Spilt Pieces
2003年07月01日(火)  雨音
雨音が、強くなるのを待っている。


甘い。
花の香りがそこら中に漂っている。
それは確かに昔どこかで嗅いだはずのもの。
だけど思い出せない。
一体、その花の名は何だったろう。


傘を差すまでもない。
粉雪のような水滴が、体のあちらこちらに付着する。
体温で溶けていくかのように。
服へと染みこんで、何も残らない。
空を見上げると、憂いを帯びた広すぎる空間。
手を伸ばしたくなる。
衝動を、飲み込む。


雨音は次第に強まっていく。
それとは異質の水が弾ける。
耳に、刺激。
振り向く。
背びれが水面から出たフナ。
動くたびに波紋が広がる。
緩やかに、雨よりも静かなその輪は、
幾重にも彼を取り囲む。
波紋と音、静と動。
見ていられない。
静寂は何も訴えない。


冷たい風が頬を撫でていく。
自分でも、何を考えているのか分からない。
だけど時折、泣きたくなるんだ。
意味もなく、目から零れ落ちる水滴は、
雨音に忍ばせようとしても叶わない。
雨は、静かすぎる。
だからきっと堪えよう。


雨音が、強くなるのを待っている。
感情が、通り過ぎるのを待っている。
甘い花の香り。
水滴が体へ溶けていく感覚。
背びれの見えたフナが泳ぐ。
立っている場所は、どこだろう。
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