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2003年03月09日(日) サービスビジネスへの一方的な転換は無意味

通信・ハイテク業界はこぞって「サービスビジネスへの転換」を戦略として掲げている。

ようはIBMのモノマネ。
IBMがハードウエア中心のビジネスからサービスビジネスにシフトすることによって、、収益を回復したことからサービスビジネスブームが起きた。
だが、サービスビジネスはそう簡単ではない。
サービスビジネスは本業のハードウエアビジネスや通信事業がきちんとできて、そのうえで展開すべきものだ。
正しくはサービスモデルへの「転換」ではなく、「進出」、あるいは「強化」である。

ビジネスにはそれぞれのビジネスモデル、ビジネス特性というものがある。
少し例をあげてみる。

■ハードウエア事業
売上が増えれば増えた分だけ、部品、材料のコストもほぼ比例して増えていく。
ただし、規模が大きくなれば製造コストは下がり、コスト効率も上がるため、ある程度の規模が必要。
高付加価値の製品を作らなければ収益性は高くない。
収益機会は製品を売った時点の一回のみ。

■通信事業
初期の通信インフラ構築コスト、投資コストは膨大。
ただし、インフラさえ構築してしまえば、後は保守、運用のみで食っていける。
通信サービスは一度契約してしまえば、しばらくはそのまま契約が継続されるため、安定した収益を得られる。
投資回収期間は長い。

■ソフトウエアパッケージビジネス
最初のソフトウエア開発には多少の投資コストがかかるが、それほど大きくはない。
一発当たれば後はマスターをコピーするだけなので収益性は高い。
当たる、当たらないの違いで大きく収益性は変動する。
コンテンツビジネス(映画、音楽、ゲーム、出版)も同様のモデル。

■SI事業
人月単位の人貸しビジネスであるため、初期の参入コストは限りなくゼロ。
人を商品(在庫)として抱えているため、抱えている人数と売上高は比例関係。
人の稼働率(在庫回転率)の向上が課題となる。
ビジネス規模を大きくしようとすれば、その分だけ多くの人間を雇う必要がある。
人を多く抱えすぎればそのぶんだけ、不況時等のリスクも増す。

これらのビジネスモデルは同じ通信・ハイテク業界でありながらも、収益構造が全く異なる。
見てわかるように、どのビジネスモデルが最も有利、などという事はない。
どのビジネスモデルにも一長一短がある。
ビジネスとしてのリスクヘッジのためにはこれらのモデルをうまく組み合わせる事が重要。

IBMはサービスビジネスに「転換」したのではない。
ハードウエア、ソフトウエア、サービスといったビジネスのポートフォリオの組替えを行ったのだ。
既存のハードウエアビジネスを放り出して、サービスビジネスに転換したのではない。
ハードウエアビジネスはハードウエアビジネスで強化しつつ、そのうえでサービスビジネスを強化していったのだ。
ハードウエアビジネスの「販売時の一回しか収益を上げられないという特性」をカバーすべく長期的に収益を得ること、ハードウエアの利益率低下に対してハードウエアの付加価値を向上させること、をめざしてサービスビジネスを強化した。

日本企業は通信事業者もコンピューターメーカーもこぞって、SI事業への転換を進めている。
だが、SI事業とは基本的に人月ビジネスなのだ。
好不況にかかわらず、常に人を抱えつづけなければならない。
不況になれば人を首にしてしまえば簡単に問題は解決するが、下手に解雇すれば今度は好況時に人材の確保ができなくなる。
常に抱えている人材が収益を規定する。
サービスビジネスへの極端なシフトは、却って企業の可能性を阻害する。
抱えている人材の人月以上の売上は絶対に望めない。

SI事業者は常に「在庫としての人材」の回転率、稼働率が問題となる。
僕らのようなコンサルタントもビジネスモデル的にはこのSI事業者と同じだ。
コンサルティング会社は、この人の稼働率に左右されるビジネスモデルから脱却するため、アウトソーシングビジネスのような安定して収益を上げられるビジネスモデルへの転換を急いでいる。

長期的に収益を安定させたいのであれば、これらのビジネスモデルの組み合わせ、ポートフォリオの組みかたが大切。
特定のビジネスモデルにシフトすることではない。
それぞれのモデルのバランスの取りかたが重要。

サービスビジネスモデルに転換したところで、何の解決にもならない。
そこは決して万能の世界ではない。
まずは自分達のビジネスモデルをきちんと見直すことが大切。
そして、それぞれのビジネスモデルの特性を理解したうえで、ビジネスポートフォリオの組替えを行うこと。

これって基本中の基本なのだけれど、このような当たり前のことすら実行できていない日本企業は多い。




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