瞳's Cinema Diary
好きなスターや好みのジャンルにやたら甘い、普通の主婦の映画日記。
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2007年03月16日(金) 「コレクター」

1965年アメリカ 監督ウィリアム・ワイラー
キャスト テレンス・スタンプ サマンサ・エッガー モーリス・バリモア

かのテレンス・スタンプさま(なぜか、さまを付けたくなる)27歳の時の作品。
蝶の蒐集が趣味という、地味で暗い銀行員の青年が、当たったくじの賞金で美しい女学生を誘拐、監禁するというお話なんですが。

こうやって書いてしまうと全然このお話の本当の怖さが伝わってこないなあ。怖いんです・・なんていうか・・じわじわ・・深々、怖い。
その怖さは、暴力をふるわれるような怖さじゃない、ひどいことをされる(いえ、無理やり監禁される・・っていうこと自体がもうひどいことではあるんですが)肉体的にひどいことをされる・・ていう怖さじゃないんですね。

どこかの田舎のとっても古めかしい、味のあるおうちの地下室を(彼が勝手に彼女の好みだろうと考えた風に)改造して彼女の部屋を作り、彼女に似合うであろうと思う服を揃え、彼女をお迎えする。食事も運び、彼女に無理やり触れることもしない・・彼の望みは「ただ彼女がここにいること」「彼と話をし、彼という人物を知って欲しいということ」
スーツを着て髪を撫で付け、優しく静かな声でそう語る彼の怖さ。自分のしていることが彼女にとってどんなに恐ろしいことか、全く感じていないであろう・・怖さ。
彼という人物の物の見方の狭さは、本や絵についての二人の会話に後にはっきりと現れてくる。彼女の好きなサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」やピカソの絵に対する彼の評価、見方。他のものの意見を認めようとせず、癇癪を起こす彼の姿は、普段のジェントルマン風な物腰の影に潜んでいる彼という人物の幼さ・・を見せてくれて怖い。
こういうシーンを少しづつ見せながら、だんだんと彼が彼女を解放する気持ちがない・・っていうことを気付かせてゆく・・っていうのは上手いですよね〜。

隣の男性が挨拶しにやってきた時に彼女が(救いを求めるために)お風呂の蛇口をいっぱいに開いて水を溢れさすシーンのドキドキ感(階段をゆっくり流れてゆく水!!)や
両親に当てた手紙の中に秘密の紙切れを入れようとするくだりのやりとり。
雨の中で・・スコップが映るあのシーンも。
なんとも緊張感に溢れるシーンがいっぱいで全然飽きさせない、その展開も見事です。

蝶のコレクションを彼女に見せるシーンも印象的でした。「私も、あなたのコレクションなのね」「あなたが愛してるのは死なの?」
そう問い掛ける彼女の姿に思い出すのは、冒頭彼女が自由に街を歩いていた姿。
彼女のあとをつける彼の様子は、まるでひらひらと自由に飛ぶ蝶を追いかける・・ようでした。あの時の彼女のなんて生き生きしていたことか。

ただ・・こう書いているとどんなに彼が残酷でひどい男か・・と思いつつ見ていたかのようなのですが・・これが・・実際はそうでもないのです(汗)
なんででしょうね、あの瞳、あの暗い。時々ものすごく冷たい目線を見せて一気に部屋の温度を下げる彼ですが(苦笑)それなのについついどこか同情の気持ちが湧いてきたりするんですよねぇ。
あの画学生の彼女が書いた、彼の姿にも孤独で寂しい姿が見えて・・つい・・ね、ふらりと気持ちが傾いちゃったりもするんですよね(苦笑)
それなのにねぇ・・それなのに、そんな観客の気持ちをまた裏切ってくれる、このラスト・・

愛して欲しい・・と願いながら、でも人の気持ちを全く信じられない、受け容れられない、男の哀れさ。最後まで自分を援護し人のせいにする身勝手さ。
果たして自分の犯した罪の重さを自覚する日が彼に来るのだろうか・・そうは思えないのが一番怖い。


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