Spilt Pieces
2003年12月13日(土)  低音
闇を切り裂き、空から顔出すにび色。
薄めた山吹の花が微かに零れる。
匂うはずなどない、フロントガラスのその向こう。


今日も雨降り。
払ったつもりで、気づけば積もって水滴になる。
粉の袋の中、うっかり垂れた指先の鏡のように。
ぽつりと来る。
音もなく去る。
そんなことの、繰り返し。
いつの間にか、ワイパーだけがキュルルとおかしな声を上げ始めた。


さほど深くもない霧。
大地と空の境界線が曖昧になる頃、遠くに佇む山が見えてほっとする。
その影は、どんな色だか分からない。
手を伸ばしても届かないことが色なのだと。
辛うじて、立っている場所を確認する。


パチンコ屋のネオン。
青く空気を震わせる信号機。
人が通らない押しボタン式。
珍しく、赤に変わった。
前に続く車のストップランプが、次々にその赤を増殖させた。
辺りをひんやり支配していた静かな色が、飛び回る色に取って代わられる瞬間。
だけどどうして、いつだって。
生命の、血の、火の、情熱の、色であるはずのそれは、人工的すぎて時にひどく寒々しく空へと声を投げるのだ。


きっと今日も空は暗い。
世界が眠る準備を始める。


陽が立ち昇り、町を照らし、また陽が落ちる。
ただそれだけを、望めたなら。
ここはいいところよ、と誰かが言った。
遠い、遠くの空が凍えるように錆びついていくのが見える気がした。


大人の理屈など分からないまま、ただすやすやと夢を見られるのであれば。
「誰も人を殺したいわけじゃない」
あの頃のようには、言い切れなくなってきた自分。
誰が何を望み、どこがどううまくいかないから、今人が泣いている?
複雑なことを何か知っているわけでもないけれど、単純に割り切れるものではないことくらいは、知ってしまったから。
願う「幸せ」が違うのだと、納得させるしかないのだろうか。


きっと今日も空は暗い。
世界が眠る準備を始める。
陽が立ち昇り、町を照らし、また陽が落ちる。
ただそれだけを、望めたなら。
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