恋。 - 2002年12月11日(水) 神保町に本を見に行った帰り、洗濯屋のおばちゃんのところに 寄った。 出していたセーターやら旦那のスーツが今日上がることになっていたのだ。 寒さの中、凍死の危険を顧みず頑張って洗濯屋までチャリを漕ぎ、 かじかんだ手でがらがら〜とドアを開ける。 中に入った私を、カウンターで伝票の整理をしていたおばちゃんは、 はち切れんばかりの笑顔と「いらっしゃ〜〜い」という桂三枝なんか比じゃない 高いテンションでお出迎えしてくれるのであった。 そして、私が改めて「今晩は〜」と挨拶をしようとすると、 それをさえぎるかのようにぐふぐふぐふ〜と笑った後、 「旦那さんこの前きてくれたのよ〜。あっ、その時のヤツでしょ〜、、 できてるわよ〜」 と言い、またぐふふふふ〜とうれしそう。 うちの旦那はどういうわけか、洗濯屋のおばちゃんにウケがいい。 彼女はあのゴリラのような顔を格好いいと言って、私を唖然とさせたかと思えば、 「朝、ここに来る時旦那さん見かけちゃった〜。でも気がついて もらえなかったぁ〜〜ん・・キャッ!」なんて肩をすぼませ、 なんて返答していいものやら・・と、私を困らせたりする。 ぐふふふふ〜、、ぐふふふふ〜、、とその後もおばちゃんの笑いは 止むことがない。 それはどことなく、はにかんだような、または恥ずかしげでもある。 まるで、上級生に淡い恋心を抱いている女子高生。 どうやら、私の旦那は洗濯屋のおばちゃんに恥じらわれているらしい。 洗濯物はなかなか最後のセーター一枚が見つからないのであった。 が、背の低い小柄なおばちゃんが山のような洗濯物と格闘して、 その影に隠れてしまっていても、声だけは「もご、、もご、、ぐふふふふ〜」 と聞こえてくる。 セータ5枚とスーツ一着をようやく揃え、カウンターで袋に入れる作業を しながらおばちゃんが言う。 「ホントに偉いわ〜、、旦那さん、ぐふふ・・。うちのなんか洗濯物出してきて っていうといやがるのよ〜〜、、ぐふふふ〜〜」 「いや、洗濯物ぐらい、その時に手の空いてる方が出すのは当たり前です! 私も何かと忙しいんで!」 なんてキッパリ言おうかと思ったのだが、彼女を包んでいるほんわかした雰囲気を 壊すのも悪いと思い「そうなんですよ〜、助かります〜〜」と私。 それを聞いて偉いわ〜〜、偉いわ〜〜とおばちゃんのピカチュウに似た顔が さらにでれでれする。 そして最後、帰ろうとする私に彼女がダメ押し。 「だ、旦那さんによ、よろしく・・・・ね。」 びみょーな響きであった。声を弾ませたいのに、敢えて抑えた といった感じであった。 ふと見るとその顔は心なしかピンク色に。 私は気がついていた。 あの様子はもはや”気に入ってる”というレベルではない、ということを。 それは・・・・・・・恋。 恋なのだ。彼女は恋をしているかも。私の旦那に。 帰り道、自転車を漕ぎながら彼女の表情を思い浮かべて考える。 私はここ最近、あんなふうに旦那に対してウキウキドキドキ したことがあっただろうか・・?と。 または、偉い!なんて言ってあげたことがあっただろうかと。 洗濯物だけではない。 何かといっては手伝わせ「アッタリ前じゃ〜〜ん」と それを疑いもしない私。 かたや、洗濯物を出しに行っただけで、あんなに誉めてくれるおばちゃん。 「人は誉めて育てろ!」とどっかの教育者も言っていた。 あのノーベル賞を貰った田中さんだって記者に質問された時に 「誉められるってことは励みになります」と言っていた。 もしかして、毎日仕事で疲れている旦那にとっては、私より 彼女の方が伴侶としては適任者ではないのか? その方が出世できるのではないのか? 私は今より旦那のお給料が上がって、シュークリームを百個一度に買って もらうまでは、別れないと決めている。 さらにそのまま一緒にいて、あわよくば看取って欲しいとまで考えている。 「身を引くわけにはいかないね〜だ」 そうポツリと思ってみるのであった。 おしまい。 ...
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