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2003年07月03日(木) ジャパニーズヲタクは「くー」なのか?

数年前、僕がクリエイターとしてNYにたどり着き、NYのSOHOにあるオフィスに初めて出社した朝、白人と黒人と中国人と韓国人の見るからに怪しい風体のクリエイターが僕のそばにワラワラと寄ってきた。

中国人のエンジニアは、漢字がわかることを活かし、僕のためにプラグラミング用の日本語版のWindowsPCとお絵かき用のMacintoshを用意してくれていた。
「日本語版電脳窓、日本語版電脳林檎、我両方用意為貴殿」みたいな事を言った。

「ドリトス食べるか?シュエップス飲むか? いや、エスプレッソか?ダブルか?トリプルか?やはりビールか? いや、日本人は日本酒(『じゃぱにーずさきィ』と発音していた)しか飲まないのか?NYでは朝からは酒を飲む習慣はないが、日本人はサムライだから朝からでも飲むだろう。ゴルア。酒、買って来い。何?タバコ? おいっ、客人にタバコだっ! 州法ではオフィスでタバコは吸えんが、日本人なら問題ないだろう」

よくわからんが、僕はオフィスで妙な歓迎を受けた。

初日は暇だったので、僕はマインスイーパーとソリティアの両方を1回でクリアし、ニホン人の頭脳の優秀さを見せつけてやった。

昼になると、当然のようにランチに誘われた。
僕は白黒黄色の怪しい集団に囲まれて(彼らはクリエイターなので怪しい格好をしている)寿司屋に行き、裏巻きのカルフォルニアロールを食った。
ん?ニホンで僕が食ってる寿司よりずっとうまいぞ。

「おいっ、おまいら。NYでは寿司は人間が握っているのか?日本の正統な寿司はベルトコンベアに乗って回転しているのだ。人間の握った寿司なんぞ、今更食えるかっ!」
僕はニホンのヲタク神。

食事の後、「是非、一緒に行きたいところがある」と、告げられ、怪しいエリアに連れて行かれた。

日本ヲタク向けの店であった。
日本のアニメのビデオやDVD、美少女アニメグッズ、フィギュアなどが所狭しと並んでいる。
店の中で、白黒黄色の集団は自分がいかに日本通か、という事のアピール合戦になった。

中国人は言った。
「我保有中山美穂的新譜。完全保有全音楽。君入手可能発売前新譜?」

黒人は言った。
「俺は、お前を初めて見たとき、ピーンときた。お前なら絶対にトトロの等身大のぬいぐるみを手にいれられる。いや、ただとは言わん。俺のミスター・スポックの等身大人形と交換でもいい」

白人は言った。
「フロッガーというゲームを知っているか?ジャパンで有名なフランダースの犬の主題歌が使われているという伝説のゲームだ。手に入るか?」

ヲタク集団であるNYのクリエイターのなかで日本人の僕はちやほやされていたのだが、一人冷たい奴がいた。
彼は、僕へのニホン通であることのアピールのつもりなのか、チャーハンをスプーンを使わずに箸でぱらぱら落としなが無理して食っていた。

ある雨の夜、僕に冷たい奴がボソッっと言った。
「お前、ブレードランナー好きか?」
「この築100年のオフィスから見える雨の景色は、レプリカントが死ぬ瞬間に鳩が飛ぶシーンのビルに似てるね」
「!!!!」
「おいっ、お前、『鉄男』好きか?サイバーパンク好きか?『アキラ』は日本でもヒットしておるのか?オオトモはやはり日本では神なのかっ?」

日本国はテクノロジーが過剰に発展してしまった結果、通信回線や電波を経て欧米の文化がデジタルデータに変換されて伝わった。
日本人はデジタルデータとして伝わった欧米文化をワケのわからない解釈と日本人の感性で変換を行った。

結果として、マトリクスにまつわる話題でも明らかなように、欧米のクリエイター層の間では妙な日本信仰が生まれていた。
ガイジン達は思った。
「なんだかわからんが日本人のクリエイターはすごいぞ。
ニッポンのカルチャーはワレワレの理解を超えている」

僕はNYで仕事をしていた約半年の間、「ヲタク神」としての地位を保ち続けた。
彼らは僕が何か言うたびに「くー!(Cool)」と、叫んでいた。

クリエエイターの間ではニホンジンは「くー」らしい。




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