『海猫』 谷村志穂著 新潮文庫
久しぶりに、小説らしい小説を読んだ気がする。
普段私が愛読している、村上春樹や江國香織は、 なんというか小説のようで小説でない。 リアリティのない辺りが特に。 現実味がないにも関わらず、 その小説世界の空気感はすごく自分に近いところにあって、 心理的に共感もするのだけれど。 ディテールはリアルでも、総体は御伽噺。 私にとって、村上春樹や江國香織はstoryなのだな。 novelではなくて。 どう違うと聞かれても困るけど。
話を戻して、『海猫』。 函館の風景と言葉が心地よい。 北海道という土地の特殊性もあるのだろうけれど、 出てくる女性それぞれの潔さも印象的だ。
映画化されるらしい。 伊藤美咲がまた主人公のイメージとピッタリ。 佐藤浩一と仲村トオルも悪くないけど、 小説の年齢設定とズレすぎでは?
それはともかく、 人物が丁寧に描かれていて、 地味な(笑)大河ドラマ的雰囲気も漂わせつつ、 やはり「強い女」という裏テーマが訴える力を持っている作品だと思った。
個人的には、一番ロクデナシっぽかった主人公の弟が、 浮き草的にではありながらも、 ちゃんと家庭を築いて平凡にトシをとっていくところと、 主人公の母親の生命力が印象的だった。
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