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| 2002年11月02日(土) 48時間の恋人 2(時計の針が進むとき) 3(時計の短針十二を刻む) |
| 『時計の針が進むとき』 ―― そして僕は京都と同じことくらい彼女のことを知らない。 知っているのは本名と、年齢と、どこか親しみを抑揚させるその声だけ。 顔もお気に入りのCDも好きなブランドも知らない。そして僕達を繋いでいるのは決まって深夜に掛かってくる電話だけだった。 「はじめまして」 僕は駅の売店でお土産を物色している女性の背後から声を掛けた。 電話をすればすぐに彼女の場所はわかるけど、直感で――こういう場面での直感は往々にして外れるものだけど――声を掛けた。 彼女は僕の声が耳に入らなかったように鹿児島の特産品を選んでいた。 「黒砂糖」を戻してそれから「かりんとう」を手に取った。 「これいくらですか?」 僕はその一部始終を眺めていた。 緊張感が作り出した空気に最初の「はじめまして」が流されてしまったので、しばらく彼女の後姿とその手と、その手に取った「かりんとう」を眺めていた。 「はじめまして」 僕は再度、初対面の挨拶を試みた。注目すべきは彼女の頭。 僕の挨拶に対して彼女の頭に「?」マークが浮かび上がったらこの女性は初対面でも竹馬の友でもなく、それはただの赤の他人ということになる。袖触れ合わずに多少の縁を感じることもなく終わってしまう通りすがりの人となる。 「あっ、はじめまして」 彼女は電話の声と同じ声音と口調でニコリと微笑む。 僕もニコリと微笑む。この「ニコリ」は安堵に満ちた微笑み。 この瞬間から僕達の48時間が始まった。 『時計の短針十二を刻む』 「ようこそ火山の街へ」 名古屋といえば金のシャチホコが思い浮かぶように、僕も鹿児島に大いなる偏見を込めて言った。 名古屋はローソンだってあるし桜島は毎日噴火するわけじゃない。 「はじめまして」 僕たちはもう一度初対面の挨拶を交わした。 あれだけ電話で語り合ったのに、その顔を、その姿を、この目で見るのは初めてなのだ。 だけど初対面のような感じがしないのは 「あなたが緊張感を与えないから」 僕は再びニコリと微笑む。口元が引きつっていないことを確かめながら。 僕だって初対面の女性が助手席にこちらを見つめて喋っていたら緊張しないわけにはいかない。 「長旅お疲れ様。まずは温泉でゆっくりしよう」 「ヤッター!」 彼女は助手席で両手を挙げて多大なる嬉しさを表現する。 彼女が笑うごとに僕の潜在的な緊張感も緩和していく。 『レインボー桜島』 読む限りでは温泉とはわからない名称。 「ゆくさおじゃったもした」 受け付けのおばちゃんに観光客に対する洗練された方言で迎えられる。 「え?今何って言ったの?ねぇ、何って言ったの?」 おばちゃんはニッコリ微笑んでいる。おばちゃんにしてはしてやったりの心境なのだろう。 「ようこそいらっしゃいましたって言ったんだよ」僕は彼女に説明する。 おばちゃんは再びニッコリと微笑み返す。「どうぞごゆっくり」 火山地にはありがちなマグマ温泉だけど、僕にとっても温泉は久し振りで、ここ最近仕事で溜まっていたストレスをゆっくりとお湯の中に溶かす事ができた。 「気持ちよかったねー」 彼女は少し蒸気立った頬を赤らめながら言う。 「知ってる?鹿児島の人は温泉上がりに必ずコーヒー牛乳を飲むんだ」 「うん。それって一般的」 彼女は冷静な見解を述べる。2人の距離が最短で縮まる秘訣は『ボケとツッコミ』だと思う。 古典的だけど、そうだと思う。僕みたいな人間は、そうだと思う。 その後、薩摩切子というガラス細工の見学に言って、商品のあまりの高さに驚き、 尚古集成館という博物館に行き、鹿児島の歴史を学び フェリーに乗って、桜島を眺めて、記念撮影をする頃には いつも以上に早く感じる24時間が経過しようとしていた。 |
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