台所のすみっちょ...風子

 

 

めんどくさい。 - 2002年12月08日(日)

金曜日の午後、3時半すぎに家を出て池袋に向かった。

30分しか移動していないというのに、駅に着いて喫茶店の前を通りかかったら、

すっかり山の一つや二つ登ったような疲れを感じ、吸い込まれるように店に入り

コーヒーを注文。一杯飲んで、タバコを2本ほど吸って出るつもりが、

前日に妹から借りた本なんかを開いたら、その面白さにハマってしまい、

気がつくとあっという間に一時間が経っていて、

「あれ?今日の私って、池袋に茶をしに来たんだっけ?」などと、

思わず自分の目的を忘れてしまうところであった。

ふ〜〜、危ない、危ない。


そう、私には目的があった。それは、買い物。

大根やトイレットペーパーを買うのではない。

この寒さの中、ショーウインドーに映った自分の姿で、

心まで凍えてしまわないように、女をぐっともり立てる品を買うのである。


食料品や日用品ではない物品を買うのは約4ヶ月ぶり。

なんたって最近の私は益々、剥がれる美のかけらもないほど女が枯渇している。

化粧水がきれて2週間以上。

肌は細かくヒビが入らんばかりに乾燥した「ワニ肌」。

パンツの下に履く靴下は古くずるずるになって「バアサン使用」。

セーターは毎日同じヤツで、このままでいくと「臭いぷんぷん娘」。

おまけに外に出る時に私が羽織るものといえば、5年前に買った

ボロボロに朽ち果てた薄い皮のジャケット一枚で、

寒々としたその姿はまるで「マッチ売りの熟女」。

状況は切迫している。それで、ようやく重い腰を上げたわけである。

本当は、売り場を見て回り、あれやこれやと考えて買うのも面倒臭い人なのだ。


もっと読みたいという気持ちを抑えつつ、妹の本を閉じ、

ようやく近くの西武百貨店へ。

まずは化粧品を買う。

カウンターに行って、店員が「何をお探しですか?」なんて

聞くか聞かないかのうちに、

「化粧水ください!この肌がすぐ、すぐに直るヤツください!」と押しまくり。

自分からあーだこーだと質問するのもたるいので、

進められるままに化粧水と乳液を決めると、店員がアイシャドーを紹介し始めた。

「あっ、それもください。もうめったに来ないんで。」

即決であった。

商品を見せられ、悩んで後から買いに来るなんて、めんど臭くて到底できない。


私の素早いジャッジに煙に巻かれた顔をする店員。そんな彼女に

「じゃ!」とキッパリと別れを告げ、途中靴下を買い、

次に向かった先は婦人服売り場。

一番初めに見た店でこれまたあっさりとコートを買う。

いよいよ残るはセーター。

だが、めんどくさいので、

「このフロアーにはこことあそこの2つしか店がない!」

と自分に言い聞かせ、向かいの店で買うことにした。

ここまで、小一時間。ショッピングなんて言葉とはほど遠い。

あくまで、手際の良さが信条である。


店の人が見せてくれたVネックのリブ編みセーターを買う。

「お客様たくさんお買い物なされたんですね〜」と品物を包みながら店員。

たくさんに見えるのは、かさばるコートがあったからだが、

「ええ、買い物がめんどくさいので、まとめて買いました」とすっぱりの私。

すると、彼女は少し驚いたように目を丸くして

「はあ〜・・そうですか」なんて呟いた。

それは、まるで

「接客態度がバツグンだったから、このセーターを買ったのではなく、

単にとっとと買い物を済ませたかっただけにすぎなかった」という私の

気持ちに気がつき、ショックは隠せない、というようであった。

私は紙の手提げ3つを1つにまとめてもらい、そこでも「じゃっ!」

と言い残し、すたすたとその店を後にした。


百貨店の外に出ると、家を出る前に考えていた買いたい項目を

余すところなく買ったのにも関わらず、気持ちがどこかもやついた。


「めんどくさいから」という気持ちが全面に出たお買い物。

それは、果たして女の買い物の仕方としてはありだろうか?

女をもり立てるためには、まずそんなところから直すのが先なのでは

ないか?と、電車に揺られながらぼんやり思うのだった。

おしまい。


...




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