愛玩人形の抱き方+
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2003年04月29日(火) |
たとえば君が居るだけで |
春の闇も強い風も降り続く雨も、あなたが居れば怖くないの。
けど、ただ、安穏と。何もせず庇護されるだけの生き物になる気はないから。自分の足で立って、動く生き物でありたいから。そうあろうと、しているから。
だから、繋いだ手をにぎっていて。離さないでね。ひとときも。
この文章を打つのにも使っている、私のこのメインマシンは、あの人からのお下がりなのだけれど。
このマシンの中には、あなたが消し忘れたあなたのメーラーが入っているのよね。
譲り受けてから何ヶ月も経ってから見つけた、昔あの人が女に宛てたメールの数々。本当は知りえるはずもなかったあの人のこと。相当華やかだったらしいことや、暇潰しのためだけに遊んでいた人がいたこと、などなど。最悪なのはアドレス帳までしっかり残っていて、相手の名前や連絡先まであったことだ。
これ見つけたとき、よく倒れなかったな、と。 今日、データを整理していた時に再発見して、倒れかけて、そう思った。
「猫ってさ」 「ん」 「水に落っこちると、小さないきものになるよね」 「小さな?」 「濡れて毛がはりついてさ。普段はその三倍くらいあるのに」 「あはは、そういうこと」 「うん。で、目が三角になっちゃってさ、寂しそうなの」 「そうだねえ」 「可哀想だからって、タオルで拭いてやろうと近づけば威嚇するし」 「うん」 「ドライヤーで乾かしてあげようと思ったら、音が怖いって逃げるし」 「うん」
「水に落ちてるってこと、気付いてもらえてる?」 「…さあ。どうだろ。分からない、あの人が何を考えてるかなんて」
暗い夜の中、燐を含む桜の花がぼんやり浮かんで、はらはら散る。 のっぺりした夜でも、その静けさを快いと思える。
春の闇は好き。あなたが一緒にいるのなら。
せがんで、手を繋いでもらって、満開の桜の木の下で、二人きりになった時。あなたはそっと裾から手を差し入れて悪戯したけれど。 あの日は寒かったね、身体じゅう冷え切ってしまった。おかしいの。二人して笑った。でも、本当は抱いて欲しかった。満開の桜の中で、手を絡めて、そうっと抱いて。桜の花が散らないよにね。
今年もまた、桜咲く。
「あのね、あなたと、別れようと思っていたの」
過去形で語るのなら、意味のない文章だと。思うことにしている。
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