| Spilt Pieces |
| 2003年06月12日(木) 実習日記:21 |
| 思い出し日記。 この日は実習終了の日。 寝不足がひどかった。 前日3時間、前前日4時間、この日2時間。 ほとんど寝る暇もない日々で、体力もそろそろ限界かと思った。 朝から耳鳴りがするし、声の調子も悪い。 それなのに、思うのは終わってほしくないということばかり。 この短い期間で、私には何ができるだろうと考える毎日だったけれど、結局は何1つできたような気がしない。 授業で教える範囲は経済だった。 「大学で学んだことを生かして」と先生方からは言われていた。 でも、私の発想力では、経済に心理学を生かす方法など分からなかった。 だから毎日クラスの生徒用に身近な心理学を取り扱ったプリントを配布することにした。 読めとは言わず、帰りのHRでただ配りっぱなし。 少しでも興味を持ってもらえたら、という動機だけ。 利己的な私がそんな些細な動機だけで真剣になるだなんて自分でも驚いた。 読んでもらえているのかどうかも分からなかったけれど、だんだん生徒が反応を表に出してくれるようになった。 「先生、このプリントおもしろいよ」 「毎日楽しみにしてるよ」 そう言って、嬉しそうに読み始めてくれる。 何も言わない生徒も、いつの間にか配った直後に読み始めるようになってくれたり。 寝不足だと嘆きつつ、毎日夜中に1・2時間、心理学の本と格闘するようになった。 朝、高校へ行くのが嫌だった。 今日が終われば終わってしまう、そう考えると涙が出てきそうだった。 平静を装い、国語の授業参観と体育への参加。 研究授業を2つ見て、HRになった。 出席簿を取ってくるのを忘れて、教室に着いてから担任の先生に持ってきていないかと尋ねた。 すると、「俺が行くからお前は教室にいてくれ」との言葉。 どういうことかと思って周りを見渡すと、どうして気づかなかったのか、椅子が円状に並べられている。 黒板には、「○○先生ありがとう」の文字と似顔絵。 私のためのお別れ会をやってくれるのだと気がついた。 「ありがとう」だなんて気の利いた言葉は出てこない。 呆然として、「え?」と言うだけで精一杯だった。 その瞬間、クラスの生徒がどっと笑った。 中央に机が並べられ、クラスの女の子たちがお菓子の袋を開ける。 「先生、ここに座って」と、生徒から着席を促される。 黒板に、今日のプログラムが書かれていく。 すっかり準備が完了した頃、廊下を通った隣のクラスの先生が私に声をかけた。 「お前、絶対に泣くよな」楽しそうに笑う。 正直、ここ1年以上映画以外で泣いた記憶がない。 それに、驚きはしたけれど、涙が出てきそうな気配もない。 「私は先生なんだ」と、妙なところで意地っ張り。 「そんなことないですよ」 大声で言葉を返すと、先生はにやっと笑って去っていった。 最初はビンゴ大会。 中央のマスには、私の似顔絵が描いてあった。 クラス会長がミリオネア口調で番号を読み上げていく。 リーチになった後、なかなかビンゴにならない私を生徒たちが茶化す。 「先生の分もお菓子残しておいてね」 黒板の辺りにいた女子が、お菓子に飛びつく男子を制した。 ビンゴになった人から中央のお菓子を食べられるルールらしい。 上がった生徒たちが、「先生早く」と急かす。 とは言っても私は、嬉しさと楽しさで笑ってばかりで、あまり真剣に列を揃えようという気に欠けていたのだけれど。 ビンゴが終わった後、担任の先生が大学時代の話をしてくれた。 悲しい失恋の話のはずなのに、ところどころユーモアがあって思わず笑ってしまった。 こらえ切れずに笑い続ける私の腰を、隣の席に座っていた生徒が突付いた。 「先生、笑いすぎですよ」 笑う私を生徒たちが笑い、それを見て私はまた笑ってしまった。 先生には悪いけれど、笑わないと涙が出そうで耐えられなかった。 先生は、当時の彼女と一緒に聞いた曲を歌ってくれた。 題名は分からない。 ただ、先生の思いやりを感じて、ますます悲しくなった。 もうこのクラスにはいられないのだと思うと、胸が痛くて仕方がなかった。 涙を堪えようとすると、その度笑いが出る。 せっかく歌ってくれたのに失礼だとは思ったけれど、私は私で必死だった。 そういえば昔、友人に「悲しい顔をして笑うな」と怒られた気がする。 先生の歌が終わって、花束と色紙を受け取った。 誰からもらったのか、実は覚えていない。 それまで堪えてきたのに、涙が止めどなく溢れてきて前が見えなかった。 ハンカチを持っていてよかった。 ひどい顔を生徒に見せたくないと、後ろを向いて押さえようとしたけれど、生徒が声をかけてくれるたびにますますひどくなった。 ふと横を見ると、それまで楽しそうに笑っていた先生の目が潤んでいる。 「何か言葉を」と言われても、口を開こうとするたびにしゃくりあげてしまって、どうにもならなかった。 実習に行く前は、不安だらけだった。 それなのにいつの間に、こんなにこのクラスを好きになったのだろう。 初めて会ったときの不安、文化祭期間中悩んだこと、話をしながら感じたこと、全てが頭の中に浮かんできて、どの言葉を選んでも不適切な気がした。 結局、前を向くことすらできずに、「帰りに話します」と言って終わり。 まとまらない。 終わりの言葉を言ったが最後、この幸せな時間が終わってしまう。 お別れ会直後、地歴科での反省会があった。 慌てて行くと、何人かの先生が既に集まっていた。 「やっぱり泣いただろ?」 さっき廊下を通っていった先生が、優しい笑いを浮かべて言った。 「意地悪言わないで下さいよ」 そうは言ったものの、私の顔は誰が見ても泣いたと分かる。 部屋に入ってくる先生は、私の顔を見てすぐに何があったか悟り、一様ににこりと笑った。 恥ずかしかったけれど、嬉しさやら悲しさやらで胸の中がいっぱいだった私は、ハンカチを顔に当てながら誤魔化すので精一杯だった。 反省会が終わって昼休み、委員会で何度か話した生徒が2人で控え室に来てくれた。 かわいいシールなどがたくさん貼られた手紙をもらい、少しの間おしゃべりをした。 家へ帰って手紙を開けると、「お姉ちゃんだと思っています。これからも親しくして下さい」と、丁寧な文字で綴られていた。 本当に短い間だったのに、ここまで思ってもらえたことが嬉しい。 午後は反省会があって、帰りのHRの時間。 話したかった言葉を、初めてみんなの顔を見ながら照れることなく伝えることができた。 私は自分自身まだまだ子どもで、6つ違いくらいの生徒たちに何を言えるかというと本当は何もないのだけれど、それでも、みんなと過ごした3週間の中で思ったことはあった。 ただそれを戻したいと思っただけのこと。 最後の言葉に意味があるわけじゃない、ただ一緒に過ごした時間そのものに意味があっただけ。 それを少しでもまとめられたら、と、感謝の気持ちを伝えるのにいい表現が見つからなかったから、今思うことだけを伝えようと思った。 HR終了後、全員で写真撮影。 どんな顔をして写ったのか、いまいち覚えていない。 放課後、日誌を書いていたら部活の生徒が遊びに来てくれた。 「先生、部室に来てください!」 と言われたので行くと、丁寧に包装された色紙2枚と生徒たちの歓迎の声。 ぎっしりと書かれた色紙。 幸せ者だという思い以外、何を感じればいいのだろう。 「また遊びに行くから」 そう伝えると、わっと歓声が上がった。 |
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