| Spilt Pieces |
| 2003年09月10日(水) 着飾る |
| 西向きの窓にあるカーテンは、いつも閉まったまま。 夕方になると西日が差して暑いから。 あまりにも当たり前の理由で、理由っぽくもない。 眩しい光が目を刺して痛いというのもある。 近所では家の新築が始まっている。 外に出たくないくらいに太陽が騒いでいても、毎日変わることなくカンカンと音が響く。 熱風をかき回すだけの扇風機が、グルグルと首を振る。 PCがノートでよかった、と思いながらエクセルと格闘。 雲の流れていくのが速いのは、きっと空でも風が吹いているからだろう。 さっきからすぐに景色が変わる。 今日は風が強い。 朝からゴミ箱が倒れたり紙が飛び回ったりしているので、ようやく諦めて窓の隙間をほんの少しにした。 それでも、西にかけたカーテンは風が吹くのと同じリズムで襲いかかってくる。 開く瞬間、顔に強い日差しが照りつける。 もしも今鏡があったなら、多分私は窓を完全に閉めたくなるだろう。 太陽は、顔にできた小さなオウトツまでも鮮やかに映し出してしまう。 「二十歳過ぎたらそれは吹き出物だよ」 友人がからかい気味に言った台詞を思い出し、ニキビだと言い張りたい自分に笑う。 一ヶ月近く塗りっぱなしだったペディキュアを落とした。 剥げかけるたびにわざわざ上から塗り直していたから、なかなか取れなかった。 不恰好の小さな爪は、くたびれたように白く息を吐く。 爪切りを出して整えると、何だか少し健康的になった気がする。 もうしばらくはこのままでもいいかな、と思いながら。 多分その「しばらく」は、私の気まぐれにもよるのだろうけれど。 「手には塗らないの?」 「不便だからね」 面倒くさがりで、着飾ることをあまり好んでしようとしない私は、あまり女らしくない。 その割に、サンダルを履かない時期でも足には大抵何か塗っている。 指輪は嫌いなのに、ネックレスはいつでもしている。 「ヘッドを服の上には出さないんだね」 意味もなく、ただつけていたい。 そう言ったら、納得できていない顔でとりあえず頷かれた。 結局は自己満足なのだと。 伝わったかどうかはよく分からない。 単純に、表現を変えればよかっただけのような気がしないでもない。 実験をした。 服を変え、髪形を変え、化粧をした。 綺麗になった、と言われた。 お世辞だと分かっていた。 そのうち今まで通りにすると、元に戻ったと言われた。 何だか滑稽だ。 本当は、一度も何も変わっていなかった。 自分はどこか冷めていると思うのは、こういうとき。 流行を嫌いだとは思わない。 他の文化との比較で、日本人は真似することで安心するのだと言われているが、そうとも限らない。 少なくとも、他の文化の真似をして、真似すること自体を変えようとはしていないから。 今の流行じゃないと言って着ている服を恥ずかしがる人とこの前話をしたが、それを似合うと思ったから「そんなことない」と言った。 流行を嫌いだとは思わない。 それを迎合するかどうかは本人が決めればいいと思う。 私はそうする回数が少ない。 単純に、それだけの理由で「変わっている」と言われることもあるのだと思う。 皆が好きだと言うものを後から好きになること。 皆が好きだと言うものを嫌いだと評価すること。 皆が嫌いだと言うものを好きだと評価すること。 どれも間違っていなくて、どれも自分の判断。 結局は、自己満足なのだ。 その手段が時代によって移ろっていくだけのような気さえする。 扇風機の送る生暖かい風に文句を言うことは、今の時代だからこそのもの。 ペディキュアを落とすという行為は、それがない時代にはできないこと。 ラフな格好で椅子に座ることだって、日本に着物しかなかった頃には考えもつかないだろう。 そして今PCの前にいるのも、携帯電話をいじっているのも。 勉強している心理学など、最近百年でできた学問に過ぎない。 考えることやその内容自体が時代に左右されているのかもしれないのだから、それと切り離された自分を模索するのは恐ろしく困難で無謀な挑戦のようにも思う。 だから、できることなら否定をしたくない。 ならば自分が何を探しているのかというと、今生きている自分が今とどうやって折り合いをつけていくか、その方法なのかもしれない。 言葉でも、格好でも、思想でも。 着飾ることは誰もがある程度することで、各々の判断によって委ねられるもの。 ネックレスのヘッドを服の上に出さないのは、出さなくてもいいかと思う自分がいて、それによって自己満足できているからだ。 出すことがいいと思えば出すし、したくなくなれば外す。 ノラリクラリとしている私は、人に言わせれば本音の見えない人間でもあるようだけれど、自分としては深いことなど何もない、ただこれだけの人間なのだと思う。 時折自分自身のことさえも見失う。 でもそれはそれで自分なのかもしれないとも思う。 まだカンカンと音が響いている。 空の表情がまた変わった。 爪は白いままだ。 |
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