Spilt Pieces
2003年07月06日(日)  池
日曜の午後。
飲みかけのカフェオレ。
ストロー付き、200ml入り。
値段は90円と安い。
さすがは大学の自販機。
外で買うのが、馬鹿らしくなってくる。


池のほとりに座っていた。
最近はめっきり関わっていない所属劇団の新人公演。
始まるまで間があったのと、友人を待つまでの時間潰し。
ぼんやりと、どこを見るともなしに、風景。
夏休みに入った休日ということもあり、人影は疎らだ。
一昨年の学園祭の頃、10月。
毎日のように飲んでいた、安いカフェオレを久しぶりに買う。
パッケージが変わっていた。
前の方が好きだったなどと思いつつ、変わらぬ味に嬉しくなる。
7月6日、曇り。
梅雨と夏の境目で、空は重く腫れた瞼のように。
泣き疲れて、黙ったのか。
少し肌寒いけれど、それがまた心地よい涼やかさ。


人工池は、今日も静まり返っている。
時折風が踊って水面の輪郭がぶれる。
鯉が跳ねた。
ぽちゃりと小さな音が耳にこだまする。
聞こえない魚の声さえも、繋がって体へ流れてくるような。
空と、大地に挟まれた空間。
跳ねて飛び出たあの音は、ひょっとしたら誰かとの会話だったのだろうか。
同心円状に拡がりゆく波紋が、一枚ずつ溶けては消えていった。


鯉の背中が赤い。
ぼやけた世界で色を放ち、その空間だけだけが鮮やかに染まる。
空へと映ったならきっと美しい。
静かすぎる。
柔らかい。
あまりの静寂に、小さないたずらを思いつく。
飲みかけのカフェオレ、池へ垂らしたなら彼らはどんな顔をするだろう。
濁った水が、そこだけますます濁るだろうか。
思うばかりで動かない。
静寂が破られるのを誰よりも嫌がっているのは、きっと私。
膝を抱えて、眠る。
眠ったフリ。
目を閉じていると、たくさんの音が染みてくる。


車の去る音。
虫の鳴く声。
鯉がまた跳ねた。
横断歩道の音楽。
時折どこかから聞こえる笑い声。
近くを通る人の踏みしめる芝。
カラスの涙。


できることなら、このまま眠りたい。
きっと、ほんの数分の出来事。
悲しいことも、嫌なことも全部忘れて。
意味もなく、泣きたくなった。


足音が近づいてくる。
「お待たせ」
息を切らせて、友人が笑顔で近づいてきた。
「待ってないよ」
笑って、飲み干したカフェオレのパックを畳む。
鯉がまた、ぽちゃりと跳ねた。
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