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華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年11月24日(日)

晩秋に駆ける。 〜俺と聡美の聖夜〜


<前号より続く>


数日後の平日の夜。
街中の至る所が電飾きらめくクリスマス前だ。

俺は聡美と約束し、食事に出かけた。
今日はクラス会なの、と家族に言い残して俺の元へ来たのだ。


前からチェックしてた中華料理屋に入り、ちょっとしたコース料理で舌鼓を打つ。
値段の割にはいいランクの料理が次々と並び、俺達はご機嫌で頬張る。

いつになく楽しい食事だった。


俺は、聡美としばらく逢わない決意を固めていた。

彼の存在を断ち切れない彼女から見れば、俺は彼の代わりでしかない。
男としては、あまり気持ちのいいものではない。

何も「別れる」というのではない。
聡美と少し冷静になれる距離を取ろうと思ったのだ。


そんな俺の思惑を知らない聡美は楽しげに食べ、飲み、話す。
テンション高く、はしゃぐ様子がいつになく可愛い。

俺も決意を見抜かれないように明るく振舞った。



帰り際。
店の駐車場から車を出し、俺を家まで送ってくれる。


車が家の前に到着した。

聡美にお礼を言って車を降りようとしたとき、彼女に呼び止められる。


俺が振り向いた瞬間。


聡美は俺に抱きつき、無言で唇を押し付けてきた。
突然のkissだった。

それも唇を割り、舌を絡ませて来るほどの深く濃厚なkiss。
俺は思わず聡美を抱き締めた。


聡美は初めて俺の胸元に飛び込んできた。

こんなに積極的な彼女は初めてだ。

驚きを隠せない俺。
聡美は微笑んで、静かに言った。


 「驚いた?」
「・・・あ、ああ」

 「だって・・・」


一瞬つまった後、メガネの奥の瞳が潤み出す。


 「平良くんと、逢える・・・最後の夜だから・・・」
「どういう事?」

 「・・・え、うん、だって・・・もうすぐお正月でしょ?」
「・・・まあね」

 「主婦って年末年始は大変なんだから!」


聡美は何か言葉を飲み込んで、とっさに茶化した。

そしてもう一度、戸惑うに固く閉じる俺の唇にkissしてくれた。
俺の唇を軽く咥えるような感じの、名残の接吻。

軽い塩味がした。
聡美の涙の味だろうか。

俺を降ろし、彼女は家族の待つ自宅に向かって走り去った。







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年明けに年始の挨拶をしようと思い、聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「あけましておめでとう。去年は突然の出逢いだったけど・・・・
 本当に楽しい付き合いが出来ました。今年も宜しくね」



しばらく経った1月中旬。俺は聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「お久しぶりです。平良です。元気ですか?
 最近電話が掛って来ないのでチョッピリ寂しいです。電話待ってます」



さらに時を経た2月。春の兆しが見えてきた頃。
もう一度俺は聡美のPHSに電話した。
留守番伝言だったので、メッセージを吹き込んだ。

「ご無沙汰です、平良です。もうすぐ春だね!温かくなりますね。
 また時間を見つけて、デートしましょうね・・・絶対連絡してよ!」



いずれも聡美からの連絡は無かった。


俺は年末に逢った時、しばらく距離を置こうと決めていたはず。
しかし俺から何かと連絡を取っている、この矛盾。

俺が考えていたのは、冷静になるために距離を取る事。

伝言が届いていないはずがない。
聡美は自分の決断に従っているのだ・・・


聡美の残した言葉・・・俺と逢える、最後の夜だから・・・

彼女が決めていたのは、俺との最後の密会。

彼女の方が俺よりずっと上手だったと悟ったのは、
恥ずかしながら、この2月の電話の後だった。


俺との最後の密会と決めていたから、
あれ夜はあれだけはしゃいで大胆に振舞ったのだ。


なぜ最後の夜だと決めたのか、分からない。

前の彼とよりが戻ったからか?
俺との関係が進むのが怖くなったのか?
それとも・・・旦那をもっと大事にしようと心に決めたのか?


いい風に考えていこうと思うのだが、
取り残された立場だと、どうにも前向きな発想が出来ない。


俺は自分の携帯から聡美のPHSの番号を消したのは、その3ヵ月後。
5月になってからだった。

連絡があるかもしれないから待っていようと思ったから、消せなかった。
女々しい気持ちから、消せないでいた。


結局、いつまで待っても聡美からは何の音沙汰も無かった。




俺は毎年クリスマス前になると、聡美が教えてくれた場所へ向かう。
一人で車に乗って、毎年趣向を凝らす各家庭の電飾を堪能している。


その景色を眺めていると、俺は今でも思い出す。


未だ見ぬ女を信じ、寒い夜凍えながら突っ走った夜の国道。
ホテルでの昼食後に連れてきた俺の部屋での出来事。
この夜景を見ながら、複雑な思いで交わした口付け。

そして、聡美の最後の言葉。


恋はより強く好きになったほうが負けだ、と言う。
だとすれば、俺の完敗。

それも連絡が取れなくなってから思いがより強くなった。
だからこそ、俺の完敗。


距離を置くつもりが、それ以上の力で突き放された現実に思わず嘲笑する。



奥殿陣屋周辺の集落でのイルミネーションは、
各家庭の飾り付けの域を越えた完成度と美しさを持つ。

年に一度、ほんの半月ほどの儚い夜景。

その季節が、今年ももうすぐ巡って来る。



☆ 毎度のご訪問&ご高覧ありがとうございます。
  今回は具体的な地名が数多く登場するので、地元の方は驚かれたと思います。

  ご心配とご指摘のメール&掲示板の書き込み、ありがとうございます。

  「華のエレヂィ。」は暴露日記ではないので、
  ある程度の脚色と個人の特定が出来ない配慮をしてあります。

  その臨場感をも含めて、「華」の世界を楽しんでいただければ幸いです。


  お気に召しましたら、投票&My登録をお願いします。  

2002年11月23日(土)

晩秋に駆ける。 〜電飾の夜景〜


<前号より続く>



3週間ほど経ったある日。

それまで何回か電話で話した。

先日の「未遂」の件以来のわだかまりも解け、相当心がほぐれた俺と聡美。


待望の次のデートの日取りが決まった。


「来週の木曜日の夜、私と付き合って欲しいの」
 「何?嬉しいね!俺達、初めて結ばれるんだな」

「(笑)違うよぉ、ちょっとだけ、見せたいものがあるの」
 「何だ、そういう事かぁ・・・いいよ」



当日の夜7時。
俺は愛知環状鉄道・永覚(えかく)駅で待ち合わせる。

電車の来ない時間は全く無人の寂れた駅で、俺は独りで彼女の到着を待っていた。

間もなく聡美のRV車が到着する。


俺は車に乗り込んで、シートベルトを締めた。

そして彼女と笑い話をしながら、
「俺に見せたいもの」のある場所まで向かった。


車は聡美の自宅の方へ向かう。


「なに、ご自宅へご招待?」
 「(笑)・・・もっと綺麗なものよ」


その住宅街の脇を通り抜け、小さな峠を下り、山の中へ入る。


小さい交差点を曲がり、鉄板の看板が目に入る。


「奥殿、陣屋・・・?」


旧武家屋敷で今は観光施設である、奥殿陣屋の方へと向かっていた。

暖かい季節なら花壇に様々な花が咲き、なかなか見所のある奥殿陣屋だが、
この時期の、それも暗くなってから何があるのかは知らない。


 「ここよ」


聡美は陣屋近くのある神社の駐車場に車を停めた。

俺が外へ出ると、今まで見たことの無い光景が広がっていた。


点在する集落の家々に輝く、色とりどりのイルミネーション。
それも各家が独自で工夫を凝らして、それは見事な飾り付けをしている。


この地区はクリスマスが近くなるこの時期、
町興しも兼ねて各家で電飾のイルミネーションを飾るのだ。
それが今や恒例行事となり、ちょっとした観光名所になっている。


アニメのキャラクターを模した派手な電飾。
滝のように光が流れる大掛かりな電飾。
ネオンのように賑やかなイルミネーション。
チューブを器用に折り曲げて、MERRY X'MAS と表した看板。


それが宣伝などではなく、個々の家で手作りで行っているのだ。

見物客は家族連れや若いカップルも多く、三河以外のナンバーの車も多い。


「すごいねぇ、各家でやってるんだ!」
 「でしょ?結構綺麗だし、安っぽくないでしょ?」

「うん、見事だよな・・・」
 「本当は彼と来たかったんだ・・・約束してたから」


俺は次の言葉を飲み込んだ。
思わず聡美を責める言葉が出そうになったからだ。

それからしばらく無言で眺める俺。

聡美は俺の腕を引っ張って、神社の鳥居の中へ引っ張って行く。

石段を上がっていくと、社の建つ小高い場所に出た。


 「ここからだと、イルミネーションが綺麗に見えるよ」
「本当だ・・・」


その小高い場所からは、点在する各家庭の電飾が一望できる。


聡美は俺に腕を絡ませ、もたれてきた。
俺も彼女の身体を受け止める。

しばらく見つめていると、聡美の視線が俺に向いているのに気付いた。


聡美は俺と目が合うと、俺の名前を呼んで目を閉じた。


俺は静かに、聡美の唇にそっと俺の唇を重ねた。

ほんの数秒だったか、もう少し長かったかは覚えていない。

息も白い寒空の下、俺は聡美を抱き締める。
腕の中で、聡美は俺に告白する。


 「この前、H出来なくてゴメンね・・・」
「いや、何も気にしてないよ」

 「私ね、やっぱり・・・今はしたくないの・・・」
「・・・分かってるよ、無理しなくていい」

 「でも、でもね・・・平良くんの事、すごく好きなの・・・」
「ありがとう・・・」

 「すごくのめり込みそうな自分が怖いの、でもいつか・・・いつか・・・」


次の言葉が出てこない聡美の額に、
俺はわざと茶目っ気ある音を立ててkissをした。

ほっとしたのか、聡美も笑みを漏らす。


聡美は何とか自分の過去と決別し、殻を破ろうとしていた。
しかし俺には、その行動を応援する事しか出来ない。

飛び込んでくるのなら、俺は両手を大きく広げて受け止めてあげる。
でも腕を掴み、自分の懐に引っ張り込むことは出来ない。


聡美を抱きながら、前から思っていたことを改めて思う。
彼女が殻を破って飛び込む相手は、きっと俺ではないのだろうと。


しばらく寒さに耐えて静かに眺めていたが、時間には限りがあった。

今日は聡美の息子は学習塾で帰りが遅いので出来た時間なのだ。
そろそろ迎えに行く時刻になる。


 「平良くん・・・ゴメン、塾の時間が・・・」
「分かったよ、帰ろう」


俺を名鉄・土橋駅まで送ってくれた聡美は、
車を方向転換させて息子の通う塾へと向かって行った。

去り行く車を見送りながら、俺はある気持ちを固めつつあった。



<以下次号>








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2002年11月22日(金)

晩秋に駆ける。 〜俺の部屋〜


<前号より続く>



「男の部屋って、むさ苦しいでしょ?」
 「まだ綺麗に整頓している方じゃないかな・・・想像していたよりは」

「想像か。ありがとう(笑)」


先程のケーキをつまみつつ、紅茶を味わう。
湯にふやけた茶葉の香りが、心の奥からの緊張をほぐし、緩める。

サトミは本当にお喋りが好きなようで、ずっと色々な話をしていた。
ハスキーな声と豊かな表情で、本当に楽しそうに話をする。

俺も相槌を打ちながら、彼女の話術に引き込まれていく。


 「だって主人は話し相手にならないもの・・・聞いてくれないの(笑)」
「そうかぁ、俺ね、結婚したら『夢』があるんだ」

 「何?改まって(笑)」
「俺ね、奥さんとこうやってお話したいんだ、一日の出来事を」


夕食の後や就寝前のひとときの時間、伴侶とその日の出来事を話す。

お茶やコーヒー、または軽い酒を準備して。
テーブルを挟むのではなく、伴侶の隣りに座って。
体温の伝わる距離で、相手の顔を見て。
ほんの10分程でも構わない。

一日で二人が離れた時間があった時は。


続けるには、きっと相当の忍耐と努力が必要だろう。

しかし会話の無い夫婦関係は、肉体関係の無い関係よりもある意味で寂しい。

夫婦は所詮、他人同士の関係。
他人同士の夫婦がいい形の付き合いを続けるために必要なものとは何か。

それは互いへの過重な甘えや馴れ合いではないだろう。


明るく、温もりのある家族関係とは何か。
俺は『まず会話』だと思う。


「聡美の家じゃどう?」
 「主人との会話かぁ、無いなぁ・・・」

「寂しいねぇ・・・忙しいから?」
 「忙しいって、一緒に住んでいるんだよ?・・・構って貰えないんだよね」

「昨日も一緒にボジョレ・ヌーヴォー飲んでるのに?」
 「主人がお酒に好きだから付き合っているのにね」


一緒に住んでいる夫婦なのに、会話を交わす時間さえ取れないはずが無い。
それはその努力を怠る方にこそ、問題がある。

専業主婦とはいえ、意思を持つ一人の人間だ。
寂しさを紛らわせるために、外へ目を向ける事だって珍しい事じゃない。


大抵の女の浮気は、された男の方にこそ反省すべき問題があるのだ。



男と女が同じ狭い空間に居る。
意識しない訳がない。

俺は聡美ににじり寄り、そっと掌で肩を抱いた。


途端に俯き、緊張する仕草を見せる聡美。

俺は覚えている。
最初に会った時の、ヘルメットを止める顎紐の事。


俺は聡美をさらに抱き寄せる。
抱いていた肩の手を首に軽く巻きつけて聡美の顎に触れた。


 「んっ・・・」


身をすくめて、くすぐったそうな声を漏らす。


「くすぐったい?」
 「・・・」


俺はそっと耳元で囁いた。


「聡美、敏感だもんな・・・分かってるよ」
 「・・・ダメ」

「ダメ?」
 「・・・うん、ダメ・・・お願い・・・」


戸惑い交じりの拒否ではない、しっかりと意思のある否定だ。

俺は手を止めた。


「ゴメンね・・・抵抗ある?」
 「違うの・・・Hしたくないから・・・」

「そうか・・・でも何故?」


聡美は俯きながら理由を述べた。


 「Hしちゃうと・・・男の人って遠くに行っちゃうじゃない・・・」
「どういう事?」


男は女が身体を許すと、それに満足してしまう。
そして女が身体より深い部分にある心を許した頃に、男は去っていく。

その経験が聡美の心に大きな傷をつけていた。

それは別れた彼より、少し前の話だという。


「・・・そうか、この前の彼だけじゃなかったんだ」
 「・・・だってフシダラだと嫌われちゃうもん」


聡美は俺に話さなかったが、まだ過去にも寂しい経験をしていたのだ。


 「平良君とは永く友達でいたいから・・・」


俺は躊躇したが、聡美を強く抱き寄せた。
聡美もなされるがままに、俺に身を任せた。

太めの糸で編まれたクリーム色のハイネックセーターの上からぎゅっと抱く。
柔らかい感触の、聡美の肉体。
顔を背けるが、彼女の呼吸は無意識に深くなっている。
自分の体内の発熱を抑えるために、落ち着こうとしているのか。


そっと部屋のカーペットの上に聡美を横に倒し、唇を奪う。

セーターの上から、胸のふくらみに右手を掛ける。


そしてセーターの下から手を入れ、ブラを上にずらした。

掌で感じた柔肌のふくらみの感触。
その頂にある尖った粘膜の感触。

聡美の表情は戸惑いを隠せない。

俺はふくらみに掛っている掌に力をいれて、揉む。

聡美は脱力し、熱い溜息を漏らす。
俺はさらに揉みしだく。


深い溜息から微かな声になる。

セーターの中で、聡美の乳首を摘む。
微かな声が確かな声になる。

指先で弄ぶ乳首が、確実に充血している。
その姿を見なくても、指先で感じる弾力が違ってきた。

スカートの中に手を入れ、ストッキングの上から聡美の内腿を指でなぞる。
可愛い声を上げながら、腰を退く。


内腿を這う指は、腿の付け根の奥に辿り付いた。

指先にはストッキングと下着に阻まれた、聡美自身がある。

指先をストッキングの股間の縫い目に沿ってなぞると、しがみ付く。
指先に力を込めて突起を押し込むと、聡美は全身をひくつかせる。


聡美は声を震わせて俺に言う。


 「ね、止めよ・・・」
「嫌なの?」


聡美は縦に頷く。

もう一度聞いた。
聡美はさらに強く縦に頷く。

俺はスカートの中から手を出し、聡美を抱き締めた。
安心したのか、きつく身体に力を入れていた聡美が一気に脱力する。


 「ごめんなさい・・・でも、やっぱりダメなの」
「昔を思い出すんだ・・・」

 「うん・・・怖いの、抱かれてから嫌われるのが・・・」
「前の彼のこと?」

 「・・・(頷く)・・・主人もいるし」


聡美は俺の腕の中で攻められながら、複雑な感情を抑えていた。

昔の男から受けたトラウマ。
前の彼への断ち切れぬ恋慕。
自分を求める俺への恐怖心。

そして・・・
何度も裏切る旦那への罪の意識。


俺は自分の欲望に逆らって、聡美から手を引いた。
聡美は乱れた着衣を恥ずかしそうに戻す。

そして、何事も無かったかのように振る舞い、話す。

よく出来た女だ。



「今度、何時逢えるかな?」
 「う〜ん、平日なら空けられるよ」

「じゃ、またお食事デートになるかな」
 「・・・そうだね」


一瞬の嫌な間のあと、聡美は精一杯の笑顔で答えた。
やはり、先程の俺の行為の未遂が引っかかっているのだろう。


俺はトヨタホテル前まで送ってもらい、彼女は家路についた。

彼女が運転する旦那の会社の新型RV車を見送りながら、俺は考えた。

次はどうやって聡美を燃えさせようか、と。
どうやってその熱で彼女の持つバリケードを溶かそうか、と。



<以下次号>







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2002年11月21日(木)

晩秋に駆ける。 〜ボジョレ・ヌーヴォー〜




数日後、俺は聡美のPHSに電話した。
旦那が居たりして都合が悪い時は、留守番伝言になっている。

数秒の呼び出しの後、生憎と留守番センターに転送された。


俺は咳払いをして、伝言に吹き込んだ。


「平良です。先日はありがとう。
 またゆっくりとお話したいので都合が良ければ、お電話ください」


30分後に電話が鳴る。聡美からだった。


 「さっきはゴメンね!お風呂に入ってたの・・・」
「そうか、それはそれは(笑)」

 「私こそ先日は、夜遅くにありがとう・・・楽しかったよ」
「俺も!また会いたいよ」

 「私なら、平日の昼間なら大丈夫だよ」
「分かった、何とか都合つけるわ」


この週の金曜日の昼前に、会うことになった。



金曜日。
待ち合わせ場所になった、名鉄トヨタホテル前。
名鉄豊田市駅の目の前にそびえる、当時出来立ての新しいホテルだ。

ホテルの2階と連絡するデッキのエスカレーター下で、俺は待っていた。


 「お待たせぇ!」


声の方向を振り向くと、聡美が満面の笑みで小走りに近づいてきた。
手を振りつつ近寄ってくる彼女に、俺も手を上げて答える。


「いやあ、都合付けてもらってありがとう」
 「こちらこそ!お腹すいたでしょ?」

「ああ、朝食抜いたから(笑)」
 「(笑)ダメだよぉ」

「じゃ早速・・・この近くの店に行くの?」


俺はこの駅近辺の店は大体分かる。
どこかへ連れて行こうかと案内しようと思った瞬間だ。


 「お店は決めてあるの!」
「どこ?」

 「ここ!」


彼女が白く細い指で示した先は、すぐ脇の大きな建物。
ホテルだった。


 「私ね、ここに行きつけのお店があるの」
「・・・」


俺が次の言葉が出なかった。

ホテルでランチとは・・・さすがは将来の重役婦人だ。

今ならホテルのランチバイキングなどが有名だが、
この当時はまだホテルのランチは豪華さが売りだった。


俺は聡美の案内に従って、エレベーターに乗る。

ドアが開いて下りると、そこは落ち着いた雰囲気のロビーだった。
様々な店の入り口が並ぶ中、彼女は迷わず和食の店に向かった。

いかにも高そうな店である。

俺達は奥のテーブルに陣取り、上着やコートを脇に置く。


この店のランチメニューは数種類しかない。
聡美は手馴れた様子で注文し、俺は彼女と同じ物を頼んだ。


 「ここね、友達とよく来るの」
「そうなんだ・・・いいの、俺と一緒で」

 「いけないって言ったら・・・帰る?」
「勘弁してよ、お腹もすいたし(笑)」


海と山の幸、季節の食材を贅沢に使った色彩豊かな御膳が二つ。
独身男には到底縁の無い程の豪華な昼食の登場だ。

物珍しげに箸で探る俺と対照的に、美味しそうに次々と頬張る聡美。


「そういえば、昨日ね・・・主人とボジョレ・ヌーヴォー飲んだの」
 「ボジョレ・ヌーヴォーって、ワイン?」

「そう!平良くんは飲んだ?」
 「・・・・・・いや、まだ(笑)」


昨日。
そういえば・・・

11月の第3木曜日はボジョレ・ヌーヴォーの解禁日だ。
テレビのニュースでも賑やかに言っていた。

俺は当時ワインの事をほとんど知らなかったので、
そのボジョレ・ヌーヴォーがどういうものかを知らなかった。


俺は恥を忍んで、聡美に尋ねた。

聡美は微笑みながら、丁寧に教えてくれた。


ボジョレ・ヌーヴォーの産地、ボジョレ地区はフランス、
ブルゴーニュ地方の一番南に位置する、比較的広い地域のことだ。

その地方の23村で取れたぶどうを使い、
その伝統の製法で造られたワインのみが名乗れる名前だという。

シャンパンはシャンパーニュ地方で作った物のみが名乗れるのと
同じ仕組みだそうだ。


通常数ヶ月以上かかるワインの発酵を、
特殊な方法により1ヶ月半で製品に仕上げられたワインの新種。


 「それがボジョレ・ヌーヴォーなの。分かった?」
「・・・わかりました、先生(笑)」


発酵期間の短さもあり、フランスワイン独特のコクや濃厚さは無いものの、
フルーティーでさっぱりした飲み口が魅力なのだそうだ。


そして、世界でも時差の関係で日本が最も早く解禁される国の一つ。
昨日がその解禁日だったのだ。


日本中のワインファンがお祭り騒ぎで飲んでいる光景しか印象に無いし、
相当の高級品だと思っていた俺には、縁の無い物だと思っていた。


「へぇ、ボジョレ・ヌーヴォーかぁ・・・美味しそうだね」


そこまで話を聞けば、酒好きの俺としても興味が湧くもの。
毎年旦那と飲むという聡美は冷静に解説してくれる。


 「・・・でも、ワインとしてはまだ若いよ、発酵期間も短いし。
  まあ一つのお祭りだし、季節の物として味わうのはいいけどね(笑)」

「そうなんだ・・・飲んだ事無いから分からないけど」
 「でもそんなの高いものではないから(笑)」

「そうかぁ・・・一緒に飲んでくれる人がいれば良いけどね」
 「じゃ、しっかり探さなきゃね」

「なんだ、聡美さんは一緒に飲んでくれないの?(笑)」
 「私?嫌だぁ・・・もっとふさわしい人を探して(笑)」


豪華な昼食を終えた後だが、もう少し時間がある。
俺は聡美に提案した。


「これから俺の部屋に来ない?」
 「今から?いいの?」

「お茶くらいしか出せないけど、それで良ければ」
 「恥ずかしいな・・・でもお邪魔しようかな」


好奇心旺盛な聡美は、そういって興味を示した。


しかしお茶だけでは寂しいと思った俺は、
ホテル横のサティ店内のケーキ屋でショートケーキを2つ買った。

サトミが運転するRV車で俺の家まで移動し、近所の路上に駐車する。

そして俺は彼女を部屋に招き入れた。


 「私ね・・・男の子の部屋に来るの、あまり経験無いんだ・・・」


緊張した様子のサトミはそう言いながら、物珍しそうに俺の部屋を見回す。
物が多い、六畳一間の狭い部屋だ。
一応整理整頓をしていたおかげで、散らかってはいないが。



<以下次号>








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2002年11月20日(水)

晩秋に駆ける。 〜早朝の街〜


<前号より続く>



俺はサトミを後部に乗せ、住宅街を発進した。

248号線に戻り豊田市内に入った俺たちは、道沿いのファミレスに入った。
駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いで店内に入る。


そして席に座り二人で上着を脱いだ後、改めて挨拶をしてサトミを見た。

ソフトソバージュの髪が良く似合う、可愛い女性だった。


「寒かったでしょ(笑)・・・ゴメンね」
 「初めてバイクに乗ったけど、楽しかったな」

「でもこの時期はやっぱり辛いよね・・・」
 「本当は私が車を出せれば良かったんだけど・・・」


サトミは自分用に新型のRV車を持っていた。
しかし深夜に車を出すと、子どもや近所に気付かれる。
なので、この時間は敢えて自分からは動かない。

彼女はそこまで計算済みだった。


「でも、改めて明るい所に来ると・・・変な感じだね(笑)」
 「うふふ、恥ずかしいよ・・・」

「まさか初めて電話で話した数時間後に会ってるとはね」
 「・・・無茶言うオバサンでゴメンね」

「俺もこういうハプニングは大歓迎だから(笑)」
 「でもあまり長く居られないと思うの、子どもも寝てるし・・・」


やはり家の事が気になる様子のサトミ。
母親としては当然か。

ドリンクバーで熱い飲み物で暖を取りつつ、色んな話をした。

本名も「聡美(仮名)」と読む彼女は、電話よりも緊張をしているようだった。
他愛もない話から、彼女の愚痴になる。


 「私ね・・・あの街、好きじゃないんだ・・・」
「そう?いい住宅街じゃん。閑静だし」

 「でも、すごく窮屈なの。何をやっても全て見られている感じで」


あの住宅街・・・・聡美の家族が住む町。

主に自動車企業の役員達が住んでいるのだそうだ。
いわば近所が全て会社関係なのだ。

会社の上下関係は、その住宅街に住む家族の上下関係でもある。

何かあれば、すぐに暇な主婦どもが噂や悪口を垂れ流す。
それが会社での評判や家族の評判に間接的に響いてくる。

聡美の旦那は実力者なので直接的に風評を受ける事はなかったのだが。

それでも地位の低い家庭への心無い風評や悪口を聞かされ、
正義感の強い聡美は幾度も気分を害していた。
主婦団の「女の付き合い」に辟易していた。

窮屈な街から引っ越そうと何度も旦那に相談した。

どうせなら我が侭を言うな、と叱られても良かった。
辛いだろうけど頑張れ、と同情されただけでも嬉しかった。

その時旦那は聡美に目を合わせる事もなく、生返事で聞き流したのだ。


彼は聡美の内なる苦しみを理解しようとしなかった。
その話題以外でも、聡美からの会話に乗ろうとしない。

結婚して一つ屋根の下に住むのに、孤独だった。


 「私ね、働きたかった・・・女に生まれた事を後悔ばかりしてたの」
「難しいんだねぇ、女同士の人間関係って」

 「仕事している時の方が、どれだけ楽だったか・・・」


のちに働くようになった職場で、偶然芽生えた不倫の恋。
10歳以上年下の彼は、若さからか熱心に聡美へ近づく。

「結婚していても構わないから、僕と付き合って!」と言い続ける。
非常識な告白に、聡美は何度も考え直すように言った。
しかし、彼は退き下がならかった。

そして彼の自分を思う熱い心に打たれ、交際を始めた。


ようやく心の寄り所を見つけた聡美。
その年下の彼の存在に我を忘れていった。


 「だから会う時は大変だったの・・・誰かに絶対に見られないように」
「どうしてたの?」

 「旦那が出張で居ない時なんかに・・・深夜に会ってた」


聞き慣れない車の排気音一つで近所同士が窓の外を覗き合う程、
話題作りに余念の無い住宅街の主婦たち。

例の中学校の正門は住宅街の外に向いているので、
まだ音がして覗かれても見えないのだという。


 「どういうデートしてたの、そんな窮屈な時間で?」
「・・・すぐにホテルに行ってたよ」

 「そうかぁ・・・でも目的が一つなら手っ取り早いよね(笑)」
「違うの。すぐに・・・始める訳じゃないの」


誰の目も届かない密室。
そこで彼と彼女は肉体を重ねる以外に、様々な事を話し合ったという。

彼の情熱は、聡美の忘れていた女の部分を呼び覚ました。


 「それでね、初めて思った・・・女に生まれて良かったんだって・・・」


照れて俯き加減だったが、彼女の実感から出たその言葉が印象的だった。


元々キャリア志向の強かった彼女。
バブル景気の勢いもあり、さらに法律も整備されて、
女性が社会に進出する絶好の時期だった。

しかし家族と周囲の強力な勧めを断り切れずに、
当時企業の有望株だった旦那と見合い結婚する。

社会で働き、自分の存在をしっかり示していた聡美にとっては、
専業主婦として家庭で過ごす日々は物足りないものだった。


女に生まれなければ味わう事の無かった、空虚感。


そして旦那が役員に出世して引っ越した住宅街での顛末。
徐々に聡美に感心を無くしつつあった、旦那。
成長し、少しずつ自分の手を離れていく、息子。


消化不良の苛立ちが雪原を転がり落ちる雪玉のように成長する。


そんな時に仕事を始めた。
収入など二の次の、自分の暇つぶしのための事務仕事。


そんな時に出会ったのが、10歳年下の彼。


何度目かのデートの時に誘われたホテル。
戸惑うままに抱かれた最初のSex。

情熱的に自分の身体を求め、愛してくれる彼の全てに、
旦那では感じた事の無かった女の悦びを知ってしまう。


女に生まれなければ味わう事の無かった、性の快楽。


聡美は自分でも気付かなかった内なる全てを彼にさらけ出し、
自分が何を求めていたのかが見えてきた。

 
 「女の幸せって、色々あるだろうけど・・・こういう形もあったんだって」
「気付いたんだ?」

 「・・・うん」
「でも、その彼とは終わっちゃったんだ」

 「・・・だからっていう訳じゃないけど・・・すごく寂しくて」
「いいよ、分かるよ・・・」


サトミは他にも色々な話をしてくれた。
時間があっけない程早く経つ。


「もう時間も経ったし・・・送っていくよ」
 「ありがとう・・・」


俺は聡美を住宅街まで送って行った。
待ち合わせた中学校に到着し、彼女はヘルメットを脱いだ。


「また会ってくれる?」
 「私で良いの?」

「俺、私が良いの(笑)」
 「分かったよ・・・ありがとう」


彼女のPHSの番号を教えてもらって、俺は聡美と別れた。


午前3時過ぎの住宅街。
凛と冷えた静寂に、深く眠る。

まだこの街が目覚める時間ではない。

俺は待ち合わせ場所に彼女を送り届けた。
ここから彼女の家まで、およそ100m。

白い息を吐きながら、彼女は歩いて自分の家へと帰った。
その距離を歩く間に、自分を女から母へと切り替えるのだ。



<以下次号>








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2002年11月19日(火)

晩秋に駆ける。 〜顎紐〜



<前号より続く>

 

サトミは先日、10歳以上年下の彼との別れを経験していた。

熱くなり過ぎた彼の行動が、秘め事で済まされなくなる危険を招く。
人知れず迷った挙句、サトミは彼に別れを通告した。


嫌いじゃないのに告げなければならない、別れ。
去られる立場も辛いが、好きでいるのに去る立場も辛い。

それ以上の詳細は聞かなかったが、
彼女は心に大きな穴があいていたのは容易に想像出来る。

結果的に最悪の事態・・・秘め事の発覚・・・は避けられたようだが、
その引き換えに失ったものは、彼女にとってはあまりに大きい。



俺も数多くの不倫や浮気を見てきたし、女性側の立場の話を聞いてきた。

しかし今回の件ではもし結論が「離婚する」だとすれば、
普通の話し合いだけでは済まない。


役員婦人の不倫とは・・・発覚すれば会社的にも大きな騒動になる。
旦那の積み上げてきた会社人としての人生を根底から崩しかねない。


そこまで理解しているはずのサトミが敢えて走った、不倫。
約束された、恵まれた生活。

その旦那への背信行為には、一体どういう意図があったのだろうか。


「俺、貴女に興味あるなぁ・・・どういう人なのか」
 「私?どこにでも居る普通のオバサンよ(笑)」

「みんな同じような事言うよなぁ(笑)」
 「私もね、平良さんに興味あるな・・・」

「本当?」
 「だって、私の話を優しく聞いてくれるもの・・・」

「そうかなぁ?」
 「こんな話まで優しく聞いてくれる人、誰もいなかった・・・」


やはりふと寂しそうな口調になるサトミだが、
俺の軽口も好意的に受け止めてくれる。

話は弾み、逢おうという段階まで進んでいた。


「俺ならいつでも構わないよ(笑)」
 「・・・本当にいつでもいいの?じゃあね・・・」

「今夜っていうなよ(笑)」
 「・・・すごい、何で分かったの?今夜逢おうか?」

「今夜?!今から?」
 「だって・・・思い立ったが吉日っていうじゃない・・・」

「今夜かぁ」
 「ダメ?だったらいいよ、ゴメンね・・・」

「・・・分かった!行くよ!」
 「本当に?」

「でもね、俺、車無いんだ・・・バイクしかない」
 「バイク・・・なの」


サトミは俺が自動車で行動するものと思っていたようだが、
俺は当時バイクしか持っていなかった。


 「後ろに乗れる?」
「それは大丈夫。じゃあ、寒くない厚着の格好と手袋を準備しといて」

 「それだけでいい?・・・」
「車じゃないから・・・ゴメンね」

 「いいよ、でも気を付けて来てね」



今から1時間後に、岡崎市のとある中学校の正門前に行く事になった。
閑静な住宅街、そこが最も外れにあり、外から目に付きやすいという。

俺は道路地図でその中学校を確認し、そこまでの一番単純なルートを探る。


バイクの冬用の重装備は着替えるだけで一苦労だ。
身体が冷えて操作に支障をきたすのが最も危険なので、しっかりと着込む。

ヘルメットを2個持ち、俺はドアを開けて部屋を出た。
鉄板の階段を駆け降りて、ロックを掛けてあるバイクに向かった。


ロックを外し、イグニッションキーを差し込んで右いっぱいに廻す。
ライトに明かりが、二連メーターに全ての警告灯が点る。

底冷えする深夜。

俺の愛機が目を覚ます瞬間だ。


サトミに渡す予備のヘルメットをラゲッジネットで固定する。
重装備に着込んだ身体でバイクに跨り、シフトをニュートラルに入れる。
そしてクラッチを握り、右手の親指で始動ボタンを押す。


モーターが冷え切ったエンジンを廻す。
数秒後、自らの燃料でエンジンが動き出した。

寒気に冷えた複雑な構造の鋼鉄が内燃熱を帯びる。

ハンドル脇のチョークレバーを手前に引く。
重低音の直列4気筒が白煙を吹き上げつつ、力強く歌い出す。


俺はクラッチを再度握り、シフトをローに落とす。
右手でアクセルをふかしながら、クラッチを繋ぐ。


唸りを上げるエンジンの動力が太い後輪に伝わり、
愛機は唸りを上げて、鞭を入れられた馬のように前へ飛び出した。

住宅街の路地を曲がり、国道248号線に繋がる細い市道へ出る。

こうして俺は未だ見ぬ待ち人の所へ向かった。



さすがに通行量も減った深夜の国道を、俺は飛ばしていく。
そして地図でチェックした交差点を左に折れ、さらに奥へ進む。

岡崎市内とはいえ、ここは豊田市との境あたり。
北側にオレンジ色にライトアップされた工場群や車道が見える。
遠くの東名高速、近くの国道に走る、まばらな車が見えた。


サトミの住む住宅街に入り、
入り組んだ細い道を細かく地図で確認しながら進んでいく。


細い道や一方通行の表示に手間取り、
チェックした中学校の正門にたどり着いたのは、
約束の時間から僅か3分前だった。

新しい住宅街の中にあるその学校は新設校なのか、
タイル貼りで飾られた、綺麗な外観である。


俺は街灯の下でバイクを止め、エンジンを切った。
途端にその周辺は元の静寂に包まれた。
遠くで車の音はするが、それ以外はほとんど音がしない。


俺はヘルメットを脱ぎ、バイクにもたれてサトミを待った。

吐く息が水銀灯に照らされて、さらに白く見える。
吹く風も無い住宅街は、街路樹の葉の揺れて散る音さえ聞こえない。


約束時間からすでに10分が過ぎている。
路面からの冷気が確実に俺の身体を冷やしていく。

すっぽかされたか、騙されたか…
予想していたとはいえ、良からぬ思いがよぎり始める。
あと10分、いやあと5分待って来なければ・・・帰ろうと思った。


空しい時間が過ぎていく、そんな中・・・

遠くから微かに足音が聞こえる。


俺がふとその音の方向を向くと、一人の女性が近づいてくる。
やがて街灯に姿が浮かび上がってきた。
メガネをした、小柄な女性だ。


 「平良さん・・・ですよね?」
「ええ、サトミさん?」

 「ごめんなさい・・・突然子どもが起きちゃって、遅くなって・・・」
「そうか・・・取りあえずどこかへ行こう・・・寒いから(笑)」

 「良いけど・・・近所じゃまずいけど遠くへも行けない」
「だったらどこかファミレスで」

 「うん」


サトミにヘルメットを渡す。
しかし上手く顎紐を留められない彼女は、四苦八苦していた。

俺はグラブを脱いで、サトミの顎紐を留めてやる。
偶然顎先に俺の指が触れ、彼女はキュッと身をすくめた。

俺は見逃さなかった。



<以下次号>








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2002年11月18日(月)

晩秋に駆ける。 〜ギャンブル〜 


晩秋の深夜。
吐く息の白さは真冬並に濃く、暗闇でも微かな光に反射して存在を表す。


身を切るほどの冷気に凍えながらバイクを操り、
俺は国道248号線を南へと走っていた。


冷える路面に喰らいつく二輪の間に抱く、
HONDAの直列4気筒エンジン。

充分温もったエンジンは俺のアクセルワークにレスポンス良く答え、
心地良い唸りを上げた。


市街地を離れるほどに、行き交う車もまばらになる。
街灯だけの静寂を切り裂いて、俺と愛機は突っ走る。


冬用の牛皮グラブを着用していたとはいえ、指先がすぐにかじかむ。
冬場でのバイクの体感温度は、間違いなく氷点下になる。

それなりの重装備をしてからの搭乗でも、自動車のようにはいかない。



何もツーリングではない。

突然の約束、とでもいうのだろうか。


それが親友や恋人なら、無理して突っ走るのもわかるだろう。
俺を待つ相手は、未だ見ぬ女だった。

無頓着なものだ。
名も顔も知らない女の存在には、何の保証も無い。


しかし、女の言葉と自分の直感を信じてみた。


これまで何度も空振りを味わい、すっぽかしを喰らった。
それでも懲りずにこんな愚業を繰り返す。

千に一つの大当たりを求めて、自らの身を削る。


これも言わば『ギャンブル』であろう。




2時間半ほど前だ。
俺は風呂から上がり、一人でくつろいでいた。


煌々と部屋の隅々まで照らす蛍光灯。
音を立てて吹き出す、電気ストーブのスチーム。

その中で、俺は独りテレビを眺めていた。


身にしみて感じる、人肌の恋しさ。
寒い中での孤独は、あまりに辛い。

誰かと話したい・・・それだけの軽い気持ちでテレコミに電話した。



 「新しい人を登録しましたねぇ・・・岡崎の人ですね」


受付の男はそう言った。

俺のアパートは岡崎市から遠くない。
岡崎の新人に興味を持った俺は、その人を指名する。

コレクトコールでの電話。
テープでの案内の後、電話が繋がった。


「もしもし、はじめまして」
 「こんばんは・・・」

「平良です、宜しく」
 「あ、サトミです・・・」


電話の向こうの、サトミと名乗る女は緊張からなのか少々枯れた声だった。



「ハスキーな声、なかなかセクシーだね(笑)」
 「嘘、誰にも言われた事ないよ・・・」

「本当だって、ちょっぴりドキドキしちゃうよ」
 「そうかなぁ、綺麗で可愛い声のほうが良かったな・・・」


サトミは緊張していたものの、
しっかりと自分の言葉で話が出来る女だった。


彼女は37歳の専業主婦。
もうすぐ中学生になる息子がいる。
旦那と3人で、ごく普通の暮らしをしている様子だ。


「専業主婦かぁ、毎日家事で大変だね」
 「それほどでも・・・上手くやれば楽なものだよ(笑)」



「本当にご苦労様だって。今は息を抜いてて良いからね(笑)」


専業主婦を経験する事のない夫などは「女は楽そうで良い」と思うだろう。
しかし思ったよりも重労働なのだ。


朝から夜まで年中無休で働き、基本的に無報酬。
それも自分のためでなく、旦那と子どものために働くのだ。
同居する旦那の親がいれば、さらに苦労は増す。

さらに相手の親と同居なら尚更苦労が増す。
いくら結婚したとはいえ、他人の親と家族として暮らすのだ。

例え旦那の親とはいえど、その年寄りは赤の他人なのだ。
その他人と共に時間を過ごすストレスは計り知れない。
気苦労も並大抵ではなかろう。


おまけに大多数の亭主からは、その労働に対して感謝の言葉すらない。

人類で最も報われない肉体労働、と言っても過言でない。


一通り家事を済ませ、子どもも寝た深夜12時過ぎ。

旦那から掛けられた事のない「ねぎらいの言葉」を受けたサトミは、
どこか照れながらも俺に心を開いてくれた。


「今夜から始めたんだよね。何故なの?」
 「う〜ん、お小遣い稼ぎと・・・気晴らしかな」

「あまり深刻な理由じゃないんだ(笑)」
 「まぁ、良い暮らしをさせてもらってるからね・・・」

「旦那さん?どういう仕事なの?」
 「うちね、自動車会社の役員なの・・・」

「・・・どこの?(笑)」
 「・・・うちで乗ってる車は・・・この間新型になったセダン、かな(笑)」


彼女の旦那は某大手自動車会社の本社の役員だという。
年俸も高いが仕事も忙しく、宿泊を伴う出張も多いという。

今日も旦那は出張で留守。
そして子どもはすでに就寝済み。


ようやく訪れた彼女一人の時間。

その間を縫って、気晴らしと小遣い稼ぎにテレコミのバイトを始めたのだ。


サトミは将来の世界的大企業の重役婦人、という立場だった。

とんでもない人と当たってしまった。
そういうギャンブル性が、こういう遊びの醍醐味でもある。


「いい生活してるんだぁ、貧乏な俺とはえらい違いだなぁ」
 「確かに裕福な生活だろうけど、それだけじゃないんだよ・・・」


話していて、気が付いた事がある。
話をするサトミの語尾が、いつも消え入りそうになるのだ。

子どもが寝ているのは二階の自分の部屋。
彼女は居間に居るという。
声の心配だけでは無さそうだ。


「何だか自信無さげだね、寂しそうというか」
 「実はね、別れたばかりなの・・・」

「旦那さん?」
 「違う、もう一人いたの。若い男の子が・・・」

「不倫、ですか?」
 「(笑)・・・でもすごく満たされていたものが抜け落ちて・・・」



<以下次号>








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2002年11月09日(土)

18歳。�◆ 僧斌瑤聾�に苦し〜

<前号より続く>



俺は慌てて指を抜くと、カオリはその場に泣き崩れた。
声を押し殺して、さらにタオルを顔面に強く圧し当てる。

指を入れたのが原因か?


「どうした?指を入れたからか?ゴメンな」


カオリが落ち着くまで、少々時間を要した。

ベッド脇の明かりを点け、俺はカオリに寄り添う。
ようやく彼女が顔を上げた。


真っ赤な顔。
腫れた瞼。
頬にはタオルの跡形が付いている。


「怒ったの?」
 「・・・ゴメンナサイ、取り乱して・・・」

「いや、俺もびっくりしたよ」


カオリは涙の理由を話してくれた。

精神的にブルーだった、ここ数日。
やはりカオリが接客に難があったらしく、客からの苦情が続いていた。


店の責任者から説教を喰らう日々。
辛い思いをするほど、彼の身体を求めたくなる。
Sex自体が本当は好きじゃないのに。


若い彼とのSexは、ただ痛いだけだという。
悲鳴を上げるほど痛いのに、彼を求めずにはいられない。

男の性欲に汚れた自分を清めるため。
そして彼を騙して身体を売り続ける自分への罪滅ぼしのため。


俺自身を69で攻めるとき、彼の優しい笑顔が浮かんだという。
その時に俺は彼女自身に指を挿入した。
彼に清められるべき場所に、だ。

瞬間、何が何だか分からないうちに自分の理性が崩壊した。


涙は、その崩れた理性から暴発したものだった。



気分をそがれた俺はもう続きをする気はない。
シャワーを浴びてすっきりしたい。


カオリを風呂へ誘う。


 「いいの?もうしなくて・・・」
「いいよ、もうそういう気分じゃない」


着替えが終わった後、まだ時間があった。


俺は聞いてみた。


「どうして、そこまでお金が欲しいの?普通のバイトじゃダメかね?」


カオリは俺への罪滅ぼしなのか、重い口を開いた。


 「・・・専門学校へ行きたいの」
「専門学校?大学生じゃないの?」

 「大学辞めようと思ってる・・・自分のしたい勉強じゃないのに気付いたから」
「専門学校って、大学の学部とは関係ないの?」

 「うん、全く無関係」
「どういう方面?」

 「・・・・私ね、トリマーになりたいの」
「トリマーって、ペットの美容師?」

 「うん、でも・・・」


高校の進路指導が強く大学進学を勧めたのだ。

その高校の実績作りのために、特に進学校ではよくあることだ。
本人の進路希望を覆させてでも、大学へ進学させる。

まだ自分の生きる道を見出せていない生徒やその親は従わざるを得ない。


少子化の世の中。
学校の名誉を高め、生き残りを図る手段はいくつかある。

野球やサッカー、バレーなどマスコミに取り上げられるスポーツ。
大都市圏の有名な大学への進学率の向上。
もしくは、有名デザイナーなどに依頼する制服のモデルチェンジ。


高校、大学などは自分の行き方を叶えるための大道具であるべきだ。
年端もいかない学生とはいえ、自らの夢を歪める決定を強いられるのは辛い。


 「その学費を貯めたいの」
「いくらくらい?」

 「いろいろ考えて・・・250万円くらい」
「大学は?」

 「今は行っているけど・・・親が学費出してくれたし」


カオリは志も将来設計も無い今の大学生活より、
自分の夢であるトリマーの専門学校へ行く決意をしている。

しかしこの最悪の不景気の中で、これ以上親に負担を掛けさせたくない。

大学の授業の合間に、都合よく手っ取り早く稼げるバイトを、と
飛び込んだのが、ここのデリヘルだった。


 「私、『やりマン』だったから・・・自信あったんだけどね」


そんな言葉を口にして俺を見ずに嘲笑するカオリ。


彼女が今までの人生で感じた事が無かった程の深い屈辱感と罪悪感。
その引き換えに預金通帳に刻まれるバイト代。


そんな状況に開き直れるほど、彼女は大人じゃなかった。



「この仕事、早くお金貯めたいなら・・・NGを減らさなきゃ」
 「分かってる、でも・・・」

「出来ないなら、もう辞めな」


カオリは顔を上げて俺を見る。
決して好意的な視線ではない。
負けず嫌いな彼女ならではの、きつい視線。


「第一、店が迷惑だって。客だっていつも簡単に何万円も出さないぜ」
 「・・・そうだけど」

「お金稼ぐの、大変だって分かっただろ?それは俺ら客だって同じだぜ。
 その金を積んで一瞬の快楽を求めているんだから、甘えてちゃダメだよ」


こういう業界で働く若い風俗嬢は、金銭感覚が狂っている娘も少なくない。

一日にして若いOLの一か月分の給料を、
一週間にしてちょっとしたサラリーマンのボーナス分を、
一か月にして・・・年収に匹敵する金額を稼ぎ出す事も不可能でない。

一方客は自分の稼ぎを切り崩して、一瞬の夢と温もりを求めて風俗へ向かう。


「あれダメ、これダメで何十万円も稼ごうなんて思うのは甘いよ。
 だったら時間が掛かっても、普通のバイトで正々堂々と稼ぎなよ」


カオリは俺に何も反論しなかった。


時間になった。

俺とカオリはホテルの部屋を出た。
そして無言のままで、エントランスまで来た。


最後、俺はカオリに言った。


「本気で夢を叶えたいなら頑張ろうよ。俺ならまた指名するからさ」


カオリは一度立ち止まったものの、
次の瞬間、何事も無かったかのように歩き出す。

俺の最後のフォローは、届かなかった。


俺もそれ以上何も言わず、振り向かずに駐車場へ向かった。








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後日、俺はカオリの所属するデリヘルに電話してみた。


「あのぉ、カオリさんっていますか?」
 「すみません、只今生理休暇を戴いています」

「あ、そうですかぁ」
 「失礼ですが、以前カオリちゃんに就かれたお客様でしょうか?」


珍しく、受付から俺に質問してきた。


「はい、そうですが・・・」
 「あの、カオリちゃん・・・ちゃんとお仕事してましたか?」

「と、言うと?」
 「はい、実は・・・」


実はカオリの接客態度の悪さを気にしている、というのだ。

あまりの苦情の多さに、店は何度か彼女を注意したという。 
改善されなければ、店側の取り決めとして解雇も有り得ると通告した。


俺は驚いたが、当時の事を思うと納得もできる。



過当競争のデリヘル業界。

厳しい生き残り競争に勝つためには、サービスの向上は不可欠だ。
しかしカオリの接客態度は、普通の客に満足されるものではなかろう。

一回の利用で数万円を要する割高なサービス。
一度でも客が不満足なら、別の店に逃げられる。


カオリは悪い娘ではない。
むしろ無軌道な若者が多い中、見上げた根性の持ち主だ。

若さが最大の武器になる、稀有な業界。
一つでも変われるきっかけがあれば、悠々と貯金を達成して辞められるはずだ。


彼女に説教を垂れた俺だって、人に誇れる男ではない。
せめてもの詫びに、彼女の「自分の生き方をしたい」という夢を後押ししたい。



俺はその受付に言った。

「ええ、ちゃんとサービスしてくれましたが。特に問題ないです」


受付は意外そうな口調で答える。

 「そうですかぁ、だったら良かったんですが何しろ苦情が多いもので・・・」


その口調は、カオリを解雇するための証拠集めをやっているかのようだった。

電話を切った俺。
無意識に溜息をついた。



生理休暇中、彼女はどういう気持ちで過ごしているのだろうか。
生理の苦痛か、休暇の安堵か。


自称・専門学校の学費等で250万円。


夢を叶えるための貯金額までの道のりは、まだ程遠そうである。



 ☆ 毎度のご訪問&ご高覧、ありがとうございます。
   今回は以前好評だった『18歳〜ユキエ編〜』の第2弾として
   お送りしました。

   この話を企画するに当たって、こっそりカオリの出勤状況を
   そのデリヘルに問い合わせたところ・・・

   「都合により長期休暇中、復帰は未定」とのことでした。

   彼女にとっては残念な事でも、
   良い社会勉強になったのではないでしょうか。


   良薬は口に苦し。


   しかしこれでへこたれる娘でない事を、俺は信じています。      


   宜しければ、投票&My登録をお願いします。

2002年11月08日(金)

18歳。�◆ 腺裡如Γ裡如�

<前号より続く>



風呂から上がり、俺は身体を拭いてベッドに横になる。
あとからカオリも風呂から上がって、バスタオルを巻いて俺のそばにきた。


「・・・これから出来る?」
 「だって、やらなきゃ。頑張ります」

「・・・彼氏はいるの?」


カオリは無言で縦に頷く。


「彼に悪いって、思ってる?」
 「・・・やっぱり割り切ってるけど、どうしても申し訳なくて」


彼女には2つ年上の彼がいる。
大学の同じサークルの先輩だそうだ。

彼女が初めて本気で好きになった異性。


何かと彼女に世話を焼き、自分の気持ちを熱くぶつけてくる。
はじめはいい気分ではなかったが、何時しかそれが彼の愛の形だと感じた。


それ以来、カオリは彼に対して最も素直な自分を見せている。



「知ってるの、彼はこの仕事」
 「知らない、と思う」

「彼に悪いって思ってるんだ・・・」
 

カオリは意志を持って、大きく頷く。

彼と付き合いだしてからの、唯一の隠し事。
それは彼からの信頼を壊すほど重いものだ。


彼に対する背徳感が、カオリのNGの原因の一つだった。

好きでもない一見の客に対して、
自らの身体をさらけ出す屈辱感が堪らなく嫌だった。


この仕事を始めてから、彼に身体を求める機会が増えたという。
はしたないと思いつつ、恥ずかしさを押し隠して、彼を求めるのだ。


そして彼に抱かれる事で、汚れた心と身体を清めたい。
仕事で辛かった時ほど、例え痛みが走っても激しく求める。


ならば、この仕事以外をすればよい事ではないか。
そこまでして、カオリは何を求めているのか。


 「内緒・・・」
「絶対に言えない事なの?」

 「そういう訳じゃない・・・でも他の客にも言ったことがないもん」


俺はカオリの脇で横になって、他愛もない会話を交わす。

時間は過ぎていく。
しかしカオリは一向にプレイを始めようとしない。


「時間過ぎちゃうし・・・始めようよ」


俺はそう切り出す。
カオリは無言で俺の隣りに横になる。
そして俺の乳首を舐め始めた。


天井を見上げる。
古いつくりのホテルの部屋の天井には、大きな鏡が貼ってある。


バスタオルを取り、全裸のカオリが俺の身体を舐める。

肉つきの良いハート型の丸い尻が鏡に映り、俺に見える。


俺はカオリの尻の肉を撫で、割れ目に指先を這わせる。
カオリは無反応で、俺自身を口で咥えて睾丸を掌で転がす。
上手だが、俺は女性が反応しないとそれ以上は感じない。


カオリを感じさせたい一身で、俺はソフトな愛撫を試みる。
触れるか触れないかのソフトタッチで、カオリの背中や腰、尻を攻める。

しかし・・・
直接見るのはNG、指入れもNGではどうにも攻められない。


「69できる?」
 「・・・どういうのか分からない」

「男と女が互い違いになって、舐め合ったりするの」
 「・・・恥ずかしいから嫌だ」

「じゃ、電気を全部消すから」


俺は枕元の集合スイッチで部屋中の電気を消した。
部屋の灯りは全て消え、真っ暗闇になった。

カオリは渋々、手探りで俺の上半身を跨ぐ。

俺も手探りでカオリの尻の割れ目を探り、
そしてその中央よりにあるカオリ自身を探り当てた。

指先の感触から、カオリ自身が軽く潤っている事が分かる。
その付け根辺りを指先で探ると、カオリの敏感な突起に当たった。


俺はその突起を指先で押し込んだり、細かく左右にこねたりする。
カオリは腰を動かして抵抗を試みる。
時折、声にならない声を漏らす。

勃つ俺自身を掌で強く擦る。
俺もさらに盛り上がりたいと、充分潤うカオリ自身に指を入れた。

カオリは声を上げ、大きく腰から背中を反らす。


そして・・・
嗚咽を漏らし、彼女は真っ暗な部屋ですすり泣いた。




<以下次号>








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2002年11月07日(木)

18歳。�◆ 粗盻錣任后�


<前号より続く>


乗り込んだエレベーターは、二人で満室になるほど狭いものだった。
不規則に揺れながら、ゆっくりと上昇するゴンドラ。
その中で無言だった俺とカオリ。

6階で降りて廊下を進むと、602号室の標識が点灯している。


俺はカードを差し込み、ドアを開けた。
電光パネルで見た通りの狭い部屋だ。


風呂に入ろうと湯船に湯を張っている時、カオリが俺に言う。


 「先に時間を決めて下さい」


俺が店のシステムを聞くと、スラスラと何も見ないで答える。
同じ18歳とはいえ、ユキエとはえらい違いだ。


俺はカオリに対して良い印象を感じていなかったので、60分を選んだ。
カオリはすぐに携帯電話から店に電話して、部屋番号と時間を告げる。


「しかし、すごいね・・・テキパキしてるねぇ」
 「そうですか?普通ですよ」

「他の客から言われない?」
 「言われる事もありますが、気にしていません」


俺はカオリに話を振ってみる。


「この仕事どう?・・・嫌な客といない?」
 「いますけど、終われば気にしていません」

「そうなんだ」
 「そういうお客さんは二度と付きませんから」

「俺、嫌われたら嫌だなぁ(笑)」
 「私が気に入らないなら、他の女の子に行けばいいんですよ」

「・・・きつい言い方だなぁ」
 「これが私ですから」

「でも風俗もサービス業だからねぇ、いい印象無いよ、それだけじゃ」


カオリの顔色が変わった。
明らかに不愉快そうな口調になる。


 「でも無理なものは無理だし、出来ない事は出来ないです」
「怒らなくてもいいじゃん。ところで君の無理な事って何?」


カオリは何かとNGの多い娘だった。

店の設定しているオプション・・・
ローター、バイブ、網タイツ、パンスト破りなど全ての項目。
明るい部屋でのプレイ。
カオリ自身を直接見ること。
そして中に指を入れること。

その他、細かい事を上げるときりがない。
通常ならサービスの範囲内であるものも全てNGだと言う。


「そんなにNGが多いと、客は何も出来ないよ」
 「良いじゃないですか、私が手と口で何とかしますから」

「そういう問題じゃないんだけど・・・」
 「とにかく私が嫌なら他の娘のところへ行けばいいんです」


これだけ我を張る娘には逢った事が無い。
俺はカオリの気分をほぐすためにも、一緒に風呂へ入ろうと誘う。



今までの経験からいうと、風呂とは実に不思議な空間だ。

裸で向き合い、湯に浸かる。
それだけでも随分と打ち解ける事ができる。

俺はその風呂の持つ不思議な効能を期待した。


ただ単にこちらの要求を押し付けても、何の文句もないだろう。
しかし、それでは芸がない。
嫌々サービスされても、何にも感じないし嬉しくない。
高い金を捨てるに等しい。



カオリは脱衣場で下着に手を掛けるものの、その指先が進まない。
脱ぐのを戸惑っているのだ。

俺は先に風呂場に入り、熱い湯をシャワーで出す。


「どうしたの?早くおいでよ」


カオリが戸惑っているのを知りつつ、わざと無邪気に呼びかけてみた。
返事はない。

俺が脱衣場を覗くと、カオリはブラのホックに指を掛けたまま俯いていた。


「抵抗あるの?」


カオリは無言のまま、一度だけ頷いた。


「じゃ、もう辞めれば?俺だって不愉快だから・・・」


俺は荒療治的に、そう冷たく言い放った。
このままじゃ何も進展しない。

俯いていたカオリは顔を上げ、ブラのホックを外し、ショーツを下ろした。
最後の覚悟が出来たのだろうか。


カオリが風呂場に入り、俺の身体を洗い始めた。
二人して、無言なままの時間が過ぎる。

カオリは小柄だが、スタイルは良かった。
メリハリがあり、胸もそれなりにある。


一通り洗い終わり、俺は湯を貯めた風呂に浸かる。
溢れる湯が、タイルの床のソープを一斉に洗い流す。
そして排水口に音を立てて吸い込まれていった。


身体を洗い終わり、風呂に浸かってきたカオリ。
向かい合って浸かっている時に、こう語りかけた。


「ねぇ、カオリちゃん・・・本当に嫌なの?」
 「そうじゃなくて・・・何て言うか・・・」

「さっきはゴメン。でも・・・それじゃ客は退いちゃうよ」
 「・・・そう、だよね・・・」

「何か目的があるんでしょ、こういう仕事に就くなんて」
 「・・・ええ、まあ」

「・・・お金が必要なんだ」
 「・・・まあ、はい」

「理由は・・・やっぱり、内緒?」
 「内緒です」


よっぽどの理由があるのだろうか、口の固い娘だ。

俺はあれこれと他愛もない話を続ける。
少し落ち込んだ様子のカオリは、それでも当り障りない会話にのみ答えた。

ただ話題が彼女の核心に触れると必ずこう言った。

 「内緒です」




<以下次号>







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2002年11月05日(火)

18歳。�◆ 狙鍵婬い塀�〜



女が風俗業に身を投じて身体を売る理由は様々だ。


借金の返済。
遊ぶ金や小遣い欲しさ。
将来の目的のための貯金。


残念ながら昼間、普通に働くだけでは生活に廻るだけ。

夢を追える若い人ほど、収入が少ないものだ。



しかし風俗業は日陰ながらも年齢と収入がほぼ反比例する、魅惑の業界。

時として一発逆転の資金源となり、
時として一撃必殺で身を持ち崩す。


男が群がる数で全てが決まるのだ・・・
それはどこかギャンブルにも似ている。




 「女子大生の娘がいますね・・・ええ、小柄で流行りのタイプですよ」


過当競争のデリヘル業界、新規の店はいち早く顧客を掴むため、
問い合わせに電話してきた客にも喰らいつく。
甘い誘惑を次々並べて、欲望に目が眩む客を取り込もうと躍起になる。


俺が今回問い合わせた店も、オープン記念で料金を値下げしていた。
今なら一律5,000円引きで、なんと他にもサービスがあるという。


 「このセール中は、所属の女の子をノーパンで行かせますよ!」
「ノーパンって・・・下着を付けないって事ですか?」

 「ええ、そういう事です!上は付けてますが、下は・・・」


さすがはひと山当てようと、次々と知恵を絞り合うこの業界。
男の性欲を更にくすぐり、財布の紐を緩めようとする。


「それで料金は5,000円引き?」
 「はい、期間限定ですので本当に今はお値打ちですよ!」

「交通費は?」
 「チェンジ・キャンセル・交通費全て無料とさせていただいています!」


俺は良心的なその店を利用する事を決めた。
その女子大生の事を詳しく聞いてみる。


 「そうですねぇ、真面目、というか堅物?な感じですね(笑)」
「身長とかはどんなもんですか?」

 「身長は148cm、こげ茶っぽい髪でつぶらな瞳の可愛いCカップですよ」
「・・・流暢な説明ですねぇ(笑)」

 「私ですか?ありがとうございます!元営業でしたから・・・」


おしゃべりな受付の男は、脱サラしてこの会社の立上げに携わったという。
この店の創業者の一人だ。


 「やはり私も男ですから、本当にいい娘をお勧めしたいんです、ハイ」
「じゃ、その女子大生の娘をお願いします」

 「ありがとうございます!その娘なら15分ほどで行かせます」
「じゃ、市内のホテルCで」

 「分かりました、お部屋が決まりましたらもう一度連絡下さい」


やはり電話が唯一の繋がりになるこの業界で、受付の態度は最も重要だ。
客だって、電話の応対が良いと快く利用できる。




ホテルCはデリヘルやホテトルの客がよく利用する。
男がラブホテルに一人で入るというのは、どこか屈辱的なもの。
いくらデリヘル利用だと言っても、カップルには見られたくない。

ここは一人で利用しやすい雰囲気で、あまり苦痛ではない。


しかし部屋は全て満室。
パネルは全て消灯済み。
誠に景気の良い光景ではないか。

ただこういうホテルは回転がいいので時間が経てば空くだろう。
パネル横のインターホンで状況を尋ねてみた。
中年の女性風の声で、準備中の部屋があるから待合室で待てという。

俺は先程のデリヘルの受付に電話し、待合室2番に居ると告げた。

吹き抜けになっている部屋の仕切りの上からは、
隣りのカップルが居ちゃつくのか、女と男の甘えた声が聞こえる。



20分ほど経った時、待合室をノックする音。
扉を開けると、ポニーテールの小柄な女性が立っていた。 


 「はじめまして、カオリです」
「あ、はじめまして・・・こんな所でゴメンね」


カオリと名乗ったその娘は、きりっとした顔立ちで利発そうな顔立ちだった。
そして意志の強そうな力強い光を放つ瞳。


昔、大抵は学級委員を務めていた女の子、という印象をうける。

勉強もスポーツも出来、教師からは役職を任され、
学級の風紀を乱す奴には男でも俄然と注意していた・・・

クラスに一人はいた堅物な女の子。



俺はカオリを待合室に招き入れた。

カオリは待合室の固いソファに座り、足を組む。
キャンペーン中の売りだったのは、確かノーパンでの出張だったはず。


彼女はタイトなGパンを履いていた。


「ねぇ、聞いても良い?」
 「何ですか?」

「今日、その下はノーパン?」
 「いえ、ちゃんと履いてますよ」

「店の受付がうちはノーパンで出張だって言ってたよ」
 「私はあの店の所属じゃないんで、関係ないです」

「・・・どういう事?」


カオリは別の系列の店からのヘルプ(応援部隊)だった。
確かにあの受付は、所属する女の子は・・・と断りを入れていた。

騙されたような、期待しすぎたのか、少々気分をそがれた。

カオリはきつい顔立ちだけでなく、言い方もどこかトゲがあった。
語調がきつく、はっきりと語尾まで言い切る。


「どれくらい、こういう仕事してるの?」
 「2週間ですね」

「まだ短いねぇ、新人さんなんだ」
 「ええ」

「歳、幾つなの?」
 「来月で19歳になります」

「じゃ、まだ18歳なんだ」
 「ええ」

「・・・大学生って聞いたけど、一年生だ」
 「はい」

「何学部・・・ていうか、どんな勉強をしているの?」 
 「内緒です」


まるで就職面接のような会話だった。
何事もキッパリと言い返し、言い切る。

はっきり言って、可愛くない。


待合室のインターホンが鳴り、お部屋の準備が出来ました、と連絡が入る。
俺とカオリは待合室を出て電光パネルの前に進んだ。


空き部屋の灯りが一つ。
俺は仕方なくその602号室のボタンを押し、カードキーを受け取った。

振り向くとカオリはいない。
彼女はエレベーターの扉の前で、すでに上のボタンを押して待っていた。



<以下次号>








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