かっしーのつぶやき
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2006年11月11日(土) 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている

という標題は夏目漱石の『坊っちゃん』の書き出しの文章。決してあたしのことじゃござんせん。あたしゃ生来無鉄砲とはとんと無縁な、石橋を叩いて叩いて罅を入らした挙句に結局渡らないという類のてんで意気地なしでござんして…
って私のヘタレな性格のことなんざどうでもいい。

さてその「坊っちゃん」の物語の舞台となった愛媛県松山市にある野球場は、その名も「坊っちゃんスタジアム」と申しまして、公式戦こそシーズンに何試合かしか行われませんが、オフには例年、東京ヤクルトスワローズが秋季キャンプを張って若手選手の鍛練の場となります。

というわけで、行ってまいりましたその松山に。
何しにって、その秋季キャンプの見物にです。ええ。

わりとかるーい気持ちで見物旅行を決めたんですが、百聞は一見に如かずというか、まあ本当にいろんな、いろーんなことがありました。


●あの人トモさんに似てたよね、ってマジ本人じゃないですか!!(驚愕)

まあ最初にまず聞いてくださいよ。
行きに乗った飛行機が、愛媛大学に講演に呼ばれて行く出張トモさんと同じ便だったですよ。

私はいつも、搭乗口を過ぎて飛行機に乗り込んで自分の席に辿り着くまでの間はあんまり人と目を合わせたくないので、基本的に目を伏せつつ進むですよ。で、一番前のあたりのスーパーシートプレミアム席のあたりを歩いていた時のこと。スーパーシート(=席代が高い、電車で言えばグリーン車みたいなもん)ですから、座席自体がソファみたいに広いんですね。で、ふと目に入ったシートに座っている女性らしき人の身体が、視界に入っただけで一瞬ギョッとするくらいに細かったんです。広いスーパーシートの座面上のスペースが余りに余りまくっているんですね。で、うっわあ、細い人だなあ、見れば手足も長いし指も細くて長いし、きっとモデルさんとか芸能人さんに違いない、と思ってちょっと興味を引かれてその顔を見てしまったんですよ。そしたら。

…と、トモさん?

そのほっそい身体の上にあるその顔、そのあたりを払う仏頂面、もといシャープなお顔は、吉原知子さん?

なんせ席の脇を通りすがりの一瞬の出来事でしたから振り返ってしげしげ見るわけにもいかず、確認のしようもなく自分の席につきました。


●しかも機内放送では宝塚特集、これぞまさにスカイステージ(笑)

トモさんに似てた人いたよねえ、いたいた!本人かなあ、まさかねえ、などとtimutaんと話しているうちに飛行機は離陸。
ヒマつぶしに音楽でも聴こうとヘッドフォンをかけると、こともあろうに宝塚特集のチャンネルが…(ガクリ)。

何だかこうも偶然の一致が続くとちょっと不思議な気がします。トモさん(たぶん)と同機でご一緒する空の旅のBGMが宝塚特集だなんて、ベルばらとかエリザを聴きながらだなんて、私にとってはもはや作為的なまでの出来すぎ感があるわけですが、でも本当に、本当にただ単なる偶然で起こった事なわけで…。
不思議なことが、ある時はあるもんです。


●着いた松山でまたもやトモさんに遭遇

到着した松山空港でお手洗いに寄ったらまたもやそこでトモさんに遭遇…
お手洗いの行列に並んで待っていたら、目の前の個室のドアを開けて出てきたのがトモさんご本人でした罠。

なんというかアレですな、あんまり思い入れのある人にあんまり突然遭遇してしまうと、もう何もできないというか完全に固まってしまって思考停止に陥りますな。って空港のお手洗いで声かけられてもトモさんも困るだろうからそれはそれでよかったんだけれども。
トモさんはやっぱりあたりを払うシャープな顔つきのままお手洗いを出ていかれました。


というわけで、東京ヤクルトスワローズの秋キャンプを見に来たはずなのにのっけからこんな別ラインのサプライズ盛り沢山状態で、いったい私らはこれからどんな心持ちで一日を過ごしたらええがじゃー、とややテンパりつつ、坊っちゃんスタジアムへと向いました。


●子供の心はいつも純真

天気はあいにくの雨。スワローズの本日の練習は基本的に室内練習場で行われるようでした。
室内練習場、窓ガラス越しに覗けることは覗ける(別に規制はされていない)んですが、窓ガラスに外光が反射してしまって普通に見たんでは何も見えません。手をかざしたりして影を作ると、その部分だけ透けてかろうじて中の様子が見えます。中からどんな風に見えるか考えるとけっこうはずかしい。ででででも、朝もはよから飛行機に乗って松山にまで来て、これが覗かずにいらりょうか!

不審者のように窓ガラスにはりついて中を覗いていると、隣に小学中学年くらいの男の子ふたりが来ました。
中の選手達はウォーミングアップのためのダッシュ中。
それを見ていた男の子達の会話が面白かったので再現します。
(元は地元の言葉でしたが再現できないので翻訳)

A君「青木、いないかなー、青木」
B君「あれ青木じゃないか?あの真ん中の列で走ってる、白い服の」
A君「えー?青木があんなに遅いわけないじゃん!!」


いえいえその真ん中の列で今走ってた白い服の人は確かに青木選手、セ界の盗塁王・アオキーノリチカー様です。
一瞬私の中で、子供の夢を壊してはいけないという考えと子供にこそ真実を見る目を養ってもらいたいという考えが対立しましたが、結局、後者の立場を選びました(笑)

私 「あの真ん中の列の白い服の人が青木だよ」
A君「えーっ!?あれ青木?」
B君「ホラ見ろ、だから言ったじゃないか、そうだよね!あれ青木だよね!」
私 「うん、あれが青木」
A君「そっかー…あれ青木なんだあ…」

…いやそのだから今はタイム計って全力疾走しているわけじゃなくて練習前のランニングみたいなことをやってるわけだからみんなそんなに速く走ってないのよ。

というような大人の事情はおかまいなしに、きっとそのA君の心の中で、ヤクルトの青木選手といえばいつだってその踵に羽が生えているが如く、さながら鬼神のように迅く地を駆ってゆくイメージとともに存在しているのでしょう。

子供の心はいつだってヒーローの一番かっこいい姿を追い求めてやまないものなのですな。言い換えれば、「自分が一番好きな人」はいつでもどこでも、一番抜きん出てかっこいい存在であってほしいのでしょうな。

「青木からサインもらうの難しいだろうな、人気あるからな…」と言い合いながら練習場の玄関へ向かう少年二人の後姿を見送りながら、何だかちょっとほのぼのしてしまった私でした。


●陽射しキラキラ思わずクラクラ

つかクラクラしたのは陽射しの眩しさ以上に選手のカッコ良さに目が眩んだからなんですが。

捕手陣が室内練習場脇のブルペンに移動したよー、と斥候のtimutaんから連絡が入り、急いで現場(笑)へ。
おお、これがブルペン…。一応金網で仕切られてはいるけど、もうお客さんがぶり寄り状態ですな。
しかも一番手前に構えているのはtimutaんご推奨の米野選手じゃないですか。
この子の、マスク越しの目というのがもう、とんでもなくカッコイイのなんのって…

などと思いつつ見物しているうちに、さっきまで雨模様だったの雲がにわかに切れたかと思うと、さあっと音を立てんばかりのけざやかさで、明るく澄んだ日光が差してきました。

いやー。
キラキラの光の中で間近に見る米野選手は、なんというかもうキラキラMAX・縁取りハイライト処理、みたいに見えて、なんだかもうお姉さんは素で昏倒しかけましたよ。

ああ、本当に松山まで来たかいがあった… 来てよかった…(感無量)


●はるかに見える背番号、#43が遠く浮かんでる

午前中は閉鎖されていた坊っちゃんスタジアムが開いたので、喜び勇んで入ったはいいものの、グラウンドは昨夜来の雨ですっかりぬかるみ状態。あちこちに出来ている大きな水溜りを、スタッフの方々がひとつひとつぞうきんで水吸い取り作業中でした。本当に人力。頭が下がります…

しばらくそのグラウンド整備の様子を眺めていましたが、一向に選手は現れず。
やがて様子を見に行ったtimutaんから緊急連絡が。
「マドンナだよー!ここから宮出さんの背番号が見えるー!」

…いくら隣同士の球場とは言え、マドンナスタジアムで練習してるのが坊っちゃんスタジアムの中からでも判別できる宮出選手の背番号の可読性(=背の高さ)って一体。


●未来は僕等の手の中

というわけで大急ぎでサブ球場であるマドンナスタジアムに移動。
はからずも、特守に臨む宮出選手を見ることができました。

投手から外野手にコンバート、そして来季はさらに内野にコンバートの予定らしい宮出選手は、ただいま不慣れな守備フォームに果敢にトライ中なのでした。
日本人野手最長身、190センチ超のその体躯、長い長いその脚を屈めて、コーチの投げる球を右に左に。
あの姿勢であの動き、見ているだけでこちらの足腰がみしみしいってきそうなキツさです。
まだまだ!という感じでコーチが投げ続ける球に、宮出さんも「うぉーーっ!」「あ”−−っ!」と奇声を(すみません)発しつつも負けじとくらいついていきます。

右に左に何十球、何百球、やがてその練習が終わるや、うひゃあ、というような顔で土のグラウンドに寝転がる宮出選手。
帽子も被っていない頭がそのまま湿った地面の土についちゃってましたが、もうそれに構う余力もない。きっと、後になって自分の頭からパラパラ土が落ちてくるのに気付いて初めて、ああそういえばさっき土に寝転がったな、なんて思い至ったりするんだろうな。
そんな彼の、なんの飾りもない仕草を見ていて、うまく言えないけど、とても胸を打たれました。

シーズンが終わって、秋になって、今また「何もない素な自分」に戻った状態で、こんな、極限まで筋肉をいじめて壊してその上にまた新しく作ろうとするような厳しいトレーニングに、こんなにも無心に打ち込んでる、彼だけじゃない、ここにいる選手は、みんな。

何のためだろ、って、本当にただただ、野球がもっと上手くなりたい、今の自分を超えたい、ってそれだけなんですよね。

他になんにもない、今この球場の中には、それ以外になんにもない。

シンプルで真っ直ぐで、そういう所に立って生きている人たちを、私は今こうして見ている。
ただそれだけで、何でこんなに感動するんだろう。

何だか不思議な感覚でした。

宮出選手がマドンナスタジアムを去った後も、投手陣の何人かがグラウンドの外を走っていました。タイムを計って、何度も走ります。黙々と、でも果敢に、何かに挑むような静かな表情で。
夕闇迫るマドンナスタジアムは、もう見物客もまばらです。ただただ、走る選手の足音と息だけが静かに響きつづけます。

走り終わった彼らに拍手をするのも何か変な気がして、結局何も言えずに、後姿をただ見送るしかできませんでした。


●にきたつに船乗りせむと月待てば

その後、突然の豪雨に襲われ寒風に晒され、吹きさらしのスタジアム袖で四国の自然の苛烈さをしみじみと思い知り、寒さに震えながらホテルへ帰着。なんせ一日ほとんど立っているか硬くて冷たいベンチに半座りしているかのどちらかだったので、ホテルの部屋に入りベッドに座ったらその暖かさと柔らかさに思わず「うへえええーーー」と声が出てしまいましたよハイ。
雨に打たれ風に吹かれで冷え切ったこの心身を温めるにはもう、とにかくこれは温泉に入れということだ!
というわけで向かったのは俄然当然、道後温泉本館。

最初はホテル近くの駅で路面電車を待っていたんですが、とにかくもう風が強くて寒くて寒くて、このまま吹き晒されていたのでは間違いなく二人とも風邪を引くと判断し、背に腹は変えられぬとお堀端でタクシーを拾いました。

さて、道後は二度目ですが、いわゆる道後温泉本館に入るのは初めてでした。
おおこれが夏目漱石先生も愛した道後の湯、…などと感興に浸っている余裕は実はまったくなくてもうとにかく風呂だ風呂だ風呂だ!ってなイキオイで人込みにもめげず湯気でけむる大きな湯船に、ざぶん!

ぅぁあああああっっっったかあぁぁぁーーーーーいいぃぃぃぃーーーーー(溶)

さすがは額田王も歌に詠んだ道後温泉、夏目漱石も松山でここだけは許す(ヒドイ)と書いた道後温泉、有無を言わさぬ勢いでお湯の気のようなものがじわじわじわじわ心に身体に沁みこんできて、万葉の時代から名湯と名高い道後温泉の底力をイヤというほど感じましたのでした。

温泉から出て飲んだ道後ビールの、そして食事の、ああ、なんとおいしかったことよ…


てなわけで、今日はなんだかもういろんなことがありすぎて、思い出すとふと素に返ってあんまり不思議で笑いがこみ上げてきてしまうような、長い一日でした。
なんて日だ、なんて一日だったんだ、などと呟きながら、夢路へついた私らなのでした。


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