2002年11月14日(木)  ゲット・バック。
猫を轢いた。
 
午後8時。僕はビートルズを聞きながら夜の田舎道を走っていた。
友人の家からの帰りで助手席にはもらったばかりの缶ビールが6本とワインが1本乗っていた。
車なので晩酌することを断ると友人は帰り際にスーパーのビニール袋に入ったビールとワインを渡した。
 
「この前のお礼だよ」
そう言って友人は酒の入ったビニール袋とビートルズのCDを差し出した。
「もう聞くこともないだろう」
友人は3日前に4年も付き合っていた彼女と別れた。
 
僕達の年齢で4年付き合った彼女と破局するのは致命的で、仕切り直しといっても
次のワールドカップが開催される頃はもう30歳を向かえるのであって、悠長に恋愛なんてしている暇はない。
と僕はそう思わないけど友人はそう思っている。
 
僕は、友人とその彼女との思い出の曲らしいビートルズを聞きながら夜の田舎道を走り続けた。
助手席ではビニール袋の中でビールとワインが重なり合う音がまるでビートルズの曲に合わせて手拍子をしているようにカチカチと聞こえた。
 
友人の4年間と、ビートルズと、ガソリンの残量を考えているときに、その猫は現れた。
その茶色い三毛猫は、僕の車の数十メートル先で道路を横切った。
ヘッドライトに照らされたその猫は何かを追っているように足早に道路脇の茂みに入ろうとしていた。
 
しかし、途中で立ち止まり、突然何かを思い出したように、もと来た道を引き返してきた。
その時はもうその猫と僕の車の距離は数メートルだった。
轢く前の一瞬、その猫は僕の方を見た。
過剰にヘッドライトに照らされたその猫の瞳はさほど驚いている様子もなく、目の前の出来事を冷静に受け止めようとしているように思えた。
 
そして車の下でゴツンと何かを砕くような音がした。
「何か」ではなくて、それは三毛猫以外の何物でもなかったのだけど。
 
僕は今日、初めて猫を轢いた。
最期の猫の瞳と、4年もの月日を積み上げてきた愛の終末を迎えた友人の瞳。
助手席の缶ビールとワイン。
 
そしてカーステレオからは『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』がそんな悲劇を嘲笑うかのように流れ続けていた。

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