Spilt Pieces
2003年05月22日(木)  跳ぶ
日にちは覚えていない。
だけど、なぜか曜日だけは覚えていた。
彼女はその直前、屋上で歌を歌っていたという。
5月の末、いいお天気の木曜日。
ほんの数メートル先で、人が死んだと聞いた。
私は怖くて、近づけなかった。
毛布をかけられた担架が運ばれていった。
何となく、目の端に残った光景。


私は、多分自分で言うほど楽天家ではなくて。
悲しみに1つ出会ってしまうと、それを受け入れるため、葛藤。
きっと弱いのだ。
そうでなければこうも毎日、意味もなく泣いたりしない。
でも、そんなところ見せてやらない。
どんな辛そうな表情を浮かべてしまったとしても、私は泣かない。
他人の前で、自分のために泣くことが嫌だった。
そこには惨めな、水浸しの自分がいるかのようだったから。
誰かのために泣くのならよかった。
そういうとき、自分の涙も自分のものではないような気がした。
だから今はもう、人前で泣いたりしない。
映画やニュースは、別。


1年前の木曜日。
受け入れられなかった。
しばらく、その近くを避けながら歩いていた。
それでも、目の端には必ずあるのだ。
添えられた花が枯れていく光景。
置かれた缶ジュースのプルタブが開いているらしい。
何が何だか、分からない。
「分からない」は、私の口癖。
逃げ口上でさえないのが悲しい。
「分からない」と発するとき、大抵無力感に苛まれているような。
だから私は、「分からない」が1つ減れば、1つ笑う。


彼女は、何を想って歌ったのか。
最期、誰の顔を思い浮かべて冷たい足元を蹴ったのか。
何も知らない私が唯一知っていること。
彼女は、同じ高校出身だった。
彼女は、同じ専攻だった。
見知らぬ誰かだったけれど、何だかそうでもない気がした。


彼女は、跳んだ。
私には手の届かない場所。
跳ばなければ、私は貴女を知ることはなかった。
だから結局、どう足掻いても私は勝てないのだ。


見知らぬ貴女が跳んだ場所。
到着してしまった最期の場所。
血だまりとなった緑色の芝生。
初夏の光を受けて光る赤いミュール。
目撃した友人が教えてくれた情報。
私は震えて立ち去った。
真相は分からぬまま。
分からぬ分からぬを連呼して、しかし時間は流れていった。


見知らぬ貴女、日にちは覚えていない。
だけどこの時期、どこかの木曜日。
貴女の、命日のような気がした。
だから言葉を。
綴った。


跳んで、跳んで、跳んで。
貴女はどこへ行ったのか。
夢という名の命の儚さ、それ以上の何か。
胸を刺す、痛み。
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