rioshimanの日記
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ここシミ島を紹介している観光案内パンフレットによると、現在滞在しているホテルはAクラスでこの島では最高レベルの一つだ。本当に居心地が良い。
この島に到着したのは夜8時過ぎだったので、ほとんどその日の行動は出来ず、昨日一日の滞在だけではこの魅力を味わうのには不十分だった。ので、昨夜ラウンジで友人と話しているホテルのオーナーに一日の宿泊延長を申し出ることにした。ところがその友人から代わりに返って来た言葉は意外なものだった。
「It's impossible」不可能だ。
私はその言葉がとても信じられなくキョトンとしてしまった。こんなに部屋が空いているというのに!
彼の説明によると明日、つまり今日が今年のこのホテル営業最終日だと言うのだ。エッ、夏場しか営業しないホテルがあるということは前もって知っていたけど、ここもそうだったのか!観光客が少なくなるこれからの冬場には採算が取れないのだろう。気を付けてみると今宿泊している客は私ともう二組だけだ。部屋数は20ぐらいあるだろうか。仕方ない、他を探そう。
で、もう少し良い価格のホテルでもいいなと思い、どこか良い泊まる場所はないかと行きつけのレストランで尋ねてみた。するとすぐ店のオーナーが良い所を知っているからと従業員に案内するように申し付け、私をオートバイに積んで港奥に位置する部屋を見に行った。オーナーの妹さんが営業している3階建てのレンタル部屋で、彼女が案内してくれた。
価格を訊くと1日40ユーロ、とても大きな部屋だが少し雑然としていて部屋にセンスがあまり感じられない。それに港から少し奥まっているので窓から海が見えないのが寂しい。現在泊まっているホテルと何たる違いなのだろう。私はその時、自分にとって海が重要な要素であることに気が付く。
帰り際、どこかで私の名を呼ぶ声がするのでそちらを振り向くと魚専門レストランで会食中の絵画教室仲間だった。そこで私の絵が見たいと言うので今まで辿って来た島等を説明しながらの楽しい会話。
次に部屋を紹介してくれた店のオーナーには申し訳ないけどと断りの挨拶をして帰って来る。そして現在宿泊している隣りの、つまり絵画教室仲間が泊まっているホテルの受付に行って明日から2日間の宿泊をお願いした。そこでは残念ながら海の見える部屋は絵の仲間に占領され満員になっているということで、結局山側の部屋になってしまった。でも玄関前がすぐ海なので問題はなかった。宿泊料40ユーロ。もし海側の部屋だと50ユーロ。
お昼にホテルの移動を済ませたあと再び昨日行った南側傾斜を登る。そして直射日光が当たらない建物の陰で、しかも描く景色を見るのに障害物のない場所を探しながら移動する。運良く突き出した見晴らしの良い岩の上に、しかも人が住んでいる気配のない建物を見つけ、その脇に椅子を構える。
しばらくして背後から声がした。見ると小さな女の子が道端に立ってこちらを見ている。私も挨拶をする。間もなく近くの自宅から自分のお絵描き道具を持って来て私の脇にしゃがみ込んだ。目の前は崖っぷちである。危ないからと注意するのだが、彼女は足を空中に出しブラブラさせていても平気である。なんて子だ。そんなことも気にせず一心不乱にお絵描きをしている。
そのうち自分の道具に飽きて来たのだろう、私の絵具を使っていいかと訊いてくるので、いいよ、というとガッシュ・チューブから絵具を盛り盛りと取り出すと自分のパレットに移している。大きな筆も使いたがるのでそのままにしていた。が、私の持っている物、すべてに興味を持っているみたいだ。また手持ちのバックの中に何が入っているか見せてくれとせがんで来る。
そうしているうちに気付いたのだが、私がやっている事すべてを自分もやってみたいのだ。ついに彼女は私のスケッチ用椅子も絵具もすべて私から奪ってしまった。(写真。彼女は私が筆を頬に当て考えている癖を真似ているみたいだ) この水彩絵具を自宅に持ち帰っても良いかと私の顔を覗き込んで何度も訊くのでそれだけは駄目だとキツく言うと、どうやら分かってくれたようだ。
突然、後ろから大人の男性が大声を上げた。「○○○○!、そこで何をしてるんだ! 何てことだ! 危ないじゃないか!‥‥‥‥‥‥‥☆☆☆」 仕事から帰って来た父親だった。母親がそれまで家の脇からこちらの方をチラチラ見ていたのに私は気付いていた。
女の子は体を凍らせるようにシャキッと立ち上がると走るように帰って行った。「それは家に持って行っていいよ」と合図した、そのとき彼女が絵塗りしていた私の太軸フェルトペンを嬉しそうに手に握り締めて。
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