...ねね

 

 全てフィクションです

【父との秘密】なんでコイツがいるんだよ - 2002年08月23日(金)

店に入ると、父と母がボックス席に並んで座っていた。
あたしは足取りの重い弟を引っ張って、向かい側に座った。

身を乗り出しながら静かな声で弟が母に話しかけた。

「だからなんでコイツがいるんだよ」

父は、今まで自分がいい様に殴ってきた弟に殴られて
少々弟を恐れているのか、まっすぐに弟を見る事は無かった。
弟の睨みつける視線からずっと顔を背けている。
以前なら場所を構わず「なんだと!」と声を荒らげる所だ。

母が弟の勢いに押されながら、おずおずと話しだした。

「パパ…ね、一人でしばらく暮らしてみて、
 やっと家族の大切さが分かったんですって。
 それで、ね、すごく反省したから、家に戻りたいって…」

それを聞いた弟が反論する。

「ママは?ママは何とも思わないのか?
 自分の娘をあんな…あんな目に遭わせた奴だぞ?
 なんでそんなに簡単に許そうとするの?
 姉ちゃんの事ちゃんと考えたの?
 こんな男、帰って来なくていい!」

父も母も黙っていると、弟は突然席を立ち上がった。

「俺は我侭で言ってるわけじゃないんだ。
 あんた達オカシイよ。狂ってるよ。」

そう言い放って早足で出口に向かって行った。
あたしは母が何か言うかと思い一瞬その場に留まったが
父も母も口を開かないのを見て取り、弟の後を追った。
外に出ると、あたしを待っていたのか、
まだ弟は出入り口付近に立っていた。



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