「世の中には、不思議なことなど何もないのだよ、関口君」
今回は映画ネタ。見てきたのは「姑獲鳥(うぶめ)の夏」 京極夏彦原作の怪異ミステリ、京極堂シリーズの第1作の映画化である。
私は以前、京極堂シリーズをレビューしたこともあるように、 京極堂シリーズは全巻読んではまっている、いわゆるファンである。 だから当然この姑獲鳥の夏も、謎解きにあたる落ちまで全て知っており この先どうなるんだろう、というハラハラドキドキ感は全然ない。
むしろ、本来映像化は難しいのでは、と思われていた京極堂の世界を 果たしてどのように作品化したのか、の方にドキドキしながら見た訳 である。 なので、京極堂って何?という方には、いささか不親切な内容になって しまうかもしれないことをあらかじめお断りしておく。
ということで、一原作ファンとして見たこの映画、「結構面白かった」 である。 原作のファンとはいいつつも、この原作を読んだのが約10年前。その後 頻繁に読み返したりはしてないので、いい感じに原作の内容を忘れて いたこともあって(爆)、映画を見ながらああ、そうだった、そうだった なんて思い出しながら見ていたんだけど、原作で最低限押えて欲しかっ たシーンはちゃんと押えられていたし。
それにもまして上手いな、と思ったのは監督、実相寺昭雄監督の映像美 と、構成力の上手さだろう。 複雑になりがちな事件のあらましを、紙芝居(しかも水木しげる風)に よって説明することで、うまく取り込むことに成功したように見える (いや、それでも初めて見る人は混乱するかもしれないけれど、その時 は、原作を読んでもらうとして)。
実は実相寺監督は以前、江戸川乱歩原作の「D坂の殺人」でも、紙製の 書き割り?をうまく使うことで、映画にふくらませることに成功した 前歴があり。 今回もその演出が、うまくこの夢とも現実ともつかない京極堂の世界に うまくマッチしていると思う。
それぞれのキャストも、永瀬正敏演じる関口は、驚くほど喋らないけど 関口の危うさを表わしているし、阿部寛演じる榎木津は、エキセントリ ックさには少々欠けるものの(というより、彼が原作どおりの快刀乱麻 ぶりを発揮したら、物語がちっとも進まず、尺が足りない気がするが)、 きちんと押えるところは押えた、神ぶりを発揮しているし。
田中麗奈の敦子は、見た目どうしても「小林少年」なんだけど可愛かった し。 また、原作者自らこの映画には出演してて、演技上手いなあ、と思った んだけど、あれは「水木しげる」という実在のモデルがいたからなのかも。
でも映像化によって物語が変に矮小化されることなく、原作のもつ 妖かしの魅力を表現することに成功した作品なんじゃないのかな。
もしかするとシリーズ化されそうな気もするけど、次回作が「魍魎の匣」 だったとしたら、実写で魍魎の匣は見たくはないしなあ。
ここは一つ、「薔薇十字探偵社」シリーズをWOWOWドラマでもいいから このテイストで映像化してくれたらうれしいんだけど。
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