...ねね

 

 全てフィクションです

【父との秘密】そんな人も大勢いる - 2002年08月08日(木)

「彼女はね、もう乗り越えたのよ」

カウンセラーの先生が横から言った。
でも、なぜあたしにそんな話を?
疑問を口にする前に、彼が申し訳なさそうに頭を掻いた。

「ごめん、先に君の事話しちゃったんだ。そうしたら、彼女が是非
 自分の話も聞かせたいって。
 君だけが苦しんでるわけじゃないって事、
 いつか乗り越えられる事、知って欲しいって。」

そっか。
勝手に喋ってしまった事は、怒るわけには行かないな。
あたしの為になると思ってくれたんだから。

「あの、・・・こういう、事って良くある事なんですか?」

「良くあるわけじゃない。
 だけど、世間の人が思っているよりは、多く存在するの。
 性的虐待で捕まる人なんて、あまり聞かないでしょ?
 家の中は閉鎖的で、その中で彼女の家の様な妙なルールがあったり
 家族の誰にも気付いて貰えないまま耐えていたり
 そうやって陰に隠れているものがいっぱいあるわ。
 当然、簡単に人に言えるものじゃないしね。
 きっと、ここに来ている人や児童相談所で相談されている例は
 その中のほんの一部だと思う。
 ここに来る人たちだって、ものすごい勇気を持って来たはずよ」

そう・・・そうだろう。
あたしだって一人だったら来なかった。
知らない、赤の他人にこんな話信じてもらえるだろうか、
話してしまってもいい物なんだろうか、と
色々考えた末にやっぱり来る事は出来なかっただろう。

「またいつでもいらっしゃい。
 本当のカウンセリングは有料なんだけど。
 ま、今日は特別ってことで。ね」

「はい。話を聞けて良かったです。ありがとうございました」

「話だけならいくらでもするよぉ。
 私ね、先生みたいな仕事したいと思ってるの。
 高校中退だからまずは勉強しないと。
 でも悩んでた頃よりずっと充実してて楽しいんだ。
 すっごいたーいへんだけどねっ」

あたしもいつか、きっと乗り越えられる。
そう思えた。
今はまだ、気持ちの整理がついていないし
両親がどうなるのか、母はどんな結論をだすのか
まだ分からない状態だけど。
明日の身の振り方すら見えない状態だけど。


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