...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2003年02月06日(木)

「ママはどこへ行ったの?」
父は、僕の問いに暫らく口を開かなかった。
何か言おうとはするが唇が重そうだ。
僕の眼を見ようとしない。
何か言いたくない事なんだ。

何度目かに父が戸惑う口をパクパクさせた時に
思い切って僕の方から話しかけてみた。
「ママ、もう帰って来ないんだね?家出しちゃったの?」
すると父は申し訳無さそうな顔でこちらを見た。
「そう・・・実はそうなんだ」

「えーと、その・・・彼女には事情があってな、
 お前と暮らす事が出来ないそうだ。
 今朝早くここに電話があって・・・5年ぶり以上になるな。
 それでパパ達がお前を迎えに行ったんだよ。
 捜しても見つからないと思っていたが、案外近くにいたんだな」

父の目はキョロキョロしながら、口は言いよどみつつも早口だ。
そして僕の顔を窺うようにニカッとわざとらしく笑った。
まだ何か隠している事があるんだろうな、と思った。
一瞬、もう少し突っ込んで聞いてみようかとも思ったがやめておいた。
せっかく気を使ってくれているのに、
この作り笑いを無駄にする程、僕は薄情にはなりたくなかった。



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