Spilt Pieces
2003年06月19日(木)  土
母が、芋掘りに誘ってくれた。
普段庭の手入れなど無関心な私も、こういうときだけ調子よく動く。
いそいそと準備し、帽子を借りて外へ。
手袋を用意してくれた母に感謝。
幼い頃のように、土のどこかに芋が隠れていないかと、しつこいくらいに掘り続ける。
「もうないよ」と言われてから発見できたときの嬉しさ。
掘りたての芋を両手に、写真撮影。
手袋を外すと、爪が真っ黒になっていた。


都会で育った私にとって、元々土の匂いは身近なものではなかったような気がする。
記憶にあるのは、社宅の中の小さな人工の砂場。
深く掘っては泥だらけになって帰り、土の椅子を作ったのだと言っては大声で母を呼んだ。
限られた土との触れ合いの中で何を学んだのか。
狭い空間、僅かな土。
それでも、いつの間にかその匂いを覚えていたのはなぜだろう。


栃木にある祖父母の家は農業を営んでいて、ハウスでトマト栽培を行っている。
春、水を流して土に水を行き渡らせる工程。
裸足になってホースから流れる水を追いかけた記憶。
土臭いほどの土の匂いは、心地よくて楽しかった。
栽培用の土ではあったが、足の下にある暖かさが好きでよく靴下を脱いでは入らせてもらった。
気がつくと、そんな経験をしたのもいつのことかという時間。
経過する時間と、それに伴い変わっていってしまった自分。
だけど、土の匂いは変わらなかった。
だからきっと、嗅ぐとほっとするのかもしれない。


見つけた瞬間走り出しそうなくらいの虫嫌い。
特にウニョウニョと動くものなど見るのも辛い。
それなのになぜか、芋を掘る手袋の上を走っていったアリやら足の多い虫が気にならない。
土を掘り返すと、ダンゴ虫が大量に出てくる。
不思議な色をした不思議な虫が目の前をうごめく。
きっと何よりも嫌いなミミズが出たら叫んだろうが、そのとき私はそれ以外のものには驚かないくらいの心境でいた。
それくらい芋に夢中だったかというとそうとも言えず、何となく、土の中の生物を見ていたら楽しくなってきたのも事実だった。
自分が知らないこんな世界が、あちこちに、それこそ数え切れないほどあるのだろう。
嫌いな虫さえいとおしく思える、土の匂いと太陽の味。
大きく吸い込んで、今ここにいられることを嬉しく思った。


教育実習期間中に日焼け止めを塗り忘れた日があって、今私の腕は例年よりも黒い。
それなのに、芋を掘ってすぐ帰る予定だったはずが、花や木に惹かれてそのまましばらく外にいたら、また焼けてしまった。
紫外線は危ないと思いながらも、外にいることが楽しくて仕方がなかった。


どこで得たのか、土の匂い。
いつの間にか染み付いたその匂いへの愛着を、時折思い出しながら生きている。
もう少し、庭の手伝いをした方がいいのかもしれないなと思いながら。
土はいつも、太陽をそのまま描いたような、明るい光で胸を刺す。
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