斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2004年11月17日(水) |
NECがアビームを買収 |
コンサルティングファームのアビームがNECに買収されることとなった。 IBMによるPWC買収に引き続き、アビームも買収された。
アビームはもともと会計系コンサルティングファームのデロイトである。 デロイトは会計監査業務とコンサルティング業務を切り離し、それぞれを別法人とした。 その際、国際的に社内が混乱し、デロイトの日本法人はデロイトグループから離れ、外資ではなくなった。 それに伴い名前をアビームと変更。 そして、今回の買収である。 社員は振り回されまくって疲弊していることだろう。
ここ数年、コンサルティングファームはIT系を中心に激変している。 変化はふたつある。
ひとつは、会計系に見られる会計監査業務とコンサルティング業務の切り離し。 会計監査とコンサルティングを同じ企業が行うのでは、会計監査が公正に行われなくなる恐れがあるからだ。 もともとあった議論だけれど、エンロン事件で決定的になり、会計系のコンサルティングファームは両業務を別法人として分割した。 そして、エンロン事件は、アンダーセンを崩壊させた。
もうひとつはコンピュータメーカーによるコンサルティングファームの買収である。 IBMによるPWCの買収と今回のNECによるアビームの買収。 PWCはIBMに買収される以前にHPとも交渉を行っていた。 まだまだこれからHPやMS等、IT系の企業がコンサルティングファーム買収の動きを見せるだろう。 オラクルやSunは貧乏っぽいので、企業買収は無理かもしれない。
コンピュータメーカーにとってIT系コンサルティングファームの買収は「コンサルティング業務の強化」、という本来の意味に加えて、「営業力強化」の側面もある。 僕は現在所属しているファームに中途入社する前、コンピュータメーカーの営業社員だった。 経営戦略と直結している企業へのシステム導入には、営業活動の時点で既にコンサルティングは必要となる。 システムの契約が取れた後は、IT系のコンサルティングとほぼ同じになるが、コンピュータメーカーの営業の仕事は戦略コンサルタントの仕事に非常に近い。 現実には単なる御用聞きの営業が大半だけど。 だが、本来、コンピュータメーカーの営業は戦略コンサルタントであるべきなのだ。
僕は、前職に在職中、システムの営業を行ううち、コンサルティングの必要性を感じたから、コンサルティングファームの門を叩いたのだ。 自分にコンサルティングスキルが欠落していることを自覚していたので「お金を貰ってコンサルティングのお勉強をさせてもらおう」と考えたのだ。 結果的にシステムとは関係のない戦略コンサルタントになってしまい5年になる。 当初の目的からは完全にズレ、未だに卒業できずに留年中である。 だが、コンサルタントになる当初のきっかけは、システム導入の「営業」ためにコンサルティングの必要性を感じたからだった。
僕は、面接に落ちたら、即座に提携交渉に切り替えるつもりでいた。 コンサルティングファームに「営業」を兼ねたコンサルティングを行ってもらい、実際のシステム導入は、僕が当時所属していたコンピュータメーカーが行う、という提携交渉に持ち込むつもりだった。 システムとコンサルティングは、表裏一体であり、切り離せない。 それに経営トップにアクセスするための人脈、顧客リストも欲しい。 今の僕は、システムとは関係のない純粋な戦略策定を行うことが多いけれど(もともとはシステムに強い戦略家というのがウリのはずだったのだけど・・・)、正しい戦略コンサルティングにはシステムの知識は必要。 戦略コンサルタントはシステムを下にみる傾向が強いが、それはおかしい。
逆にコンサルティングファーム側にとっても、独立性は失われるものの、膨大な顧客を抱えるコンピュータメーカーの傘下に入る事により、安定した営業活動を行える。 まあ、営業としてのパートナーはいらなくなるので、給与と仕事が見合わないパートナーは即座にクビだろうけど。 アビームのパートナーは自社株を現金化して、さっさと退社して悠々自適の生活に入るのだろう。
NECをはじめとする全てのコンピュータメーカーはコンサルティングファームの買収を目論んでいると考えられる。 コンサルティングファームは資産を持たない。 人とブランドが唯一の資産である。 なので、バランスシートは小さく、企業としての価格は安い。 パートナー制度を採用しているので、公開買い付けによる買収は困難だけれど、交渉次第では安く買える。 アビームはデロイトグループを離れ、アビームへと社名変更を行った時点でブランド価値を失った。 残った資産は人だけだっただろう。 その人もデロイトグループを離れた時点でグローバルな人的ネットワーク資産を失っている。 アビームは事実上、日本ローカルの弱小コンサルティングファームだった。 そういった意味でアビームの企業価値は限りなくゼロに近い。 記事から推定するとアビームの企業価値は320億円、という事になるが、正直言って高すぎ。 何の資産も持たない企業に320億円はあり得ない。 しかも経営不振の企業。
NECがコンサルティングファームを欲しかった気持ちは良くわかる。 僕がNECの経営者であっても、コンサルティングファームの物色をしていただろう。 でも、320億円は高すぎだと思う。 試しにバランスシートをきちんとみて、のれん代、将来の収益見通しから企業価値を評価してみるといい。 不動産、現金、有価証券等の資産はほとんどなし、ブランド価値としてののれん代もほとんどなし。 収益見通しは、「((所属コンサルタントの単価)×(コンサルタントの人数)×(稼働率))−(コスト)」なので簡単に算出できる。 不確定要素は稼働率のみであり、多くのクライアントが継続顧客であるコンサルティングファームにとって、稼働率はよほどのことがない限り大きくブレない。 簡単に企業価値は評価できる。 そうすれば、320億円はあり得ない金額だとわかるはず。 NECにとっては、コンサルティング力強化、営業力強化に加えて相乗効果を加味したのだろうけれど、高すぎ。 資産もない会社を320億円で買っていったい何年で回収するつもりなのだろう。 DCFで評価すれば恐ろしい事になる。
ただ、NECにとって、コンサルティングファームの買収は戦略として正しい。 アビームを選んだ理由は、「安かったから」だろう。 でも、もっと値切った方が良いと思う。 そして、「営業」として見合わないパートナーは降格もしくは、クビにしたほうが良い。 でも、優秀なコンサルタントはどんどん流出するんだろうな。
■NECがアビームに出資。経営不振説は否定 http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NC/NEWS/20041116/152641/
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