パラダイムチェンジ

2004年09月20日(月) 「百器徒然袋−風−」

今回は小説ネタ。
この夏に発売された京極夏彦の新作「百器徒然袋−風−」である。
これは、百器徒然袋シリーズの第2作であると同時に、その百器徒然袋
自体が、同じく講談社ノベルズから発売されている「京極堂シリーズ」
の外伝にあたる。

ま、ぶっちゃけていえば、「京極堂シリーズ」というミステリーシリー
ズがあり、そのスピンオフとして発売された「百器徒然袋」シリーズの
第2作という事である。

で、その「京極堂シリーズ」の第1作「姑獲鳥(うぶめ)の夏」が、来年
映画化されることになったりと、なにかと話題の作品なのである。

で、私は以前からこの「京極堂シリーズ」と「百器徒然袋シリーズ」が
好きなので、よく読んでいる。
といっても、数年に1回しか刊行されないので、首を長くして待って
いるうちに本当に首が長くなってしまったのだが(嘘である)。

今年は本家京極堂シリーズの「陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)」と、
今回の「百器徒然袋−風−」の両方が発売されるという、京極堂ファン
にとっては、当たり年になったわけだ。やれやれ、今度はあと何年待て
ばいいのやら。

さて、この「百器徒然袋」シリーズ、一言で言えば、痛快探偵活躍ロマ
ンである。

一応、本格推理小説の体裁をとってはいるものの、この作品の醍醐味は
そこにあるのではない。探偵は職業なのではなく、私の存在そのもので
あるとうそぶく探偵、榎木津礼二朗を中心とした、薔薇十字団の怪しげ
な活躍ぶりを楽しむ小説である。

彼の周りには、古本屋でありながら武蔵清明神社の神主をつとめ、
一方では憑き物落しを生業とする中尊寺秋彦(通称京極堂、京極堂シリーズの主人公である)やら、前髪をいつも気にしている自称優男、元
神奈川県警の刑事で探偵助手の益田(通称マスカマ)やら、古道具屋で、
戦争中は、榎木津の指揮する部隊で部下だったために散々な目にあった
らしい、今川(通称マチコ)とか、怪しげで個性的な人間が集まっているのである。

これらはみんな、元はといえば本家「京極堂シリーズ」の登場人物たち
なのだが、彼らが本家にも勝るとも劣らない活躍ぶりを見せてくれるの
が、この百器徒然袋シリーズ、または榎木津シリーズなのである。

本屋に行けばわかると思うが、このシリーズ、無茶苦茶殺人的な分厚さ
で本屋の棚を陣取っている。
この本でも薄い方で、500ページ強、二段組という凶悪さ。

しかもここで書いているように、本家京極堂シリーズから読まないと
それぞれの関係がわからないのか、と思うと、おそらくほとんどの人は
ゲンナリすると思う。

でも、そんなことはないのである。
この百器徒然袋シリーズ、榎木津シリーズに関しては、ただ本屋で手に
取り、読み進めていけばよい。

本シリーズの語り手である、普通の庶民代表の本島と共に、彼らの所業
に巻き込まれさえ、すればよいのである。
そう、この作品は、巻き込まれることが一番の醍醐味なのだろう。
下手に謎解きなどをしてはいけない。

京極堂が何回も注意しているように、彼らに巻き込まれることで、どん
どんバカになっていけばいいのである。
そうすると徐々に、あの分厚さも、快感に変わってくると思うのだ。

昔、作家の高橋源一郎が書評欄で、京極堂シリーズ、鉄鼠の檻あたりを
解説する時に、この作品はロールプレイングゲームである、と言って
いた。
この百器徒然袋シリーズは、その言い方を真似れば、まるで遊園地の
アトラクションだと思う。

本のページを一つめくれば、そこからはもうすでに京極ワールド。
まるでライドにのってジャングルを周遊するように、丁寧な解説付きで
楽しむ事ができると思う。

もう少し補足をしておくと、全体では500ページもあるが、中には3篇の
中篇がおさめられているので、読みやすいと思う。
ついでにもしも読みたいと思った方は、このシリーズの第1作、「百器
徒然袋−雨−」から読むのもオススメである。

くれぐれも百鬼夜行シリーズとお間違いにならないように、というか
同じ出版社の同じ作家で、こうも間違いやすい題名をつけるものだと
思ったりもするのだが。

私は、この作品を読むことでようやく調子がのってきたので、本家
京極堂シリーズの最新作「陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)」
再び読み始めることにしたのであった。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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