2007年02月05日(月)  決断と英断。
 
去年の今日は夜勤明け。僕は仕事が終わってすぐ彼女が住むマンションへ行き、シャワーを浴びて午前11時頃ベッドに入って眠りに落ちた。
 
午後1時。彼女が僕を優しく起こす。「ねぇ、ちょっとリビングのテーブル見てきて」プレゼントか何か置いているのだろうか。僕は寝ぼけた頭でリビングに向かった。テーブルの上には電子体温計のような物が置いてあり、なんだ彼女、熱でもあるのかなと電子体温計の表示部分を見ると、体温は表示されておらず、その代わりにピンクの色で「+」と表示されてあった。
 
何かが僕の全身を駆け巡った。静かに目を閉じる。待たせてはいけない。隣の部屋で彼女は僕の反応を、僕の返事を待っている。待たせてはいけない。待たせれば待たせるほど物事はマイナスの方向へ向かっていく。
 
出産か胎堕か。そんな選択など僕の頭にはなかった。何を、どう言えばいいのか。どう伝えればいいのか。そればかり考えていた。しかし待たせてはいけない。出産か胎堕かなんて考えていると勘違いされてはいけない。覚悟を決めるにはあまりにも短すぎる時間。でも、サイはとっくに投げられていたのだ。
 
僕はベットに横になっている彼女によつんばいで覆いかぶさる。彼女は嬉しいのか悲しいのか判別できない笑みを浮かべている。しばらく無言で見つめあう。決断には短すぎる時間。英断には格好良すぎる時間。
 
「結婚しよう」
 
去年の今日は夜勤明け。彼女と付き合って1ヶ月。そして忘れられないプロポーズ記念日。御ハナはこのプロポーズをお腹の中で聞いていたのだろうか。「去年の今日のこと、覚えてる?」と訊ねると、意味もわからないくせに「エヘェ」と声を出して微笑んだ。あの日から2ヵ月後、僕達は入籍して、ちょうど8ヶ月後、御ハナが誕生する。
 
今日は小さなケーキを買って小さなパーティをした。付き合って1ヶ月の彼女にプロポーズするなんて一世一代のギャンブルだったと思うが、あの夜勤明けの午後のリビングで目を閉じて下した決断は、目を開いて決めた英断は、決して間違ってはいなかった。間違ってなかったよねー。ねー。しかしケーキ美味しいねー。ねー。ちょっと一口食べさせてー。私もあなたの一口食べさせてー。一年前の英断は、結果的に僕の目尻の笑い皺を増やすことになった。
 

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