散歩主義

2003年03月02日(日) 二階の薔薇

薔薇のお話です。
3月にはいり、新芽が伸び出したものの我が家の薔薇は開花に程遠い状態です。
冬に深く剪定しているからです。長さ20cmぐらいに縮まった株を見ていると、5月に70cmぐらいに伸びて開花するとは想像もつきません。

一方、町の家々の花壇では深く剪定せずに花から20cmぐらいだけをカットしているおうちもあります。どちらも間違いではありません。こちらの場合、四季咲きのハイブリッドティーだとフローズン・ローズを見ることができます。

ただ、春になり花を付け出す時期になると深く選定しているほうが、花の数も多く大きな花をつけます。勢いがあるんですね。古い枝からはそんなに多くの花は望めないし、勢いもそんなに強くありません。

ただ、伸ばして行くやり方で、とても美しいものを見た事があります。薬物による事故で脳に障害を負い、言語と運動の中枢が麻痺してしまった天才バイオリニストの、そのお父さんのやり方です。

映像で見たので断定はできませんが、たぶんツル薔薇なんでしょうけれど、ひょっとしたらスタンダード仕立てのハイブリッドかもしれません。花の形がどうもそうだつたので。もし、そうだとしたら凄い技術なんですが…。

薔薇職人の意味から転じて薔薇栽培に没頭する人のことをロザリアンといいますが、このお父さんは典型的なロザリアンでした。前庭には一面薔薇が各種、見事に手入れされて育っていました。その家側の一番奥、一本のまっすぐな茎が2階まで伸びているのです。そしてその先には真赤な薔薇が1輪咲いています。

お父さんは寝たきりの息子さんのベッドサイドに薔薇が年中咲いているようにしたのです。ですから四季咲きのモダンローズでしょう。しかし、上に伸びるツル薔薇でさえジグザグに誘引しないと花つきがとても悪いのです。できることなら緩く斜めにひっぱつたほうが良いのです。垂直に伸びるツル薔薇はほんとに咲くか咲かないか、微妙です。それを他の新芽やわき芽を全部潰して、その1本の茎だけにし、しかもその茎からの枝分かれを全部切り捨て、ひたすらに1本、まっすぐ伸びているのです。

瞬間息を呑みました。その努力たるや半端ではありません。そしてそのお父さんの意志そのもののように、まっすぐに2階に伸びる薔薇。窓辺に咲く赤い花。
なんという光景だろう、と。

そのお父さんが、彼の幼少の頃からバイオリンの英才教育を施したのです。まるで、その薔薇のように。そして大袈裟に言えば日本全国にその名を轟かせてアメリかに留学したのでした。まだ大人にならないうちに。
アメリカでも天才の評判がたちだした、矢先の出来事だったのです。
失意どころではない、帰国。

彼はそんな父を残し、数年前に亡くなりました。亡くなってから幻の天才バイオリニストとしてCDがだされ、話題になったのでクラシックファンの方ならおわかりだと思います。

いろんな風評、批判。毀誉褒貶。もう、いいでしょう。

時々、あの薔薇はどうなったのだろうと思います。静に薔薇の剪定をするお父さんの姿を思います。

さて、我が家の薔薇。室内に避難させたミニバラにとうとう今年初の蕾ができました。しっかり暖かくなるまで外には出しません。部屋で、おそらく開花するでしょう。赤い花が楽しみです。


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