斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2005年01月27日(木) |
淘汰され、消費されても、変異せよ |
昨日、僕は、『ネットは情報の「変異」、「遺伝(伝達)」、「選択(淘汰)」の速度を飛躍的に高めた』と書いた。 そして、「多様化の先にあるものは同質化」だ、と。
でも、よくよく考えてみれば、これはエコシステムの構造として、当然の帰結だ。 僕たちの意識も、ネットを駆けめぐる情報もエコシステムの一構成要素にすぎない、という観点に立てば、簡単に説明がついてしまう。 「変異」、「遺伝(伝達)」、「選択(淘汰)」は、エコシステムの平衡状態を保つために不可欠である。 エコシステム維持のための唯一のルールと言ってもいい。 エコシステムが最終的に平衡状態、すなわち同質化に向かうのは、避けられない。 問題は、エコシステムの「変異」、「遺伝(伝達)」、「選択(淘汰)」のプロセスの回転率が制御不可能な段階まで来ていることだ。 結果としてエコシステムは機能しつつも、世界は同質化に向かっている。
人間の生物学的進化の速度は遅い。 それに対し、外的環境の進化は比較にならないほど速い。 そのなかでも情報の伝搬速度は光の速度に限りなく近づいていく。 身体と脳の乖離は加速する。 統合体としての僕の身体と脳も乖離していくし、人と人の間も脳は緊密度を増していく一方で、身体と環境は乖離していく。 僕の身体は、飛行機に乗らないと海外に行けないし、電車に乗らないと会社にすら行けない。
僕は10年前、ネットはエコシステムの概念を破壊するかもしれない、と思っていた。 ネットの恩恵により、個人レベルでの情報発信は容易になり、僕たちは思想信条の自由に加えて、情報発信の自由を得た。 マスメディアは崩壊し、ニッチメディアが力を得る。 国境は消え、世界はひとつになる。 僕らはフラワーチルドレン。 ラブ&ピース。 破壊せよ。
でも、現実は違っていた。 ネットが普及しはじめてから現在までの10年間を思い返してみると、ネットによるエコシステムの破壊など単なる妄想に過ぎなかった事がわかる。 確かにいくつかの国境線は消えたし、世界はひとつになろうとしている。 誰かが強制したわけでもなく、ネットユーザーは自ら同質化への道を選択した。
でも、そこは天国じゃない。 同質化され、「変異体」が生まれる事を拒絶する平衡状態。 「変異体」が淘汰され、消費される時間は恐ろしい加速度で短くなっている。
1990年から今日の2005年までの15年間、日本経済は「淘汰」を続けてきた。 2000年のネットバブル時、一時的に多くの「変異体」が生まれたけれど、ほとんどの「変異体」は、「選択」されず、「淘汰」された。 「淘汰」されるべくして「淘汰」された。 それらの「変異体」は、「淘汰されるべき存在」に過ぎなかったから。
日本経済にとっての淘汰だけの時代は、既に15年にも及ぶ。 そして、企業は、本来淘汰すべきではない、「変異の芽」も摘んでしまった。 僕たちコンサルタントも同質化に対するA級戦犯だ。 僕たちは、企業に徹底的な効率化を促す。 企業の向かうべき方向性を一点に定め、集中させる。 一切の無駄を排除し、完璧に効率化され、機能するシステムを作り上げようとする。
それは正しい行為なのか? 僕たちが行ってきたことは「淘汰」であり、「変異の芽」を摘む事だけだったのではないか? 「変異の芽」を排除してはならない。 エコシステムの中で、生き残るためには、「変異の芽」は不可欠だ。 「変異の芽」がいずれは淘汰されれるべき存在であったとしても、「変異の芽」を摘んではならない。 継続的な「変異の芽」の出現を維持させることは難しい。 「変異」、「遺伝(伝達)」、「選択(淘汰)」のプロセスは残しておかなくてはならない。 徹底的な効率化を行い、無駄を「完全に」排除した企業は、長期的に生存することはできない。 「変異の芽」の出現を許容する余地を残しておかなくてはならない。 完全なる同質化、は種としての死と同義だ。
ネットが引き起こしたのは、「変異」、「遺伝(伝達)」、「選択(淘汰)」のプロセスの飛躍的な高速化だ。 そして、多様化の先にあるものは、同質化だ。 だが、エコシステムは機能し続ける。
「個」、「企業」、「国」、「地球」、「宇宙」。 単位は何だって良い。 エコシステムは不変だ。
未来にあるものが「絶望的な同質化」でしかなかったとしても、僕らは「変異」を許容しなくてはならない。 「変異体」はエコシステムのなかで、「選択」、「淘汰」されていけば良い。 多様化の先にあるものが、たとえ同質化であり、変異は淘汰されるだけの存在であったとしても、僕らは絶望してはならない。 「変異」を続けていれば、きっといつか選択されときが来る。 たとえ一瞬にして消費されるだけであったとしても。
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