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| 2002年11月13日(水) 勝負するとき。 |
| いつものように待ち合わせ場所に遅れた僕は いつものようにわかりやすい言い訳をして、あまり寒くもないのに「寒いね」と言った。 彼女の頬が少し紅潮しているのは寒さではなくて怒りのせいだということは一目瞭然だった。 「あの信号さえ青だったら……」 まだなお続く僕の言い訳を遮るようにして、マフラーで顔を半分埋めたまま彼女は先に歩き出した。 今日は彼女の23回目の誕生日。 僕達は付き合ってるわけじゃないけど、2人で食事に行くということはそれなりの間柄であって 今日だってまだ一言も喋ってくれないけど、機嫌がいい時はそれなりに会話も弾むし笑顔も見せる。 だけど今日みたいに機嫌が悪いときは本当に一言も喋ってくれない。目さえ合わせてくれない。 歩く早さも違うし歩幅も違う。タバコばかり吸うしショルダーバッグも少し乱暴に振っている。 こういうときは本当に困る。掛ける言葉が見つからない。 僕が考えていることは自責の念のみ。言い訳なんて逆効果。 逆効果なんだけど、どういう言葉が効果的なのかわからない。 11月の夜空の下、彼女の背中を見ながらただただ途方に暮れる。 今日は彼女の誕生日なのに、当の本人の機嫌が悪い。 どんな災難が降りかかってもどんな逆境の中にいようとも、誕生日くらいは機嫌良くありたい。 自分の生まれた日くらいは眉間の皺を消していたい。 僕が遅れてしまったのは悪かったけど、たかが20分の遅刻で1時間も怒ることはないじゃないか。 性格にいうと18分だけどね。 ね? 「 …… 」 あの2人は絶対喧嘩しているカップルだと傍目から見てもわかるような表情で 彼女はパスタを口に入れずに何重にもフォークに絡ませていた。 僕はこういう状況のとき、彼女の機嫌よりも周囲のことを気にしてしまうので小声で彼女を慰め続けた。 しかしこれも逆効果となり、ますます彼女の態度は硬化してしまった。 あぁ、帰りたい。 僕は彼女の顔を見ずに冷えてしまったパスタに向かって心の中で呟いた。 「あ、誕生日プレゼント。はい、おめでとう」 僕は最後の手段を使った。プレゼントはこの最初の店で渡すつもりはなかったけど そうせざるを得ない状況だったのだ。 プレゼントを手に取った彼女の表情を注意深く観察する。 一瞬、それは一瞬だったけど彼女の表情がほころんだ。 さぁ、勝負はここからだ。 |
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