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| 2006年07月23日(日) 結婚式。 |
| 30回目の誕生日、僕の目の前には外人の牧師が立っていて、僕の横にはウェディングドレスに包まれた妻が立っていた。 結婚式なんて誰を呼ぶ写真はどうする引き出物は何選ぶ花はどこに飾るだの大まかなことから細かいことまでとにかく煩雑で面倒臭いことこのうえなく、愛の誓いなんて一種のエンターテイメントで、形式通りの感動に包まれたただの催し事だなんて考えていた僕は、ある意味結婚式を軽視していた。 愛の誓いは毎日してるし、愛の証だってもうすぐ産まれる。次の会議の資料だって作んなきゃいけないし、この雨続きで洗濯物だって溜まっている。数十万かけて行われるこの儀式にいったい僕は何を感じるのだろう。強いられた感動の演出に僕は何を思うのだろう。 妻と腕を組んでバージンロードを歩く。白いベールが降ろされていて妻の表情はよくわからない。右足を出して左足を揃える。左足を出して右足を揃える。リハーサル通りに、ゆっくりとした歩調で、僕は神父の元へ歩く。右足出して左足揃える。左足出して右足揃える。右足出して左足、左足出して右足。右足出して右足。一歩進める度に両足を揃えるものだから、次に出す足がわからなくなる。緊張している。妻はベールの奥で優しい笑みを浮かべている。 僕は緊張しているのではなく、感極まっていたのだ。 バージンロードを歩きながら、妻と出会ったこと、子供ができたこと、鼻と鼻を付き合わせてプロポーズしたこと、一緒に暮らし始めたこと、料理の勉強を始めたこと、入籍した日の夜の小さなケーキ、僕の人生を大きく変えてくれた妻のことを考えていた。今日30回目の誕生日を迎えた。目の前に牧師がいて、横に妻がいて、僕たちの後ろには、これからも僕たちを見守ってくれるであろう人々が、目を真っ赤にして涙を浮かべている母がいる。 牧師の目前に立ち、最初の讃美歌で突然涙が込みあげてきた。それからもう、だめだった。妻の涙を拭くために準備した白いハンカチーフは、主に僕の涙を拭くために使われた。僕がめそめそ泣いてばかりいるので、妻が泣いている時は、牧師がそっと妻にハンカチを渡した。妻にハンカチを渡すということまで気がまわらなかった自分自身が情けなくてまた涙が出てきた。 僕たちは今日、結婚した。入籍も終わってるし、新婚旅行にも行った。お腹の中には赤ちゃんだっている。順序はばらばらだけど、僕たちは今日、結婚した。僕のタキシードのズボンの裾は少し長くて、純白のウェディングドレスをまとった妻は、とても綺麗だった。 健やかなる時も病める時も喜びのときもなんとかのときも、あとは忘れてしまったけど、これをなんとか、これをなんとか、これを助け、命ある限り、真心を尽くすことを僕は誓った。「はい、誓います」という声が震えてしまったけど神の前で誓った。キリスト教ではない僕と妻が聖書に手を置いて誓った。僕らの神さまに。洗濯クンやカボチャおばちゃんのような、僕らを助けてくれる神さまに。 最後の讃美歌は知らない歌だったけど、うつむいていると涙ばかり出てくるので、牧師の後ろの十字架を見上げながら、歌詞もわからない歌を大きな声でいい加減に歌った。あまりのいい加減さに外人の牧師は苦笑いし、妻はうつむきながら神聖な場での笑みを必死に噛み殺していた。 「大きくなったねぇ」 式のあと、涙をためてしみじみと言う母に、「お母さんこそ小さくなったねぇ」と頭を撫でて母の肩に手をまわして写真を撮った。二人の涙もろさが、同じ血が通った家族だということを証明していた。 |
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