局は共倒れだ。
このままひっそりと四季の移り変わりを眺めながら
気が向いたときにつまみ食いをするという生き方が合っているのかもしれない。
 
僕は人一倍足が短くて、その代わりに人一倍気が長いので
何を言われても動じないし、落ち込んだりしないけど、
結婚の話だけは内心ドキドキしているのです。それは、タブーなのです。
 
こんなろくでなしの僕だけど、結婚して下さい。
一生僕の尻をぬぐって下さい。
 
なんてね!
2002年06月04日(火)  ジャスミンティー。
仕事が終わってそのまま休憩室に残り、皆でサッカー観戦。
一喜一憂ならぬニ喜ニ憂。いわゆる引き分け。
 
溜息が出るのはお腹が空いているからです。
 
そのまま後輩数人とファミレスへ。
ジャンボチーズハンバーグが運ばれてくる頃にはワールドカップのことなど忘れてしまって
今年は絶対横浜ベイスターズが優勝するなんて話に花が咲いたが、
今年は阪神かイタリアが優勝すると思います。
 
イタリアといえば、先日イタリアに行ってきました。
 
なんて嘘っ八でも書こうかと思ったけど、物語が進展せずに断念。
 
先日僕を殴ったのは消防士さんだったということでした。
僕の10倍くらい殴られていた友人が言っていたから間違いありません。
消防士も火がついてなければただの一般市民です。
そりゃ酔ったら殴ったりもするでしょうよ。イテテ。
 
そういえば、今日は電話をしました。
イタリアでも阪神でも消防士でもない、僕の中の不思議な場所に位置する女性に電話をしました。
 
話をしながら耳を澄ましました。この声はどこから聞こえてくるんだろう。って。
そりゃあ県内であって室内であるのだろうけど、
やっぱり不思議な感覚はいつまでも取れないわけで
 
しっとりと降る6月の雨の中、
雨宿りの軒下で話をしているような感じということは意外と的中してそうな気がします。
2002年06月03日(月)  とばっちり。
ちょっとしたトラブルに巻き込まれてしまって右目の瞼を1センチほど切ってしまった。
一晩経てば痛みも出血も治まるだろうと思っていたが
今朝目覚めて鏡の前に立つと予想以上に腫れていて、
気分がいいわけじゃないのに常にウィンクしている状態になっていた。
 
傷口に細菌が入って炎症を起こしたのだろう。
仕事が始まる前に看護婦さんに傷の処置をしてもらった。
「猫に引っ掻かれました」
なんて誰が聞いても嘘だとわかるようなことを言ってしまったが
看護婦さんはそれ以上深追いせず、憐れみのこもった表情でガーゼを当ててくれた。
 
居酒屋で友人と酒を飲んでいた。
僕と同じ歳なのに結婚生活が上手くいかないなんて大人びた悩みを抱えていた。
僕の中で今のところ一番の悩みであるパソコンの調子が悪いなんてことに比べると
それは比較するに値しない程、差があった。
 
そしてその差は、酔った状態で如実に現れた。
結婚生活に対して横槍を入れてきた隣のテーブルの客に因縁をかけたのだ。
そして西部劇のようにどちらともなく店を出て、殴り合いを始め出した。
 
僕も慌てて店の外へ出て友人とその客の真ん中に入って制止しようとしたその時、
相手の金の時計をつけた左手が飛んできた。
殴られそうになった途端、周囲がスローモーションになり、その左手に輝く金色の時計の
文字番や時刻や秒針がはっきりと見えた。
(1時20分!)と頭の中で考えた時には大きく後ろへ飛ばされていた。
 
殴られてから、もうどうでも良くなって、痛みと出血に少し驚いたけど、
呆然とその2人の殴り合いと周囲の人が止める光景を眺めていた。
 
「よっぽど大きな猫だったのでしょうね」
と看護婦さんは言ったけど、相手は予想以上に凶暴な熊のようだった。
2002年06月02日(日)  制裁。
「もしもし」
「はいもしもしぃ。ああっ!パパっ!?」
「あ・・え・えっと・・・お・お母さんいますか?」
「はぁい。ちょっと待ってて下さ〜い。(ママ〜っ!電話〜!)」
 
背中から冷たい汗が滑り落ちた。
受話器を持つ手も濡れて、心臓の拍動はTシャツの上からも容易にわかった。
 
「ごめんね〜。ビックリしたでしょ〜」
「ビックリしました。いきなりパパっ!?だもん」
「ハハハッ。ホントごめんね〜。主人と同じ着信音にしてたから子供が勝手に取っちゃったのよ」
 
社会では許される事と許されない事があることは誰でも知っている。
僕がやっていることは無論後者。
許されないと知りながらやってしまうことがあるということも誰でも知っている。
 
彼女は来月、主人の出張で僕の目の前から姿を消してしまう。
それは僕と彼女を安易に引き離す理由だった。
世の中は実に上手くできていて、時にその仕組みに憎悪を抱く。
 
もう少し早く出会っていればよかった。
こういう事態は遅かれ早かれ訪れていただろうけど、遅い方がいいに決まっている。
もう少し早く出会っていればよかった。
 
今日、努力が実を結んだというか幸運が舞い降りてきたというか
とにかく嬉しいことがあって、それをどうしても一番最初に彼女に伝えたかった。
彼女なら本気で喜んでくれそうだし、実際に僕が予想していた以上に喜んでくれた。
 
タイムリミットはあと2週間。
2週間経てば、僕たちの歪んだ関係は有無を言わさず強制終了される。
 
社会的な制裁を受ける前に、ひっそりと幕を閉じる。
そして、こっそりとそれぞれの胸の中に閉じ込められる。
 
永遠に。ずっと愛しています。
2002年06月01日(土)  嫉妬と憎悪とキミとの関係。
久々にイライラしていた。
仕事で溜まったストレスを私生活で、しかも他人に対して発散するということは
人間的に許容されることではない。
 
「9時には帰ってくるね」
彼女はキッチンのテーブルに置き手紙を残して出掛けていた。
携帯にも同じ内容のメールが届いた。
 
僕は仕事で慢性的に疲れていて、職場では精一杯の笑顔でなんとか1日を乗り越えて
重い足取りと消化されつくした胃腸を引きずって部屋へ戻ったが
今日はお休みだから晩ご飯作っとくね。と朝日に負けないくらいの眩しい笑顔で言った彼女がいない。
 
シャワーを浴びて、風呂上がりのビールも我慢して彼女を待つことにした。
ワールドカップを見て、CMの度にチャンネルを野球に切り替えて無為な時間を過ごした。
 
サッカーも野球も終わり、スポーツニュースで試合結果を告げる時間に
彼女は罪悪感を臆面も見せない表情で帰宅した。
 
「どこ行ってたんだ」
思いのほか荒い口調になってしまって自分でも少し驚いたが、彼女はもっと驚いていた。
「メールぐらいすればいいじゃないか。晩ご飯も食べずに待ってたんだ。
だいたいご飯作る気もなかったくせに無責任なこと言うんじゃない。
僕といるより友達と遊んでいる方が面白かったら、そう言えばいいじゃないか。
お前にメールを何十回も送ってくる『タケシ』って奴といる方が楽しければ
いつも一緒にいればいいじゃないか。お前の携帯の着信歴は10件中8件が『タケシ』じゃないか。
僕は見たんだ。メールだって見た。見て何が悪い?彼氏が彼女の携帯を見て何が悪い?
お前が望むなら僕の携帯も見せてやるよ。ほら、見てみなよ。
僕が送ったメールは、今夜だけで5件。しかもお前に『いつ帰ってくる?』って内容だ。
お前はそんなメールが届いていると知っていながら『タケシ』と何やってたんだよ!」
 
僕は一気にまくしたてた。彼女は大きく瞳を見開いたまま涙を浮かべて身体を硬直させて
僕の話をただ聞いているだけだった。そして僕が一息つくと同時に彼女は声を出して泣き出した。
 
これは彼女に対する嫉妬なのか憎悪なのかわからない。
嫉妬ならまだ救いは残されているけど、
憎悪なら救いの道は残されていない。
 
お陰様で僕は彼女に対して嫉妬も憎悪も、基本的な愛情さえろくに抱くことができないので
今日はこんな日記を書いてみましたよ。

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