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2003年03月08日(土) 「スマイルカーブ」は未だに健在

ハイテク業界のビジネスを語る上で、古来より語り継がれている伝説がある。

「スマイルカーブ」

「スマイルカーブ」とは、バリューチェーンの両端のビジネス規模が大きく、バリューチェーンの真ん中はビジネス規模が小さいことを表す。
バリューチェーン上にビジネス規模を折れ線グラフにしてマップすると、スマイルマークの口のような形になるので、これをスマイルカーブと呼ぶ。

バリューチェーンとは、ビジネス価値の付加のついていく様を、下流から上流へとビジネスの流れに沿って表現したものだ。
例えば、携帯電話業界にあてはめると下記のようになる。

通信インフラ → ISP機能 → サービスプラットフォーム → コンテンツ → 携帯電話機器

このうえに売上高の規模のグラフをマップすると左右両端が高くなり、真ん中が低くなる。
携帯電話ビジネスの場合、通信インフラと携帯電話機器の製造がビジネス規模としては大きい。
逆に、ISP機能としてのi-mode接続や課金システムのようなサービスプラットフォーム、コンテンツのビジネス規模はそれほど大きくない。
ちょうど、スマイルマークの口のような形になる。
これが「スマイルカーブ」である。
スマイルカーブそのものは冒頭にも述べたように、最近発見されたわけではなく、いわば常識と化している概念である。

ところが、最近はこのスマイルカーブが忘れ去られつつあるようだ。
携帯電話事業者はスマイルカーブの低い部分の強化を図りつつある。
確かに、ビジネス規模で言えばスマイルカーブの通りなのだけれど、ビジネスの付加価値や収益性という意味では「逆スマイルカーブ」になる。
収益が頭打ちの通信業界は通信料金に依拠したビジネスモデルから、景気の良さそうな上流工程であるサービスやコンテンツ分野に進出したいと考えるのである。

通信業界は苦戦している。
通信料金に依拠したビジネスでは今後、大きな成長は見込めないだろう。
それに対して、コンテンツやサービスプラットフォームビジネスはいかにも景気が良さそうに見える。
もともと日本の携帯電話事業はバリューチェーンの下流から上流までの全てを押さえた「垂直統合モデル」だ。
携帯電話事業者は既に垂直統合済のバリューチェーンを更に強く押さえようとしている。
携帯電話事業者が垂直統合モデルを更に一層強化しようとする気持ちはわからなくもない。

だけど、上流へのシフトは収益の低下を補うほどの効果はもたらさない。
サービスプラットフォームやコンテンツにシフトしたくらいでは通信業界の収益を回復させることはできない。
上流にシフトさせたところで、ビジネス規模が全く違う。
通信業として通信料金で「兆」の単位で売り上げていても、サービスプラットフォームは寡占的な地位を占めることができても「百億」の単位の世界なのだ。

しかも、コンテンツやサービスは「規模」が効かない。
規模の経済が働きにくい。
数社による寡占状態に持っていくことは難しい。

それに加えて、通信事業者にサービスビジネスやコンテンツビジネスを行う能力が存在するのか?
もちろん、そのようなケイパビリティーはない。

インフラビジネスでの今後の成長が見込めない以上、バリューチェーンの他の領域を強化するのは、当然の戦略。
戦略そのものは正しい。
だけど、そこでの成功は非常に難しい。

更に追い討ちをかければ、i-modeの開放やSIMカード、ナンバーポータビリティー等、世の流れはバリューチェーンの統合の強化ではなく、アンバンドル化と呼ばれる、バリューチェーンの解体なのだ。
携帯電話事業者の他領域でのビジネス展開を一層困難にしている。

携帯電話事業者は通信料金に依拠したビジネスモデルからの脱却をめざすことは、もちろん大切だけれど、直接の収益のインパクトをもたらす、本業の通信事業のスリム化、低コストオペレーション化の努力を怠ってはならない。

投資家は投資家で、ハイテク業界の企業がこぞって提唱する「サービスビジネスへの転換」をバカ正直に歓迎して受け取ってはいけない。
サービスビジネスはそもそも高収益を望めない。
現在のビジネスはきちんとやりつつ、サービスビジネスも強化します、という立場であれば歓迎すべきだけれど。

スマイルカーブは未だに健在。
スマイルカーブは今も有効であることを忘れてはいけない。




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