2006年06月13日(火)  好色一代男その後。
 
平日は大抵僕が夕食を作っているのだが、夕食を食べて二人ソファーに座ってゆっくりしている時に、「ねぇ、明日の夜は何食べたい?」と訊ねたら、妻は困った顔して「何でもいいよぉ」と答えて、まぁそりゃそうだろうなと思った。
 
しかしこの時僕は思い出した幼少の頃を。と、英文の和訳みたいになってしまった文章は気にしないとして、「ねぇ、明日の夜は何食べたい?」これは母親の口癖だったのだ。夕食を食べた後や朝食の後に、母はいつもそう言っていた。そして僕は妻のように「何でもいいよぉ」と言っていた。思春期の頃などは「何だっていいっつってんだろ」と、パンクなことも言っていた。しかしそれは切実だったのだ。すごく、切実だったのだ。
 
「ねぇ、明日の夜は何食べたい?」と訊ねて、何か具体的なメニューでも言ってくれたらどんなに助かったことだろう。明日は肉じゃがが食べたいと言われたら、翌日の朝は、「今日は肉じゃがの日だ。だって妻が食べたいって言ってたから」と、すごく心に余裕ができる。アサリのマリネ帆立貝のパン粉焼き添えが食べたいと言われればものすごく困ってしまうが、肉じゃがだったら余裕でできる。心にも余裕。料理にも余裕。余裕づくしの明るい人生。でもメニューが決まらなかったら、ちょっと煩わしい人生。
 
というわけで僕はあの頃の母の口癖を思い出して、お母さんはあの時、本当に夕食のメニューを言ってほしかったんだ。お母さんは、いつもいつも、苦労してたんだ。親の心子知らずも甚だしいぜ俺。だから妻もそんな俺の心境を理解して明日食いたいものの一つくらい言ってほしいぜ。ああ明日何作ろ。
 
こうして遊び人で名を轟かせた好色一代男も悲しいくらいに所帯染みていくのである。
 

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