日々の泡

2011年11月15日(火) 千野隆司著「追跡」読了

序章 「永代橋」では料理屋「菊田川」の二人の若い板前がちょっとした弾みから賭けをし、まず角次郎が橋の欄干に登るが、突風により川に落ち水死する。それから20年後から第一章は始まる。 序章好きな私としては、たいへん好きなパターンである。たまに序章を疎かにして、後々公開することもあるし、読み終えてから序章を読んで改めて感動することもある。 主人公は角次郎の遺児の磯市であるが、未亡人となった母といまや大きな店構えとなった菊田川の主となったもう一方の賭けの相手乙蔵との噂や乙蔵が自分の父を殺害したのではないかという恨みを忘れられない。自分も料理人としての道を歩んでいたが、先輩とのつまらない諍いから店を追われ今は金貸しの手先となって、貧しい人々を脅す役回りで生活している。磯市の妹おひさは菊田川に仲居として勤めている。乙蔵はいまや菊田川の主人菊右衛門と名乗っていて、跡取りのちょっと頼りない筅太郎とその妹のおまき、妻と暮らしている。この二人の兄弟と磯市、おひさは仲良く遊んだ時期があった。この人間関係に加えて磯市が崩壊に導いた家の娘、おせんがからみ、磯市の菊右衛門への憎しみを軸に話が展開していく。クライマックスではついに磯市が菊右衛門を殺そうとするが、菊右衛門が角次郎が死ぬことになった賭けを提案してしまったという罪の意識から逆らわない様子にためらっている内に、もともと菊田川にうらみをもつ磯市の雇い主である金貸しが菊右衛門を殺そうとし、磯市はそれを止め、金貸しを殺害する。最終章は永代橋の場面である。磯市は人を殺めたものの菊右衛門の口添えにより遠島となり、これから船で流罪地に送られようとしているところである。船が動き出したとき、永代橋から菊右衛門をはじめ、筅太郎とその妻になった妹のおひさが自分の名前を呼んでいることに気づく。そして 彼が不幸のどん底に落としながら、命をかばって憎しみの目で見つめられながらも一時期一緒に暮らしていたおせんが「帰ってきて」と叫ぶ。「また戻ってこよう。必ず帰ってきて菊田川の人たちと暮らすのだ。一時あきらめていた料理人の夢をまた抱きながら、角次郎はこの永代橋で死んだ。だが自分は今、この永代橋で生き返った。そんな感動的な磯市の思いで終わる。こんな悔悛の場面にはいつも感動する。なんだかんだいっても浪花節好きなのだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


para