2005年 日本 監督 堤幸彦 キャスト 渡辺謙 樋口可南子 坂口憲二 吹石一恵 水川あさみ 袴田吉彦
原作を読んだときもドキドキした、なんだかとても人事だとは思えなくて。 義母のこともあるし、最近私たち夫婦もちょっとしたことが思い出せないことが増えているような気がする。 人の名前、ものの名前・・「なんだったけ?」と聞かれて、こっちまで思い出せないこと。「ええ〜〜っと、ほらほら・・あれ」と二人で四苦八苦したり(汗) だからあの病院の検査のシーン、物凄く真剣に見てしまいました、まるで自分が受けているかのように。 「桜、電車、猫」 ほっ・・大丈夫・・・覚えてる・・
まだ49歳、仕事もバリバリやっているサラリーマンの佐伯にとって、若年性アルツハイマーという診断は、それはもう、受け容れがたいものだったと思う。 「ゆっくり死んでゆく」という彼の言葉の悲痛さ。 記憶がひとにとってどれだけ大切なものか。 思うに生活のほとんどは記憶から成り立っている。自分がしたこと、言ったこと。人から言われたこと。今日しなくてはいけないこと。あのこと、このこと・・・ それらがどんどんと頭の中から流れ去っていくとしたら。どれほど怖いことか。
そんな彼を支える妻、枝実子。 私だったらどうするだろう・・どんな風になるだろう・・そう思いながらずっと観ていました。彼女みたいに、ちゃんと夫を支えられるだろうか・・全然自信が無い。きっと一緒に崩れ落ちそうな気がして・・ でも彼女も何度か声を荒げたり、心にしまっていたことを彼にぶつけていましたね。人間だもの、何もかもガマンして生きていくことなんてできないと思う。
だんだんと病状が進んで佐伯の顔から表情が無くなってゆく様子・・渡辺謙はしっかりと演じていましたね。 どこか自分の世界にだけ入り込んでいるかのような・・。
記憶が無くなってゆく彼が思い出す、妻との出会いの場所。若い枝実子、そしてかっての自分。 奥多摩でかっての陶芸の師匠とふたり、酒を飲み、焼いた玉ねぎ(?)を食べるシーン。食べることにも意欲を無くしていた彼が、久しぶりに感じた食べ物の味。その笑顔。いろいろな思いが込み上げてくる・・シーンでした。
原作のラストシーンは、あまりにも哀しくて美しい・・そんな印象が残っていました。 映画でもやはりぐっときたのですが、佐伯の顔がとても穏やかで落ち着いていたので、どこか安堵するような・・そんな印象も受けたのでした。
彼の中の記憶は無くなっていっても・・彼の残したものはまわりの人たちの中に残ってゆく。かって一緒に働いた仲間達、娘、孫、そして妻。 彼らの中で、佐伯の記憶は生きてゆき、そして明日へと繋がってゆくのだろうか・・
原作同様、しみじみといろいろな思いが込み上げる作品でした。
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