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2019年08月05日(月) 「BABA IS YOU」のこと

 「BABA IS YOU」(Hempuli Oy)も終盤に差し掛かってきたので、今後落ち着いてプレイするためにここで感想をまとめておく。
 単語を組み合わせてゲームのルールを変えながらクリア条件を満たすパズルゲーム。A IS Bの構文が基本で、このように単語を並べることでゲームのルールが成立する。Aは名詞で、Bは動詞もしくは名詞であり、Bが動詞のときはAがBの動作をできるようになり、Bが名詞のときはAがBに変化する。単語の並びは上から下、もしくは左から右の場合のみルールが成立し、逆の場合は成立しない。
 プレイヤーはA IS YOUで定義されたAを操作して、A IS WINで定義された条件を満たすことが目的。例えば、BABA IS YOUでFLAG IS WINなら、BABAをFLAGと重ねることでクリアとなる。

 今までルールが変化するパズルゲームが無かったわけではないが、ここまで大胆にルールを組み替えられるような作品があっただろうか。ルールを変えれば押せなかった岩が押せるようになり、通れなかった壁がすり抜けられるようになり、プレイヤーを妨害していた物を無力化することなど容易いことである。それどころか、その妨害していた壁自体や、何もない空間ですらプレイヤーキャラにすることも可能である。しかし、ルールは全てプレイヤーに有利に働くわけではなく、今まで通過できた草むらが壁になったり、水に触れると沈んでしまうようになったりと、不利になるような場合も少なくなく、プレイヤーはその制約下でどうルールをやりくりするかを考える羽目になる。キャラクターの役割が固定されている従来のパズルゲームの常識では到底理解が及ばない、すなわち非常識な解法を求められるところに、この作品のかつてない斬新さとその意外性がもたらす鮮烈な面白さを感じることができた。

 ルールを変えるというシステムについて、特に秀逸と感じられた点が2つある。
 1つは、固定概念の打破。この手の倉庫番システムのパズルゲームをプレイした人ほど、様々な固定概念に囚われているはずである。名詞は一度に一つしか指定できない、単語を重ねることはできない、一度消えた物体は復活しない、プレイヤーキャラが消滅したらその時点で詰む。この作品では、このような固定概念を覆すような解法が次々と求められる。固定概念に囚われているうちはまるで見えなかった解法が、その固定概念の呪縛から解き放たれた瞬間にたちまち姿を見せてくれるという解放感は、この作品の虜になるには十分すぎる快感を与えてくれた。
 もう1つは、簡素で美しい解法。この作品は高次面になるにつれて単語の種類が増え、動詞の種類もさることながらANDやONのような接続詞、NOTという否定語がルールの組み合わせを一層複雑にしてくれる。しかし、高次面だからといって操作できる単語の数が爆発的に増えるようなことはなく(制約を与えるための操作できない単語は増えるが)、逆に少なくなることすらある。単語がこれしかないのにどうやってクリアしろと初見で絶望することも多いが、そこから導き出された解法はとても簡素で、かつ美しいものばかり。その簡素な美しさはクリアしたときの感動をより引き立ててくれて、自分が凄い存在になったような錯覚すら覚えるほど。安易に操作できる単語を増やして徒に複雑にすることなく、必要最低限にまで単語を減らしてプレイヤーの思考を極限にまで働かせる難易度調整に、作者の哲学と矜持を感じ取ることができた。

 この作品は決して簡単ではなく、製作者はかなりの本気でプレイヤーに挑戦を仕掛けている。難易度の上昇はきちんと順を追っているようには構成されているものの、進め方の理解が十分でない中盤くらいまでは苦戦を強いられるだろう。そこで大事なのが、やはり先に述べた固定概念の打破。一見すると単語を並べるだけのシステムだが、実はその裏には数多くの応用的な操作が隠されている。そこに気付き、こうすればクリアできるのにの”こうすれば”をどう実現するか、不可能な手段をどう可能にするか、そういう視点からの発想を広げられるようになれば、自然とこの作品を攻略する実力が付いてくるかと思われる。
 まあ、製作者はそれを見越して、高次面でもさらなる柔軟な発想を求めてくるのだが。なので、どこまで進めても飽きることなく新鮮な驚きに満ちた作品となっている。

 BABAを始めKEKEやMEなど愛嬌のあるキャラクターは、難易度の高いこの作品での大きな癒しとなっている。BABA達が甲斐甲斐しく動き回っているのを見ると、数々の試行錯誤も頑張れる気がしてくる。また、どこかとぼけた感じの音楽も思考を妨げず、なおかつゲームが無味乾燥にならない丁度良い按排である。演出面は一見地味ながら、この作品にじっくり取り組めるよう細やかな配慮がなされているという印象を受けた。

 キャラクターの役割が固定されていた今までのパズルゲームの対極にある、決めたルールであれば何でもありという斬新なシステムと、そのシステムの裏の裏まで要求する挑戦的な難易度は、決して簡単ではないもののプレイヤーに多くの驚きと感動を与えれくれるはず。今年プレイした傑作の1本になること間違いなしである。


氷室 万寿 |MAIL
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