愛玩人形の抱き方+

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2002年06月25日(火)

ここ、どうするんですかって後輩が訊いてきたから。

それはね、と背後に立って、手元を覗き込むようにして教える。後輩、真剣な顔で同じ方向を見て聞いてた。




あ。
あの人の匂いがする。




同じシャンプーなんだろうな。同じ匂いがする。私はそれだけで欲情する。何でも無い顔で、じゃあやってみてごらん、何て言いながら、没頭した彼女の後頭部に鼻を近付け、そっとその匂いを一呼吸だけ嗅いだ。


2002年06月23日(日)

電話口で泣いてしまった。


普段なら何でも無いのに、普通に我慢出来る事だったのに、あなたの言葉で泣き出してしまった。それはたった一言。

「――大変だったな。一乃」

たったこれだけで、あんなに泣いてしまった。





ああ。
どうしたら良いかとか、正しいとか間違っているとか、良いとか悪いとか、そんな事じゃなかったんだ。私が欲したのは。ずっとずっと欲しかったのは。


ただ、そうだねって聞いてくれたら。大変だったねって、頷いてくれたら。


2002年06月20日(木)

例えば駅で別れる時、改札の外のあなたを振り返る時、車から降りる時、電話を切る時、全部きらい。


きらいきらい。



でも。
ね、気付いてる?電話を切る時は、いつも、あなたが切って、無機的な電子音が鳴り始めるまで私は切らないこと。
切られてしまうその小さな音は大嫌い。だからあなたに聞かせたくないと思って。




いつもいつも、手間掛けさせてばかりの人形だけれど、こんなささやかな事だけれど、考えているのです。どんな些細なことでも、あなたの不快が減ればいいって。
少しでも、せめて。


2002年06月16日(日)

ええと。



大拗ねした人形は、9個のキスの痕と疲れきった身体になって、満足して丸くなって眠ります。





良い夢を。


2002年06月15日(土)

今日は良い日だった。

仲間で集まって飲み、美味しいものを食べ、久し振りの友人にも会え、贈り物を貰って、あの人にも会えた。


いや。
嘘。嘘だ。理屈で誤魔化したって仕方無い。大した事じゃないわって言いながら倒れていても何にもならない。せめて、認めなければ。


私はそんなつもりはなかった。そんな事考えても居なかった。だからあなたから申し出てくれたのは嬉しかった。
結果的に同じでも、喜ばせた分だけ落胆は激しい。だったら言わないで。どうしてそんな風に笑えるの。もう良いわ私は一人居るから。来ないで。
ごめんと小さく囁かれた時に振り返った時の私の顔。本当に一瞬だったけれど、恐らくすごい表情だったはず。皆に見られてないかしら。その後から浮かべた笑みはちゃんと同じ笑顔になってただろうか。




ああ。
分かった。私があなたの為に簡単に切り捨てられた物を、あなたは切り捨てずに私を選ばなかった。それが嫌だったんだ。つり合わない天秤が悲しかったんだ。


どうして分かってしまったんだろう。
言葉にするとはっきり形になってしまって、泣きたくなるから嫌だったのに。


2002年06月11日(火)

今日私のした事、私に起こった事、私が出会った事、私が思った事。それを話すのは何故か。
この人形が何をして、何に出会って、何を思ったか、知ることで少しあなたは安心するかなと思うから。
思う事の全てでは無いけれど。思考の内、あなたに知られたくない事以外はみんな話す。一生懸命話す。実は私が話すのが苦手だなんて知ったら驚くんだろうな。私の話すことであなたが少しでも安堵して笑ってくれたら、私は嬉しい。

夜中に電話をかけて、好きだってあなたが言ってた歌をうたうのも、あなたに喜んで欲しいから。喜んだあなたに私が嬉しくなりたいから。眠れそう?良かった。おやすみなさい。


2002年06月09日(日) 勉強

「市野さんは、いつも前向きで、努力していて、将来もしっかり決めてて、良いね。」


それは違う。


「就職難だからコネが無いとそこそこの職にも就けないし、やりたい事って特に無いし、遊びたいけどお金無いし、どうせそんなに遊びたい事も無いし、ああ何か良いこと無いかなー」
なんて言っている姿が魅力的に見えるだろうか?




いつだって不安で、怖くて、闇の中を歩くようだけれど、泣いてしがみつくのはあなたにだけ。あなたの前でだけ。その腕があるから、そこに私の居場所がちゃんと用意されているのだから、あなたが居ない時はちゃんと前を向いて胸を張っていようと、決めているだけ。


2002年06月07日(金) 発見

「市野さん、腕、どうしたの?」
「腕?」


腕。



抱かれている時は夢中なのです。
痕をつけられるのも大好きなのです。
そして忘れて腕まくりした私が迂闊なんです。




「犬に噛まれまして」
「あら、気を付けてね?」






ええ。今後は全力で隠します。


2002年06月04日(火)

あなたが、巧みな話術や、素敵な仕草、優しい気遣い、完璧なマナーで人を虜にしている光景を見る度、私は誇らしい気分になる。
もっともっと人を惹き付けて。誇らせて。
例えば三つ離れた席で、三つ隣のテーブルで、そんな姿を見て、こっそり微笑むのはささやかな楽しみ。
だから、あなたにもっと人に会って欲しいと思う。そして魅了して欲しいと思う。

願ったのは、私。


分かってる。

分かってる。
それは理屈じゃなくて。
私は、私の前であなたが女性に優しくしているのが厭。私の居ない所であなたが女性に優しくしているのが厭。あなたが女性に触れるのが厭。あなたが女性を見るのが厭。

誰も見ないで。触らないで。約束して。私に、私だけに優しくして、抱いて。


矛盾を抱えて、私は今日もあなたと接しただろう名も知らぬ人間の女たちに嫉妬してる。
やきもち、等と可愛い言葉で済まされるのか?
いや。もっと醜くて不条理で身勝手で気味の悪い感情。多分、執着。
そんな思考の回路を知られたくない、と思う。
ただ愛されているだけの人形だと思っていて欲しい。





誰だって多重人格者である。

市野の持ち主は、市野にはそんなに要らないと言っていた。















覚えの無い傷を発見する。

勝手に傷をつけるな、と怒られる。私の身体なのだから、と。
ねえ、それなら、手元に置いていて。私を洗い、磨き、飾り立てて、愛して。


ichino |MAILBoardText庵Antena

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