Spilt Pieces
2003年08月11日(月)  イレモノ
「健康な精神は健康な身体に宿る」だったっけ。
正確な言い回しはいまいち覚えていないが、私はこの言葉に反発してしまう。
いつものように、理由は「何となく」。
そりゃ、身体が健康である方が自分のしたいこともやりやすいわけだけど。
でも、不健康であったからって、大切なのはそれを捉える考え方だと思うから。


仮定する。
モデルのような体型で、女優のように綺麗な顔をした自分。
私の心はどう変わるだろう。
生き方は多少変わったかもしれない。
もう少しくらい自信もついたかもしれない。
だけど、根本的に私は私のまま。
心の中など変わらない。
鏡がなければ、自分の身体を自覚することだってあまりない。
結局、イレモノなのだ。
少し日に焼けて火照った肌に化粧水をつけながら、ひょっとしたらどうでもいいことをしているのかも、と思った。
さすがにそこまで開き直りはしないけれど。


誰も彼も似たような顔をしている。
美しい人も、そうでない人も。
全てが美しい人である社会などない。
だから自分の顔が平凡であるのも、必然といえば必然。
ささやかな喜びを糧にして、ぼんやりと自分の生を織っていく。
それでいい。
それがいい。


背筋を伸ばして街を歩いた。
色んな人がいるんだ、って、また思った。
何度自覚すればいいのか、この実感。
だけど曖昧なことをその度更新しながら生きている私には、欠かせない作業かもしれなくて。
たとえ誰がどんな目で私を見たとしても。
それは、私が誰かを眺めるときと同じくらい、深い意味を持つこともない習慣。
人と人の交差点は、今日も勢いよく波を流していく。


身体は、そうやって日々を過ごす私の手助けをしてくれる。
身体があるから、行きたいと思ったところに行くことができて、読みたいと思った本を読むことができて、告げたいと思った言葉を告げることができる。
心が動きたがっているのに、身体が休みたいと言えば休むしかない。
そういう意味で、やはり切り離せないものではあるけれど。
ただ、願望を叶えることのできる回数が減るかもしれなくても、だからといって心が不健康であるとは言えない。
望みが叶わず嘆きを繰り返し、まともな道筋で考えることを忘れてしまう瞬間を生じさせてしまう人だっているだろうけれど。
だからって、健康ではない人の心までもが健康ではないだなんて、誰が言えるというのだろう。


足を引きずりながら歩く人を、さりげなく色んな人が見ていた。
それに気づいて、不快な感情が芽生えた。
だけど私がそれに気づいたということは、私自身見ていたということで。
それにうんざりした。
困っている様子なら、手助けしたい。
でも、そうではない。
ならば、特別扱いするのはおかしい。
じろじろ見られることで、その人は何を感じたろう。
自分だったら、見られたくない。
その人が私と同じ心を持っているわけではないだろうから、ひょっとしたら嫌じゃないかもしれない。
だけど、ハンディキャップを持っているということが、何も感じないことに繋がるはずもなく。
そう思うのに、何となく目を向けてしまった自分。
嫌だと思った。
「何となく」って、時折ひどく残酷で。
無意識だからこそ、相手を傷つけてしまう。


幸いなことに、私は自分のしたいと思うことを身体を理由に妨げられたことはない。
だが、もしも明日突然思うように動かなくなったとして、周りから心までも不自由になったと思われたならきっとひどく反発する。
自分は変わっていないはずなのに。
右手を上げて、左手を下げる。
目を閉じて、口を開く。
思うとおりに、動く。
今の私の身体。


イレモノ、っていうのは、ふと思いついた言葉だった。
脳とは別に心があるとは思っていないから、結局は空想上でしか存在し得ない「イレモノ」ではある。
実際は、全てひっくるめて自分なのだから。
でも、どうしてか、頭から離れなかった。
こんなんだから、いつだって動物ばかりか人工物にまで心の存在を考えてしまうのかもしれないが。
無駄な感情移入。


…無駄?







関係ないことだが、さっきAERAを読んでいた。
「私」ではなくて「ウチ」を一人称に用いるという若者の話。
そういえば私も、たまにではあるが最近いつの間にか口語で「ウチ」と言う。
普段日記を書いていて、「私」と書くことに抵抗を感じることもある。
何となく、気恥ずかしい。
自己主張が激しすぎるような気がしてしまうからだろうか。
そして一つ一つの言葉全てに責任を持てるわけでもない。
いいかげんかもしれないが、これが本音。
「私」と書くのは、ちょっと重い。
だが、だからといって他の表現を用いるつもりもない。
近頃の若者が「ウチ」を使いたがる理由、評論家のようにコメントするつもりなどないけれど、ただ少しだけ、分かるような気がした。
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