Spilt Pieces
2003年12月26日(金)  強い・弱い
弱い人は、強い人を知っている。
その強さを、知っている。
自分にないものなのだと。
だが、その目が見ているものを知らない。
結局、自分の目線からしか推測できない。


強い人は、弱い人を知っている。
…かもしれない。
その弱さを、誰よりも知っているか、全く知らないか。
そのどちらかだと思う。
弱さを持ちながら、強くあれる人に憧れる。
弱さを理解しようともしない、もしくは理解できない強さなど、何の意味もない。
それでも人生は、上手く回っていくのかもしれないけれど。


努力が結果に結びつくことを知っている人は、強い。
現状ばかり見て嘆くことをしないから。
一歩一歩、自分の足で先へと進める。
だけど、それで挫折を知らなかったら確実に誰かを傷つける。
相手に自分と同じレベルを強要してしまうのだ、いつの間にか。
友人は、言う。
「できなければ、できる努力をすればいい」
正論だ。
そして正論だけに、誰もが反対できなかった。
それに、才能を言い訳にした瞬間、自分の未来を諦めてしまうかのようで嫌なのだ。
彼は、そのことに気づいていない。
「努力してできないことなど何もない」
その無知で純粋なところが、力となっているのだろうけれど。
「君ができないのは、努力していないからだ」
そんな台詞を、無邪気に吐いた。
正論めいていた。
誰もが反対しなかった。
いや、反対したくなかった。
彼の言うことを信じられたなら、自分の可能性を無限だと信じられるかもしれない。
既にある程度現実と向き合いながら日々を過ごすようになった私たちは、可能性というものが有限であることを知っている。
たとえ無限に近いとしても、有限なのだと。


彼は、苛々していた。
私たちがどうしてこんなにも弱いのか、甘えているのか。
そんな表情だった。
弁護した別の友人の言葉を聞いて、「全く分からない」と言った。
私たちは、諦めかけた。
彼は頭がいい。
弁も立つ。
だが、肝心なところが欠けているように思えた。
「企業向きだね」
後で、「私たち」の一人が、ポツリと言った。
「でも、人間対人間で付き合っていくのなら、そこまで割り切れるはずなどないのに」
皆、頷いた。


きっと彼は、挫折を知らない。
自分の力で痛みを乗り越えた経験を持つ人は強い。
だけど、それができない人がいることを知らないという点において、強いはずの彼は弱い私たちよりも弱いと思った。
彼にとって、自分より劣っている人はイコール自分より努力していない人なのだった。
分かり合えない、と呟いた。
諦めたくなどなかったのに。
結局、妥協してしまったのか。


私たちは、彼の持つ目線を、推測によってしか知りようがない。
彼から見た私たちの弱さとは一体何なのか。
彼から見た世界の色はどんなものなのか。
だから、安易に批判していいとは思えない。
だが、彼だって私たちの目線を知らないのだ。
それなのに、いつも正論という名の暴力で彼は私たちを責める。
反論できない。
「私たち」の一人、口下手な友人が懸命に彼に訴えかけた。
ゆっくり話す彼女の言葉を遮って、「つまりこういうことだろ」と彼は言った。
私は何度も何度も彼女と話をしていて、「つまりこういうこと」ではないと知っている。
彼は、最後まで話を聞いてあげることさえしなかった。
「発言しないということは、思っていないということと同義に取られても仕方がないだろう」
確かに、社会に出たらそうかもしれない。
でも、あくまでも「今の社会」に出たら、だ。
変わればいいのに。
強く思った。


弱さを訴えた。
保身ではなかったはずだ。
私たちは、彼のように強い人間がいることを知っているし、認める。
「多様な個性がある、互いのよいところを生かしていこう」
「私たち」の中の友人が言った。
「皆で一つの目的を設定して先へ進むのであれば、無理にでも一つにまとめなければどうしようもない。多様な個性を認め合うなどというのは、遊びの中だけだ」
彼の答えは、彼女の発言を叩き潰そうとした。
「色んな意見の人がいていいじゃない」
「それじゃバラバラな集団になるだけだ」
彼はいつだって、話を聞いてくれたとしても、理解はしないし自分の考え方を変えようともしない。
口下手な彼女は勝てない。
私も、彼に口で勝つことなどできない。
悔しくて、思わず涙が出そうになった。
「意地でも泣くものか」
友人たちも、私も、意地の方が勝った。
泣かなかった。


弱さを知りすぎることは、感情移入に終始して先へ進めなくなる可能性があるし、あまりよいとは思えない。
むしろ社会的に見たならば、彼のように無知でいた方が勇気を伴う必要すらなく自由に飛べて役に立つ。
だが、それでも否定したい。
強いばかりではならないのだと。
私は、彼がいなくても生きていける。
彼も、私がいなくても生きていける。
だけど、仲間だと思っていた。
これからも、仲間だと思っていたい。
考え方が違うからといって切り捨てるのであれば、彼と同じだ。
私たちは、憤慨する思いと彼を一人で行かせたくない思いとで、息を切らしては下手くそな言葉を並べ、彼と闘うことを今も諦めていない。
「とりあえず納得」をしてしまえば、お互いに傷つけあわずに済むけれど。
でも、そんな中途半端な付き合いで済ませられるほど軽い存在ではないんだよ。
痛いことを覚悟で正面から闘いを挑む私たちを、彼は愚かだと思っているんだろうか。
分かり合えない、と呟いた。
そのくせして、今も言い合ってばかりいる。


弱い人は、強い人を知っている。
その強さを、知っている。
だが、その目が見ているものを知らない。
強い人は、弱い人を知っている。
…かもしれない。
その弱さを、誰よりも知っているか、全く知らないか。
弱さを理解しようともしない、もしくは理解できない強さなど、何の意味もない。
それでも人生は、上手く回っていくのかもしれないけれど。
そんなの、納得できないし、したくないんだ。
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