瞳's Cinema Diary
好きなスターや好みのジャンルにやたら甘い、普通の主婦の映画日記。
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2007年04月17日(火) 「太陽」

2005年ロシア・イタリア・フランス・スイス
監督 アレクサンドル・ソクーロフ
キャスト イッセー尾形 ロバート・ドーソン 桃井かおり 佐野史郎 つじしんめい 

終戦を迎えた1945年、占領下での日本の、昭和天皇の姿をロシア人のスクーロフ監督が描く・・
昭和天皇、そのお姿はテレビや写真で知っているだけで。
今この時代の私達は、もちろん天皇を神と思っているわけはないし、私達と同じ人間だって分かっていますが・・でもなんでしょう・・たとえばイギリスの皇室に対する国民の捉え方と日本人の皇室に対する気持ちって絶対違うと思う。
やっぱり私達とは距離があるし・・ごくごく自然に「お姿」とか「〇〇様」って口をついて出てくるものなんですよね。

だから映画の中に昭和天皇が登場すると・何だか緊張するというか・・不思議な気持ちになってきますよね。地下の防空壕でのお付きの人とのやりとりに、ぴん!と張った緊張の糸のようなものが見えるような気がして。
あのお召し変えのシーン。緊張してボタンがなかなか留められない老侍従・・汗が噴出した侍従の頭を天皇が見下ろすのですが・・こちらまでどっと汗が噴出しそうでした。

自分以外の日本人は全て死んでしまうのではないか・・と天皇は恐れ、午睡を取ると悪夢にうなされ。この夢の映像がなんとも印象的です。アメリカ軍のB29?は巨大な魚のようで・・そこから落とされるのは多くの小魚・・
東京の町が火に包まれる・・その様子はなんとも不思議に、でも怖く迫ってくる・・

ここに見えるのは、私達がテレビや写真でしか見たことがない昭和天皇の姿ではなく・・神として崇められることを放棄し、弱さや恐れを持った一人の人間としての姿。
これはやっぱり日本人では絶対描けないでしょう!
ヘイケガニの標本に喜び、ハリウッドスターたちの写真を眺め、ハーシーのチョコレートを手にし。
マッカーサー将軍とのディナーでは、なまずについて熱く語り始める・・
そんな姿がなんだか微笑ましくて、冒頭からの緊張感がふっと緩んでくる。
でもそんな彼の人間的な姿は・・軍の若者たちにとっては見てはいけない姿だったんでしょうか。陰から見つめる・・あの表情がなんとも・・

疎開した皇后との再会。ほっと安心したかのように彼女の肩に頭を預ける昭和天皇・・これって・・結構衝撃的だったりしませんか?
包み込むような皇后の言葉や、交わす会話が、普通の、ごく一般的な夫婦の会話なのにビックリしながらも、なんだかとっても微笑ましくてこちらまで「あ。そう」なんて言いそうになって(笑)

でも。そんな暖かいほっとする空気を断ち切るかのように。聞かされた・・衝撃的な事実。このラストにはっとまた冷たい風が頬を切っていくかのようでした。

天照大神のような、この地を照らす太陽であるかのような・・現人神であらねばならなかった昭和天皇。でも、この映画での姿はどちらかというと、月のようにひそやかで静かな苦悩に満ちているかのようでした。動転した天皇の腕を抱えるようにつれてゆく皇后の姿。彼を包み込み、守ろうとしているかのような彼女の姿の方が、太陽のように思えてしまったのでした。

迷路のような防空壕。暗くうねっているかのような、夢の中の町。
独特の映像美の中で、唯一、静かで穏やかな生物学研究所が楽園のようでした。
ツルの鳴き声がいつまでも耳に残っています。

最後に、昭和天皇を演じたイッセー尾形さん。彼の演技無くしては、この映画はありえなかったと思います。


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