| Spilt Pieces |
| 2003年08月03日(日) 役割 |
| 「先生、今○○にいましたよね?」 親に連絡を取ろうと思って取り出した携帯電話。 教育実習先の生徒からのメールが入っていた。 地元の学校で実習を行ったのだから、街の中で遭遇するのは当然と言えば当然。 しかしそれでも、高校での三週間は私にとって、日常と切り離されたかのような空間だったような気がする。 そのせいか、偶然生徒に会うととても気恥ずかしい。 数年ぶりの浴衣にはしゃぎながら、友人と二人で夏祭りに出かけた。 風も日差しも強かったので、暑さを紛らわせるために何度か駅前のスーパーへ滑り込んでいた。 生徒からメールを受け取ったのは、そこのゲームコーナーへ足を運んだ後のことだ。 メールを読んで、人違いではない、実際に私を見かけたのだとすぐに分かった。 実習中は、スポーツテストの際のジャージを除けば、スーツでしか会ったことがない。 私服姿、しかも浴衣を着ているところを目撃されただなんて、どう反応したらいいのか分からなかった。 彼女がいると言っていた場所へと足を向けた。 久々に会いたいというのも勿論あったけれど、気恥ずかしさを誤魔化しているかのような部分がなかったとも言えない。 一緒にいた友人に無理を言って、さっきまでいたはずの場所へと戻る。 どこにいるのか分からなくて、買う気のない携帯電話コーナーでぼんやりしていた。 すると、一人の子がこちらを見て、何か呟いた。 直後、メールをくれた生徒が大きな声と笑顔で「お久し振りです」と言ってこっちを振り向いた。 「お元気ですか?」 緊張してしまってやや挙動不審な私を尻目に、彼女は変わらぬ明るさで声をかけてくれる。 これじゃ、どっちが先生なのやら分かりゃしない。 情けないなあと思いながらも、無視せずに連絡までくれた彼女の優しさが嬉しかった。 「先生」と呼ばれたことに、今さらながら違和感があった。 実習が終わったのはもう二ヶ月近く前になる。 私は「先生」としての自分ではなく、ただ「私」としての生活のみを送っていた。 教員採用試験を受けるつもりは今のところない。 家族が呼ぶ私、友人が呼ぶ私、仲間が呼ぶ私、先生が呼ぶ私。 そしていつの日か、夫や子どもが呼ぶ私というのもできるかもしれない。 だけどもう、先生としての私はほとんどないに等しいのだ。 三週間受け持った彼ら・彼女ら以外は。 彼女は言う。 「先生が通りかかったとき、私は最初気づかなかったんです。でも、友達が「あれ先生じゃない?」って言ってくれたから分かったんですよ」 その生徒以外私は分からなかったけれど、それ以外の子も授業で受け持ったことがあるらしく、相手は私のことを分かっていたのだという。 「結構遠くに行っちゃってたんで、大声で呼ぼうかと思ったんですけど、恥ずかしいだろうなと思ってやめておきました」 うん、そうしてくれてありがたかったよ、などと言いながら笑った。 だけど本当は、心の中では動揺していた。 そうか、私が覚えていない子も、向こうからすれば分かるんだな、と。 それは、芝居に出た後見知らぬ人から「この前見ましたよ」と声をかけられたときと同じような感覚だと思った。 これから先どんな仕事に就こうと、何をしようと、きっとあのとき受け持った生徒にとっての私は「先生」のまま変わらないのだろうなと思ったら、何だかものすごくくすぐったかった。 そしてそれが、自分が知っている生徒にとってばかりではないと思ったら、益々気恥ずかしいような気がした。 全力で実習に取り組めたと思ってもこうなのだから、もしもそれが中途半端だったならどんな気持ちでいただろう。 どこかで出会ったときに気まずい思いをするということを、ずっとしなくてはならなかったのかもしれない、明るく声をかけてもらえるかわりに。 関係のないことかもしれないが、かつてお互いに嫌な感情を抱いたまま音信不通になった人もいることを思い出す。 性格や生き方が変わったとしても、それを知ることはない。 あの頃のイメージで留まったままになる。 もしも突然再会したならどう思うだろう。 綺麗事かもしれない。 だけどできるなら、人生と人生の小さな交差点で、事故を起こすことなくありたい。 突然の再会に悪感情を伴う生き方は、きっとあんまり幸せじゃない。 そんなことをぼんやりと思う。 |
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