2002年12月15日(日)  欲しいもの。僕が望んでいるもの。
「何か欲しいもの、ある?」
 
ホステスのお姉さんは、頬杖をつきながら上目遣いで問い掛ける。
僕は最近めっきり男めかけが板についてきて、食事に行くにも財布を持たず、メニューさえ選ばず
ただぼんやりしながらその女性の言うことに従えばいいという楽な選択肢を選んでしまって
恋心など生まれるはずもなく、かといって情熱的なリビドーが発せられるわけもなく
操り人形の如く、不自然に動き、その不自然な目線は常に天井の隅を凝視している。
 
「ねぇ、何か欲しいもの、ないの?」
 
ホステスさんはホステスさんだから水商売って最近、景気が良いらしくて
ボーナスなんてものが出たようで、そんな、ひと月の給料だって僕のボーナスくらい貰うくせに
その2倍ものボーナスが出るなんて、僕みたいな男めかけの1人や2人いるくらい、おかしくないのかもしれない。
 
「ん? あ、あぁ、別にないよ」
 
僕は正直に答える。僕は「欲しいものない?」と言われたとき、いつも答えに窮してしまう。
そりゃあタバコが切れたらタバコを買うし、冷蔵庫にビールが入っていなかったらビールを買う。
そういうものはキッチンハイターと同じで、日常必需品といえば必需品であって
クラブのホステスに買ってもらうような代物ではない。
 
「クルマ」とか冗談でも言ってみようかと思うけど、さすがにクルマは買ってくれるはずもないし、
万が一、クルマでも買ってもらったらすごく面倒臭いことになりそうなので
冗談か現実か、そのボーダーラインが曖昧な事柄は、冗談でも控えるようにしている。
 
「遠慮しなくていいのよ」
 
なんて相変わらずの上目遣いで言うけれど、僕はますます答えに窮してしまう。
本当に何も欲しいものはないという事実をイヤらしさも謙遜も出さずにどうやって表現したらいいのか。
 
「……。」
「言ってよ」
「小説が、欲しい」
「それと?」
「それだけでいい」
「遠慮してるの?」
「だから……」
 
本当は小説なんて欲しくない。読みたい本くらい自分のお金で買うよ。
 
「あ」
「何?」
「ん? いや、別に、最近携帯の調子が悪いから……」
「携帯欲しいの?」
「……うん」
「お安い御用よ。機種変更?」
「いや機種変更だと高いから、新規でいいよ」
「だから遠慮しなくていいって」
「いや、遠慮してるんじゃなくて……」
 
貴女との関係を絶ちたいだけなんだ。

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