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| 2006年06月14日(水) ただ切実に。 |
| 「すみませぇ〜ん」 妻は今夜も浴室から顔を出して僕を呼ぶ。僕は返事もせずに衣装ケースからバスタオルを取り出し、妻に渡す。「ありがとうございまぁ〜す」蚊の鳴くような声で妻は再び浴室の中へ消える。 妻はかなりの高確率で、浴室にバスタオルを持っていくことを忘れる。いつも着替えだけを持って行き、風呂から上がった時に初めてバスタオルを忘れたことに気付く。一緒に暮らして5ヶ月経つのに、妻は今夜も「すみませぇ〜ん」と、僕を呼ぶ。 どうしてほとんど毎日君はバスタオルを忘れるんだと訊ねると、「だって前住んでたマンションは脱衣所にタオル置き場があったからぁ〜」と、今にも泣き出しそうな声で弁明する。 僕が事前にバスタオルを忘れたことに気付いた時は、妻がシャワーを浴びている間に、そっとバスタオルを着替えの上に置くのだが、そういう時は、「今日は忘れませんでしたぁ〜」と頭を拭きながら浴室から出てくる。バスタオルを取ったか取らないかの記憶さえ定かではないのである。 今夜はちゃんとタオル持ってったな。そう思って食器など洗い始めても「すみませぇ〜ん」僕を呼ぶ声。今度は何事かと浴室へ行くと、ガス給湯器のスイッチを押し忘れていつまで経ってもお湯が出ないと言う。素っ裸で冷たいシャワーを触りながら、出てくるはずもないお湯をいつまでも待ち構えていたその姿を想像すると悲しくて仕方がなくなる。だからこれからもずっと一緒にいなくちゃいけないと切実に思う。 |
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