| Spilt Pieces |
| 2003年09月15日(月) 歌 |
| 一昨日の話になるけれど、ライブに行った。 とある女性歌手。 以前近所のレンタルCD店で見かけたミニアルバムを借りたのがきっかけで聴くようになった。 私は、普段好きな曲のリピートが多くてあまり新規発掘をしようとしない。 自分にしては珍しい出会い方をしたものだと思う。 都会は嫌いだ。 たまに行くのならおもしろいが、息が詰まるから長い時間いたくない。 地元にいるよりもたくさんの店があるし、新しい発見も多くある。 それでも、人込みは疲れる。 10年以上横浜に住んでいたので、都会が珍しいわけでもない。 単なる相性の問題かもしれない。 街中で寝ている人を起こしてあげられない、そんな雰囲気。 中学生の頃、友人と一緒に渋谷へ行った。 色んな店があって楽しかったけど、月のお小遣いが1000円ちょっとでは買えるものもほとんどない。 その後引っ越してからは、ほとんど足を向けたことのない街。 最近は全国的な事件も生じるような、危険な場所だという。 スクランブル交差点に驚いてみた。 大きな電光掲示板を見上げた。 キョロキョロする人が珍しい街。 そうすることがまるでタブーだと言わんばかりの。 あちらこちらを見ておもしろがって、空が見えないと文句を言った。 「あ、そういえば」 空が見えないことにすら気づかない。 だから私は都会が嫌い。 田舎は、空が広すぎるくらいに、広い。 苦手な街、都会という名の化粧で誤魔化された人間の営み。 だけど小さな路地には、泥臭いほどの息づかい。 ファーストフード店に入ると、満席だった。 ちょっと離れた定食屋さんは、人も少なく安くておいしい。 「いらっしゃいませ」 金髪に近い茶髪をした、自分よりきっと年下だろう女の子。 いわゆる「今時」の雰囲気を纏っていたけれど、笑顔が素敵だなと思った。 店を出て、友人と二人「可愛い人だったね」なんて、微笑む。 7月頃に申し込んだチケットは、2枚。 人生初ライブだねと言って緊張しながら、友人と二人、夕方の渋谷。 都会の大学に通う彼女は、垢抜けた雰囲気だ。 「東京へ来ると、何だか変な感じがする」 「若い人ばかりだからじゃない?」 ああそうか、どうして気づかなかったのだろう。 確かに不自然だ。 家の近所のスーパーで見かけるような生活感が、欠如。 生き様は数多くあるのだけれど。 悲しみや、喜びや、夢が破れ、叶い、消える、帰る、希望、それらが、雑多。 ほの暗くなりかけた時刻、「すぐに会場に入れます」という特典があったけれど、気にせずゆっくり夕食を取っていた。 最後の頃に入場して、座れるはずの状況で立ちっぱなし。 小さなエレベーターに、人がぎゅうぎゅう。 隣になった人と言葉を交わすわけでもない。 誰が誰でも別に構わないのが少しせつなくなる。 「お飲み物は?」 カウンターの向こうにいる人が、チラリと目を上げて尋ねた。 手馴れた雰囲気、きっとたくさんの人を見てきたんだろう。 「アイスティーで」 返事の代わりに、目元に優しい笑みが浮かぶ。 プラスティックの安そうなコップに並々と注がれたアイスティーを、手の中で回転させる。 氷のカラカラという音と一緒に揺れて、少し涼しげ。 最近体調の優れないことが多くて、鞄の中には私にとってやたらと効きのいいバ○ァリンが入っている。 立ちっぱなしで平気か不安になったけれど、結局は少し足が痛くなっただけで何も問題はなかった。 「ライブ」という言葉に、何となく激しさをイメージしていたからだろうか。 緩やかな優しい雰囲気は、静かすぎるくらいで。 音を・声を辿るだけで時間が流れる。 心地いい。 歌えるということが羨ましい。 声を、大声を張り上げたくなる。 意味もなく、ただ。 たくさんのものが不要なんだと、思い込んでしまいそうだ。 最後の曲が終わり、アンコールも終わり。 やはり特典のようなものがあって、歌い手と2ショットで写真を撮れるらしかった。 だけど何だか静かな余韻を壊したくなかったし、今まで舞台に立っていた人と現実で会うのが恥ずかしかった。 だから、本当にただ歌を聴いただけで帰ってしまった。 終了直後にエレベーターに向かったのは、多分片手で足りるほどの人数。 音が消えて、来たときよりもっと暗くなった空の下を、ポツリポツリ感想を言い合いながら駅まで歩く。 「おもしろかったね」 「写真、勿体なかったかな」 他愛もない会話をするうちに、少しずつ人が増えてくる。 夜の街を、時間を忘れたかのような人たちが歩いて行く。 腕を組むカップル、酔っ払ったサラリーマン、大きな看板に捉われた人たち。 高校の文化祭でやったサンドイッチマンは楽しかったのにな、なんて思い出しながら。 歌を知ってはいるけれど、私はこの日歌っていた人のことを知らない。 何を思っているのか、何を感じているのか。 誰も彼も似たような人間で、きっと彼女は他人より少し感受性が高くて歌がうまいのかもしれない。 いつだって冷めた部分を捨てきれない私は、彼女に共感することもあるけれど、叫びたいほど好きにはならない。 ただ分かるのは、彼女は私が嫌いな都会と街で、たくさんの気持ちを抱えながらも前に向かって生きているということだけだ。 接点は、僅かでそして一方的。 情報も特典も写真もいらない。 生き方があって歌があってそれを聴くだけでいい。 皆それぞれに考えがあって、夢がある。 それを覆い隠してしまう街が嫌い。 成功した人しか表に出られない、仕方がない。 ただ、それを好きか嫌いかは別問題だから。 頑張る人の断片を見られるかもしれないという意味では、都会をいいと思う部分もあるけれど。 住んだことがないから、結局は田舎者の偏見かもしれない。 「経験したことのないものに対して文句を言うのは簡単だけど、全てを経験するわけにはいかない」 言い訳。 無性にカラオケに行きたくなった。 |
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