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| 2002年11月21日(木) 黒い花。 |
| 僕が争いを好まないのは平和主義でも菜食主義でもなく、ただ単に気が小さいから。 気が小さいと腹を立てなくて済む。 なんでもハイハイ言っているといらぬ波風が立たなくて済む。 頭を低くすると皆調子に乗る。その調子に僕も合わせる。いらぬ笑顔を見せる。 「みんなヨシミくんは優しい人だと勘違いしてるけど、ただ指示されたことをハイハイ言ってるだけなのよ。 ほら、こっちが何も言わなければずっと1人でいるでしょ。あれは、優しさじゃないのよ」 ある看護婦さんが僕に聞こえるように言った。 久し振りに腹が立った。 これ見よがしにムカッとした表情になり、バタンと大きな音でカルテを閉じた。 うちの職場には看護士はいっぱいいるけど、僕が働いている外来は男は僕1人で うちの外来といえば以前は「人間関係崩壊所」と暗に呼ばれていただけあって ものすごい排他性とピラミッド的構造によって成り立っている場所で 僕は1年前突然の人事異動でこの病院初の「外来看護士」となり、 この1年、周囲に波風を立てぬように、いらぬ争いが起きないように、 面倒臭い仕事は率先して僕が片付けて、責任を追及せず、秘密を共有せず、 無味を心掛け、無臭を維持し、無垢を演じてきた。 それなのに、自分で言うのもなんだけど、こんなに努力してきたっていうのに、 人の悪口なんてあまり言いたくないけど、僕だってあんなこと言われたら腹が立ってしまう。 今日、僕が1年間の歳月を掛けて積み重ねてきたささやかな努力の一部が 音を立てて崩壊した。 人は自ら争いの種を蒔こうとする。 僕はその種を拾い集めるのに、少し、疲れてしまった。 僕が拾い損ねた争いの種が、知らぬ間に発芽して、花を咲かせてしまったものまである。 人間関係崩壊所に咲く黒い花は、疲れ果てた僕に向かって勝利の花粉を撒き散らした。 |
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