2002年11月07日(木)  運命の6球目。
ソフトボールの試合。
 
「今日もしかして中止とかですか?」
 
僕は誰もいないグランドに1人立って先輩に電話する。
 
「ていうかお前、場所間違ってるよ」
 
市内にあるもう1つのグランドに急いで車を走らせる。
試合開始ギリギリに到着。準備運動もキャッチボールもしないまま僕は俊足1番バッター。
 
「ユニホーム ズボンの中に入れろ!」
 
監督に小学生のような怒り方をされてバッターボックスに立つ。
相手のピッチャーはニヤニヤ笑っている。ナニクソと思いバットをブンブン振り回して構える。
そしてセーフティバント。姑息だ。僕は姑息な1番バッター。
 
ボールはサードの方向へゆっくりと転がる。理想的なバントだ。
間に合う。1塁まで全力疾走。僕はこのチームで1番足が早い。
風のように走りハヤブサのように手を振り1塁を踏む。そして転倒。華やかに転倒。
 
「アウトォ!」
審判がこんなに大きく言わなくてもいいじゃないかと思うくらい大きな声を挙げる。
「タ・タイム!」
僕も審判に負けじと大きな声で言う。転んだとき太股が「ブチッ」と音を立てたのだ。
 
チームメイトが掛けより足にアイシングをする。
泣きそうな表情で監督を見上げる。
「今日は控えがいないからそのまま続けてもらうしかないな」
非道な一言。この足で外野なんて守れないよ。
「じゃあセカンド守れ」
いや、そういう意味じゃなく。そういう意味だとしてもファーストくらいにしてほしいよ。
 
真剣味も闘争心もなく、ただただ泣きそうな顔で試合は進む。
監督、これじゃバッターボックスにも立てないよ。
「全部ホームラン打って歩いて周れ」
本当に非道いよ監督!
 
僕はもう何十試合とこのチームで試合をしているけど今までホームランは1本しか打った事がない。
ホームランなんて無理。ありえないよ。
 
2打席目。歯を喰い縛ってバッターボックスに立ちキリッとピッチャーを睨む。
カウント2ストライク3ボール。勝負の6球目。
 
カキーーーン!
 
ボールは雲に吸いこまれるようにぐんぐん伸びる。外野は後ろへ走って下がる。
ボールはまるで翼を与えられたようにフェンスを超えようとしている。
まさか、まさか……ホームラーーーン!
 
なんてね。ありえないよ。
 
試合帰り、病院へ直行。不精髭のお医者さん。
「大腿ニ頭筋が断裂してますね」
 
ありえないよ!

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